ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
アリーナは歓声に包まれている。学校行事であるISによる2対2の学年別タッグ・トーナメントが開催され、各方面から観客が多数詰めかけているためだ。尚元々は1対1のシングルだったが、幾つかのアリーナが潰れているため、乱れて溢れるスケジュールを何とか時間内に廻すべく苦肉の策として編み出された。誰のせいであろう。ちなみにその誰かは出場禁止になった。
その1年部門の1回戦順調に消化され、残すは1組となった。
ラウラ&本音 対 一夏&シャルルの試合だ。ISを纏い、4人は対峙する。
装着するISは、ラウラは「シュヴァルツェア・レーゲン」、本音は「ラファール・リヴァイヴ」通称ラッパーもしくははやてちゃん、一夏は「白式」、シャルは「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」通称R2C2もしくはカスタムはやてちゃん、という出で立ちである。内3人は専用機という1人だけ絶妙に割食っている組み合わせではあるが。
ラウラは一夏に向かってそれはもう恨み骨髄しかめっ面で睨み付ける。
「織斑一夏、今度こそ貴様を叩きのめす」
「あんたサ、それもう何回言ってんの」
「やかましい、そうしないとこちらの気が済まん。黙ってやられろ」
「やなこった」
これまでラウラに会うたび同じことを言われ続けた一夏にとって実に迷惑な話である。姉に絡んだ怨恨らしいが、言わなければ伝わる道理もない。
その隣に立つ本音はニコニコしている。相方のラウラがぶっちゃけぼっちだったのでコンビとして申請した。一方でラウラ本人は本音を相方として当てにする気ゼロという状況下で、本音が寛容かつ献身的になれているのはある意味黄金の精神なのかもしれない。
試合開始のブザーと同時に、ラウラはドイツ製機関銃MG3を一夏に向けた。だが一夏とシャルも同時に、ラウラに向かってグレネードを射出した。いきなり牽制の弾幕である。ちなみに白式には脚の側面に間に合わせのグレネードランチャーが養生テープでベタ着けしてある。
シャルは即ターゲットを本音へと切り替える。2人は同時にロケットランチャー2本をほぼ同じタイミングで両肩に担いだ。そしてこれまた同じタイミングで弾体が発射され、2本と2本が同時にお互いにぶつかり、各々明後日の方へと飛んでいき爆発した。ロケットランチャーというものは大抵は最低20m飛ばないとスペック通りの爆発をしてくれない。2人は残った本体を即捨て去り、お互い機関銃に持ち替えて突貫した。
尚このトーナメント後ロケットランチャー使用は自粛の通達がなされた。
一方、ラウラは煙幕の中、MG3を構えつつ油断なく一夏の姿を探した。銃の無駄撃ちという愚は犯さない。ISはセンサーの精度が高いので索敵は実に容易である。
一瞬後、見つけた! と同時にラウラの左膝関節が損傷した。一夏はラウラの左側面に移動し、既に雪片弐型を突き立てていたのだ。
「なっ!?」
ラウラがMG3を向けようとしたが生憎ISの体格上そちらへは届かない。当たればマシである。
撃たれた直後、一夏の姿は反対方向の右上面に高速移動、右バックパックを無力化する。更に左バックパック、右膝、左脚、右肘、左脚、背中、左肘と、高速かつ確実に点でもって相手の機動力を封じていく。
「なぁあああああ!」
実のところシャルは、一夏に対し「このトーナメントの試合中は俺はサムライ」という暗示を掛けて実力を底上げしている。確実に優勝を手にするため、というより「優勝者は意中の男子生徒をプレゼント、好きにしちゃっていいデース」という危ない噂から自分を守るためという切実な事情がある。相手を弱体化する方向はイカサマを疑われかねないのでその選択肢はない。
優勝者が来たら来たで相手を洗脳でもして逃げればいいやんって簪に指摘されて気付くのはトーナメント後だった。
ちなみにこれの最短ルートを狙うために本音はラウラと組んだ。酷い話である。
「サムラーイ」
「サムラーイ」
「おぉサムライボーイ」
奇しくも、観客の外国勢が誰ともなくサムライの名を口にした。日本男児の面目躍如であろう。
遂にはラウラの頭頂を掴んで一夏が逆立ちしていた。銃口を向けられる前に雪片弐型の柄でラウラの側頭部を殴った。その程度でISがどうにかなる訳ではないが、ラウラの視界をブラした僅かな隙と殴った勢いで前に躍り出て下から上へ斬り上げた。
倒れたレーゲンは機能停止に陥り、シールドエネルギーの消失を待つまでもなく、一夏・シャルル組の勝利がアナウンスされた。一夏には遂に一発も攻撃を受けることもなくである。ついでに本音は速攻で敗退していた。
一方、ラウラからは観客からの失望の声、嘲りの声が聞こえていたが、ラウラ自身がそんな自分にかつてない程に失望していた。死んでしまいたい、消えてしまいたいと思う程に。その膨大な負の感情はISコアへの負荷となり、何かのタガが外れた。ラウラには子供の泣き顔と、その巨大な口に食われる自分が幻視された。
シャルには子供の泣き声が聴こえた
直後、ラウラのレーゲンがびくつきながら爪先から立ち上がった。既に自力で立ち上がるのは不可能な筈である。勢い余って前屈になった体勢で、背中から黒い何かが噴出した。さながら巨大な黒い羽根である。背面のそれがラウラとレーゲンの全方位へと迫った。ISスーツは破かれ、ラウラの全身の穴という穴に黒い何かが侵入し出血を起こしラウラの中を侵食していく。
出来上がったのは元より二周り巨大になり形状も変わったISらしきシルエットを象った黒い人型の何かだった。そして右手には一振りの刀を握っている。
「……千冬姉の暮桜?」
一夏にとって思い入れの最もある機体だけにシルエットで即判別できた。一部観客も気付いた様子である。経緯は不明だがラウラは遂にある意味千冬になったとは言える。
『織斑、デュノア、教師部隊が到着するまでは攻撃されても持ちこたえてくれ』
「あぁ判ったよちふ……先生、あぁ畜生アイツこっち見てる!」
黒いISの、真っ黒な中で異様にギラついた双眸が明らかに一夏を睨んでいた。
『恐らくあれはVTシステムだ。恐らく過去の私の技を模倣している』
「そうでしょうけど、それって精々歴代操縦者の挙動をソフトウェアで再現してるだけのものだった筈でしょう? 外見までいじるなんて話知りませんよ? 意味ないですし」
とシャルは千冬に反論したものの、それ以上その話に付き合う気はない。問題は何故、ではなくどうするか、なのだから。
「やってることは千冬姉の猿真似かよ! パクリやって恥ずかしくないのかよドイツ!」
一夏がついイラッとしてぶちまけた。同時にそれを聞いていたドイツ関係者もイラッとした。
ドイツ側の名誉のために敢えて述べるがVT(ヴァルキリー・トレース)システムとは、非公開とはいえ、歴代操縦者の再現を目指し、ラウラの部隊の協力の元レーゲンをベースに実験した、将来のIS無人化まで見据えたれっきとしたプロジェクトだったのである。千冬の認識では違法だが、たかがIS操縦者の模倣に違法性もへったくれもない。協力を得ている兵士たちの出自の方が余程曰くあり過ぎる位だ。中止になった理由が、結局一夏の言う通り真似は真似でしかなく、更に無人化には各方面から実に政治的に異論と圧力が相次いだためであった。そうしてなし崩しに中止され機材も放置された。
ラウラとしては憧れの千冬を我が物にできるその絶好の機会を否定されたも同然で、彼女のトラウマの一つとも化している。そのツケが今廻ってきた。
黒いISが刀を正対に構える。瞬間、飛翔し一夏に迫った。僅かなタイミングで両者が鍔迫り合いになる。直後に離れ、改めて斬り合い続けた。その速さは刀と刀のかち合う音が連続した一つの音にすら聞こえる程だ。敵は劣化千冬といえど実力は一夏より上である。白式本体に斬撃が何度もヒットし、シールドエネルギーの総量が目に見えて減っていく。
シャルもライフルで狙いを付けているが、高速で右往左往する2体にどうやっても定まらない。ISだからってそう都合良くは出来ていない。
「何だよ、何なんだよお前!」
シャルの叫びと同時に、視界にいきなり白い何かが飛び込んだ。斬り合う2体から正確に黒いISだけを蹴り飛ばした。非常時にも関わらず、一夏もシャルも唖然とする。
『いやっほーい!』
2人の女声の嬌声が響く。白地に水色のラインが走った機体、「十鬼丸」だ。つまりは、簪と沙莉寿である。簪が装着し、沙莉寿が左の外腕に抱えられている。簪は沙莉寿がトーナメント出禁になったので自分も出場を辞退していた。結局暇だからトラブルに早々食いついたとも言う。
一夏は最後まで自分で解決できなかったこととまた彼女に頼ってしまうということに引け目を感じていた。正直なところ彼女に自分はこれだけ強くなったんだぞとアピールしたかった。
……という相方の思考が判ってしまったシャルは、うんまぁ僕たちと君たちでは乗り越えられない壁はあると思うよ、と心の中で苦笑いした。
『またお前らか! おい更識、せめてそこの大巨獣ガッパ置いてけ!』
怖い大千冬先生が通信を介して吠えてくる。仮にも女子高生相手に酷い言い分ではあるが、言われるだけのことをやらかした人の自業自得である。
変態的な機動で身を翻した黒いISが標的を簪に変えて刀を振るう。が、十鬼丸の右外腕が高速拳というかデタラメに高速で殴りつけて黒いISの刀を弾いた。独立した腕ならではである。
黒いISが一旦引いたところで、ISの左腕に乗っかっていた沙莉寿が地上へと降り立った。首と指を鳴らし、獲物を見据える。寧ろ軽い感覚である。
「それじゃま、すぱっと行きますかね」
「行ってらっさーい」
黒いISは標的を自分に向かって歩いてくる人間と定めると、先程と同様に刀を真正面に構え、高速で飛翔し肉薄した。数瞬後には標的を真っ二つにする予定である。
が、沙莉寿は黒いISの刀を、真正面からぶん殴った。殴り返された刀は自分の黒い頭に拳ごと盛大にめり込んだ。めり込むを通り越して頭を貫通してしまい、頭の中心と折れた刀身が遥か後方へと吹っ飛んでしまった。それら黒い物体がアリーナに張られたバリアに直撃し粉砕されたのは当然の結果であろう。
残った黒いISは、頭が某黒い悪魔超人の如くドーナツ状になり、更に縦に裂けていた。中の人の頭はー!? とやらかした本人と簪以外の見ていた全員が唖然としたが、幸いというべきか黒いISは全長が何割かかさ増ししていたので、ラウラの頭は胸の下であり無事だった。殴った人がそこんとこ踏まえていたかどうかは愚問というものである。
刀折れた黒いISは両手で沙莉寿を掴みにかかった。対する沙莉寿も両手でお互いの手を掴みがっちり動きを封じた。
今度は黒いISが左脚で蹴りを放とうとする。しかして沙莉寿は右膝からビームを撃ち出した。黒いISの膝から下が一瞬で蒸発する。ついでにコンクリも蒸発する。足の裏から撃たなかったのは単に靴が消し飛ぶのが嫌だっただけである。
バランスを崩した黒いISを沙莉寿は右側の地面へ叩き付けた。当然握った両手はガッチリ離さない。更に左、右、左、右……とカートゥーンの如く簡単に叩き付けまくった。当然ながら地面は抉られまくっている。最後に正面で叩き付けた。
それでも黒いISは両手を握られ片足がなくとも立ち上がろうとしたが、
「ていっ」
黒いISの背後に廻っていた簪が外腕による貫き手を放った。狙いはISの背中である。まさぐり引き出したものは、巨大な宝石状のもの、ISコアだ。周辺に纏わりついたケーブルを引きちぎり、完全に黒いISから引き剥がした。
完全に制御を失った黒いISの全身から大量の黒い砂が流れ出し、元のレーゲンと化した。うつ伏せで尻を突き出した格好である。ところで先程ラウラのISスーツが破かれていたことを思い出していただきたい。ついでに公衆の面前である。気を失っていたというのはラウラにとって実に幸いな話であろう。
引っ掻き回すだけ引っ掻き回してさっさと去った沙莉寿と簪。残った一夏、シャルと壁際に避難していた本音は頑張ってラウラとレーゲンを搬送した。動力の切れたISは持ち運びも一苦労である。
アリーナの小部屋にて、沙莉寿、簪、シャルは待機している。千冬から話を聞くためだ。待機つってるのに沙莉寿はプリッツを囓っているが。
現状をまとめると、タッグ・トーナメント自体は普通に続行、ラウラは病室、本音はその付添となる。当事者以外にとっては通常運行であった。
ドアを勢い良く開けて千冬が入ってきた。機嫌はあまりよろしくない。更に一夏、箒が続く。箒は部外者だが沙莉寿には言いたいこともあるので一夏についてきた。ちなみに1回戦は敗退している。
「夕立、コアをこちらに渡してもらおう」
「ほらよ」
千冬に指示されて、沙莉寿は机に置きっぱなしのISコアを投げて寄越した。思ったよりはでかくて重い。
「投げるな」
そう諌めつつも片手で難なくキャッチする千冬。そして本題に入る。一夏とシャルは2回戦があるため手早く済ませようとする。
「今回のボーデヴィッヒの件については、ISに仕込まれたまま放置されたシステムが暴走したというのが現在のところの見解だ」
そしてVTシステムについて概要を一同に説明する千冬。
「結局猿真似の暴走の果てっすか」
とは一夏。
「だがデュノア、あれはVTシステムだけとも言えないと考えているのか?」
騒動中の会話を思い出して千冬が問う。ずっと渋い顔をして壁に寄りかかっていたシャルは淡々と語る。
「あれはねぇ、心の叫びなんです。ISコアに眠る子供の」
一同はぎょっとしてシャルに注目する。
シャルは壁によりかかったまま、ただ真実を吐いた。千冬の手にあるISコアを見つめ、
「ISコアって、あれは、子供を生きたまま圧し潰して作られた物なんですよ」
次回:09 World Child F**kers 2 ~ディストピア・ワールド~
・ラウラ
あらゆる意味で犠牲者。人それを踏んだり蹴ったりと言う。下は生えていたので一夏の興味の範疇外になった。
・一夏
サムラーイ。零落白夜は当てる瞬間のブツ切りにして使っている。やってることは無○の住人の万次が司戸菱安ぶち殺した時のアレ。
↓一夏にサムラーイ要素と胡散臭さを加えて何となくのバージョン。本作品がこうという訳ではない。
【挿絵表示】
・シャル
苦労人。
・レーゲン
ガチ全損なので修理する人たちはキレていい。
(追加)作中では実在の銃を持たせている(グリップがISの手に合わせて置き換わった程度)が、これは銃の開発と採用がISが目じゃないくらい長くメンドクサイ世界なのと、それこそ銃弾もIS専用に新規格をなんてなったらアホかお前はの世界だから。
・十鬼丸
某フィギュアを横に置きながらアクションを考えた。
・VTシステム
こんなもん作ってどうするつもりだったのさその背景はのアンサー。無人化を目指した。潰された。
・ISコア
タグに束アンチを追加すべきか迷っている。