軽度の性的描写があります。
R-18警告は受けていませんが、ご注意ください。
時は未だ夜。豪快に破壊された
理不尽な暴力を叩き付けられたそれを見て、ティナはどこかスッキリとした感覚を覚えた。アイノに感じさせられたストレスを流す先を無意識に探していたのは間違いない。しかし、破壊行動がストレス発散になるなど久し振りのことだった。
「マスター、目標の抹殺を完了しました」
『任務を続行せよ』
「はい」
瓦礫に半ば埋もれるようにして倒れる警察官を見る。ティナに話しかけた憐れなその男は、ティナのマスターの殺せという命令のままに攻撃され気絶。その後のパトカーへの攻撃に巻き込まれ体の各所から血を流していた。今はかろうじて息があったが、いずれ死ぬことは目に見えている。
もしかしたら、今すぐ救命すれば命は助かるかもしれない。そんな考えが頭を
死などとっくに覚悟していたはずだった。だが、支配されるというのはある種、生物の本能だ。聖天子暗殺を遂行する。そのために1つのミスも許されない。ティナの理性はトドメを刺すことを拒んだものの、本能は助けることを是とはしなかった。
帰路を歩く。やがてティナの仮住まいが見えた。壁に満遍なく塗られていたであろうペンキはほとんど剥がれ落ち、醜態を晒す。建物を構築する金属部分は、見える限りほぼ全てが錆で膨張している。旧建築基準法に則って建てられ増築を繰り返された木造アパート。その一室がティナが寝泊まりする住居だ。
ふと、ティナは違和感を覚えた。アパートの窓から光が見える。ここまではいい。住人の誰かが起きているのだと思うだけだ。しかし、問題はその部屋だ。間取りを考えるとあの部屋はティナの部屋であったはず。
ティナは非常に嫌な予感を感じながらも玄関の前に立つ。耳を澄まさずとも部屋の中から物音が聞こえる。確実に誰かがいる。狙撃銃を運ぶために瞳は既に赤く輝いている。いつでも戦闘の開始は可能だ。
中にいる存在を予想し、ゾッと身震いをする。予想が違っていた場合に備え警戒は最大限に、予想が当たっていた場合に備え余計な物音を立てず平常を装って。
ドアノブを捻る。掛けておいたはずの鍵は開いており、すんなりとティナを迎え入れた。急な光量の変化に目を細める。慣れるまで数秒。中にいる存在ははたして、ティナの想像通りだった。
「おかえりなさいティナさん。ご飯にします? お風呂にします? それとも
外では着けていたサングラスを外し、冗談めかして笑いかける少女。アイノ・クラフトには、恐怖など微塵も感じられない。或いは先程の事が夢だったかのように、可愛らしく振る舞うソレはただの少女に他ならなかった。
「どうしてこちらに?」
「なんとなく来ちゃいました」
どうやらアイノは相当の気分屋であるらしいとティナは結論付ける。今日――正確には昨日だが――、昼間出会ったあの時がお互いに初対面だったのだろう。気まぐれに生きるこの生物に、海を越えてじっと追跡することなど可能であっても不可能だ。
何を話せばいいのかわからず、言葉の無いままアイノに見つめられていると、不意にアイノが目の前に歩み寄る。眼前数センチ。鼻と鼻が触れそうになり、アイノの薄赤い瞳が視界いっぱいに広がる。
「……失礼」
「えっ、あっ」
アイノの細い左腕で軽々と担ぎ上げられ、手際よく靴を脱がされるティナ。今度は右手で狙撃銃の入ったケースを引ったくられ、そのまま部屋に移動する。磨いてワックスでもかけたのか、綺麗になった床を眺めながら運ばれること数秒。まるで人形を置くようにティナの臀部は椅子に落とされた。
見上げたアイノの瞳を見ると変わらず薄赤く、椅子の隣に狙撃銃を置く今も変わらず輝きは無い。しかしそれがガストレア由来のものであると察するには充分な腕力があることは間違いない。
ティナの背後にアイノが回る。何をするのかと振り向きかければ、ティナの肩に手が置かれ揉むように動きはじめた。
「はうあっ。あえっ? ふえっ?」
突然の行動に困惑とも快楽ともつかない声がティナから漏れる。肩を揉む手は絶妙な力加減で、ティナの思うよりも強張っていた筋肉を優しくほぐしていく。
「緊張しなくていいですよ。敵対されなければ、何もしませんから」
「ふぁう。はう。ふぁぁ」
返答することもできず快楽の波に揉まれるティナ。心地よさが脳を掻き乱し、水に沈むように全身から力が抜けていく。アイノの手は肩から背中を辿り、全身を這い回る。その
思考などあってなかったようなもので、曖昧な意識の中、弛緩しきった体が快楽を求め貪るのを感じていた。
意識を取り戻したティナは、鳥の
たった先程まで眠っていたからか、朝ではあるが普段ほどの睡魔はない。床で眠っていたのかと思い下を見れば、どこから運び込まれたのか見覚えのない運動用マットに、血色の良いティナの素足が見える。
違和感を感じてぼーっとした頭で思考を廻らせると、自分がなぜか服を一切着ていないことに気がついた。下着も含めて全てである。見回すと、鉄パイプの上にクッションを乗せた椅子に緑を基調とした布の塊、ドレスを含めた衣類一式が畳まれて置かれていた。椅子はマット同様この家に無かったものだが、この服はティナが着替えとして持ってきたものだ。
ひとまず服を着ながら部屋を見回す。マットと椅子の他にテーブルが持ち込まれているらしい。どれも状態はよく清潔だが、よく見るとテーブルの足などにキズが付いており、決して新品ではないことが伺える。
ついで目についたのは部屋の様相。初見ではカビ臭く不潔な印象を受けた部屋は、今や床が光を照り返すほど清潔感に満ちている。カビの臭いも意識して嗅ごうとしなければ全く気にならない。
部屋の隅には狙撃銃を入れたケースが置かれていた。ちょうど服を着終わっため、手早くケースの中身を確認する。中身は昨晩詰めた時のままだった。本来であればあと3挺用意し狙撃ポイント近辺に設置する予定だったが、予めコンテナから運び出せなかっただけで大きな問題ではない。
ふと、ティナはなぜ夜だったのに眠ってしまったのか考えた。夜行性の因子を持つティナにとって夜こそが概日リズムに即した行動時間。そうでなくとも今は聖天子暗殺という今まで生きた中でも特に大きな任務。それなのに眠ってしまうなど、ただならぬ異常事態だった。
昨晩の事を思い出す。コンテナでアイノに遭遇したのは鮮明に覚えている。その後、ここまで狙撃銃を持って来たのもハッキリと。そしてこの部屋にアイノがいたのだ。
問題はここからだ。その後の記憶が曖昧になり混濁している。確かアイノにそこにある椅子に座らせられ、肩を揉まれたのだ。ただ肩を揉むだけだというのに、想像を絶する快感であったことは思い出せる。アイノの手付きは絶妙で、そのマッサージは心地よさより気持ちよさが勝っていた。
泡が水面を目指すように徐々に思い出される記憶に、ティナは赤面した。全身に及んだマッサージのどの場面でも、ティナはまるで性行為に及んでいるかのように喘いでいた。気持ちよさというものは、ここまで人を乱すものなのか。その先を思い出すことを止めようと理性が訴えた。しかし、一度浮上を始めた泡は留まることを知らない。
パッと記憶が
徐々に露になるアイノの肢体は、皮膚から分泌されるローションのような粘液を纏い滴らせる。その下腹部を見て、驚愕に目を見開いた。本来男性にしか無いはずのものがついている。それはアイノの肌のように透き通るように白く、アイノの感情を示すように強く天を突いていた。
生まれたままの姿になったアイノは、マットに寝そべるティナに覆い被さる。肌と肌が触れ、ティナの全身に粘液が絡む。明らかに性感を優先したマッサージが開始され、ティナは本能からそれを受け入れる。やがて我慢ならなくなったのか、アイノはそり立つソレに手を伸ばし、そして――。
「――ッ!!!」
思い出してしまった記憶に、ティナはマットに倒れ込み、悶え、のたうち回る。盗聴防止目的でアパートの両隣が空き家で本当によかったと思った。もし自制なく上げてしまった声を誰かに聞かれてしまったなら、羞恥心でこのアパートは更地になっていただろう。
実際の所、ティナの激しい嬌声は薄い壁を貫通し静かな夜道に響いていた。寝ている人を起こせる音量ではないとはいえ、その場に居合わせればハッキリと聞き取れるほどに。しかし強烈な記憶が思考を阻害し、その事実に気づくことはなかった。
記憶の濁流を前に顔を覆い身悶えするティナだったが、そのうちおそるおそる手を離し、そのまま伸ばす。目的の場所にたどり着いた手は、初めはスカート越しに、次にパンツ越しにまさぐる。やがて、一瞬の逡巡の後にパンツをずらし直接。迷いながらも記憶を参考にすればどうすればいいのかわかった。
「はぁ、はぁっ、んっ」
興奮が血流を加速させ、堪えた快感が小さな声になって漏れる。当然想起するのはアイノに犯された記憶。その経験は、性欲を知らぬ齢10の少女にとってあまりにも刺激的で、衝撃的だった。結果、暗殺兵器として育てられた少女を自慰行為に走らせたのだ。
しかし幸か不幸か、ティナの手では自らを絶頂に導くことはできなかった。慣れていないのもあるが、それ以上にアイノによる快感が強すぎたのだ。アイノの技と体、そして支配されているという屈服感によって得られた快楽は、自慰の快感とは比べ物にならなかった。よりよいものを求める人間の本能ゆえに、強すぎる経験は
満足感の欠如が指の動きをだんだんと加速させる。狭い部屋にティナの吐息と水音だけが響く。いつの間にかパンツは脱ぎ捨てられ、スカートは大きく捲れ上がり本来隠すべき下半身を晒す。跳ね垂れた液がマットに落ち、染み込んで消えていく。しかしそれでも果てるには足りない。
疲労を感じ僅かに手を止める。少しして再開しようと力を込め直すが、そこで何者かの視線を感じた。何者かとは言っても、本能はそれが誰かを察し、細胞がざわめくように歓喜する。右に顔を向ければ、地面に垂れる白銀の髪と中身の詰まった白いレジ袋が視界に映る。水色の作業着を着たアイノは、外したサングラスを片手に持ち、屈んでティナを見つめていた。
「おはようございます」
ティナと目が合うと、アイノは顔を綻ばせてそう言った。スッと立ち上がるとテーブルにレジ袋を置き、中身を漁り始める。
「いつから、見てましたか?」
ティナの問いに、短く考える素振りを見せるアイノ。
「5分ぐらい前ですかね」
5分。果たしてそれは長いのか短いのか。そもそもどれだけの時間自慰に耽っていたのか。ティナには分からなかったが、少なくともティナの醜態をアイノにじっくり見られたのは間違いない。
ぼうっと、熱に浮かされたような目でアイノを見る。あるいは本当に浮かされていたのだろう。何かを訴えるように、ティナは潤んだ瞳でアイノを見つめた。
「わたしに構わず続けていいですよ」
「えっ、あ、まって」
いくつかの食材をレジ袋から取り出し
「仕方ないですね。すぐ終わらせてご飯にしますよ」
テーブルに食材を置き直し、アイノはティナに歩み寄る。伸ばされた手を取られ指先を舐められると、ティナの胸中に安心感と高揚感が生まれた。ティナの正面に座ったアイノは、ティナの腰を両手でホールドしM字に開かれた脚の中央に頭を落とす。
「ひあっ」
舐めている。そう知覚した時には、既にティナの全身を痺れるような快感が走り抜けていた。背筋が弓なりに反り、視界が白く明滅する。脊髄から脳までが引きずり出されるような錯覚に襲われ、逃げるように体が跳ねる。
アイノの宣言通り、それはすぐに訪れた。一瞬の硬直に襲われ、じんわりと麻痺が溶けていく。アイノが水気を舐めとる微弱な快感が余韻を刺激し、僅かに体が反応する。ティナは自らの股間で忙しく動く白銀の髪を、脳内麻薬に侵された頭でぼんやりと眺めていた。
やがてひとしきり舐め終えたアイノは顔を上げた。口の端をぺろりと舐め、「ごちそうさまでした」と小さく呟く。
「さて、朝ごはんにしましょうか」
そう言いながらアイノは立ち上がると、テーブルの上に置き去りにされた食材を持ってキッチンへと歩く。その後ろ姿を眺めていると、ふと眠気が込み上げてきた。
それも当然と言える。はじめ起きたとき長く寝ていたようにも感じたが、実際は記憶が飛んでいただけでほとんど寝ていない。加えて今までは脳が興奮状態にあって眠気を感じていなかっただけだ。さらに言えば、ティナにとって今はほとんど眠っている時間帯。起きていられる理由の方が無いのである。
回らない頭で冷静に状況を捉える。全裸でぐったり寝そべるティナの下半身は、もはや隠そうという気が見られないまま放置されている。驚くことにあれだけ濡れた股間は既に乾ききっており、端から見ればティナは露出狂の痴女だ。
今のティナの姿を見て、誰が昨日まで性の悦びを知らぬ純朴な少女だったと思うだろうか。あまつさえ、暗殺兵器として育てられたなどとは誰も思うまい。
キッチンを見れば、鼻歌を歌いながらフライパンで何かを焼くアイノの姿がある。腰まで届く白銀の髪はヘアゴムでポニーテールにまとめられていて、アイノの動きに合わせて左右に揺れる。
まるで主婦のように振る舞うアイノをどれだけ見ても、ティナを、会ったばかりの10歳の少女をレイプするような人とはとても思えない。そもそもアイノも外見はティナと同年代に見えるのだ。10歳の少女が10歳の少女をレイプするなど、誰が聞いても嘘だと信じて疑わないだろう。
「どうしてこうなったのでしょうか……」
無為に投げた問いに答える声は無い。ティナは自身の胸中が充足感に満たされている事実を、信じ難くも心地よく受け止めていた。
「もうすぐできるので待っていてください」
見られている気配を感じたのか、アイノはティナを振り返り少女らしい笑みを浮かべる。
自由気ままで可愛らしい少女のアイノ。
性欲に乱れ快楽を御する淫らなアイノ。
未知の果てのような恐怖を纏うアイノ。
本物のアイノの顔は一体どれなのか。或いはまだ見せていない顔があるのか。ティナの回らない頭では思考が堂々巡りに陥り、やがて、睡魔に意識を手放した。
直接的な描写は避けたのでR-15です。
Tips
媚薬ウイルス
アイノによりティナへこっそり投与されたウイルス。アイノが特定の周波数の超音波を発生させると活性化し、通常の媚薬と同様の効果を即座に発揮する。要するにアイノの意思でいつでも即媚薬。
非活性時はガストレアウイルスに擬態している他、強力な絶頂抑制効果を発揮する。これにより、どれだけ快感を積み重ねようとも媚薬ウイルスが活性化しなければ絶頂はできない。
このウイルスは通常の人体であれば一ヶ月程度で免疫機能に駆逐されるが、『呪われた子供たち』の体内ではガストレアウイルスを媚薬ウイルスに変化させることで半永久的に存在し続ける。