人間と異形と狂気の狭間   作:sterl

9 / 23
緊急速報

 全針葉樹の因子解放によって下脱ぎの状態で事務所に戻り、陸さんが何をしてきたか聞いてきたのでモノリスの外で想定外の強敵と交戦してきたと答えるのが3時間前。陸さんのあの化け物かという質問に無言で頷くと、陸さんはそれ以上追及して来ませんでした。

 

 

 事務所に預けてある服に着替え、有り合わせの食材で夕食を摂ったのが2時間前。大事な話があると言って帰ろうとする藤谷さんと美雨さんを呼び止め、事務所に居座りました。

 

 

 夕食を早々に食べ終えて再びゲームを始めてしまった藤谷さんが、ゲームを終えるまで待ったのが1時間前。ようやく、謎の異形から聞いた話をすることができました。藤谷さんは興味無さそうでしたが、相馬さんと陸さんと美雨さんは真面目に聞いてくれました。ちなみに莉子さんは相馬さんの膝の上で寝ていました。

 

 

 そして現在、まさに0時になろうとする数十秒前。藤谷さんと美雨さんは2階にスペースを借りて寝ています。しかし、わたしと陸さんは起きて1階にいました。妙な胸騒ぎがするのです。恐らくは、わたしと長い時を過ごした陸さんも。

 

 

 言葉は交わさず、陸さんは座って目を閉じています。音を発するのはテレビに流れるニュースのみ。秒刻みで0時が迫り、わたしの耳が人の可聴域外の遂に明瞭になった咆哮を捉え、0時ちょうど、謀ったようにその緊急速報(ニュース)は始まりました。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 蓮太郎は眠れないでいた。それも当然といえば当然だろう。あの仮面の男が、わざわざ連太郎にステージⅤ(ゾディアック)ガストレアが表れると予告したのが明日なのだから。

 

 

 そのまま寝付いてもいられず、延寿を起こさぬよう連太郎はキッチンへと向かう。コップに水道水を注いで、一気に飲み干した。何故かそのまま寝ようとは思わず、テレビを付ける。

 

 

 0時。日を跨いだ瞬間に始まった緊急速報(ニュース)を、連太郎は目撃する。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 聖天子……否、白色は、傍らに寄り添う黒色に(もた)れ座っていた。

 

 

「報道各局への連絡は済ませました。後は、ただ待つだけ……」

 

 

 聖女のような柔らかな笑みを浮かべる白色。その瞳に正気の光は既に無く、果てなき深遠に沈んでいる。

 

 

「ああ、その通りさ。君は何もしなくていいんだ。ただ待つだけで、君の辛苦が一つ、報われる」

 

 

 黒色は手を上げ、白色の背を優しく撫でる。白色は安心しきった様子で、寝息を立て始めた。

 

 

 0時になり、緊急速報(ニュース)が始まった。その部屋にテレビは無かったが、黒色はニヤリと微笑む。

 

 

「これが、破滅への前奏曲(プレリュード)になるか、それとも英雄譚の幕開け(プロローグ)になるか……」

 

 

 白色を撫でながら、クスクスと笑う。その嗜虐的な光を湛えた瞳に映る未来は……。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

「緊急速報です。たった今、東京湾にゾディアックガストレアが出現しました。《天蠍宮(スコーピオン)》です。《天蠍宮(スコーピオン)》は進行を続け、本日未明には東京エリアに侵入するだろうとのこと。現在、報道ヘリが現場に急行中です。続けて、聖天子様より全ての民間警備会社に向けての勅命をお伝えします。至急、《天蠍宮(スコーピオン)》との戦闘準備を整え、各自防衛にあたるように。これは東京エリアを守るための戦いです! 私からもどうか、お願いします!」

 

 

 東京エリアのために願いを叫ぶ者、絶望し淡々と伝える者、或いは、冗談と思い込みたいのか半笑いでありながら虚ろな目が真実を物語(ものがた)る者。報道局によって伝え方に差はあれど、その表情故に事実であると証明する。

 

 

「報道ヘリが《天蠍宮(スコーピオン)》に接近。映像を切り替えます」

 

 

 それは、自衛隊の戦闘機より先に報道ヘリが捉えた前代未聞の大事件。滅びを前に、ただ畏怖し、粛々と恐怖せよ。

 

 

『こっ、こちら東京湾上空。眼下には巨大な――』

 

 

 カメラマンの手が震えているのか、安定しない中継映像に映る顔面蒼白の男性アナウンサー。その声を遮るように、重低音の獣の咆哮が轟く。

 

 テレビ越しでも伝わる飛行機のジェット音のような大音量は、カメラマンからカメラを手放させるには充分過ぎた。

 

 

『ひぃぃぃぃっ! もう嫌だ! ヘリを戻し、て…………石? ぃぃぁあぁなんでなんでどうして!? なんでなんで俺がこっこんな目にっメにィっめニ目にめガ眼がッ――キィィィィイァァァァァァァアアアイヤだイヤだイヤ―――』

 

 

 中継映像に微かに映る小窓には、グルグルと回転し続ける星空が見える。狂乱するアナウンサーの金切声と、暴れているのか物にぶつかる音が断続的に続く。

 

 

 一瞬。それは本当に一瞬だった。何かにヘリが衝突した音が響き、その衝撃によってカメラが浮かび上がったのか、画面全体に小窓の外を映す。

 

 

 

 赤い、紅い、瞳だった。

 

 

 

 爆音が鳴ったかと思うと、中継が途切れる。テレビが元のスタジオを映しても、言葉を発する者はいなかった。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 東京エリアに訪れし災厄。それは、狂気と交錯せし可能性(IF)の世界が故に、本来の《天蠍宮(スコーピオン)》と似て非なるもの。

 

 よってここにて区別する。その名を――

 

 

 

 

 

 ――海の底を這うもの(スコーピオン)

 




Tips

白色

 正気を失った聖天子さま。黒色の操り人形。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。