ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
後今回多分ドン引き回。
「アンタが夕立沙莉寿ね?」
唐突にチャイニーズなツインテールの女が沙莉寿の眼前に腕を組んで仁王立ちしていた。
「あ? 誰だお前?」
その沙莉寿は、廊下に設置された自販機から抹茶ラテを取り出すために屈んでいた。その背後から声を掛けられたのだ。振り返るとこれである。
「一夏に付きまとってるそうじゃない?」
「だから誰だよお前?」
イチカって誰だっけ? と沙莉寿はふと思った。尚この状況は周囲から何事かとプチ注目を浴びている。
彼女の名は凰鈴音。中華人民共和国の代表候補生であり、また2組のクラス代表であり一夏の幼馴染でもある。恋する幼馴染に久しぶりに会ってみれば何か沙莉寿沙莉寿と女の名前をやたら引き合いに出すものだから、ついイラッと来て当事者のツラを拝みに探してきた次第だ。
……という説明を全くしないままメンチ切られても相手に何一つ伝わる訳がない。迷惑な話である。
鈴音は自分より遥かに背の低い沙莉寿を睨んで見下ろす。相手はドールちゃんなどと囁かれるだけあって白くて細くて髪サラサラ。更に視線を一段下ろした鈴音が、だらしなく制服とブラウスの前をはだけてちょっとブラが見えている1点を睨む。途端に勝ち誇った表情となり、ざまぁというニュアンスを含んだ態度を見せた。何に勝ったかは、そっとしてあげて欲しい。
その見下された沙莉寿は百面相しまくる面白鈴ちゃんの向こう側、廊下の先に向かって人を呼んだ。
「山田せんせぇー、ここにラリった生徒がいますー」
たまたま通りがかっていた山田先生(眼鏡巨乳童顔薄毛)はマンガチックに狼狽して、手持ちの資料を落としかけてお手玉状態になった。実にマンガチック。新世代まいっちんぐ何某先生と名乗るがよろしい。
しかしてその沙莉寿の言葉に怒髪天を突いたのが鈴音である。彼女は沸点が常温だった。
「アンタはぁっ!?」
激高し、右腕の肘から先にISのゴツい腕を部分展開した。更にIS用の青龍刀を握り、沙莉寿に向かって威勢よく脳天一発ブチカマシた。打撃音が拡散し、周囲からは悲鳴が上がる。
やらかした直後、鈴音は血の気が引いて真っ青になった。常識的にISの力で刃物を生身の人間に叩き付けて、まともに済む筈もない。
「あ……いや、その……え?」
「……で?」
だが沙莉寿は全くの無傷だった。脳天に刀身が乗っかったまま呆れを含んだ目線で睨んでいる。髪の毛一本ほども落とせていない。仮に青龍刀が鈍らだったとしても説明出来ない事態だ。思わずもう一度力を込めて落とそうかと考えた鈴音の心根も無理はない。やっちゃいけない。
頭に乗った青龍刀を二本指で挟んだ沙莉寿は、そのまま後ろにぶん投げた。鈴音のISの手から青龍刀がスッポ抜け物凄い勢いですっ飛んでいき、突き当りの壁に深々と刺さった。斬れ味は国宝級だったらしい。
「ほいっ」
そしておもむろに沙莉寿は軽く足払いをかける。宙に浮いた鈴音はいきなり自分の視界が真横になって訳の分からなさについ身が固くなる。
間髪置かず、鈴音の胴とその手前のISの腕に向かって右足を振り上げ足の裏で思い切り蹴りを放った。世間的に16文キックとかヤクザキックとか言われるアレである。
控えめに言っても淑女らしくない悲鳴を上げながら鈴音は一直線にすっ飛んで行き、全面のガラス窓をぶち破り尚水平にぶち飛んでいった。横向きで。ガラスを破った辺りでISを全身に展開したが、多数のガラス片を被った状態で展開するとどうなるかは考えないことにする。
飛翔体鈴ちゃんさんは校庭の時計台を巻き込んで微妙に方向転換しながら学園の外側、遥か先にあるモノレールの駅にある壁面へと叩き込まれた。駅舎は大惨事である。利用者には多大な迷惑が降りかかった。もし彼女がISを着ていなかったらコンクリに血のアートが描かれていたことだろう。
「全く何だっつーの」
水平に持ち上げていた右足を沙莉寿はゆっくり降ろす。バランス感覚に優れた子である。ようやく抹茶ラテのタブを片手で開けて中身をゆっくりと飲み干した。周囲はただ唖然と見ているしかリアクションしようがなかった。その周囲には仕事を忘れた山田先生も含まれてはいた。何だはお前だ、と誰かが突っ込みはしたが虚しく廊下に響くだけだった。
……あーそういやあいつだったんだなぁ、と沙莉寿は目の前のアリーナの様相を見ながら先日のフライング鈴ちゃんさん事件を思い出した。
ここ第2アリーナにてクラス別対抗試合が行われ、沙莉寿は客席の一番後ろに立って見物していた。ヌガーをまったりしゃぶりつつ、1組・一夏vs2組・鈴音の試合……が上空からの謎の侵入者というかISによってぶち壊しになっているぶっちゃけ大惨事を特にどうでもよさそうに眺めていた。だってかんちゃん出ねーし、と。簪は当初4組のクラス代表に選ばれていたが、専用機の開発が進まないという理由で辞退している。ちなみに新・クラス代表はマイティ・○ーみたいな顔と体格をした逞し……見眼麗しい女子である。
上空を見上げ、何だ壊れたのか根性ねぇバリアだな、と思った沙莉寿の心の棚は随分と高かった。
気が付けば、パニックに陥っていた生徒が外に避難しようといつの間にか沙莉寿の周りに群れていた。正確には、彼女が寄りかかっている壁の隣にある扉に押し寄せているのだが、何故か勝手に閉じてしまい、電子ロックが掛かってしまった様子だ。何でもかんでも電子化&ネットワーク化するのは良くないという実例である。
事態を打開するため、沙莉寿は人の山を掻き分け、扉に向かって回し蹴りを食らわせた。鋼鉄製の扉は平行に吹き飛び、詰めていた多くの生徒が気圧差で外へとダイブさせられ、更に扉が柵をなぎ倒し全面窓ガラスを破壊して縦の姿勢を維持しながら屋外へと飛び去っていった。立派な二次災害だ。
阿鼻叫喚の中、悠然と外へ歩き出す沙莉寿にスマホからの通知が入った。SNSを通じて簪からの送信である。「整備室へ!」とだけ表示されていた。それだけで大体の思惑を察した沙莉寿は、ちょっと微笑むと短く「OK」とだけ返信し、大穴の開いた窓ガラスからアリーナの外へと堂々と出た。早い話この騒ぎがムカつくから横合いからぶん殴って邪魔してやろうという魂胆だ。実に自分勝手な人たちである。
「やっ!」
「こっちこっちー!」
整備室へと着いた沙莉寿を、IS・打鉄弐式を装着した簪が笑顔で待っていた。ISの両手を振って手招きしている。ISは外装が外されたままの、内装剥き出しの状態である。どの道この機体は数日後には倉持技研へ送り返されて永久に帰ってこなくなる代物だが。
沙莉寿がISの背面に跨ったことを確認すると、簪は額の情報集約用バイザーを下ろし、全ての機能が正常……とは行かず外装未装着各種センサー未調整各部スラスター未調整火器管制システム未実装左足首の稼働は死んでると、ぶっちゃけバリア張って突っ立つか飛ぶだけできる状態なのを確認した。しかしそれだけで充分である。どんな物でも利用して喧嘩はするものだと簪は自身の半生で教訓を抱いている。
「いえいえいえーいっ!」
「おっしゃ行ったれー!」
嬌声を上げまくる女子高生2人を乗せた打鉄弐式は滑空して物凄い勢いで整備室をカッ飛んで行く。目指せアリーナ。
アリーナの通路に突入し通路を爆走する彼女らを止められる者は誰もいない。すれ違う人が予想外の事態に片っ端からぎょっと振り返り慌てて避ける有り様となる。内装剥き出しのある意味グロい外見でもあったので尚更だ。
その場をたまたま走っていた箒は、目前に迫った2人の乗るISに思わず足が竦む。ISは眼前でドリフトし右側の通路を滑走していく。が、箒は運の悪いことに制服の袖がバックパックに引っかかってしまい、並走せざるを得なくなった。仕方なくバックパックにしがみ付いたその先には、件の問題児沙莉寿がいた。本来なら箒は放送室に怒鳴り込み、一夏に発破を掛けて応援するつもりであったが、それは叶わなくなった。
「何なんだ、何なんだお前らは!?」
夕立お前のせいで一夏はおかしくなったんだ、あいつ時々トイレで苦しそうにお前の名前を呼ぶんだぞ、お前何したんだオイ、と箒は初心なオボコ丸出しの発言をしそうになったが口に出来なかった。沙莉寿の横顔が何か悪魔の笑顔に見えたからだ。
3人を乗せて滑走していた打鉄弐式は通路の先にあるアリーナ内部へと、速度を緩めず突入する。
「お注射のお時間だオラァ!!」
本人の見た目からは信じられない程のどら声で簪が吠え、ISのゴツい脚で扉を蹴破った。扉が開かないならISで開ければええやん、という今逆ハッキングで穏便に解決しようとしている人たちの頑張りを台無しにする行為である。血税で建てられた公共物がもりもり壊れていく。
アリーナにいた一夏、鈴音、襲撃してきた謎のIS、ついでに狙撃のため別の通路で待機していたセシリア、更に管制室で指揮を執っていた千冬は思わず彼女らに注目し固まった。尚謎のISは右腕が斬り飛ばされていた。一夏の大奮闘と言えるものだ。
スラスターを全開にし、打鉄弐式は真上へと飛翔した。箒からは長ーい悲鳴が上がり、一夏と鈴音の視線は彼女らを追い続ける。
もっさりと反応した謎ISは彼女らを敵と見なし、躊躇なく左腕の兵装である荷電粒子砲、いわゆるビーム砲を撃ち放つ。光芒が左から右へと振られ、打鉄弐式を右側から左側へと薙ぐ。だがバリアによって無傷のまま終わる。箒は再度悲鳴を上げざるを得なかった。
そのままビームが打鉄弐式の真上へと振られ、更に真下へと降り、再度打鉄弐式はビームに直撃された。機体の真裏にしがみついていた箒は無事である。しかし沙莉寿は半身を乗り出していたためバリアの有効範囲から外れていた。胸から上が光条に呑み込まれる。目の当たりにした箒は声も出ない。
が、沙莉寿は涼しい顔をして銀髪をたなびかせていた。ビームが貧弱だったということはない。現に服は上半身から綺麗に消し飛んでいる。しかし本人の体には傷一つ付かなかった。
「嘘だぁ! 何だお前! 何だお前!」
そう叫んでしまった箒の心情は察するに余りある。ついでにISの視力で様子が見えていた一夏・鈴音・セシリアも同様の叫びを上げてドン引きしていたのも無理はない。
「まっぶしーなこんニャロ!」
沙莉寿の両目を中心に光球が発生し、謎ISに向けてビームが放たれた。微妙に外れ、謎ISの左側に着弾したが、即横に振り、敵をあっさりと蒸発せしめた。
残ったものは地面に開いた横長の深い穴と、ISだった爪先と砲身の先端だけである。
……直後、沙莉寿と簪にだけ、自由だぁ! という子供の声が聞こえた気がした。2人は気のせいだと流した。
こうして襲撃事件は殆どの当事者を置いてけぼりにしてあっけなく幕を引いた。ついでに千冬MG5である。
「あーまぶし」
「オツカレチャーン。替えの服持って来れば良かったね」
何でもないことのように沙莉寿と簪は駄弁り、打鉄弐式を降下させていく。沙莉寿は上半身裸であるが特に気にしない。実に雑な性格である。オゾン臭が鼻に付く。
降りていく中、色々言いたいことが重なっていた箒は、これだけはと沙莉寿に尋ねた。
「……なぁ待ってくれ、お前相手殺したのか? 人を殺したのか……?」
「だから何?」
「うん、だから何だよね」
「……」
何でもないことのように返され、箒は絶句せざるを得なかった。後に一夏から相手は無人だったと聞かされるが、それでも沙莉寿の行為そのものへの見方が変わる訳ではない。
この女を化け物たらしめているのは異様な肉体でも超常の力でもない。破壊や人殺しに躊躇しないその精神なのでは……箒はそう思うしかなかった。彼女は生まれて初めて、恐怖というものを覚えた。
次回:05 逆襲の鈴・秒殺行 ~アーマードブリッジガールゼロカスタム重装改~
・鈴音
日本人と中国人の女性の顔つきって意外と違う。二次元絵では誤差の範疇だけど。
【挿絵表示】
(追加)
・沙莉寿
微妙にギャル語の人。ISとサシでやりあえる奴がビーム程度でやられるかいウーマン。ついでに化け物を化け物たらしめるものは何かを体現しているガール。今更だがIS学園の制服は前開きさせるのに絶妙に向いていないデザインだと思う。
・簪
これも今更だが本人の赤眼に同じ目の色である沙莉寿へシンパシーを感じているという設定。後聞いてみたいよね、三森すずこのどら声。
・箒
突っ込み役というある意味どうしょうもない栄誉に俗された。
・一夏
終盤近くは白式が録画していたマン。順調にロリコンロードを歩んでイっている。でも業者からDVD買っちゃ駄目絶対。
・打鉄弐式
特に深く考えている訳ではないが、前回描いた絵に散りばめられていた円形パーツは姿勢制御のためのジャイロ。元々バックパックで重心偏り過ぎててもひっくり返りはしないだろうが。
・無人機
そう都合良く無人だーヤっちまえーとなってたまるかいとなった。
・4組新・クラス代表
こんなの。武器は丸太。
【挿絵表示】
(修正)