ギルガメッシュさん叙事詩【FSS×Fate】   作:うささん

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バビロンの王子

 いくつもの時空と次元さえも超越し我は存在する。

 そこは魂の座にあって永遠に不変。普遍にして不偏。

 一つにして全。全にして一つの存在。

 その我が聞こえ知らぬ異次元の音を聴いた。 

 これは波であろうか。始原の海の調べであろうか。

 もしくは宇宙の深淵の響きであろうか。すべてを飲み込み吐き出す暗黒と光の集合体が発するものであろうか。

 嗚呼、この安らぎはいったいなんだ。そう、魂のゆりかごだ。 

 暗黒の宇宙から鳴り響くあの調べは何だ?

 モ・ナ・ァ・ク・セ・イ・ク・レ・ッ・ド?

 我を呼ぶものは何だ?

 遥か高次元より、幾千万の世界を飛び越え呼びかける者よ。

 それは記憶か……

 すべての人類の結晶化した存在。

 それを知覚することで我が存在はジョーカーを知ることとなるのだな?

 

”イエス! 黄金の主よ。その存在を私は観測したのです。遥か高次元の存在よ。この停止した世界で私は観測し続けてきました。そしてジョーカーの外より発する信号を受け取っていました。私はファティマ。光のタイフォン。時間なき世界にて永遠の時を過ごして参りました。その力強き光はジョーカーまでも指し示す道しるべとなりましょう”

 

 モーナーク・セイクレッドのタイフォンよ、我は自ら干渉できぬのだ。

 下次元へのいたずらな干渉は次元そのものを崩壊させることもある。ただし……

 

”召喚……ジョーカー次元の世界の存在としての転生。それを為すための手段。そして代償。黄金の主の分身たる転生体をジョーカーに出現させることは……超高次元生命体アークドラゴン・スイレーが呼びかけに応え、ゲートキーパーからの使者をお遣わしになります。それを定めたのはさらに高位の存在。ジョーカーそのもの。ナ・イ・ンが現出した時、黄金の主の光の導きで私は帰還することができます”

 

 その者らも汝と同様の存在なのだな。無限の時を彷徨いし人ならざる者よ。

 

”黄金の主がジョーカーへ出現すると同時に、この時間のない次元より私たちも脱出しジョーカー星団へ帰還します”

 

 定命の人の姿となりて降り立つ。それは脆弱な赤子に戻るということだ。

 ジョーカーを感じるぞ。わかるぞ、この波動は……かつて感じたことがある。

 アマテラス神よ。汝が創造した世界なのだな。互いに人の姿にて見えようとは一興の戯れよ。

 ”神との対峙(マジェスティック・スタンド)”がいかなる因果を生み出すものか。

 黄金の光がジョーカー星団に到達し、光のタイフォンと遭遇したDr.ダイアモンドとナ・イ・ンは同時に帰還を果たす。

 時のなき世界においては、これら出会いし者らの時間に前後は存在しない。

 それゆえに観察者であるタイフォンが、Dr.ダイアモンドと超古代に旅立ったナ・イ・ンと同時に遭遇しえるのだ。

 そして現界せし光神”アマテラス”のいる世界に”彼”が現れ出でる。

 モナークより帰還せし三人がジョーカーに達する数十年前にデルタ・ベルンにて生を受けることになる。

 大気神エンリルと天界神アヌ。水神エアの知恵を授かり、太陽神シュマシュからは美しさを授かった。

 女神ベレト・イリが肉体を形作り、その雄々しき力強さは気象神アダドより与えられた。

 叙事詩により記された通りの力と神性を持ち、ジョーカーにおいても比類なき王の力を授かった。

 その名はギルガメッシュ。半神にして半人であり、生まれ出でたときより言葉を発し万物を理解した。

 現世においてはデルタ・ベルン星。バビロン王国の王位継承者として生を受けることとなる……のだが。

  

 

 それから五十年後くらいのバビロン王国王宮前──

 

「緊急封鎖ー! 一般人を避難!」

「至急、戦車部隊でこの区画を閉鎖せよ!」

 

 その日の朝九時という時間に物々しい装備の兵士たちが王宮手前の道路を一斉封鎖した。

 そして戒厳令に等しい一斉区画封鎖が行われ、王宮周辺は隔絶した空間へとなっていた。

 そこに場違いの報道車両が止まって一人の女記者がカメラと共に降り立つ。

 

「現在、バビロン市内は混乱に満ちています。見えますでしょうか? バビロン王宮へ続く道を封鎖するのはバビロン騎士団のMHと戦車部隊です! まさに戦争でも始まるかの様相ですが、情報は一切伝わってきておりません! テロ事件でしょうか? 王宮内部の様子は……あ、聞こえましたでしょうか! 爆発音です! 煙が森の向こうで……ド派手に上がっております。あ、また土煙が怒涛のように走って議事堂を粉砕しました! ええと、一発で粉々です。粉塵とか瓦礫がここまで飛んできてます、キャー!! こ、これは戦争なんでしょうか! 市民の皆さん、何が起きているのか我々報道は確かめる義務があるのです。ちょっと! そこ、カメラ止めないでよ! 今、カメラが屈強な兵士に取り上げられマイクだけになっております! こんな横暴許されて……マイクは死守、死守です! しかし、報道の自由は守れそうにありません! 実況はわたくし、ソーニャ・カーリンがお届け……くぉら! 靴返せ! ア、アデュ~~」

 

 ぷつり、画像も音声も途切れて、各家庭のテレビではバビロン公共放送の音楽が流れだすのだった。

 そして朝から始まった戦いは有頂天を迎えようとしていた──

 

「ちっ、やはり隙は見せぬか……」

 

 赤く張らせた頬。口から血を吐き捨てるのは尊大な口調の少年だ。

 立派な服はぼろぼろとなり、胸まではだけさせている。

 輝くような金の髪に紅の瞳。戦闘でぼさぼさになった髪は天を向いている。

 手にあるのは剣だ。美しく機能的で無駄がない。

 周囲の建物は破壊されつくし、黙々と粉塵が立ち込めている。

 その中から長身の影が現れて姿を現す。

 

「大福餅……昼に取っておいたデザート。このクソガキめ。全部食らうとは許し難し。その意地汚さ、天に返すべし」

 

 むはーと煙を吐き出した魔人が告げる。

 

「直撃を受けてなお余裕か。この化け物め!」

 

 口の端まで歪んだ笑みを張り付かせて少年は怒りに震える魔人……ファルク・ユーゲントリッヒ・ログナー。バビロン王国国王にしてスターレス・ファイターの異名を持つ男に挑戦的な態度を崩さない。

 そして彼こそはバビロン王国王位継承者であるギルガメッシュ王子であった。

 

「ふん、謝るつもりはないぞ。何があろうと、我は求めるものを手にするのだからな」

 

 もはや謝ってもログナーは絶対に許さない。楽しみにしていたおやつをすべて食われてしまったのだから。

 朝から始まった壮大な親子喧嘩は些細な雑談から始まった。

 バビロン王国はグリースを主軸とする王国群の重要な一角を占める、A.K.Dの母体となる主要国家だ。

 そのA.K.Dのボスであるアマテラスが金ぴかのMHを作っていると耳にすると、ギルガメッシュは言った。

 

「そのMH。俺にくれ」

 

 ええ、言いましたとも。アマテラス陛下に直接、殿下は申し上げましたわ。

(諜報部・エレーナ・クニャジコーワ談)

 

「うーん。じゃあ、ログナーから一本取ったら……無理か」

「いいだろう。あのくそ親父に一泡吹かせてやるわ」

「えー? ああ、もう行っちゃった……ログナーも手加減位するだろう。許す。ナイト・オブ・ゴールドはラキシスのだから絶対上げないけど」

 

 と、まあ実に適当な感じでした。

(諜報部・エレーナ・クニャジコーワ談)

 

 本日今朝、ギルガメッシュは触れてはならぬログナーのおやつに手を出して大戦が勃発したのである。

 それはさながら戦争。吹き荒れる嵐であった。

 ソニック・ブレードが吹き荒れて、触れるものすべてを粉砕した。

 これで何度目かになるかわからない親子喧嘩なので警報は完備。鳴った瞬間に王宮はもぬけの殻に。

 泥棒が入る余地は……命が惜しければ入らない方が吉である。

 

「連弾衝撃波(ダムド・ストローク)五月雨撃ち!」

「ぐほぉっ!」

 

 無数の衝撃波が同時に襲い掛かる。

 躱し切れずにギルガメッシュは吹っ飛びよろめきながら体勢を崩すが、即座に放ったスパイラル・タイフォーンがログナーへと襲い掛かった。

 

「ふん!」

 

 それをログナーはわずか腕の一振りで生じさせた技で粉砕する。

 普通の人間……いや、騎士でさえもそんなことしたら一瞬でミンチである。

 

「最後に言うことはあるか、小童」

「貴様の片腕でも切り落としたらスターレス・ファイターの名はもらうぞ」

 

 いや、ここは素直に謝るべき、というところでこの子憎たらしさは殿下でなければ出てきません。

(こっそり中継中・エレーナ・クニャジコーワ)

 

「FACK!」

「いいぞ、使うまいと思っていたが、親父になら我が全力を食らわしても問題あるまい! マキシマム・バスター・タイフォーン! 受けきって見せよう! 乖離剣エアよ! ”天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”にてっ!」

 

 ギルガメッシュがその手にする剣を構える。

 

「shakeっ! Fooooっ!」

 

 両者の間で爆風が吹き荒れる。

 

「マキシマム・バスター・タイフォーンっ!」

「全力の天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)っ!!」

 

 そして人々は見た。恐ろしい光量が天を染めるのを。

 核爆発のような爆心地で二つのエネルギーがせめぎ合い、片方を飲み込んで消滅する様を。

 二つの技がぶつかって起きた爆風波はバビロン市内を吹き抜けて、避難していた人々の肝を冷やした。

 すべてが終わった現場の空は快晴だ。マキシマム・バスター・タイフォーンと乖離剣の”天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”が雲をすべて吹き飛ばしていた。

 

「腹が減った。飯のお代りにするか……」

 

 あれだけのエネルギーの放出の中心地にいながら、すっぽんぽんで無事なログナーはその場を立ち去る。

 

「殿下ー、生きてますかー!?」

 

 いの一番に駆け付けたのはバビロン騎士団の一人である女くノ一である。

 瓦礫をかき分け、何とか生きているギルガメッシュをエレーナが引っ張り出す。

 

「あらら、腕がもげて、内臓はもうぐっちゃぐちゃね。凛々しいお顔も再生しないといけないしー」

「この程度……問題ない」

 

 人目には凄惨な姿となりながらもこの調子だ。

 

「はいはい。うちの陛下も死なないよう手加減なさいましたわね」

「ふざけるな……」

 

 ギルガメッシュの憎まれ口も血を失いすぎて顔は真っ青だ。

 放っておいたら死んでしまうような重傷だが、エレーナも親子喧嘩には慣れたものとなっている。

 

「救急班、こっちー。殿下を発掘しましたー」

 

 恐る恐る現場を窺っていた騎士団、および救急班から歓声が上がるのだった。

 

「あいつは勘当な」

 

 その日、再生ポッドの中に入ったバビロン王国王子ギルガメッシュはログナーから勘当を言い渡されるのであった。 


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