ダイジェストにはなってしまいますが、ティナさんとの空の旅はそれはとても楽しいものでした。
最初は飛ぶ速さに耐えきれずティナさんが落下してしまって空中でキャッチしたり、速度を緩めても風圧は強かったらしくティナさんの顔がおかしなことになったり。
半日近く飛んだ頃に我慢できなくなったのかティナさんが漏らしてしまったり、その数時間後には吹っ切れたのか大きい方も漏らしたり。
それはそれはとても楽しい空の旅でした。当のティナさんはわたしの背中でぐっすり寝ています。足をわたしの体内にめり込ませているので、落ちる心配はありません。
余談ですが、わたしは優しいので背中の一部をアメーバ状にして大も小も吸収し掃除してあげました。
そんなこんなで大体1日経ったでしょうか。日が暮れてきた頃にワシントンエリアが見えてきました。
大きさは東京エリアと同じぐらいですかね。道中に他のエリアも見かけましたが、そこよりは大きいように見えます。流石、ガストレア大戦前最大の国家の元首都です。
ですがどう見ても燃えています。モノリスに囲まれた中のほとんどの範囲に火が見えます。どれだけ熱いのか、一部のモノリスは半ばまで溶けています。そしてエリアの中央には、遠くから見てわかるほど巨大な火の玉が浮かんでいました。
不思議なのが、火があるのは地面の近くに限らないことです。巨大な火の玉同様に、モノリスより高い位置を浮かんでいる無数の火があります。一体どういう原理なのでしょうか。
「ティナさん、起きてください」
頭のトサカの裏にある口からティナさんに話しかけます。起きる気配が無いので、ティナさんの足の神経を直接刺激して起こします。
「いっ!?」
起きました。
「おはようございます」
「ふぇ。……あ、おはようございます」
寝ぼけまなこを擦ってティナさんが目覚めます。風圧で髪の毛があちらこちらへ飛び交っていますね。とんでもない寝癖です。
ティナさんに地上のワシントンエリアが見えやすいよう、羽ばたくのを止めて滑空します。
「……ワシントンエリアが、燃えてます」
ティナさんも眼下の現状を把握したみたいです。燃えている建物の中にワシントンエリアのランドマークでもあったのか、モノリスの外の特徴を覚えていたのか。どちらにせよこれがワシントンエリアなのはわかるみたいですね。
ちなみにわたしは経緯度から方向と距離を推測して、ハトなどの帰巣本能の応用で飛んできました。初の挑戦でしたが案外なんとかなりましたね。
「それで、エインさんの研究所とやらはどこですか?」
「……私に使用許可が出ている第2ゲートは炎の中です。おそらく封鎖されているかと。他のゲートの場所はそもそも知らされてません」
あの炎の中に行くのはティナさんでは危ないですね。わたしだけではゲートの場所はわかりませんし、困りました。
「……研究所のある大まかな位置ならわかるかもしれないです。あのビルの近くに降りてください」
ティナさんが指さしたのはモノリス外の廃ビルでした。周りの建物がほぼ全て崩れている中、その廃ビルは苔のように張り巡った木々のお陰でなんとか倒壊を免れているようです。
「わかりました」
廃ビル前の元道路に降ります。地面のコンクリートを突き破って木が生えているのは、海を越えても変わりませんね。
ティナさんの足を体外に排出し、リュックサックを持って降りるのを待ちます。地面に足が着いたのを確認してから人の因子を解放。他の因子を抑制して元の姿に戻ります。長時間モード・フライトを維持していたので人の因子が足りるかやや不安でしたが、これなら問題はなさそうです。
人の姿に変形している間、ティナさんは辺りを見渡していました。太陽はもう沈んで、空はワシントンエリアが燃える赤い光で淡く照らされています。
変形も終わったので、リュックサックから服を取り出して着ました。リュックサックを背負ってティナさんを追います。
「ティナさん、どうですか?」
「……この一帯、全てが研究所の上、だと思います」
この辺り全てが、ですか。随分広いですし、上に廃墟があるということは、研究所自体は大戦前からあったということでしょうか。ランドさんはすごい人みたいですし、ありえない話じゃなさそうです。
「でしたら、掘りましょうか」
コンクリートのヒビに指を入れ、一息に持ち上げます。コンクリートの層が剥がれ、細かい塵が舞いました。続いてその下の石を掘り進めます。細かい石は掘り出しても掘った気がしませんね。
「面倒です」
適当に石を3個掴んで背後に投げます。直後、犬の鳴き声に似た悲鳴が聞こえました。ステージⅠのガストレアです。大したことはありません。雑魚です。
さて、いつまで掘ればいいのでしょう。もうとっとと終わらせてしまいましょうか。
「モード・ワーム」
因子解放。わたしの体が膨れるように肥大化していきます。途中、背負っていたリュックサックは短く太くなった腕を抜けて落下しましたが、耐えきれなくなった服はちりぢりに破けました。せっかくモード・フライトになる時は脱いだのに、またやってしまいましたね。
「うひぃっ、大丈夫なんですかそれ!?」
ティナさんがやや青い顔をして一歩身を引きます。無理もありません。モード・フライトは骨格中心の変形だったのに対して、モード・ワームは肉が大幅に増量する変形です。人の形を崩し皮膚と溶け合いながら爆発的に膨れ上がる肉塊は独特の気持ち悪さがあります。現在のわたしの姿ですけどね。
ぐちゃぐちゃに崩れたわたしの体は縦横高さ全て20メートルほどの山を形成しました。その後肉が集合し、段々に積み重ねた形状に纏まります。肉の表面に膜が張り、赤い表皮に変化します。
最終的に、わたしの体は
「では行ってきます」
発声器官を生成しティナさんに一言掛けてから、頭を地面に突き入れます。コンクリートが邪魔をしますが、モード・ワームのパワーの前では誤差です。叩き割って強引に潜ります。
モード・ワームは地面穿孔に特化したモードで、100メートルを優に越える長大な体のほとんどがガストレア基準の筋肉です。堅いだけではモード・ワームを止めることはできません。
真下に向けて軽快に地面を掘り進みます。おそらく地上では地震のような地鳴りが発生しているでしょう。表皮に帰ってくる僅かな振動から大きめの岩を察知し、回避しながら進みます。
しばらくして地中にそれらしき建造物を発見しました。確かにティナさんの言っていた通り巨大な施設です。この辺り一帯の地下は全てこの施設の範囲内でしょう。
慎重に土をかき分けて研究所に接近します。通常時は閉じている口を開き、施設の天井を噛みちぎって吐き捨てました。目を生成して内部を確認します。噛みちぎったのが通路の天井だったらしく、停電した通路には左右に続く壁の数ヶ所と突き当たりに扉が見えます。左側突き当たりの扉のみ電気系統が別なのか、赤いランプが
ここで間違いないみたいですので、ティナさんをつれて来ましょう。地上に余った体に目をいくつか生成し、ティナさんを探します。それほど時間はかからずに、わたしの体の陰に隠れているティナさんを見つけました。空から降りる時に目印にしたビルが倒壊しているので、瓦礫から身を守るためにわたしの体を盾にしたのでしょう。ティナさんは困惑した様子で地面に潜るのを止めたわたしを見ています。
「ティナさん、聞こえますか?」
「ひゃい!」
わたしの声に反応してティナさんが飛び上がりました。どこから声が聞こえたのかわからないのかわたしの体を見渡しています。正解は全方位です。
「服を脱いで下さい」
「はい!?」
ティナさんは「なんでですかぁ」とやや小さく震えた声で呟きましたが、続くわたしの言葉が無いので渋々といった様子で服を脱ぎ始めました。
ティナさんが服を脱いでいる間にリュックサックを回収します。目を生成して探すと、幸い瓦礫には潰されずに残っていました。体表から触手を生やして拾います。
リュックサックをティナさんの下へ運ぶと、ちょうどパンツに指を掛けた所でした。上半身は既に裸で、脱いだ服が簡単に畳まれて足下に重なっています。
リュックサックを運んで来た触手を見て、ティナさんは小さく身を震わせました。このままティナさんで遊ぶのもアリですが、今はランドさんの捜索が先です。
触手を駆使してリュックサックにティナさんの服を詰め込みます。脱いだばかりのパンツも奪い取って押し込みました。
「あ……アイノ、さん?」
ティナさんは左手で胸を隠し、右手を内股に挟んで身を縮めています。心配しなくてもわたし以外に見ている人はいません。
「数分だけ息を止めていて下さい」
「えっ、あ」
ティナさんが言い切るより先に、わたしの体がティナさんの姿を包み隠します。そのまましっかりと掴み、持ち上げました。
今のティナさんはわたしの体の末端に開いた穴、すなわち肛門から足だけ出した状態で逆さまに掲げられています。ある程度の空気と一緒に包んだので、なんとか息を溜めるぐらいはできたでしょうか。
消化管にさらさらとした粘液を分泌し、筋肉の運動によってティナさんを一気に呑み込みました。ティナさんが体内を流れて行くのを感じます。少しして、地上に出ている体から地下に潜った体へ突入しました。ここまで来ればあとはほとんど重力だけでも流れていきます。
リュックサックからポリ袋を取り出し、そのままリュックサックを封入。ポリ袋の口を縛ったら肛門に入れてティナさんの後を追わせます。
そこまで地下までの距離が長かった訳でもないので、ティナさんがわたしの口の近くまで降りてきました。筋肉を収縮させることで消化管を締め、ティナさんが流れる速度を緩めます。
同時に舌を生成して自切。着地用のマットとします。口を絞って切り放した舌のマットを照準。大量の粘液と共にティナさんが吐き出されました。
ティナさんの体が赤い舌に飛び込み、大きく沈みこんで衝撃を吸収。急造の舌だったため、切断面からペースト状の肉がドロドロと溢れます。
「ごふっ、ごぷっ!」
ティナさんが咳き込み、口からどろりとした粘液が溢れます。ティナさんはゆっくりと体を起こし、力なく座ったままだらりと垂れる粘液を手で拭いました。
「死ぬかと思いました。いえ、絶対に死にました」
全裸で全身粘液まみれの金髪美少女が肩で息をしながら何か言っています。赤目の少女であるなら死ぬことはないように調整したので問題はありません。
体内を降りてきたリュックサックを口の手前で完全に動きを止め、口を開いて落とします。ちょうど眼下の通路に広がったペースト状の肉の海が衝撃を受け止め、跳ねることなく着地しました。
続いて、わたしもいつもの人の肉体を形成し、意識を移してからワームの巨体を切り離します。体を切り離して元の姿に戻るのは人の因子の消耗が少なくていいですね。大量の栄養を犠牲にしますが。
通路に着地して上を見上げると、ワームの口が無造作に開きっぱなしになっていました。まるで、わたしたちがモデル・アースワームのガストレアに襲われているみたいです。
帰る時は動きを止めたミミズの体に融合し直せば、ティナさんを口に入れて地上に戻れます。その時にできる限り肉を回収しましょう。地面に散らばった元舌の肉のペーストは探索中に腐りそうなので今回収してしまいますか。
足から肉のペーストに神経を繋ぎます。神経を張り巡らせ、意識を集中して操作。肉のペーストが流動し、一斉にわたしに向かって移動を始めます。ティナさんが乗っていた舌の表面も例外ではなく、ペースト状に形を崩して流動します。ついでにティナさんの体についた粘液を取っておきましょうか。
「ふぇっ、ひゃああぁぁ!」
ティナさんが見えなくなるまでペースト状の肉で包みます。少しの間、もごもごと咀嚼するように動かし、酸素が足りなくなる前にティナさんを解放します。流れる肉のペーストから徐々に姿を表すティナさんは、呆然と宙を見つめていました。感触からして失禁していますね。温かいです。
粘液は大体取れたので、ティナさんの放尿が終わるまで下半身は包んだままにして、それ以外をわたしの足下に集合させます。
わたしに接触した肉からわたしの皮膚と融合し、それと繋がるようにして他の肉も融合していきます。ティナさんの放尿も終わったので、残りの肉も集合させてわたしに融合します。
少しして全ての肉と融合し、体内に吸収、回収が完了しました。赤い断片が散らばり汚かった通路も、モード・ワームが顔を覗かせる殺風景な通路に早変わりしました。インテリアは天井の瓦礫です。
「服着たら行きますよ」
リュックサックが濡れていないことを確認して、ティナさんに着替えを投げ渡します。続いてわたしの着替えを取り出したら、リュックサックはモード・ワームの口の端を切って傷口に押し込みます。中身は着替えと食料ぐらいで持ち運ぶには邪魔ですからね。神経を繋いで傷を塞げば外からリュックサックは見えません。
「ふへっ、へへへへ」
パンツに足を通していると、背後からやたらと気持ち悪い笑い声が聞こえました。振り向いて見れば、ティナさんが地面にぺたりと座ったまま宙空を見つめていました。いえ、焦点が合っていませんね。目が虚ろです。
黒いドレスが投げ渡されたままに肩に引っ掛かっていることから、完全に意識が飛んでいることがわかります。心身喪失です。なぜでしょう?
ティナさんがやったことと言えば、丸呑みにされて1分強の間肉のトンネルをウォータースライダーよろしく落下。吐き出されて全身丸洗いされて失禁した尿を全て直飲みされただけです。それだけで心身喪失するものでしょうか?
……しますか。
Tips
モード・ワーム
地面穿孔に特化したモード。外見はでっかいミミズ。ミミズとその他数種の因子しか解放しないため肉体構造はステージⅡ程度だが、規模が大きすぎるのでステージⅣ相当の力がある。
太さは直径3メートル、長さは200メートル。一般的なミミズと異なり、およそ9割が筋肉によって構成されている。そのためとんでもなく重い。肉体構造が単純であるため、後から目や口などのパーツを生成できる。
筋肉により地中を強引に掘り進むが、効率など捨てている。なお地上の方が遥かに移動速度は速い(鞭のように体を地面に叩きつけ飛び跳ねて移動する)。
ちなみに地球最大のミミズはメガスコリデス・アウストラリスというらしい。