Electro Wizard   作:不知火 椛

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3話 再開と不穏な動向

「国家解体プロジェクトだぁ?何かの宗教勧誘ですか?」

 

スーツ姿の男の突飛な発言に充は気の抜けた声で返す。

 

「いえ、私は大真面目ですよ、先程の発言も冗談ではございません」

 

表情を全く変えずに淡々とスーツ姿の男は大真面目にいう。

 

「はあ、で、その話が100歩譲って本当だったとして...善良な一般市民に何の御用がおありで?」

 

この男には何を言っても無駄だと充は判断し、話を進める。

 

「善良な一般市民とは言いえて妙ですが...あなた自身、既にお分かりではありませんか?」

「さあ?一体何のことを言っているのかわかりかねますね」

「まあ、我々はそれでも一向に構いませんが?」

「回りくどいな、何が言いたい?」

 

スーツ姿の男のじわじわと責めるような言い方に苛立ちを抑えきれなくなった充は核心に迫る質問をぶつける。

 

「では、ストレートに。()()()()()()()()()()?ここから先大変ですね?」

「っ...」

 

心臓を鷲掴みにされる感覚を充は久しぶりに体験した。

 

「おや?どうされました?顔色が優れないようですが?」

 

白々しく聞いてくる。まるで、こちらに選択権など始めから無いようにはっきりと。

 

「それは脅しか?」

「いえいえ、脅しだなんてとんでもない!」

 

よくもまあ、白々しくそんなことが言えたものだ。充は溜息を吐くと、

 

「はあ、今日は疲れている。後でメールでも何でもいい。連絡をしてくれ」

 

充は折れる事にした。その様子に、男は頷くと

 

「ふむ、確かに我々も焦りすぎたようだ。後日また連絡するとしよう。では、――」

 

そう言うと、元来た方向に男は歩いてゆく。

 

「ああ、そう言えば――え?」

 

こちらから連絡する場合は?と聞こうとした充の言葉は口に出されることなく止まった。何せ、疑問をぶつけるべき相手の姿が既に無いのだから。そして、頭をガシガシと掻き毟ると立ち上がり、病室へ向かう。

 

「ああ、これ寝て覚めたら夢とかじゃねえかな...」

 

その呟きは深夜の病棟に掻き消えた。

 

 

―――――――――

 

「...」

 

その後、すぐに眠りについた充は揺すられる感覚があり、まだ眠たい目をうっすらと開ける。同時に周囲の音も頭に入ってきた。

 

「...ねえ...てくだ...あ...起き...」

 

薄目を開けたと同時に揺すられる力も大きくなり、頭も回ってきたのか、声がはっきりと聞こえてくるようになる。

 

「起きてください!あ、ようやく目を開けてくれた。」

 

と、病院着の少女が寝ている自分に声を掛けていたのだ。おまけに病床からわざわざこちらに体を伸ばしてまで。そこで、はたと充はあることに気が付いた。この病室は病院側の好意もあり個室にしてもらっている。と言う事は、ナースか、医者でも入ってこない限り自分に声を掛ける人間はいないはずである。これから導き出される答えは...

 

「お前、愛美...か?」

 

何とか絞り出した言葉はありきたりの言葉であった。愛美の反応はというと。

 

「?そう、だよ。私は帆鷹愛美...ですけど」

 

どういう状況かわかっていないのか急に口調が変わる愛美に、苦笑しながら充は口を開く。

 

「おはよう、愛美」

 

充は体を起こし、愛美に向かいそう口にする。昔やっていた様に頭をなでるのを忘れずに。

 

「ん?うん?充...お兄ちゃん?」

「うん、そうだよ愛美」

「そうなの?でも、少し違うような...」

 

愛美は自分の知る兄の姿とかけ離れており、かわいらしく首を傾げるが面影は感じているようで複雑な表情をしていた。

 

「戸惑うのも無理はないか...よく聞いてくれ愛美、お前は5年間眠り続けたんだ」

「5年...も?私5年も眠ってたの!?」

「ああ、いずれわかることだからな。愛美は、どこまで覚えてる?事故のことは」

「事故?事故って...っ!」

 

愛美は急に顔が青ざめ、そして震え始めた。すぐに充は抱きしめて優しく

 

「大丈夫だ、お兄ちゃんはここにいるし、愛美も安全だよ」

「本当に?大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だよ。それに、ここは病院だから」

「病...院?」

「そうだ、だから大丈夫」

「お兄ちゃんが、そういうなら...」

「その、な、これは言わなきゃならないことだから先に言っておく、これは避けて通れないから。しっかり聞いてくれ」

 

兄の厳しい雰囲気に愛美は少したじろいだが、愛美は充の目をしっかりと見た。

 

「わ、わかった」

「今から話すことは、全部本当のことだ。5年前のあの日――」

 

充は順を追って話し始めた。5年前のあの日起こった事を。

 

充が修学旅行で居なかった時の事だった。父さんたちも家族旅行へ行った帰りにその事故は起きてしまった。輸送型自動運転車両が突然、愛美たちの乗っていた自動運転車に突っ込んだのだ。

その事故で前方座席に居た両親は即死。後部座席に居た愛美は辛うじて無事ではあったが、両親が見るも無残な姿となっており、その影響で気絶してこの病院へ運ばれていた。今は交通管理システムとAI、自動運転システムが合わさって、事故が起こる確立は0.00001%以下と言われている。

そんな中で起きたこの事故は世間に衝撃を与えた。原因究明が徹底的に行われた結果、事故原因はこうだった。整備システムで見抜けなかった車両の足回りの劣化が原因だった。走行中に劣化部分が破損しコントロールを失って、衝突したという何とも拍子抜けする原因であった。また、製造側のデータ改ざんの疑いもあるらしい。

 

時折、震えて強く抱きしめらたりもしたが愛美は最後までしっかりと聞いてくれた。

少しでも拒絶して、取り乱すかと思っていたがそのそぶりは無かった。

 

「じゃあ...お父さん達は死んじゃったん...だね」

 

愛美の手をしっかりと握り、頷いた。事実を否定したところで、現実は変わらない。

充は残酷な真実をしっかりと、伝えなければならなかった。嘘でできた張りぼてが剥がれ落ちた時のリスクを考えるとこのタイミングで話すのが一番良かった。嘘はできるだけ少ない方がいい。

 

「ごめんな...俺、すぐに駆けつけることが出来なくて」

「え?」

「俺さ、事故が起きたのを知らされたのが深夜だったんだ。しかも、連絡は親戚から回ってきて駆けつけるのが遅くなっちまった」

「そう、なんだ...私はずっと寝てたからわかんないや...」

 

力なく笑う愛美の表情は自分を責めるものではなく、どこか諦めのような感じがした。

その妹に充は掛ける言葉を探すように視線をさまよわせて

 

「でも、父さん達は愛美を守って死んだんだ。俺は誇りに思うよ」

「そう、だね。愛美を守ってくれたんだよね...」

 

苦し紛れの、捻り出して言った一言ではあったがどうにか届いたようだ。

そろそろこのあたりで話を切り替えなければと思ったその時病室の扉が開いた

 

「失礼します~」

「あ、木田さんどうしたんですか?」

「えっと、誰?看護師さんなのはわかるけど」

「あー、ええっと」

 

充がどう説明したものかと考えていると先に木田さんが口を開いた。

 

「充君、私大人なのだから自己紹介くらいできるわよ?」

「あ、そうですよね。すいません」

「そうよ、あっ。ごめんなさいね、愛美さん」

「い、いえ」

「私はここの病院の看護師の木田です。あなたの担当をやってるわ」

 

木田さんはさらっと自己紹介をしてしまった。

愛美も呆気に取られていたが、気が付くとすぐに

 

「あ、えっと。ほ、帆鷹愛美です。あ、ありがとうございます?」

「何で自己紹介が疑問形なんだ?」

「だ、だってぇ」

 

ぽかぽかと側にい居た充を叩くと愛美は不満を露わにした。

どうやら、先ほどの暗い雰囲気は消し飛んだようだ。ここは木田さんに感謝しないといけない。

 

「はいはい、それはそうと愛美さんはこの後簡易検査したら、今後の方針を決めるからね」

「あ、はい。方針って言うと?」

「今のあなたは約5年間眠っていたって言うのは聞いた?」

「はい。聞きました」

「そう、なら話は早いわね。要は体を元のように動かせるようにリハビリね」

「リハビリ、ですか...」

「まあ、それも軽いもので済みそうだけどね」

「え?」

「何でもないわ。で朝食が来ると思うから、それが食べ終わったら検査だから。また後でね」

 

木田さんの呟きは聞かれることなく、そのまま病室を後にしていった。

それと入れ替わるように、朝食が運ばれてきた。

 

「入りますね。帆鷹愛美さん、朝食です」

「あ、はい。ありがとうございます」

「お兄さんの方は今からだと2回の食堂が開いているわね。食べてきたらどう?」

「あ、そうですね。あれ?でも2階って」

「木田さんと本堂先生がね」

「あ、ありがとうございます」

「ふふふ、お礼なら先生たちに言って」

「それもそうですね」

 

そう言って充は愛美の方を向くと

 

「じゃあ、俺も朝ごはん食べて来るよ。愛美もゆっくりでいいからちゃんと食べるんだよ」

「うん」

「焦って食べなくていいからね。胃にしばらく何も入ってなかったから」

「あ、そっか。久しぶりに食べるからこんなにぐちゃぐちゃなんだ」

「そうそう、急に物を入れたら胃もビックリしちゃうからね」

「あら、お兄さんよく知っているね。お兄さんの言う通りだから焦らずにね」

「はーい」

 

そう言うと充は病室を出て行った。

どうやら、看護師の人が食べさせてくれるらしいので、充は急ぎ食堂に向かった。

 

「Re;Lear」

「はい」

「何かあったか?」

「はい、Ri様からのメールが1通、その他依頼案件と思われるものが5通、迷惑メール等が304通、分類不能が1通となっております。また、サーバーへのアタックが増加傾向にあります」

「Riのメールと分類不能のみ開け、依頼案件はそのままRiに送れ。それとサーバーは警戒ランクを1段階...いや、念のため2段階上げろ」

「はい、了解しました。ですが、分類不能のメールを開いても本当によろしいのですか?」

「いい、あーいや、俺の端末に送ってそのまま接続を切っておけ」

「了解」

 

そう言って食堂に向かう道中そのメールを開いた。

そのメールを見たとき充は何とも言えない寒気を背中に覚えた。

メールの本文はこうなっていた。

 

メールsystem Re;DM

 

件名: 総務省 国家情報保安部

 

帆鷹充様

この度は連絡を欲しいとの事でこのような形を取らせて頂きました。

国家解体プロジェクト(以下プランDとします。)

プランDに関しては総務省が提案、国からの依頼となります。

無論、プランDに関して相応の報酬をお約束致します。

但し、プランDは国家機密事項であり、情報を漏らした場合は

相応の処置を取らせて頂きます。

プランDにご賛同頂けるようでしたら、ご連絡ください。

我々はあなた方を高く評価しております。

 

                 総務省  プランD

 

 

簡易的であったが、どこか強制力のある文章に充は面倒な物に当たってしまったと感じた。


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