世期末世界に生きる量産少女リリカルX   作:シャケ@シャム猫亭

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量産型なのはの一ヶ月の感想欄で思いついたネタを軽く起こしたもの。
最初の方だいぶクドイですが、読み飛ばしてもあまり問題ないです。


歴史家たちは……

 歴史家たちは口を揃えて言う。

 新暦75年に第1管理世界ミッドチルダで起きたJS事件こそが、歴史の分岐点であったと。

 

 あの日、聖王のゆりかごという最悪のロストロギアが起動し、時空管理局が混乱に陥った。

 事件は伝説の魔導師がその身を犠牲にしてゆりかごを破壊、首謀者も逮捕となったのだが、世界は知ってしまう。

 時空管理局とは絶対的な存在ではなく、個人のテロリストによって揺らいでしまうような楼閣でしかないということを。

 確かに、時空管理局のお陰で守られたもの、救われたものはあった。だが、同時に不満を持つもの、恨みを持つものもいたのだ。

 彼らは声を上げる。

 

 管理局なんて要らない、我らに「自由」を!

 

 やがてその声は大きくなり、時代にうねりを巻き起こす。

 新暦79年、それはついに決定的なものになった。

 第37管理世界が時空管理局からの独立を宣言したのだ。

 もちろん、時空管理局がこれを認めるはずもなく、話し合いは平行線。ついには戦争が始まった。

 これが、第1次次元戦争、通称「1年戦争」である。

 この頃は、まだ時空管理局は余力を持っていた。多くの魔導師が投入され、戦争はその名の通り1年で終結した。

 だが、傾いた天秤は戻らない。数多の世界に独立の流れが起きていた。

 第1次次元戦争の終結から3年後の新暦83年。第24、41、66管理世界が次々に独立宣言を出す。「スーラデ紛争」、「スプリグ戦役」、「ヌゼブの反乱」である。これらはそれぞれ第2、3、4次次元戦争と呼ばれる。

 これらの戦争は第1次次元戦争と比べ、長引いた。今回の独立宣言をした世界は、戦争になることが分かっており、十分な準備をしていたからだ。

 7年にも渡る戦争は時空管理局の勝利で終わった。だが、優秀な魔導師を多く失った管理局は、その影響力を大きく減衰させることとなる。

 

 第4次次元戦争の終結後、時空管理局内で一つの動きが生まれる。これまでの管理局の理念に異を唱える者が台頭しだしたのだ。

 「時空管理局は次元世界の管理することを理念とする」

それは実質的には管理世界を植民地とすることにほかならない。

 もちろん、質量兵器の根絶とロストロギアの規制を理念とする保守派はこれを認めず、新暦89年、ついには激しい内部抗争が始まった。

 第1次ネオ・管理局抗争である。

 この抗争は保守派の代表格である八神中将の活躍もあり、1年で終結した。しかし、勝利したとは言え、最早時空管理局は一枚岩では無くなっていた。

 この抗争での功績を認められ、八神中将は元帥への昇進を果たす。八神元帥の指揮の下、各管理世界への平和交渉が始まり、独立へ傾いていた天秤はゆっくりとだが元に戻ろうとしていた。

 世界に(つか)の間の平和が訪れる。

 そう、束の間でしかなかったのだ。

 新暦93年、八神元帥の方針に反旗が翻され、またもや時空管理局は抗争で揺らぐことになる。

 これが、第2次ネオ・管理局抗争である。

 革新派は八神元帥の身柄を捕らえ斬首したとの声明を出したが、一説では八神元帥は聖王教会の力を借りて管理外世界に亡命したとされる。

 何れにせよ、八神元帥が破れたことで保守派は瓦解し、時空管理局は革新派が実権を握ることになる。

 

 方針を転換した時空管理局は、それまでの宥和政策を止め、管理世界への実質的な支配へと乗り出した。

 当然、各管理世界はこれを固辞するが、管理局はこれを認めない。

 あっという間に世界は第5次次元戦争へと突入した。新暦96年、「フーリエ戦争」である。

 この頃になると、時空管理局にはオーバーSランクと呼ばれるような魔導師はほとんどいなくなっていた。戦力の低下を危惧した時空管理局は恐るべき判断を下す。

 第1級封印指定ロストロギアの使用許可。

 一週間後、戦争は終結した。

 それほどまでに、ロストロギアの力は絶大であった。

 この事態を重く見た各管理世界は、独自にロストロギアの収集に動く。保有するロストロギアの数が、そのままその世界の戦力となることを目の当たりにしたのだ。

 

 世界はお互いの保有するロストロギアの恐怖により、一次仮初の平和を取り戻す。

 だが、その平和は戦争への準備期間でしかなかった。

 新暦100年、ついに、互いにロストロギアを使用する戦争が始まったのだ。

 第6次次元戦争、「ロストロギア戦役」である。

 この戦争は、時空管理局と管理世界という対立関係は存在しない。全ての世界が敵となる、全世界規模の戦争へと発展する。

 いくつもの世界がロストロギアによって、あるいはその余波で生まれた超大型次元振動によって消滅を迎えた。

 そのあまりの悲惨さに、戦争は1年で終結した。奇しくも保守派が唱えていたロストロギアの危険性をその身を持って知ることとなった。

 

 だが、ロストロギアへの恐怖は新たな戦争を呼ぶ。

 圧倒的に他の世界よりも多くのロストロギアを所有する時空管理局を危険視する声が高まり、ついには次元連合から時空管理局へ、ロストロギアの分配をするよう一方的な通達が送られた。

 もちろん、時空管理局はこれを拒否する。

 話し合いの姿勢を示す時空管理局に対し、次元連合はそれを拒否。

 決裂が行き着く先は、戦争しかない。

 時は新暦105年、時空管理局 対 次元連合軍の第7次次元戦争の戦端が開く。

 戦争はお互いに決定打を欠き、泥沼と化した。

 5年の歳月をかけて、ゆっくりと戦争は鎮火していった。最早、どの世界も文明崩壊が起きて戦争をしていられるような状態では無くなってしまったのだ。

 時空管理局は新暦110年、戦争の永久凍結を宣言。

 また、この悲惨な戦争を繰り返さないため、戒めを込めて年号が新暦からA.W.(アフターウォー)へと変わるのであった。

 

 そして、15年の歳月が流れ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、大戦時代の時空管理局基地ね。随分と寂れちゃって……」

 

 一人の少女が、森の中に佇む施設を見上げていた。

 15、6歳くらいだろうか。ショートカットの金髪が太陽の光を浴びて煌き、機能性を重視した作業着とミスマッチを起こす。

 正確には、この施設は森の中に建てられたわけではない。打ち捨てられ、森に飲まれたのだ。

 

「でもまあ、ぱっと見、他に誰か来た形跡も無いし。これは久しぶりに大物の予感がするわ」

 

 少女、シアはまだ見ぬお宝に赤い瞳を煌めかせる。

 だが、そんなシアを嗜める声がする。

 

『大戦時代の基地です。慎重に行くこと助言します』

「うっさい、バル。わかってるわよそんなこと」

 

 シアの前髪を止めている三角のバレッタがチカチカと光る。どうやら先ほどの声はここからしていたようだ。

 シアはその助言に不機嫌そうに答えた。

 

「取り敢えず入口を探さなきゃ。バル、サーチャー出して」

『Yes sir. Area Search standby』

 

 シアの周りに丸い魔力の玉がいくつも現れた。

 くるくると少女の周りを回っていたそれらは、シアのGoサインと共にバラバラに飛び去っていく。

 サーチャーと呼ばれるそれは、シアの目となり、撮した情報を次々に送る。

 同時にいくつもの視点を得たシアは、その情報量に目眩を起こしフラついた。

 

「あー、気持ちワル。やっぱ慣れないわ」

 

 それでも使用するのを止めないのは、これが一番手っ取り早く、かつ安全だからだ。

 

「ホント、魔法って反則よね。まあ、お陰でこうして探掘者として食べていけるわけだし、文句はないけどさ」

 

 お婆様に習っておいて良かったと、今になって思う。

 当時は鬼みたいに厳しい訓練に毎日泣いていた。

 だが、両親が死んでから自分の食い扶持を稼がなきゃいけなくなったことで、奇しくも魔法を使えるということは大きなアドバンテージとなった。

 何度も起きた次元戦争のせいで、時空管理局から魔法技術がもたらされなくなり、今や魔法を使える人、特にデバイスを所有する人は、ほんのひと握りとなってしまった。

 そのため、魔法を使える人はとても重宝され、現にこうして魔法を使い、戦争の遺物を探して売る探掘者としてシアは生計を立てることが出来ている。

 

「っと、これかな、入口」

 

 サーチャーの一機から送られてくる映像に、扉らしきものが見て取れる。

 シアは扉の場所を覚えると、サーチャーを全て消した。いつまでも出していると魔力を食うし、何より視点が多くて酔う。

 サーチャーで見つけた扉の前まできたシアは、ペタペタと扉に手を当てて調べる。

 

「やっぱり、魔力感知式自動扉か。バル、ハッキングして開けられる?」

『了承。五分ほどお待ちください』

 

 シアのバレッタがチカチカと輝き出す。どうやらバルは作業に入ったようだ。

 手持ち無沙汰なシアは、扉に背を預けて空を見上げる。

 木々から覗く、真っ青な空。

 飛べたのなら、きっととんでもなく心地よいことだろう。

 シアは、今も空を飛ぶことを夢見る。お婆様に魔法の訓練を受けることを決めたのだって、空を飛びたかったからだ。残念なことに欠片も才能が無くて、あのお婆様ですら匙を投げたのだが。

 

『ハッキング終了。扉開きます』

「え? きゃあっ!」

 

 突然扉が開き、背中を預けていたシアは後ろへ倒れた。

 強かに尻を打ったシアは涙目でバルに抗議する。

 

「いったた……いきなり開けるんじゃないわよ!」

『否定。宣言致しました』

「ほとんど同時じゃない、このポンコツ!」

『否定。他のデバイスを大きく上回る性能を有しております』

「うっさい、バーカバーカ!!」

 

 それ以上の言葉が見つからないシアは、ここでバルに文句を言うのを止めた。

 それに、この先にあるお宝の興味も大きい。

 

「いきなり中に入るのは危険だよね……」

『肯定。サーチャーを飛ばすことを推奨致します』

 

 シアの経験上、こういう施設には侵入者撃退用のトラップが用意されている。

 優しい場合は拘束系、酷いと殺傷系。

 

「……仕方がない」

 

 シアの合図でサーチャーが三つほど現れる。先程よりも数が少ないのは、トラップ探索のため一機一機の映像をしっかり見たいのと、サーチャー酔い対策だ。

 サーチャーを飛ばし、脳内で施設のマッピングを開始する。

 

「非常電源だけど動力が生きてるってことは、動力のエネルギー結晶体も生きてるってこと。良い収入になりそう」

 

 十五分もすれば、施設の全貌とトラップの位置を大体把握することが出来た。

 その中から、売り物になりそうな物があるところをリストアップしていく。

 

「武器庫と動力室は必須ね。食料庫は保存食と年代物のお酒が狙い目かしら」

『念のため、バリアジャケットを装着することを助言致します』

「えー、やだよ。あれ、恥ずかしいんだもん」

 

 トラップの場所も分かるし、問題ない。

 

「大体、いざってときはバルが守ってくれるんでしょ?」

『肯定。ディフェンサーはいつでも展開可能です』

「なら大丈夫よ」

 

 そう言ってシアは施設へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、大量大量!」

 

 談話室であろう部屋に戦利品を集めて、満面の笑みを浮かべるシア。

 到底一人では持ち帰れないような量なのだが、そこは当然対策済みだ。

 

「バル、物質転送魔法セット。送り先は家の保管庫」

『Yes Sir』

 

 シアの合図と共に、山と積み上げられた戦利品の上に空間の歪みが発生する。

 そして戦利品がふわりと浮き上がると、歪みへと吸い込まれて消えた。

 これで、もう自宅に送ったというわけだ。ホント、魔法は便利だとシアは思う。

 

「それじゃ、最後に動力をいただいて帰ろうか」

 

 動力室の目星は付いている。地下に妙に頑丈な扉があったから、その先だろう。

 シアは鼻歌を歌うほど上機嫌で地下へ向かう。

 こんなに上手くいく仕事は久しぶりだ。

 

「あったあった。バル、ハッキングして」

『Yes Sir』

 

 だが今度は、ものの数秒もしないうちに、バルから声がかかる。

 

『プロテクトが非常に厳重です。ハッキングには時間がかかります』

「で、どのくらいかかるわけ?」

『七十一時間ほどです』

「ななじゅ、それってほぼ三日じゃない」

 

 そんなに待ってられないと、シアはバルを髪から外し、手に取った。

 

「この扉、ぶっ壊すわよ」

『扉の厚みから、アサルトフォームでは出力不足です』

「なら、ザンバーフォームでやるわよ」

『Yes Sir』

 

 光がシアを包み込み、バリアジャケットを装着する。

 そして手に持ったバルはその姿を変え……

 

 

 ズガアアアァァァァン!

 

 

「よし!」

 

 扉は跡形もなく吹き飛んだ。

 すぐにバリアジャケットを解除するシア。よほど嫌いなのだろうか。

 バルを髪に取り付け、部屋の中へと入る。

 

「エネルギー結晶体はどこかなーっと」

 

 だが、部屋を見回してもそれらしきものは見つからない。

 この部屋にあるのは、よく分からない装置群と……

 

「……生体ポット?」

 

 それは床に寝かせるようにして置かれていた。

 ブゥンと音と装置のパネルが光っているところを見る限り、どうやらこの機械は動いているようだ。

 シアは興味を惹かれ、近寄っていく。近づくにつれ、中に人が入っていることに気づく。

 そして、装置の手前まで来ることで、中の人がはっきりと分かった。

 

「女の子だ……」

 

 生体ポットの中で横たわる少女が着ているのは時空管理局の制服、それも大戦時代のやつだ。

 腰まで伸ばされた茶色の髪、歳はシアと同じくらいだろうか。胸元には赤い宝石が付いた首飾りをしている。

 シアは生体ポットの操作パネルに触れて、情報を引き出そうとする。

 

「何々……NT-7NO8(ななエヌオーはち)用生体調整槽?」

 

 このNTとかいうやつが中に居る少女のことを指すのだろうか。

 シアはパネルを操作して、少女の生体情報を呼び出す。

 

「うん、やっぱり生きてる。解放するにはっと」

『警告。危険です』

「バカ、この子を置いていけっての!? この生体ポットも何時まで持つか分かんないのに」

 

 非常電源によって動いているのだ、いつ動力が止まってもおかしくない。

 例え動力が持って、誰かが少女を外に出したとして、その誰かが良い人なんて保証はない。

 

「そもそも、ここの動力をいただいていく話だったでしょうが。どっちにしろこの装置は止まるの。だったら出してあげましょ」

 

 そもそも、シアには少女を置いていくという選択肢は無い。

 シアだって生きていくために多少法を犯すことはあるが、人を傷つけるようなことはしないとお婆様と誓った。

 

『しかし……』

「うっさい! アンタのマスターはアタシ! バルはアタシに従ってればいいの!!」

 

 バルの抗議に耳を貸さず、シアは生体ポットを解放するコマンドを打つ。

 低いうねりを鳴らし、装置が解放の準備を始める。少女を外の世界へ出すために一つ一つ段階を踏んでいく。

 最後に、パシュと空気が抜ける音がして生体ポットのロックが外れ、ゆっくりと蓋が開いた。

 シアは生体ポットの中を覗き込み、少女の頬をペチペチと叩く。

 

「おーい、もしもーし」

「………ん」

 

 少女は叩かれたことで、少し嫌そうな顔をして寝返りをうった。

 まるで、休日に母親に起こされたかのようだ。

 だが、ここはそんな所ではないし、今はそんな時ではない。

 シアは少女の頬っぺたを指で摘むと、

 

「起きろ、寝坊助(ねぼすけ)!」

「っ!! イタタッ! 痛い痛いっ!!」

 

 思いっきり引っ張った。

 痛みに驚いて、少女は飛び起きる。涙目で赤くなった頬っぺたをさすりながら、少女はシアのことを見た。

 

「や、おはよ」

「え、あ、はい。おはようございます?」

 

 まだ状況が上手く飲み込めないのか、少女は疑問形で返事をした。

 

「早速で悪いけど、質問に答えて。アナタ、何でここで寝てたの?」

「……ここ?」

 

 シアの質問に小首を傾げる。

 

「この生体ポットに入っていた理由よ」

「生体ポット?」

「アンタが今まさに入っている、これよ」

 

 シアが指さしたことで少女は自分の居る場所が、それなのだと気づく。

 それから少女はゆっくりと辺りを見渡して、シアに言った。

 

「ここ、何処ですか?」

「何処って、時空管理局の基地よ。大戦時代のね」

「時空管理局? 大戦時代?」

「アンタ、まさか………いいわ、基本的なことから聞く。アナタの名前は?」

「…………わかんない、です」

 

 この答えで合点がいった。長期間生体ポットの中に居ると、記憶の混乱あるいは喪失が起きることがあると聞いたことがある。少女も、きっとそうなのだろう。

 シアは困ったときの癖で、髪の毛を一房摘んでいじる。

 

「あの、私、どうしてここに居るんでしょう?」

「それをアンタに質問したのよ。私が知るわけないじゃない」

「そ、そうですよね……ごめんなさい」

 

 しゅんとする少女。

 シアはその様子を見て、決めた。

 

「アンタ、私と来なさい。記憶が戻るまで面倒見てあげる」

「え、でも、迷惑じゃ……」

「うっさい、私が良いって言ってるんだから良いの!」

 

 こんな様子じゃ、当然ながら行く宛はないだろう。

 そもそも、ここは深い森の中。

 食料はこの施設に少し残っているが、精々月単位の量で生きていけるとは思えない。

 それに、何だか迷子の子犬を見ているようで、シアには放っておくことは出来なかった。

 

「さ、立って。んで、動力の結晶いただいたら帰るわよ」

「あの……」

「返事は!?」

「は、はい!」

 

 シアは少女の手を掴み、ぐいっと引っ張って少女を起こす。

 多少ふらついたものの、少女は立ち上がった。

 

「バル、動力炉はどの辺?」

『奥に見える大型の装置です』

「え、だ、誰ですか!?」

「ああ、紹介してなかったわね」

 

 シアは三角の髪留めを外して掌に乗せて、少女に見せる。

 

「アタシのインテリジェントデバイスのバルよ」

『よろしくお願いします、レディ』

 

 声に合わせてチカチカと光る。

 それによって、少女はようやく声の正体を把握した。

 

「よ、よろしくお願いします、バルさん」

「……何だか虫が死にそうな呼び方ね」

「え?」

「気にしないで、こっちの話」

 

 シアはバルを髪に着け直すと、動力炉へ手をかける。

 バルに明かりを出すよう指示してから、動力炉を停止させた。

 途端に、部屋全体の明かりが全て落ち、光源はバルの出した光の玉だけになる。

 

「よっと」

 

 シアが動力炉から取り外したエネルギー結晶は拳大の大きさだった。

 

「んー、だいぶ小さくなってるわね。この位なら自分で使おうかしら」

「あの、いいんですか?」

「イイのよ。ここ廃墟だし、勿体無いじゃない。さ、引き上げるわよ」

 

 結晶をポケットに仕舞い、真っ暗闇の中をバルの光源を頼りに二人で進む。

 動力が死んだお陰で、今度はトラップに気を使う必要はない。

 迷うことなく道を進み、二人は施設の外へと出た。

 日は傾き、空は茜色をしていた。

 

「こっちよ」

 

 シアは少女の手を引いて施設を後にする。

 少し離れた場所に一台のバイクが駐められていた。元は赤いレーサーレプリカタイプのヴィンテージバイクだったのだが、シアの改造により実用重視のオフロードタイプになっている。そのハンドルには半キャップ型のヘルメットとゴーグルが掛かっていた。

 シアはリモート操作でバイクのエンジンを入れると、ヘルメットを少女に投げ渡した。自分はゴーグルだけ付けると、さっとバイクに跨る。

 

「後ろ、乗りなさい」

「あ、はい!」

 

 言われた通りに、少女はシアの後ろへ座り、シアの腰に抱きつくように手を回した。

 

「もっとしっかりと捕まってなさい。道なんて無いから、揺れて振り落とされるわよ」

 

 その言葉に、シアの腰に回された腕がきゅっと締まる。

 大丈夫そうだと確認したシアはハンドルに手を伸ばす。そこで、ふっと思った。

 

「アンタ、名前覚えてないんだよね?」

「はい……」

「じゃ、アタシが付けてあげる」

「え?」

「そうね……NT-7NO8(ななエヌオーはち)…7NO8………決めた!」

 

 シアは振り向いて少女ににっこりと微笑んで言った。

 

7NO8(ナノハ)、アンタの名前はナノハよ!」

「ナノハ……」

「返事は?」

「っはい!!」

「よろしい。じゃ、行くわよ!」

「え、きゃああああぁぁぁぁ!!」

 

 グンっと捻られたアクセルによって、シアと少女ナノハは勢いよく施設を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらライトニング02、該当施設を発見。だが、目標は既にここから出たらしい」

『ロングアーチ02了解。足取りを追えるかしら?』

「外にあったビーグルの轍がまだ新しい、ここに探掘者が入ったのは最近だな。マーケットを監視してくれ、ここに有った武器や食料品が出るはずだ」

『目標もその人が連れて行ったのかしら?』

「そう考えるのが自然だろう。私はもう少しここを調べる。何か分かったら連絡を」

『ロングアーチ02了解。じゃ、またねー』

 

 




三人称で書くの久しぶり。
こういうバッドエンド世界でも逞しく生きる人々が好き。
おぅ、ゲイリー!
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