ギルガメッシュさん叙事詩【FSS×Fate】 作:うささん
デルタ・ベルン上空三千メートルの浮遊城(フロート・テンプル)。アマテラスの整備工房──
「うーん。あの子を野に解き放っていいものか迷うよねえ。ログナーったら考えなしに勘当だ! なんて言うけどさ……ログナーと本気でやりあってもしぶとく生き残るくらいだし……表に出したらイロイロ大変そうだよ。何やらかしてもボクがおじいちゃんたちに怒られてしまうじゃないか」
この日アマテラス陛下は珍しく真剣に悩んでおりました。
つい先日、バビロン王国で盛大な親子喧嘩をかました王子の処遇に悩んでいるのだ。
おじいちゃんたちというのはA.K.Dの重鎮連中のことです。
「いちいち問題起こすたびにボクが動くわけにもいかないしさ……困ったもんだよ」
ほぼ完成状態の金ぴかなモーターヘッドの前で盛大に溜息。
実のところ、内心はそれほど困ってるわけでもないのです……
「ギルの奴が何人もファティマぶっ壊すもんだから、もー誰もファティマを紹介してくれないし。何でもいいから箔が付く銘つき嫁がせろってじーさんたちにせっつかれてたんだよね。ギルの扱いにも耐える兆メガトン級ファティマって言ったらバランシェに頼むしかないじゃないか」
何せギルガメッシュ王子はお試しで使ったファティマをMH戦でヒーコラ言わせて、模擬戦相手を蹂躙し、MHも乗りつぶすものですから手が負えません。
おかげでゴーズ騎士団ではすっかり鼻つまみ者だし、精神崩壊寸前までぶっ壊したファティマは数知れず。
その噂から著名なマイトへの発注依頼はすべてキャンセルされる有様。唯一の頼みであるバランシェ公も近頃は具合が悪いので無理難題です。
騎士であり、王子でもあるギルガメッシュにファティマなしなんて格好がつかないという話なのである。
といってもログナーには勘当されてるんだからもうほっとけばいーじゃない……というのがアマテラスの本音です。
「おい、アマ公いるか?」
革ジャンにすり切れたジーンズ。トレードマークのツンツン頭。肩に旅行用のずた袋をぶら下げギルガメッシュが工房に現れる。
「モーターヘッドかこれは?」
目に留まったほぼ骨組み状態の装甲のない巨大なロボットを見上げた。組みあがっていない未完成品だが、目測で通常のMHの三倍以上はありそうな代物だ。
ヤクト・ミラージュ……未だ未完成な巨大なMHだがアマテラスの玩具程度にしか思っていない。
ずかずかと勝手に金ぴかMHの所まで歩いていく。
「うん? ギルガメッシュかい? 何の用?」
「例のモーターヘッドが完成したと聞いたぞ。乗せろ」
「ダメ! 上げないから! 前も言ったでしょ」
両手にバッテンして断固断わるアマテラス。ギルガメッシュはちっと舌打ちする。
「アドラーまで乗せろ。どこに行くにも足がなくてな……」
本当に困っているのだが、お願いします。と素直に言えないところがうちの殿下の可愛いところです。
(諜報活動中のエレーナ・クニャジコーワさん)
「何で?」
「親父にカードを止められた。バビロン名義は全部使えん」
「なるほどね。勘当されたからしょうがないか……」
「ファティマを本気で嫁にするのか?」
「迎えに行くと約束したんだよ。こいつに乗ってね」
「天下のアマテラスを本気にさせた女か。これは是非同行させてもらう」
「いいなんて言ってないけどぉ?」
「もう決めた」
「いちおーボクさ、君の主なんだよね……」
「今は違う。ただの放浪人だ。主などおらん。いつ出る?」
不敵な面構えで返す。元より、主だろうが王だろうが気にも留めていないのだ。
「今からだよ。あのさ、アドラー行くならアイシャとベル・クレールで行く方が快適……」
「さあ出発だ」
ファティマ用のコクピットルームをこじ開けてギルガメッシュは荷物を放り込むのだった。
「結局ボクが子守役じゃないか……まったく」
アマテラスはレディオス・ソープへ変身を遂げるとナイト・オブ・ゴールドへ乗り込むのだった。
◆
はわわぁーん。殿下がアマテラス陛下と一緒に旅立ってしまわれました~~!
監視役エレナは完全に置いてけぼりをくらいましたのぉ~~~~~
これはうちのへーかに指示を仰がねばぁ……
えーと、返信「お前も行け」ですって?
しゅ、出港間近のベ、ベル・クレール待ってぇ~~~!
『バビロン国諜報員エレ-ナ・クニャジコーワ。ベル・クレールに潜入し勘当せし王子ギルガメッシュの動向を追うべし』
【ファルク・ユーゲントリッヒ・ログナー】
◆
バストーニュ──日が落ちる頃、巨大なモーターヘッド・キャリアから二人の男が降り立った。
超絶な美女と見まがうようなレディオス・ソープと、これまた絶世の美少年と呼んでよいギルガメッシュが並べば、それだけで荒野の世界が色付いたものに変わる。
「お二人さん、縁があったらまた会おうぜ! しばらくは領主の所にいる。遊びに来い!」
上から声をかけるのは二人を拾ったボード・ビュラードという男だった。
荒野みたいな一本道を徒歩で歩いていたところをビュラードに拾われてバストーニュまで運んでもらった。
ソープが手を振ってキャリアを見送る。
「これというのもあんなところで落ちるからだ……」
愚痴るギルガメッシュの革ジャンは埃の跡にまみれている。
「まだまだコントロールに難ありだね。でも、面白い男と会えただろう?」
「よく口の回る男だ。この国のことは少しわかったがな」
ここはレントのバストーニュ。トラン連邦の国の一つだ。それだけなら特に立ち寄るような理由もないが今回は特別だ。
この国でファティマのお披露目が行われるのだ。
星団各国から要人が集まり、お披露目されたファティマを得ようと競い合う騎士たちの会合が行われるのだ。
今回はバランシェ公のファティマがお披露目されるとあって一大イベントになっている。
「そのバランシェの家はどこにあるんだ?」
「君、もうバランシェ家の敷地に入ってるけど……」
広大な敷地を抜けて二人は明かりが灯る屋敷へとたどり着く。ソープが扉を叩き、現れた執事に挨拶をする。
「これはソープ様、お待ちしておりました……と」
「こっちは友人のギルだよ。突然だけどいいかな?」
ソープがギルガメッシュを執事に紹介する。
「もちろんようございます。ではギル様、お部屋をご用意いたします。しばらくお待ちくだされ」
「俺はソファでも構わんのだが?」
「好意は受け取りなさい」
「好きにしろ」
通された部屋でドカッとギルガメッシュはソファーに陣取る。
後ろで控えるメイド達の視線にソープが笑って返した。
しばらく待つと扉が開き五本線の服をまとった男が現れる。この家の主にして星団最高のマイトと呼ばれる男だ。
「バランシェ……」
「ソープ。遅かったな。ずいぶん汚れているな? それと、若い客が一緒だと聞いたが、あの赤子がずいぶん成長したものだ。バビロンの王子殿」
立ちながら見下ろすバランシェに首を傾げてギルガメッシュが返す。
「今は勘当されている身でな。もう王子ではない。バランシェ公」
控えめな礼儀良さを発揮してギルガメッシュが返す。
まったくボクへの扱いより丁寧じゃないかというソープからのジト目は完全に無視する。
「えーと、まあこの子はこんな感じだよ……テストが予定よりも難航してね。荒野のど真ん中に落ちちゃった」
「相変わらずだな。意地を張るから……」
「それより何の用だい? ボクを呼び出したりして」
「そうだな、ここではなんだ。工場へ行こう。ギルガメッシュ王子、君も来なさい。必要な時に必要とされる人間が揃ったわけだ」
「バランシェ、どういう意味だい?」
「行ってのお楽しみだと言っておくよ」
三人は連れ立ってバランシェ邸のもっとも秘密の場所へ向かうのだった。
◆
バランシェが工場と呼んだ施設はファティマの工房だ。
アトロポス43、ラキシス44、クローソー45とナンバーの振られたベッドが並んでいる。
成人したファティマ達を大公ユーバーが連れて行ったとか、お披露目の話をギルガメッシュは適当に聞き流す。
バランシェの机に幼い三人の少女とソープが映る写真がある。それをギルガメッシュは何の感慨もなく眺めた。
「アトロポス、ラキシス、クローソー……私が手掛けた最後の娘達が成人し今はもういない。私は自分の無力さを痛感しているよ」
「ダムゲートのない彼女たちがヘッドライナー以外の人間をマスターと呼べば大変なことになる。昔の約束をボクが守ることを君は期待したのか……」
「私はもう長くない……友人として最後の頼みになるだろう。あの子たちを頼む」
バランシェにソープは応えない。
「話はそれだけか? やくたいもない話を聴きたいわけではないのだが」
ギルガメッシュの言葉にバランシェが「そうだな」と頷く。
「ギルガメッシュ王子。私がこれまで手掛けたファティマは四五番目のクローソーで最後だ。その最後の娘が連れていかれた翌日のことだ。私は娘がもう一人いる事を思いだした」
「思いだしただって? バランシェもやっぱり歳だね……」
「茶化すな、ソープ」
「それで?」
本題に入れとギルガメッシュは促す。
「それが昨日のことだ。この数年、まるで忘れ去っていた。不思議なことだが思いだしたのだ」
バランシェが最奥の部屋の封印を解除する。
「なぜ、私はソレを作ったのか?」
隠された扉が開いていく。
「なぜ、この時が来るまで忘れていたのか? スイッチを入れたのは何であったのか?」
バランシェはじっと扉の奥の空間を見つめる。
「幸いユーバーにこの部屋のことは知られていなかった。俺自身が記憶から排除していたのだ。確信できるのは一つだけだ」
「どういう意味だい? 何を作った、バランシェ?」
「二体のファティマだ。もう一つはソープ、お前に創ったユーパンドラだ。番号は四二体めになる。お前と同じ顔を持たせた。アマテラスの分身として残した」
タンクベッドが奥に二つ在る。そこに眠るのが二体のファティマであると想像するに容易い。
右手には42、ユーパンドラと名があるが、もう一つはノーナンバー、ノーネームの棺の様なベッド。
「そして、こいつは、この時を待っていた! 託すに足る人間が現れるのを! 今この時に、ここにいる者にだ! それがソープ、お前なのではという期待は崩れた。私が予想しなかった男がいる」
バランシェがギルガメッシュを一瞥する。
ベッドの冷凍催眠が解除され冷たい空気が流れ出る。足元を蒸気が満たしていく。
「なぜ記憶から排除する必要があったのか? ナンバーを振らなかったのか? ソープ、お前も知らないコレが目覚めることで何が起きるのか私には想像がつかん。唯一懐いているのはユーパンドラだが、こいつを制御できる騎士はお前以外を想像できなかった」
「名前すら付けなかったファティマ……どういうファティマなんだい?」
「……破壊の獣だ。名は付けなかったのではない。生まれる前からこいつは自分の名を知っていた!」
「もったいぶらずに言え。こいつの名前は何だ?」
ギルガメッシュの問いにバランシェが答える前に部屋に電子音が鳴り響く。
二つのベッドのうちノーネームの封印が解除される。ベッドの蓋が開閉し薄靄の中に細い裸身が立つ。
淡い緑の長髪が華奢な肩に流れほっそりとした腰まで届く。素足を地に下ろしあどけない幼さの残る顔で三人を見つめた。
たおやかで神聖ささえ感じさせる容貌は超一級の芸術品に匹敵する。
まさに美しいファティマそのもので、バランシェの言う獣のような獣性はどこにも見当たらない。
「ルゥ……エルキドゥ……君の声を聞いて起動した。どうか自在に……無慈悲に……世界を残酷な色に染め上げてほしい」
歌うように目を細めると目覚めたファティマが両手をギルガメッシュに向けて伸ばす。
「獣ならば獣のようにふるまえ泥人形。我が欲しくば首をもぎ取るつもりでこい」
挑発的にギルガメッシュが告げ──エルキドゥはニッと笑った。
そして二人の大運動会が始まるのだった。
「言い忘れていたが、エルキドゥにはダムゲートも能力の制約もしていない」
「君ってそういうの適当すぎない?」
闘争は丸一日続くのだがそれはまた別のお話で……