ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
「ISコアって、あれは、子供を生きたまま圧し潰して作られた物なんですよ」
そう淡々とシャルの口から語られた真実に、沙莉寿、簪、千冬、一夏、箒の一同は息を呑む。現在各国家に配られているISコアは467個。これ以上はなく、現状は篠ノ之束博士しか作れないというのは世界の共通認識である。その作り方は常軌を逸していたというのだ。
「正確には、特殊な能力を持った子供がコアになるんです。例えば沙莉寿ちゃんのような」
言外には沙莉寿だけでなく簪も、そしてシャル自身も含まれると言っている訳だ。条件は重力子を体内に持つこと、そう沙莉寿と簪だけに伝わる言い方である。
「無論見た目でその子供かどうか判別なんて付きはしません。だからどこそこでそういう子供の噂があった、というだけでその区域の子供を丸ごと攫っていくんです。そうやって篠ノ之博士に連れ去られて潰された子供の総数は現在把握できているだけでも5万人を超えています」
「ご……嘘だろ……?」
一夏が唖然とする。5万の中の467である。成功率はコンマを切っているが、成功率の問題ではない。純粋に犠牲者がそれだけいるのだ。
「国は……!? 世界中がそんなこと許すはずがねぇ!」
一夏の激昂に、敢えてシャルは敬語でもって応える。一夏ではなくその向こうにいる千冬に対し話しかけているからだ。
「その世界各国は知っていますよ。そもそも篠ノ之博士の生家やアジト跡を徹底的に家捜しした上で判った製法です。証拠もある」
「だったら……」
「各国も試したんですよ、自分たちでISコアを作れやしないかと。子供を使って。結果は失敗。結局作り方が判っても篠ノ之博士以外に作れない。しかし今やISを持つ国にとってISは欠かせない。ISの動力源すら担ってるISコア、その供給されるエネルギーはほぼ無限。そりゃ篠ノ之博士や国家が人攫いしてでもやれ作れとなるさ。そして篠ノ之博士が生み出す成果を皆口を開けて待っているんです。自分たちがやったことは棚に上げ、博士の犯罪行為には目を瞑る、寧ろ守ってやるから結果を寄越せと。そうして共犯関係が出来上がりましたとさ」
一夏たちは言葉も出ない。シャルはただ壁に背を預け、腕組みをし淡々と語り続ける。重力子を通じて宇宙に繋がっているからそうなったという話は明かさない。根本的に同類以外は信用していないのだ。
「篠ノ之博士は間違いなく鬼畜外道に類する人でしょうね。でもその鬼畜外道の成果を皆が求めて支えている。そうやって世界は廻っているんです」
沈黙がこの空間を支配した。
「実に胸糞。他人事でこんなに腹立ったのは初めてだ」
「そうだね実に胸糞」
沙莉寿がただはっきりと嫌悪感を示し、簪も倣った。沙莉寿はプリッツを噛み砕く。口の外に残されたプリッツは放物線を描き床に落ちた。
千冬もようやく何かを言う気になった。
「デュノア、お前はそれを知ってどうしたいのだ?」
千冬にしては意地が悪く多少悪意の籠った質問である。大人であるが故に、この場の主導権を取ろうとする。
「うちの会社はとっくにEOSに舵を切ってますよ、僕がそうしました。我が社のISは僕が扱っている分で最後です。そして数年のうちにIS事業は売却して撤退します。僕なりのささやかな抵抗です」
「そうか……」
「でも、ISコアは467個から増えないんじゃ、もう……」
一夏はもう過ぎたことだろうと言おうとして千冬に肩を叩かれた。そんな先程の自分とも矛盾する馬鹿なことを言ってはいけないと気が付かされた。
「篠ノ之博士の手の者と思われる未登録のISは僕自身何度か目撃しています。それに、ほらここで起きた襲撃事件、あの謎のISはコアの反応と機体が既存のどれとも一致しなかったって報告、IS委員会経由で受けていますよ。あれも篠ノ之博士の手によるものかもしれない、つまりISコアが新規に作られている可能性はあるということです」
その言葉を聞いた直後、箒は駆け出し、部屋を抜け出した。何かに耐えられなくなったかのようだった。
「あ、おい箒!」
「……行ってやれ」
千冬の言葉に従い、一夏が箒を追いかけて慌てて部屋から走り去った。
「で、織斑先生?」
「何だ」
「それで、そこんことあなたはどう思っているのですか、白騎士さん?」
箒はアリーナの外を駆け抜け、立ち止まってアリーナを振り返った。観客による歓声が聞こえる。トーナメントは箒に関係なく盛り上がっている。周りを見渡すと、そこはIS学園の敷地である。控えめに見ても良く整備されている。それらはつまるところ、多数の子供の犠牲の上に成り立った繁栄だ。少なくとも箒にはそう映り、あまりのグロテスクさに立ち眩みを覚えた。
そんな世界を生み出したのは自身の姉であり、自分はその姉の妹であり……。
「おい箒! どうした箒!」
一夏に腕を掴まれ、我に返る。無理矢理ISの世界に踏み入れられた一夏すら犠牲者の一人に見えた。そんな一夏に訴える。
「一夏……私は……私は、姉にISを強請ってしまったんだ……! 私のせいで、またあいつは子供を殺してISを作って……私のせいなんだ……」
「……!?」
直後箒は、嘔吐した。
「私が……だと? 証拠はあるのか? 白騎士事件の何を知っている?」
篠ノ之束が自分の技術を見せつけるために、どういった手段か世界中のICBMを日本に向け発射させ、最初のIS「白騎士」に迎撃させた後、各国の艦隊と航空戦力を無力化させた、通称「白騎士事件」と呼ばれるマッチポンプのテロ事件が10年前起きている。その「白騎士」の操縦者は千冬だとシャルは言っているのだ。
「ISを持つ国と開発する企業にとっては公然の秘密ですよ。映像と実機を徹底的に調べれば誰でも判るし、そもそも篠ノ之博士の知己自体が消去法であなたしかいません」
「そういやネットでは常識過ぎて今や誰も取り合わないネタになってるね」
「何だテロ屋だったんかお前」
シャルが淡々と説明し、簪がフォローし、沙莉寿が呆れる。結局は千冬は隠し通せていたつもりになっていただけだったのだ。
「……そうだ、私が白騎士だ。だが私にどうしろというのだ!?」
「別に。どうもしませんよ。所詮篠ノ之博士の手足でしょう? でも手足に意思があるというのなら少しは聞いてみたいものですよ。このディストピアを生み出したことについて」
「……いや、私は……知らなかったのだ……」
「あぁ、そうですか、まぁいいです」
シャルが肩をすくめて応える。千冬の言い分はシャルの予想を上回るものではなかったため、聞きはしたもののどうでも良くなった。もはやこの人に世界は動かせないと確信した。
去っていく千冬の背中は心なしか小さく見えた。
3人だけになった部屋で、ふと簪がずっと思っていたことを聞いてみた。
「あぁ、シャルちゃんがうちら同類を保護してるのって、そういうことだったんだ」
「うん。切実にみんなの命がかかっているからね。地球上に僕たちの居場所はもはや限られているんだ。沙莉寿ちゃん簪ちゃんが国によって篠ノ之博士に売られる可能性だってあるし」
想像してげんなりした簪である。よく今まで警察や自衛隊と喧嘩してきてなぁなぁで済んだものだ。
ここで沙莉寿も一つ気付いたので聞いてみる。
「あーこの前の襲撃事件、コア蒸発させたのはマズかったか?」
「僕の力がISコアに及んでいるということは、元の人格がAIに上書きされて既になくなっていることを意味していたんだ。でも今日、魂は奥底でずっと囚われていた、その可能性があると判ったよ。だから沙莉寿ちゃんが消し飛ばしてくれたのは、囚われたままの子供たちを本当に解放できたってことになる。
結果的には救いなんだ」
本当に穏やかな表情になって、シャルが微笑んだ。
「救いか……。いっそISを片っ端からぶっ潰すか?」
「まぁ、それも悪くはないけどさ、実のところ僕たちはもっと根本的なことを計画してるんだ」
シャルは上を指差した。釣られて2人も見上げる。ただの真っ白い天井である。
「宇宙」
「うん?」
「みんなで行きたいんだ。逃げるとも言う」
「なかなかでっかいカミングアウトだな。どうやって実現するか知らんけど」
「蠅の王みたいになったらいかんよ」
「身内同士のいがみ合いは僕も勘弁したいね。まぁ出来たらいいなーって構想ではあるけども」
沙莉寿と簪の突っ込みにシャルは頭を掻いて苦笑いしつつ応える。ディストピアから逃げて自分たちがディストピアを作り上げては本末転倒ではある。
スペースコロニーの確保を含め課題は諸々あるが、いつかは……なのだ。
尚トーナメント自体はつつがなく終了し、4組の真・クラス代表が優勝をかっさらった。決勝で対峙した一夏曰く「雪片弐型が丸太に刺さって持ってかれるなんて思ってもいなかった」。しかる後に本当に噂通りに彼女がシャルと学園のラウンジでデートすることになったが、シャル曰く「意外と気さくな方でした」。
次回:10 ロリータ ~ショタポルノに変えたら出版オッケー~(仮)
・シャル
しゃべりっぱボーイ。スペースコロニーについては当てがない訳ではない。
・千冬
モンド・グロッソで優勝していたときも、各国の偉い人たちは内心そりゃそーだろーよと思っていた次第。
・束ネェエエエン
最初のISコアを作る際に当時の本人の近所に住む誰かは行方不明になっている筈。
・IS
動力周りがはっきりしないのではっきりさせた。
・箒
嫌でも現実に向き合わなければならない人。多分もうまともに姉の顔を見れない。
・白騎士
機体に「CI-CHAN」とマーキングされていたメカ。
・次回サブタイ
ナボコフにこんなこと言った編集者は読者受けでなく単に自分の性癖カミングアウトしただけだと今なら解釈できる。