ギルガメッシュさん叙事詩【FSS×Fate】   作:うささん

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ギルガメッシュとエルキドゥ

「ホントーにあのクソガキャ、なめとんのか~~」

 

 ニセ天照へーかのかつらを投げ捨て、椅子を蹴っ飛ばすのはA.K.Dのアイシャ・コーダンテ殿下です。

 うちのかんどーされた殿下がソープ様と一緒にアドラーに降りたなんて話を聞いて怒りをぶちまけておいでです。

 何かと制限が多い王族ですが、うちの殿下はフリーダムオンリー。

 天照陛下だろーが、剣聖ディモス・ハイアラキだろーが、ログナー様だろうが気にせず喧嘩を売っては生き残って来られたぶっ壊れ性能なのです。

 まあ、半殺しにされるのも今では日常茶飯事。次は何をやらかすのか議会や国民の間では賭けの対象となっておりまして、まさに国民的ギルガメッシュ殿下を体現しておられます。

 

「殿下、ベル・クレールがバストーニュに入ります」

 

 侍女が告げてベル・クレールは目的地に着くのでした。

 

(ベル・クレール潜入中のエレーナ・クニャジコーワさん)

 

 

 その頃のバランシェ邸では──

 ちゅどーん。遠くで粉塵が上がりパラパラ降る細かい落下物が館の窓辺を叩いた。館の外の野原に開いたクレーターが戦いの激しさを物語っている。

 執事が手を止め耳を澄ませる。もう音が聞こえてこないと確かめると後ろの主に話しかけた。

 

「収まりましたな……」

「さすがの暴れん坊もアレには手を焼いているな」

「一晩中でございますよ?」

「子どもらが走り回るのもこれで最後だ。これからは静かになる」

 

 バランシェが返し淹れたてのティーカップに手を伸ばした。

 子どもらなどというカワイイものではございません、という言葉は内心にしまい込んで執事は黙って主の世話をするのだった。

 しばらくして扉が乱暴に開け放たれる。泥やら砂やら草の破片が落ちてじゅうたんを汚す。

 ギルガメッシュが抱えるのはエルキドゥだ。ピクリとも反応しない。気絶しているのか無防備に長い髪を垂らしている。

 掃除が……という執事の視線を無視してギルガメッシュはエルキドゥを床に落とした。

 落とされてもエルキドゥは起きず、ごろんと大の字になって広間で寝息を立て始める。星団一図太い神経のファティマである。

 これがファティマなものか。ただのけだものである。

 さしものギルガメッシュでも不機嫌さを隠せない。

 

「立っていないで座ったらどうだ?」

「けだものめ。こいつをお前の最新作だと発表したら最高に注目されるだろうよ」

 

 吐き捨ててギルガメッシュはソファに腰掛ける。

 

「ギルガメッシュ殿下のそんな顔をソープに見せてやりたいものだ」

 

 一晩続いた闘争の末にエルキドゥを打ち負かしたもののその姿は凄惨である。

 革ジャンはすでに原形を留めておらず、ズボンも半ズボン状態でボロボロだ。全身に青あざ多数であちこち噛み付かれたと思わしき痕もある 

 ログナーでさえ手を焼くバビロンの暴れん坊と呼ばれた彼をここまでの姿に追い込んだファティマはエルキドゥを除いていない。

 そもそもファティマは人に危害を加えたり、襲い掛かってきたりしないものだ。エルキドゥは存在自体が規格外のナマモノである。

 

「けものには鎖が必要だ。あるか?」

「旦那様のお子に鎖を付けるとは……」

「知ったことか。困るのはバランシェではないのか?」

 

 解き放たれた獣が二匹。猛獣使いが制御するにはお互いを繋ぐしかない。

 その綱取りをギルガメッシュに放り投げればバビロンの問題児も少しは大人しくなるだろう。

 ソープめ、最初は厄介者を連れて来たかと思ったが、二人に首輪と鎖を付けてしまえばお守は必要ないというわけだな。

 眠るエルキドゥをバランシェは眺める。館ごと吹っ飛ばなかっただけ幸いであったといえよう。

 

「用意しよう。メトロテカクロムの剣でも断ち切れん鎖がある」

「ほう、何に使っていた鎖だ?」 

 

 ギルガメッシュが好奇心の問いかけをする。

 

「モーターヘッドを係留するのに使った鎖だがそれで用が足りるかは知らん」 

 

 冷笑を返しバランシェが立ち上がるのだった。この父もなかなかに非情である。

 

 

 それから──ベトルカの町。それほど大きくもない街の市場近くの店のテーブルに二人はいた。

 その二人とはギルガメッシュと、緑髪のエルキドゥだ。

 店に入って一番に見る者が一瞬ギョッとしてから二人から遠回りに迂回していく。

 それというのも異様な鎖がエルキドゥの首にぶら下がっているからだ。その鎖はギルガメッシュの元まで伸びている。

 一昼夜の追いかけっこと闘いの末にエルキドゥを抑え、起きた後になぜかギルガメッシュの後をついて離れなかった。

 首輪につけた鎖が気に入ったのか「天の鎖でしかボクは縛れないんだ」と言うので、「畜生にはちょうど良かろうよ」とギルガメッシュは何ら遠慮することなくエルキドゥを従えている。 

 

「あむっ!」

 

 エルキドゥが可愛らしい口を大きく開けてハンバーガーをむしゃりと頬張ると幸せ顔で胃に収めていく。

 山盛りになったバーガーはエルキドゥのものである。この外見でどこまで入るものかと物見遊山をしているが意地汚い食事がいつ終わるのかは不明だ。

 暴れた分だけのカロリーを摂取するのかもしれない。

 キラキラ輝く首の鎖はマスターと認めるに相応しい主から頂いた大事な「証」であるので枷だという認識はまるでない。

 

 エルキドゥが着ている服は育成時のファティマがよく着るスモックで白くゆったりしたものだ。

 淡く美しい長髪と可愛らしい顔もあって妖精の化身かと見まがうほどだ。

 頭にかぶった獣耳の帽子はメイドの「エミリィ」が作ったものでエルキドゥのお気に入りである。

 それだけに首の鎖の枷が痛々しく見える。今時の奴隷でもそんなレトロな「奴隷」イメージそのままの姿はしていない。

 対するギルガメッシュはエルキドゥを自分のファティマとは思ってもいないし、手間のかかるペットの手綱を持っているだけだった。

 

「主殿(マスター)」

「黙っていろ。俺はお前を認めたわけではない」

「でも、これ……」

 

 首元の鎖をジャラジャラと手の平をこすり合わせる。ご主人ワンワンと構えてる犬のようだ。

 

「これがマスターがくれた契約の証ですから!」

 

 ほら、ほらと尻尾があったらバタバタ振るわせそうに首根っこをアピールする。

 

「くだらん。貴様は俺のペットに過ぎん。ペットならばペットらしく振舞え」

「わうん~~」

 

 エルキドゥが耳を倒してジュースをすする。それを不機嫌さを崩さぬままギルガメッシュが眺める。

 退屈しのぎ程度に役に立ってもらわねばな。バランシェめ……厄介払いができたという感じだったが気のせいでもあるまい。

 第一、コレがファティマだと?

 噛み付くわ、引っ掻くわ、毒舌で挑発しまくるわ。一般的なファティマの常識がまるで当てはまらない化け物である。

 並の騎士ならば五体バラバラにされて骨までかじられていただろうよ。

 

「出るぞ」

「うん!」

 

 じゃらじゃら鎖の音を響かせてエルキドゥを引っ張りギルガメッシュは店を出る。

 先ほど目についた男たちの後をつけはじめる。その三分後──裏路地から叩きだされた男たちが尻尾を巻いて逃げ出した。全身噛み跡だらけである。

 

「えっへん! おねーちゃーん」

 

 勝ち誇るエルキドゥが勝利の笑みを浮かべ、立ち尽くす少女に抱きつこうとしてギルに引き戻されるのだった。

 会ったことのない姉クローソーであるがエルキドゥは匂いでわかるのである。

 

「あ、あなた方は……」

「お前ははぐれファティマではないな? お披露目から逃げて来たのか? それよりそこの男出てこい」

 

 ギルガメッシュが言葉を投げかけるとフードにマント姿の男が姿を現わす。

 

「お前もつけていたようだが、連中の仲間ではないな?」

「スパッドは抜くまでもなかったようだ。実は貴殿らを店で観察していたのだが、この子のことに気が付いた。後を追ったのは良からぬ者たちがいたからだが、私の杞憂で終わってよかった」 

 

 三人の前でフードを下ろして偉丈夫が顔を見せ、コーラス三世と名乗ったのであった。

 後から来たソープと前に会ったボード・ビュラードもやってきたが、クローソーはコーラスに嫁ぐことになり、怒った追手のビョイトが立ち去って事は万事解決である。

 ここまで実につまらぬ時間を過ごしたが、ユーバーというのがなかなかにきな臭い匂いがするので機嫌を少し直したところだ。

 

「ソープはどうやら手下も連れてきたようだな」

 

 エルキドゥを引っ張ってランド、ポエシェ、リィ、ヌーソドらミラージュ騎士を見れば「うわぁ、何でここにいるの?」という迷惑的な視線で歓迎されるのであった。

 

「ギルもえらい! ちゃんとファティマを選んでよかったよ! エルキドゥもよかったね」

「わんわん! はいですソープ様!」

 

 ソープ自身とは交流がなかったものの、エルキドゥは姉や兄の記憶から親しみを込めてソープを慕っている。

 マスター以外で自分を御せるのはアーク・マスターのレディオス・ソープのみである。

 

「よし、じゃあギルにもご褒美上げるよ」

「褒美だと?」

 

 ギルガメッシュは金とか物では動かない。名誉も地位も特に意味を持たないものだが……

 果たしてソープがギルガメッシュに約束したモノとは?


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