ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
襲撃事件から明けた日の放課後、ここ会議室にて千冬、山田、一夏、箒、鈴音、セシリア、生徒会長楯無(ペンネーム)、ついでに問題児K&Sが一同に介し、テーブルを囲みつつ、前日の件について報告会を行っていた。千冬から口頭で報告がなされる。
「……以上が、今回の事件の概要だ。皆各々の判断で最善の行動を取ってくれた。我が校を代表して感謝する。夕立以外はな!」
「オチを付けるなちー坊」
テーブルにがばーっと突っ伏していた沙莉寿が非常にナメた態度でまぜっかえした。
「誰がラーメン屋だ。まぁラーメン屋の経営は私の退職後の夢だがな」
「死ぬ程どうでもいいカミングアウトしやがって、口で自爆テロかオイ。屋号はちー坊かちっ風か」
千冬の弟である一夏は姉の知らない一面に驚きつつも、あらゆる理由で無理なんじゃないかなーと内心突っ込んでいた。
「それはそれとしてだ、貴様がまたアリーナを駄目にした影響は少なからずある。自重しろ」
「何だよ、地面にちょっと穴開いた程度だろ」
「そのちょっとの穴が深くて地下水とガスが漏れつつあるんだよ。ついでに襲撃者がほぼ蒸発したから調査もままならん」
ここは決して浅くはないコンクリの上に立った埋立地ではあるが、件の穴は更に奥まで貫き通した挙句、一体底に何があったのかヤバい臭いのする地下水&ガスが登ってきつつある。現在業者による火急の埋め立てを敢行している真っ最中である。ともかく約1名の暴挙によってアリーナが2つ使用不能に陥った事実はどうしようもない。
さしあたって鈴音が質問してみる。ちょっとは悪意はない訳ではなかったりあったりする。
「あのー織斑先生、それを踏まえて、引っ掻き回しただけのこの人らに罰則の類はないんでしょうか?」
「不真面目が服を着て歩いてるこいつに停学や反省文なぞ意味を成さないし、仮にこいつを校舎地下の懲罰房に隔離したとしても平気で隔壁を破って上がって来るがオチだ。結局は出来るだけ藪蛇なことはしないのがうちの方針だ」
「えーとそれ教育者としてどうなんでしょうか……」
ならば何が最適解なのかと問われると困るのが鈴音であった。知りたくない大人の世界である。
「せんせぇ仕事しろ」
そして教師を煽るのが仕事の沙莉寿が突っ伏したままウザそうに手を振って呟く。一旦溜息を吐いた千冬は改めて反論した。
「私ら教師の仕事は、貴様に自重と良識と大人への敬意を卒業までに叩き込んで無害な人間に仕立て上げることだ。……そうか頑張れよなどと返したら怒るからな?」
「よーく判ったなその通りだ」
「無駄に煽るな。今政府では貴様の身柄を持て余している状態なのは理解しておけ。ついでにアメリカから「いらんなら寄越せ」と横槍が入っている始末だ。外交筋で頑張って押し留めているがな」
「うわめんどくせー」
「自業自得だ、これに懲りたら真人間でいろ」
「じゃ永田町と横田基地を更地にした後考えさせろ。夢はでかいぞ」
「破壊魔テロ之助の夢なぞ砕けてしまえ」
そうして延々と続き、何だかんだで報告会は終わり、千冬と山田、楯無(リングネーム)は退出した。進行の何割かは千冬と沙莉寿のMANZAIで終わったのではないかという疑念は、この事件にただ巻き込まれただけの被害者箒は遂に口には出来なかった。
そして残るは1年の生徒たちである。真っ先に鈴音は沙莉寿に声を掛けた。あまり友好的とは呼べない様子だが。
「ちょっと夕立さん?」
「あ?」
沙莉寿はポッキーを口に含んだまま振り返った。
「私とあんたで勝負よ!」
「何か理由でもあんのか?」
それはもうあからさまに根に持たれる理由はあるが、当の沙莉寿に自覚はない。彼女の体は自業自得で出来ている。無限の自業自得とも言う。
「何って……とにかく勝負よ!」
「そうか、んじゃ」
速攻で鈴音の襟首を片手で掴み絞り上げ、もう片方の腕を引き絞って拳闘射出5秒前の体勢を取った。5秒後には鈴ちゃんの頭がどこぞの黒い悪魔超人と化す。慌てて一夏・箒・セシリアが顔真っ青になって彼女にしがみ付き止めに入らなかったら危なかった。己の命を賭して鈴音は突っ込むというか叫ぶ。
「ちょちょちょちょお待って! 違うそうじゃない、ISでよ!」
「ちっ……あー無理」
「何よ、怖気憑いたの?」
「ISの貸出は私にゃ許可下りねーんだよ、学生課行って聞いてみろ」
「……マジで?」
「そういや沙莉寿、実習いつも見学だったよな? 千冬姉そういう説明してた気がするが」
一夏は彼女のことをよく見ている。もう一度言う。よく見ている。
「じゃどうしろっていうのよ……」
妥協案を立てるのが苦手な鈴ちゃんさんである。
一方、簪は沙莉寿に向かって手招きをする。意図を察した沙莉寿は簪の隣に並ぶと、揃えた両手で彼女を指し示した。
「では代わりにこのかんちゃんにやらせよう」
「は?」
鈴音にとってみれば簪はアリーナで沙莉寿とISに乗っていた誰かも知らないモブその1である。思わず首を傾げる。
「4組の簪ちゃんだー」
「私専用機あるからイケるよー。バラシ中だけど」
手をかざして応える簪。バラシ中で挑むとかプロ舐めとんのかアンタと鈴音が吠えても、笑顔で流すのが簪であった。
尚扉の向こうで聞き耳を立てていた楯無(自称)は米原秀幸の描くオッサンみたいな大口を開けて狼狽していたという。
こうして翌日の放課後に鈴音vs簪のマッチが組まれることとなった。無事なアリーナの隅っこで。
翌日の休憩時間、沙莉寿は校舎の外に設置されたベンチでくつろいでいた。銀杏の木によって丁度日陰になっているため風が心地よい。そして購買で買ってきたマドレーヌをもっちもっち食っている。
そこへナイスミドルなツナギ姿のお爺様、轡木十蔵が隣に腰を下ろす。
「ここ、ちょっとよろしいですかな?」
「あーいつぞやの」
第1アリーナで千冬とやり合う寸前に、この用務員の彼が仲裁したのである。穏やかな表情で双方のメリットを提示して収めた手腕は只物ではないと沙莉寿は思ったがそれだけだ。親しい間柄以外には大して他人に興味が向かない性格なので覚えもその程度で終わっている。
「学校生活は楽しいですか?」
「いや別に。無駄に敵意向ける奴だらけだよ」
「それはまた無駄に飽きない生活ですねぇ」
「まーね」
マドレーヌを食う手を止めず十蔵に向くこともなくどうでも良さそうに答えた。とりとめもない会話である。
「折角ですからもっといっぱい友達を作ると楽しくなるかもしれませんね」
「赤の他人に求めるもんなんて特にねーよ」
あなたは寂しい子ですねと断定するのは簡単ではあるが、本当にそうかは判らないし、ただ否定的なものを突き付けても物事の改善はしないと十蔵は知っている。
「では何かの縁ですし私とお友達になるのはいかがでしょう?」
「上から目線で救いたいとかそんなオトボケ?」
「いえいえそこはなんとはなしに」
「物好きだねアンタ。……ま、気が向いたらね」
マドレーヌを食い終わり、掌に乗せた包装紙をビームで蒸発させた沙莉寿は、立ち上がると後ろ手に手を振り立ち去っていった。
十蔵の実際の役職は学園長である。立場上彼女へ私心はないとは言わないが、実際に偉い地位だけに彼女の指摘もあながち外れてはいない。とはいえ当面退屈はしないだろうという期待もある。彼女へのアプローチはまだ始まったばかりなのだ。
何やかやで放課後の第3アリーナ。1番2番は工事中となっている。何故を問うのは愚問というものだ。
混み合うアリーナの隅っこで、2機のISが対峙していた。鈴音と簪である。それぞれの機体名は甲龍に、打鉄弐式。そこから離れた場所で一夏、箒、沙莉寿がもったりと見守っている。
簪のISが到着した時、足首の不良で歩けないため滑空して現在地に移動したサマに鈴音の片眉がわずかに上がった。更に先日と同様外装がなく武装もないISにもう片方の眉もわずかに上がった。ついでに負けた時の言い訳かと邪推までする。
邪推された簪は制服のままだった先日と違って今度はちゃんとISスーツを着た上でISを装着してきた。当然鈴音もISスーツを着用している。中国らしく刺繍が縫われているカスタムメイド品だ。
ISスーツはぶっちゃけた話、デザインは競泳の水着がベースである。更に新世代はミニスカートが付いている形になる。このミニスカは水着との差別化という現場の意見を取り入れて……という建前になっている。
実情は、ISが空を飛ぶ故に操縦者の尻や股間を下から眺めるというコンセプトの元にデザインされた。更にチラリズムを添えるためにミニスカが付く。ISスーツのデザインに関わる男たちは間違いなくIS業界でも屈指のクソ野郎どもである。この業界は諸々の発酵した何かに溢れている。
ちなみに一夏の男性用スーツは女性がデザインした。コンセプトはお察しください。
そんな発酵物を纏った鈴音は、簪に呆れ顔で問い質す。
「アンタやっぱナメてるでしょ? それちゃんと動けてないじゃん」
「いや全然。これで十分だし」
簪の打鉄弐式は明日には詰める物詰めて倉持技研に送り返す機体である。そんな物を馬鹿真面目にメンテなぞやる気もない。
その明日をも知れぬというか明後日のない機体を纏った簪は、手のひらを上に向けてちょちょいと指で手招きする。かかって来いやの合図だ。
「あっそ。言い度胸じゃない!」
両手に青龍刀を構えて突貫してきた鈴音。しかし簪はにっこり微笑むと真上へとスラスターを噴かす。真っすぐ飛ぶだけなら無駄に速い機体だ。迫った鈴音も軌道を直角に曲げ急上昇する。
直後、鈴音の頭上に巨大な廃トラックが降ってきた。ご丁寧にトレーラーまで付いている。
「何だそりゃー!」
「行け! 転生トラック!」
簪は自分の能力で貯め込んでいたトラックをポ○モン感覚で吐き出したのだ。何故にトラックをゲットしていたのかは謎である。
異様に赤黒い謎の染みをフロントにこびりつかせたトラックが鈴音に迫る。が、鈴音はISのバックパックに搭載していた「衝撃砲」を撃ち込んだ。早い話小難しい理論で構成された空気砲がトラックを襲い、獲物を頭から尻まで破砕する。その代わり大量の破片が降り注ぐこととなり、鈴音のISは機体を守ろうと断続的にバリアを発生させる。破片が衝突するたび全身に細かな波紋が拡がっていく。破片を除去すべく鈴音が再度衝撃砲を撃つ体勢を取るのは必然と言える。
が、眼前に大量の消波ブロックが降ってきた。しかも80トンの巨大なタイプである。
「第二弾、テト○アタック!」
尚テ○ラポッドは商標である。
1つ目は衝撃砲で体積の幾ばくかを吹き飛ばした鈴音だが、その残りと2つ目3つ目以下略を避けきれず、物量にまみれて鈴音は物凄い勢いで墜落していった。そして轟音を立てて消波ブロック軍団が地面に激突した。
後に残ったのは巨大な消波ブロックの山、えぐれた地面、そして地面と消波ブロックに頭と腕を挟まれて仰向けになって気絶している鈴音だった。ISのバックパックがでかい分、つっかえて鈴音の体は反り上がる。つまるところブリッジである。IS最後の防御機能「絶対防御」がなければ危なかった。
「酷い」
周囲で見ていた誰かの呟きは皆の意見を代表していた。代表候補生もISの性能差も操縦者の力量差もへったくれもない、ただの物量の差である。
余裕で降り立った簪は、巨大な消波ブロックに触れて次々と吸い込むように仕舞い込んでいく。傍目には、ISの収納機能であるところの「拡張領域」の凄い版として映っている。
親指を立てて沙莉寿が簪の元へ近づいていく。簪はダブルピースで迎えた。ついでに絶賛気絶中鈴ちゃんの隣を通りがかった沙莉寿は、弓なりの穏やか……スマートな肢体を一瞥すると、スカートを摘み上げ胸元までめくり上げて通り過ぎた。大股開きのブリッジであった分、ISスーツの真骨頂を発揮した空間と化した。どすけべ鈴ちゃんの誕生である。撮影しなかった優しさが周囲の者たちにあった。
このバカ丸出しの惨状を見届けた一夏は顔を上げ、意を決して箒に語った。無駄に力強く。
「俺さ……強くなろうと思うんだ。あいつらっていうか、沙莉寿と並べるようにさ」
「……今言うことかオイ?」
ここに来て沙莉寿の名前を出す一夏に、箒が若干イラッと来たのも無理はない。もしかして自分の周りで常識人は自分だけなのではと錯覚したのも詮無い話である。
次回:06 N.V.S.L.B ~我々はあなた方を歓迎します~
・千冬
ちー坊は実在する。ちん……亭という屋号は自重した。後教諭って呼称は会話の中で先生個人を呼ぶ時に使わないよねってふと思った。
・沙莉寿
教師に向かって煽るウーマン。
・簪
消波ブロックの80トンは本気でシャレにならないデカさなので是非実物を見て欲しい。
・一夏
録画はしていないマン。
・鈴音
プロ。
・ISスーツ
この手の美少女+メカの絵について、コスチュームは何を求められているものなのかという命題に自分なりに出してみた回答がこれ。ISとかISスーツのデザインが女性寄りになっていない時点で女尊男卑なにそれ美味しいのの世界である。
・甲龍
ISでどういうシチュ取らせればエロくなるか捻り出してみた結果がブリッジ。金銭的余裕のある人は武装○姫とかF○:Gとかメ○ミデバイスでやってみよう。他2、3パターンは考えてあるが次の犠牲者はさしあたってラウラ。
・打鉄弐式
末路が決まっていながら何かしつこく登場するロボ。原作の火器管制システムは遂に実装されなかった。後この作品のメカ描写は下手に専門的にせず噛み砕いて描写する方針。