人間と異形と狂気の狭間   作:sterl

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小説家になろうから二次創作を書きに来た自己満作者です。


第一章 胎動する狂気
アイノ・クラフト


 人の往来の中をひとり歩く。道を吹き抜ける春を告げる暖かな風。忙しなく、あるいは騒がしく仮初の平和を過ごす人たち。わたしが着けているこのサングラスを外したら、この人たちはどんな反応をするのでしょう。

 

 軽蔑でしょうか。恐怖でしょうか。畏怖でしょうか。それとも、同情なのでしょうか。少なくとも、それは差別の視線でしょう。

 

 わたしの目の色は、普通の人とは違って血のような赤色です。それは10年前、世界を滅亡寸前まで追い込んだ異形の怪物、ガストレアの目の色。化け物の目です。

 

 ガストレアは恐怖の象徴。人々を殺した、厄災の象徴。呪われた子供たちはそんなガストレアの因子を持って生まれてしまった、何の罪も無い人間です。なのに、化け物として虐げられる。

 

 虐げられていながら、世界にはイニシエーターとして利用されています。化け物と差別しておきながら、化け物を殺す道具として利用されています。

 

 差別をするならわたしだけにしなさいと、利用するならわたしだけにしなさいと、そう声を大にして言いたいです。ですが、わたしには勇気がありませんでした。仮に勇気があったとしても差別は消えないと、自分に言い訳をして逃げてしまいました。

 

 

「……なんでこんなことを考えているのでしょうか」

 

 

 ……こんな自分語りをしても仕方ありません。早く事務所に行きましょう。依頼が入っているそうなので、わたしがいかなくては。(りく)さん一人では頼りないですし。

 

 

「……? あれは」

 

 

 と思っていたのですが、もっと重要な案件がたった今入りました。空を横切る影。飛行するガストレア、それも滑空して飛ぶタイプのようです。高度がそれなりに高く、まだ見つかっていないようでした。わたしでなければ見つけられなかったでしょう。

 

 携帯を取り出し、陸さんにメールを送ります。本文は、そうですね。

 

 

『滑空するガストレアを見つけたので追跡、排除します。陸さんは単独で依頼を受けてください』

 

 

 これでいいですね。依頼内容は知りませんが、陸さんならなんとかするでしょう。

 

 

「モデル・オストリッチ」

 

 

 因子が解放され、脚力が高まるのを感じます。わざわざ口に出す必要は無いのですが、これを言うと少し気が引き締まります。

 

 では急ぎましょう。このままではあのガストレアによりパンデミックが起こってしまうかもしれません。

 

 

 

 ●

 

 

 

 ガストレアを追いかけて都市部へと入ってきました。わたしが見た限りですと、あのガストレアはモデル・スパイダーのようです。頭上に糸をハングライダーのように張り、揚力を生み出して滑空しているようです。

 

 今は、先程モデル・スパイダーのガストレアがハングライダーを折り畳んで急降下したので、着地点と思われる場所を探しています。

 

 ですが、既に建物内に侵入したのか探しても探しても見つかりません。被害者が既に出ていたと仮定して血の臭いを探したところで、あちらこちらから血の臭いがします。表面上は賑わっていても闇の深い街です。

 ガストレアの臭いを辿ろうとしても、まずガストレアの臭いを嗅いでいないので辿りようがありません。

 

 八方塞がりのまま、気づけば夕暮れ時になっていました。これではあのガストレアが潜伏していたとして、見つけることは至難の技でしょう。それに、滑空するようなガストレアでは、もう飛んで逃げていると考えるのが自然です。もう少し上を見て探すべきでした。わたしにあるまじき失態です。

 

 それでは帰りましょう。もうすぐ夜になります。ガストレアを見失ってしまったのですから、これ以上探しても埒が明きません。きっと他の民警が倒してくれることでしょう。この時間帯では陸さんは先に家に帰っているはずです。

 

 

「夕食は何にしましょうか」

 

 

 やや人が少なくなった道路を歩きながら献立を考えます。前にカップラーメンばかり食べていた陸さんに料理を作らせたことがあるのですが、出てきたものは紫色のどろどろとしたガストレアを彷彿とさせる何かでした。陸さん曰くチャーハンだそうです。わたしの胃袋をもってしても吐きました。それ以来わたしが陸さんの料理も作るようになりました。

 

 昔のことを思い出しているとちゃんとしたチャーハンが食べたくなってきました。材料は家にあるので、献立はラーメンとチャーハンにしようと思います。夕食は遅くなりますがいつものことです。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 そんなことを考えながら歩いていると、どこからか銃声が聴こえてきました。それも1発ではなく、何発も連続して。どこかで戦闘しているようです。もしかしたら先程のガストレアが見つかったのかもしれません。

 

 わたしも戦闘に協力すれば、手柄の一部、具体的には報酬が貰えるかもしれません。銃声がする場所は近いです。早く乱入しに行きましょう。

 

 

 

 ●

 

 

 

 銃声が聴こえていたビルを特定する頃には銃声は鳴り止んでいました。戦闘が終わったのでしょう。残念です。わざわざ近くのマンションの屋上にまで階段で上がったわたしの努力を返してください。

 

 ですが、確実によいこともありました。ビルのベランダから飛び降り、逃げるように路地裏に駆け込んだ仮面が特徴的な男を目撃しました。ビルのベランダに仮面の男を追いかけるように表れ、悔しげに部屋の中へ戻る警官がいたので仮面の男は警察の敵でしょう。捕まえれば報酬が貰えるかもしれません。

 

 

「モデル・ラビット」

 

 

 因子が解放され、脚がより跳躍に適した形に変化します。では、仮面の男を追いかけましょう。建物の上を跳び移りながら追いかければ確実に見失いません。

 

 上から見てもかなり特徴的な人です。縦縞の入ったワインレッドの燕尾服にシルクハット。そして笑った仮面。まるで今から曲芸でもするのかというような服装です。

 

 こんなにしっかり見られたのも、仮面の男が立ち止まって誰かと電話をしているからです。誰と電話をしているのでしょうか。この距離では流石に聞き取れません。

 

 仮面の男が電話を終えました。と同時に、わたしを見上げました。どうやら尾行しているのがバレていたみたいです。きっとわたしが気づかないのをいいことに仲間に連絡したのでしょう。

 

 

「どうして、パパを見てるの?」

 

 

 突然、背後から斬りかかられました。質問と順序が逆です。首を狙った一撃でした。本気だったのかはわかりませんが、難なく躱せました。

 

 距離を取り振り返ると、いたのはわたしと同い年ぐらいの少女でした。イニシエーターなのでしょう。

 ウェーブ状の黒い短髪にフリルのついた黒いワンピース。腰の後ろで交差された二本の鞘に納められているはずの小太刀は、少女の両手にそれぞれ握られていました。

 

 外見は黒が印象的な少女です。わたしの髪は白色で長いので、対照的に思えます。ただわたしは、緑のベレー帽を被りサングラスをかけて青色が中心の動きやすい半袖の作業服を着ているので、服装に関しては陸さんから変人のお墨付きを貰いました。なので対照どころではないと思います。

 

 とりあえず初対面なので自己紹介をした方が良いでしょうか。

 

 

「わたしはアイノ・クラフト。気軽にアイノと呼んでください。あなたは?」

 

「教えてくれないなら、斬ってもいいよね?」

 

 

 どうしましょう。斬りかかられてから斬ってもいいかと問われました。答えようがありません。

 今度は首を狙う左手の小太刀があわよくば決まることを狙った囮でしたので、後ろに下がって躱しながら心臓を狙う右手の小太刀を横から押していなしました。

 

 

「当たらない、どうして」

 

 

 実力差を察して逃げてくれればそれでよかったのですが、黒い少女は目を赤く染めて怒濤の連撃を繰り出して来ました。

 

 流石の私でも無傷で全て捌ききるのは難しそうです。全力を出さないように、少しだけ本気を出しましょう。

 

 

「モデル・シェル」

 

 

 因子を解放し、体表を硬質化させます。黒い少女の二本の小太刀を左腕で同時に受けました。

 

 

「っ!?」

 

 

 ガキンと金属同士がぶつかり合う音が鳴り、小太刀が弾かれます。斬るために全力で振っていたこともあり、弾かれた衝撃はかなりのものでしょう。しばらく手が痺れて動かないことを祈ります。

 

 

「モデル・ゴリラ」

 

 

 因子を解放し、全身の力、特に腕力を強化します。防戦一方では黒い少女を止められそうにないので、わたしからも攻撃することにしました。

 

 

「えいっ!」

 

「かはっ」

 

 

 黒い少女のお腹に右腕を振り抜きます。ドコッと鈍い音が鳴り、掠れた声を漏らした黒い少女が鞠のように吹き飛びました。少し強くしすぎたかもしれません。反省です。

 

 黒い少女は隣の建物の壁に衝突しました。煙幕のように土煙が広がりました。コンクリートが風化していたのでしょうか。ここは比較的都市部ですのでちゃんと修繕工事をしてほしいです。

 

 煙が晴れていくと、黒い少女の他に背の高い人の影が見えてきました。仮面の男でした。190㎝はありそうです。上からではわかりませんでしたが、こんなに長身だったんですね。いつの間に登ってきたのでしょうか。

 

 

「まさか、小比奈がこうも簡単にやられてしまうとは」

 

 

 黒い少女の名前は小比奈さんというようです。本人から聞けなかったので、教えてもらえてよかったです。

 

 小比奈さんは仮面の男の腕に抱かれていました。気絶しているみたいです。気絶させる気はなかったのですが。やっぱり強くしすぎていました。久しぶりに因子解放したからでしょうか。

 

 

「ヒヒッ。君の名前は?」

 

 

 奇妙な笑い声です。仮面の怪人と呼んだ方がよいでしょうか。とりあえず、名前を聞かれているので答えましょう。

 

 

「わたしはアイノ・クラフトです」

 

「アイノくんだね。覚えておくよ。私は蛭子影胤。君ともまたどこかで会うことになりそうだ」

 

 

 仮面の怪人は蛭子影胤というそうです。変わった名前です。

 

 

「それではさようなら」

 

 

 影胤さんは踵を返しわたしに背中を向けました。すると次の瞬間には、足下のビルがひび割れ、崩れました。このままではわたしも落ちてしまうので、隣のビルに跳び移ります。

 

 ビルがあった場所を見ると、影胤さんはいなくなっていました。逃げられてしまいました。残念です。

 

 

「あっ、因子を解放しすぎました」

 

 

 わたしの爪が貝殻のようになり、腕にはもともとなかったうぶ毛がうっすらと生えています。心なしか太ももも少し太くなった気がします。

 

 そういえば、しばらく人の因子を取っていませんでした。後で陸さんに協力してもらって補充しなくてはいけませんね。一週間かけて余分に補充してもよさそうです。

 

 

「……帰りましょうか」

 

 

 気づけば日が落ちて夜になりました。これ以上追いかけては形象崩壊してしまうかもしれませんし、家では陸さんも待っていることでしょう。

 

 ビルが崩れた音を聞きつけて野次馬の方々も集まって来たことですし、見つかる前に帰りましょう。

 

 

「……モデルファルコン」

 

 

 後で人の因子は補充しますし、少しぐらい飛んでもいいですよね?




Tips

アイノ・クラフト(Eyno Craft)

 白銀の長髪が特徴的な赤目の少女。年齢は例に漏れず10歳。
 常にサングラスを着けている。上下一体型の作業服が普段着の不審者。
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