ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】   作:梵葉豪豪豪

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 ようやくここからが本題の回。


06 N.V.S.L.B ~我々はあなた方を歓迎します~(挿絵有)

 ここ1年4組でのHR。担任のニコール・バタカ先生から各種通達がされていた。主に先日の倉持技研火災事故について、学園内で使われているISの部品調達については別メーカーのため問題ない等云々。尚彼女は学者的なアフリカ系黒人美女である。実際に博士号持ちの学者だ。最後にバタカ先生が簪個人へと連絡を伝える。

 

「それと更識さん、新しい専用機について数社程から専用機を提供したいとオファーが来ています。放課後にでも職員室に来てください。どこにしていただくか出来れば早めに決めていただくと助かります」

「んはーい」

 

 バタカ先生から資料を手渡され、簪は明るく応える。さようなら打なんとか、ようこそ新機体。休み時間にはクラスメイトとあれやこれやと話し合うことになるだろう。

 

 

 翻ってこちら1組。普段は元気な部類のクラスではあるが、一部生徒が机にばったりと寝ている。若干3名ばかし。

 

「篠ノ之さーん大丈夫?」

「う~~……」

 

 机の隣に立つ鷹月静寐に気を使われた箒は、机に突っ伏しながらも手を挙げて、彼女にかろうじて応えた。寝不足と疲れがたたっている。

 

 鈴音と簪のバトル以来、一夏と鈴音は連日ISによる剣撃の訓練を行うようになった。これが猛訓練とも呼べる代物で、ひたすら高速で速さを吊り上げつつ打ち合っている。時にはアリーナ内のバリア内周に沿って縦横無尽に駆け回り、更に箒が参加しての2対1もしくは1対2による変則かつ高速の剣撃をやり合っている。利用申請で許可された範囲をはみ出ているがもはや知ったこっちゃない。尚一夏は銃弾を斬り倒す芸当が8割中4割こなせるようになった。

 周囲はこの3人の訓練風景を指して「日中チャンバラ劇場」と呼ぶようになった。アリーナでの一種の風物詩扱いである。

 

 力の沙莉寿に技と速さで並びたい一夏の思惑と裏腹に、箒と鈴音には一夏が日々訓練に打ち込んで沙莉寿を考える暇が少しでも減ればなーという下心がちょっとどころか割とある。

 

「つらいけどこの調子で織斑君のハートをゲットよ!」

「頑張る……」

 

 箒にしてみれば一夏への恋心なぞ隠し通していたつもりだったが、周囲にはお見通しというか丸判りだったため、何かと生温かく応援されてしまい、嫌でも公に認めざるを得なかった。更に以前沙莉寿から身も蓋もない指摘をされたこともあって、肉食でイくべきなのだろうかと悩みは尽きない。

 尤も、応援している女子一同も一夏を狙っていないとは言っていない。実に肉食系女子である。

 尚ボケ倒す一夏を木刀でしばくという真似は初日以降やっていない。誰のとは言わないが、人の振り見て我振り直せ状態になっている。

 

 その狙われた一夏は連日の訓練による疲れで眠りこけている。寝顔がかわいいと定評がある。

 更にその隣に座る沙莉寿は単なる夜更かしで眠りこけている。寝ている分には無害なウーパールーパーである。

 

 今日も今日とて千冬先生のご登場だ。ただ今朝は少々趣が違う様子である。

 

「今日は、転入生を紹介する。今日から2人がこのクラスに仲間入りする。入れ」

 

 後からクラスルームに入ったその2人は、外国人だった。しかも1人は男子である。金髪であり、更に青目と金目の珍しいオッドアイを持つ線の細い美少年。クラスからどよめきが広がっていく。彼は周囲に微笑を湛えて見せる。

 

「フランスから来ましたシャルル・デュノアです。こんな可愛らしく素敵な皆さんに囲まれて光栄に思います」

 

 それはもうベッタベタな褒め言葉と笑顔であるが、クラスメイトの女子一同が頬を染めて歓声を上げテンションアップアーップと化した。千冬や山田先生、一夏、箒、更にはもう1人の転入生すらこの美少年に頬を染める有り様である。特に一夏は同じ男子ということでよっしゃとガッツポーズまで取っていた。

 この異常空間の中ただ1人例外的に沙莉寿だけは、一瞥しただけで特に興味もない態度で終わった。

 

「デュノアは実は最初に発見された男性の適合者だ。様々な経緯があり今日にも正式に公開される。またデュノア社の企業代表の操縦者であり、近日中にはフランスの代表候補に内定している逸材でもある」

 

 それはそれとして紹介を続ける千冬はなかなか鋼鉄の精神の持ち主である。

 

「そしてもう1人だが……」

 

 隣に立つ銀髪赤目のドイツ人少女は先程と打って変わって急転直下に無表情ガールへと変化した。左目の黒い眼帯はともかく、上はIS学園のブレザーだが下は軍服のズボンとブーツを履いて更に拳銃とナイフを携行しているという、学園規則とのチキンレースに挑んだとしか思えない恰好である。そのため、ミリタリーのコスプレ? というのが大方のクラスメイトからの第一印象だった。隣のシャルルも苦笑いで困った表情になっている。

 彼女は踵を揃えて事務的に自己紹介した。

 

「ドイツ陸軍所属ラウラ・ボーデヴィッヒ中尉。本日IS学園1年1組に着任した」

 

 本職だった。物凄く反応に困ったクラスメイトたち。何か他のことを聞いちゃいけない雰囲気が漂っている。

 

「ボーデヴィッヒ、ここは学校だ」

「はい教官」

「待て、教官じゃない。先生だ」

「以後、気を付けます」

 

 クラスメイトからしたらシリアスギャグの類だろうかと思わなくもない。

 困惑するクラスからある1人を見付けたラウラは、その男一夏に踵を鳴らしてズカズカと向かって行く。一夏の眼前に立ったラウラは見下ろした体勢で悠然と睨み付けた。理由は不明だが何か怒ってらっしゃる雰囲気だ。臍の匂いが嗅げるほど近づかれた一夏は困惑するしかないが、同時にこいつは幼児体型だが育ち過ぎという壊滅的に失礼なことも考えていた。

 そんな一夏にビンタを加えるべく掌を振り上げたラウラ。慌てて千冬が走り出すが既に遅い。

 

「貴様が! 教官の! ……う!?」

「沙莉寿……?」

 

 とっさにガードした一夏の面前で、ラウラの掌は止まっていた。沙莉寿に手首を摘まれたためだ。二本指で。ラウラが無理に引き剥がそうにも捩り動かせない。

 

「ふん」

 

 頬杖を突いたままの沙莉寿が片手の二本指でラウラを放り投げた。床に落ちる寸前のラウラは受け身を取りつつ回転し、立ち上がって構えのポーズを取った。下手人を睨み付けたが、直後驚愕の表情となり、自分と沙莉寿を交互に何度も指し示した。髪と目と肌の色と日本人でない顔立ちについて言いたいらしい。

 

「姉妹(きょーだい)か!?」

「ンな訳あるか」

 

 あの暑苦しいうちの銀髪親父が不倫とかあり得んわと確信している沙莉寿だった。同時にラウラがクラスでボケキャラとして認知された瞬間でもある。

 

「ふ~ん、あの子が……」

 

 そんな中シャルルは沙莉寿を興味深そうに眺めていた。

 

 

「で、何しにここに来たのさアンタ」

 

 夜になって、沙莉寿と簪の寮部屋にシャルル、愛称シャルがいきなり押し掛けたのだ。

 休み時間には沙莉寿にフレンドリィに話しかけたり、夕食時の食堂でも沙莉寿と簪にフレンドリィに話しかけたり、シャルと呼んで、と掛け値なしに好意をぶつけてきた。2人ともこういう輩には慣れていない。今日はシャルはどこへ行っても女子から多大な注目を浴びていただけに、胡散臭いを通り越してなかなかの迷惑っぷりではあった。

 

 さしあたって簪はシャルが持ってきたお土産のシャルロットを開封し、カップを3つ用意して紅茶を注いでいた。2人部屋カップが3つあるのは来客用というかたまに遊びに来る本音用である。

 テーブルを挟んで向かい合った座ったまま、姿勢を正し真顔でシャルが語る。

 

「ストレートに言うね。僕たちの秘密を話しに来たんだ」

「はーそうですか」

「ううん?」

「実は僕たちは、重力子を体内に持っているんだ。そしてそれは宇宙へと繋がっているのさ」

「何だそりゃいきなり宇宙規模に胡散臭ぇーなオイ」

 

 真顔で言われてもリアクションに困る話である。そうは言うものの、沙莉寿と簪はお互いの場合と同じく、何となく同類だ、と惹かれ合う何かをシャルに対し覚えている。

 

「僕たちは宇宙からあらゆるものを引き出せるんだけど、それは傍目には超常の能力を発揮しているように見えるんだ。簪ちゃんの場合は宇宙へ直接物を転移させたり」

「あー宇宙かぁ。お菓子とフルーツ仕舞ったらフリーズドライになるから何でかなーと思ってたよ」

「つうかめっちゃ凍ってたよなパリッパリに」

 

 当然食えたものではなかった。下手すると宇宙線まで浴びていた代物になっていた。なので缶や瓶に限る。極端に冷えすぎるのも考え物だが。

 

「で、私の体から何かあるって?」

 

 沙莉寿が自分のことを聞いてみる。何でビームが撃てるのか自分でもよくどころか全然判らない仕組みである。

 

「うちで調べた限りの推測では、沙莉寿ちゃんは恒星のフレアを引き出しているんだね。そしてこれが大事だけど、肉体が細胞の強化や変質ではなく宇宙の現象を引き出すに耐えうる何かに再構成されているんだ。肉体については僕たちもいずれなれるかもしれない」

「まー自分で撃って熱くねーなーとは思ってたけどさー」

 

 事実上宇宙生物だと言っているようなものである。そして嬉しそうに沙莉寿を見るシャルの目にははっきりと憧れがあった。

 つまりは人の体を捨てたいのだ。

 

 今度は簪が素朴な疑問をぶつけてみた。

 

「そういえば僕たちって言うけど、あなたの能力って何?」

「うん、僕の場合は、人やコンピュータの思考を好きなように方向づけられるんだ。つまりは電磁波を操っての洗脳だね」

 

 バトルする類のものだと思っていただけに、物凄く何と言っていいやら微妙な顔をする2人。

 

「人の頭の中いじれるってか毒電波かよえげつねぇ引くわー。……まさか私らにやらかしたりしてないだろうな?」

 

 自分の業を心の棚に剛速球で投げ込んでいる沙莉寿である。

 

「いやいや、この能力はね、重力子を持つ子供には影響を及ぼさないんだ。それを利用して僕は仲間を探し当ててきたんだ。実は今朝のクラスルームとさっきの食堂で使ってね、それで沙莉寿ちゃんと簪ちゃんが重力子を持つ同類だと確認したよ」

 

 つまるところ今日の美少年騒ぎを洗脳で必要以上に煽ったのだ。ろくでもない毒電波ボーイである。人権とは投げ捨てられるものなのかもしれない。

 更にシャルのカミングアウトは続く。

 

「そしてこの能力を使って、僕を産んだ父とその妻の頭をいじって色々丸く収めたのさ」

 

 親に対して微妙に悪意のある言い回しに、沙莉寿と簪は迂闊に触れてはいけない何かを覚えた。彼の半生は色々不幸にまみれて難儀だったらしい。

 

「更に父の経営する会社の役員もいじって会社乗っ取りました! デュノア社は実質僕の物だ!」

「朝倉哲也かお前は」

 

 いつの間にか立ち上がって両手を広げて握り拳を作り力説するシャルに向かって、沙莉寿がうろ覚えの知識で見たこともない小説や映画の主人公を引き合いに出して突っ込んだ。しかし幸運にもこの場の誰も元ネタを知らないので突っ込み返されずに流された。

 

 気が付けばシャルル・オン・ステージな空間と化していた。シャルが膝に手をつき、ぜーはーと肩で息をしている。ようやく座り直して、紅茶で喉を湿らせた。そんなシャルを2人は生温かい目で彼を見ることができた。実は苦労人だった彼である。

 

「そしてここからが本題だけどさ、僕は世界各地から同じ重力子の子供たちを保護してきているんだ。そして沙莉寿ちゃんには僕たちのリーダーをやってもらいたいんだ」

「オイオイ私がそんな柄に見えるか?」

「今すぐって訳じゃない。でもいつかは僕たち仲間に会って欲しいんだ。みんな楽しみに待ってるよ」

 

 国家の厄介者から超ニッチな人類の集団のリーダーへとバージョンアップすることになる。シャルロットをパクつきながら沙莉寿はちょっと考え、雑な性格なりにあっさり答えを出した。

 

「んー…… ま、いいか。乗った」

「ありがとーう!」

 

 この世に2人しかいないと思っていた同類はもっといた。一歩、一歩先へ進む重力子の子供たち。世の中捨てたものでもないらしい。

 

 

「ところで僕たちってね、肉体が再構成されると遅くても10代で体の成長が止まって、更に年を取らなくなるみたいなんだ」

「それはいいことを聞いた」

 

 簪にとっては嬉しい情報だ。女のスキンケアは一生のテーマなのだ。ついでに沙莉寿は多分一生このままである。

 

 

次回:07 恋どろぼう ~鮮血俛汰琉ジャーニー&ヤンキー・ヤンキー・シェイカー~(仮)

 




・シャル
 人間GP01。はなざーさんボイスの美少年。重力子トリオの一角。設定盛り過ぎボーイ。同類を保護している理由はおいおいと。ところでメイドインアビスのマルルクって素晴らしいですね。

・沙莉寿
 宇宙怪獣。あのビームは恒星(15000K位)のフレアだがマジ害毒のガンマ線バーストとかブラックホールは出せないとは言っていない。出すと本格的に地球が死ぬ。

・簪
 宇宙空間で缶が爆発しないかは知らない。

・一夏
 チャンバラトリオの一角。ラウラの体型でピクリともしない辺りに彼の業の深さが表れている。

・箒
 恋心丸出しの女子が周りの女子にいじられないとでも思ったか。

・ラウラ
 中尉。佐官を何だと思ってるんだの人。辻褄合わせの微調整の犠牲者。他の生徒にはミリオタ崩れのアレな人に見えるガール。陸軍なのは当作品のドイツではISがヘリの延長上で扱われているから。ちなみにアメリカでは戦闘機、日本では歩兵の延長扱い。後主人公とは同じ銀髪といっても寒色系・暖色系の違いがある。

・朝倉哲也
 「蘇る金狼」の主人公。間違っても毒電波で会社を乗っ取るキャラではない。

・バタカ先生
 当作品の数少ないオリキャラ。苗字は実在する部族名。専門は脳科学。ISにおける操縦者の脳の影響等を研究しているという設定。

【挿絵表示】


・シャルロット
 酒の銘柄の方(アブサン)を登場させられないのが残念である。

・次回サブタイ
 鬼灯のブランドに「恋どろぼう」というものがあるらしい。
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