マイナス10℃近い中、木を数える作業は死ぬかと思った
「嬢ちゃん大丈夫じゃったか!?」
ギルドに着くなりドワーフのおじさんに詰め寄られる。
「何とか大丈夫・・・だけどあの海賊船・・・」
アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦・・・
異世界の国、アメリカという国が開発したイージス艦と呼ばれる船だ。
この世界にもイージス艦という概念が異世界から入っては来たが向こうでも最新型で機密性が高いのだろう、ほとんど情報が無かった。
ただ艦そのものがこの世界に送られて来たことがあったらしいが誰も中身のシステムを解明できずに放置されていたという話は聞いたことがあった。
そもそも、ミサイル駆逐艦を扱うには専門的な知識が必要な場面が多すぎて並大抵の冒険者等では航行させることすら不可能だった。
また、こちらで建造された船ならいいが異世界から送られてきただけなら中身は異世界の仕様そのままで言語の翻訳をしないとならなかった。
この街で唯一異世界の駆逐艦、オリバーハザードペリー級フリゲート乗りだった冒険者のパーティはその船に乗るために2年以上の歳月をかけて船を動かし戦闘させる事が出来たが、つい先月、Uボートから雷撃を受けて沈没。
その冒険者パーティは全員行方不明だった。
その船の対潜能力もかなり高いものだったがそれでも沈められていた。
そんな海を単艦で行動し悠々と素材を集めていくあの海賊船は一体どんな連中が乗っているのか・・・
「ほかの街や国にもまだ船乗りの冒険者は居るかも知れんが・・・単艦でのぅ・・・まぁ嬢ちゃんらとこの東海が無事で良かったわい」
「そもそもあんな海で単艦で生き残れる海賊なんて相手してらんないよ・・・」
「私も。一ヶ月前だっけ、ミサイルフリゲート乗りのパーティが行方不明になったのって」
「そういやそんな事もあったのぅ・・・あのグループの遺体は誰1人見つかっとらんから可哀想じゃ・・・」
彼らが撃沈されたと思わしき海域には船の残骸や彼らの持ち物が浮かんでいただけで生存者は確認できなかった。
その後の遺体の回収に出るも誰一人として見つかっていなかった。
「まぁとりあえず疲れただろう、機体の補給はワシらに任せて休むんじゃ」
「うん、ありがと」
私達は格納庫を後にした。
クエストは失敗、報酬は無かったがまぁ仕方がない。
それよりも攻撃を受けた騎士団のP-3Cは街に帰る途中でレーダーから消えたという話を聞いた。
主翼から妙な音がするという通信を最後に交信が途絶えレーダーから消えたらしい。
夜が明けてから捜索救難機が上がるらしいが・・・
彼らが心配だった。
「・・・騎士団の人・・・無事かな」
「・・・」
マヤは心配そうに呟く。
だが・・・正直、絶望的な状況かもしれない。
夜間の街の外はアンデッド系の魔物がうろつき始める。
たとえ不時着していたとしても負傷した乗員で対処できるか分からない。
また聞いた内容からして空中分解の可能性もあった。
「彼らの無事を祈るしかできないよ」
私はそう呟いた。
「マヤ、ご飯どうする?」
「この時間、どこも開いてないし・・・我慢して明日の朝ご飯いっぱい食べようよ!」
「そうしよっか・・・ふぁ・・・」
疲れた。
ご飯よりも早くお風呂に入って休みたかった。
マヤも同じ考えのようでさっさとチェックインを済ませ、部屋の鍵を受け取っていた。
「ねぇ、ハル。明日はどうする?」
「明日・・・明日か・・・」
パンジャンドラム討伐の報酬は全てトムキャットの修理費に当ててしまったために今現在はほとんどお金がない。
「何か良さげな仕事が探さなきゃね」
「そうだね!私は久しぶりにヘリに乗れる仕事あればいいんだけどなぁ・・・」
「そう都合よく無いと思うけどね」
「ねぇハル〜・・・ヘリ買ってよー!」
「無理」
「そこを何とか!!今月のお小遣い我慢するから!」
「元々お小遣いあげてない」
マヤは駄々をこね始めた。
「今何時だと思ってるの?」
「宴の時間!」
「ねぇ、マヤ。それ以上うるさくしたらフェニックスに縛り付けて火山に撃ち込むよ?」
「・・・ごめんなさい。いい子にしますので真顔で言わないでください・・・」
「よろしい」
騒ぐマヤを静かにさせて部屋に入る。
「ハルー!お風呂はいろー!」
「分かったから、待って」
マヤはいつの間にか全部服を脱ぎ捨てていた。
「こんなに散らかしてたらお嫁に行けないよ」
「ハルの嫁でいいよ!」
「会話になってない気がする」
マヤの脱ぎ捨てた服を片付けて私もお風呂に入る。
1日の疲れが抜けていくようだ。
30分ほどのんびりと2人でお風呂に入り、髪を乾かしてベッドに入り込んだ。
「いやー・・・今日は疲れたねー・・・」
「そうだね・・・もう寝よ、おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
私は目を閉じてふと思った。
今日は運が悪かったら私達が落ちてたと。
たまたま、あの海賊船は騎士団の機体を攻撃、私たちには撤退勧告をしてきただけだった。
もしあれが私達まで狙っていたら・・・
そう考えると・・・
これ以上は考えたくもない。
私はなるべく考えないようにして眠りについた。
「ふぁ・・・」
窓から差し込む光で目が覚める。
時計をみたらもう朝の11時だった。
「やば・・・ふぁ・・・もうお昼だ・・・」
とりあえず顔を洗おう・・・
そう思って洗面台に行く。
「今日は・・・どうしようかな・・・」
報酬のいい仕事を見つけないとあと一週間もすれば食費だけで貯金が底を突く。
トムキャットが飛べるようになるのもまだ未定だった。
「とりあえずギルドかな・・・」
顔を拭きながらそう呟いた。
ふと、ベッドを見るとマヤが気持ちよさそうにまだ寝ていた。
「正直、もう銃を使う仕事はしたくないんだけどな」
ベッド脇に置いてあるAK-74を見ながら呟いた。
私は戦闘機に乗っている方がいい。
「さて・・・マヤを起こしてギルドにでも行こうかな」
ぐっすり寝ているマヤの布団を剥ぎ取った。
「マヤ、起きて」
「んー・・・やだ・・・」
「起きてってば」
揺さぶったり色々してみたが起きない。
なんで今日に限って・・・
「マヤ、起きないとマヤがこの前買ったシュールストレミングの中身をマヤにかけるよ」
マヤが魔物相手に使えそう!!とか言いながら武器屋で買ったシュールストレミングという缶詰を持ちながら脅してみた。
というか、なんで缶詰が武器屋で売ってるんだ・・・と思いながらこの前調べてみたら異世界でとても臭い食べ物だと本に書いてあった。
部屋の中で開けたら異臭騒ぎで警察が飛んでくるレベルらしい。
「ごめんなさい今起きます!!」
マヤが飛び起きてきた。
ただいつもちょっと脅しただけで飛び起きる。
これ私がマジでそういう事する人に見られてるのだろうか・・・心外だ。
「準備したら仕事行くよ」
「はいはーい・・・ってもう11時!?」
「そうだよ」
「お昼寝!」
それは15時くらいからするものだろう。
「張り倒すよ」
「冗談だよー・・・準備するから待ってて」
「40秒」
「え?」
「40秒で支度しな。出来ないと・・・ふふっ」
「怖い!何があるのか分からないけどとにかく怖い!!」
マヤは物凄い勢いで洗面台に向かっていった。
私はマヤが準備するまでの間にベッドに寝転んでケータイを取り出した。
昨日から行方不明のP-3C・・・新しい情報を確認したかった。
「・・・」
ニュースサイトを開くと1番上の記事に出ていた。
行方不明の航空機発見という見出しだった。
開くと現場の写真が出ていた。
・・・機体は森の中でバラバラになっていた。
ただ機体は見つかるも搭乗員全員の姿が見えないという事だった。
バラバラとは言え、胴体部分は比較的形を留めていて火災の痕跡も無く、生存者が居ても不思議ではなかった。
ただ、機内には自衛用の銃は無くなっていたが、薬莢が一つも見つからず、近くで倒れていたアンデッド系の魔物は明らかに魔法で倒されたような痕跡が残っていたらしい。
「魔法・・・ね」
ただ何故、銃があるのにわざわざ魔法なんて使ったのだろうか。
その疑問が残ったが・・・まぁいいか。
「おまたせー!」
「おかえり、いこっか」
「うん!」
ギルドまでのんびりと歩く。
今日はいい天気。
暑いくらいだ。
「どんな仕事があるかな」
「いいのがあるといいね」
報酬が良くて楽そうな・・・というちょっとした期待を胸にギルドに入った。
クエストボードにはかなり沢山の依頼があった。
「なんかいいの無いかな・・・」
上の段からゆっくり見ていくとマヤが1枚の紙を持ってきた。
「ねぇこれ!これどう?」
「どんなの?」
内容は人の警護。
しかもヘリの操縦資格を持っていると報酬20%増しだった。
確かにマヤはヘリパイロットの資格があるからいいかも知れない・・・が、場所が街から街へと移動する経路上の警護かと思ったが、どうもそうでは無かった。
依頼人はエルフの村の村長。
どうも、近くにエルフを目の敵にするカルト教団がいるらしくそれからある人を守って欲しいそうだった。
「・・・カルト教団ね・・・」
ろくな事が起きないのは目に見えていたが・・・報酬はダイヤモンドで支払うという事だった。
エルフ達が発掘するダイヤモンドは何故かとても大きな物が多く、また彼らの加工したダイヤモンドはとても美しいと評判で小さいものでも最低額は1千万以上だった。
「ハル!これいこ!」
「・・・やる気満々だね・・・いいよ分かった。」
「ヘリも貸し出してくれるらしいし!」
「そうじゃなかったらこの仕事出来てないよ」
早速、受付にクエスト開始を申請し、ヘリまで案内してもらった。
「おー!UH-1Jじゃん!」
UH-1J、異世界の国、日本の軍隊が使っているヘリだ。
正確には軍では無かった気がするが・・・。
まぁ細かい所はいいだろう。
「ハルは副操縦士と武器をお願いね!」
「分かった」
武装は2門のM2重機関銃のみだったが魔物相手なら問題ないだろう。
何気にチャフとフレアも搭載されているようなので少しは安心だ。
「じゃ、早速いこっか!」
「場所は?」
「ここから東に70kmくらいのところのエルフの村だね」
「了解、じゃあお願いね。機長」
「任されよ!」
マヤは鼻歌を歌いながらエンジンスタートの手順を踏んでいく。
「手馴れてるね」
「わたし、実家でお父さんがUH-1に乗ってたからね!覚えちゃったよ」
すぐにエンジンが動き始めた。
「私、この音好きかも。トムキャットほどじゃないけど」
「でしょでしょ!UH-1のエンジンの音っていいよね!トムきゃんのエンジンの音も好きだけど私はこっちかな」
「・・・裏切り者め」
「何で!?」
「冗談だよ。いこっか」
エンジンはご機嫌に回転数を上げ、離陸できる体制が整った。
「テキサスタワー、ハンター921」
《ハンター921、どうぞ》
「東への出発許可をお願いします」
《ハンター921。東への出発を許可。そのまま滑走路17手前まで移動、待機してください。747とその護衛機が着陸後滑走路へ進入してください》
「ハンター921、ラジャー」
「滑走路手前だね、了解!」
「ゆっくりね」
「分かってるよ!」
ヘリはゆっくりと浮き上がり高度6m程度の所を飛行しながら誘導路にそってホバータキシングする。
ふと上を見ると747と護衛のSu-27が最終着陸進入体制に入っていた。
「おー、降りてきた」
「だね」
私達が滑走路につく頃にはジャンボジェットと護衛機は滑走路に着陸していた。
あとは離陸許可待ちだ。
《ハンター921、滑走路に進入して待機》
「滑走路に進入して待機、ハンター921」
「ホバリングって何気に神経使うから早く飛びたい・・・」
「もうちょい待って」
《ハンター921、滑走路17より離陸を許可。風は無し》
「ハンター921了解。ありがとうございました」
「よっしゃー!テイクオーフ!」
滑走路を飛行機のように滑走するようにして離陸する。
「70キロって言ったらすぐだよね」
「そうだね、大体この速度だと30分かからないんじゃないかな」
エルフの村を目指して低空を飛ぶ。
「魔物さえ居なければ綺麗な場所なのに・・・」
下に広がる草原を見ながら呟く。
「本当に・・・リリアにお願いしてこの辺の魔物全部一掃してお昼寝でもしに行く?」
「その案採用」
「冗談だからね!?」
「なんだ、久しぶりにまともなこと言ったと思ったのに」
「いや、こんな事がマトモな事になるなら異世界の映画で朝のナパームは格別だとか言ってたおじさんどうなるの」
「気のいいおじさん」
「絶対ハルの基準はおかしい!!」
コックピットでそんな事を話しながら目的地に向かう。
いつも通り・・・というかいつもだが話は尽きなかった。
「あれかな?」
「あの村っぽいね」
「下りようか」
「了解、1度上空をパスして」
「おっけい!」
双眼鏡で村を見ながら低空で村の上空を通過する。
村にはエルフ達が沢山いた。
「あれに間違い無さそう」
「了解!着陸しよっか!」
ただ、一つ懸念事項があった。
村には私達とは別にMi-8が駐機してあった。
エルフ達が航空機を持っているとも思いにくい。
彼らはその手の機械を乗りこなす事を嫌っているからだ。
「別のパーティ・・・?」
ヘリはゆっくりと村へ進入していく。
「あれ?なんでヒップ止まってんの?」
「分からない」
着陸すると村長らしき人が迎えに来てくれた。
マヤはすぐにエンジンを停止させる。
「私が先に降りる」
「了解、気をつけてね」
降りると村長らしき人が駆け寄ってきた。
「よくぞおいでくれました!」
「依頼人の村長さん?」
「そうです!とりあえず詳しい話はこちらで・・・」
私はそのまま家に案内させる。
中にはすでに私たちとは別の人達が10人程いた。
「やぁ、初めまして」
「初めまして。私達だけじゃなかったんだね」
「あぁ、そうみたいだ」
聞くとここから北に200km行ったところにある街の冒険者のようだった。
「君たちと共闘する事になる、よろしくな」
M4を持った歴戦の兵士といった感じのおじさんはいい人そうだ。
「では集まったところで・・・」
「待って、マヤが・・・相方がまだヘリにいる」
そう伝えた瞬間のタイミングでマヤも家に入ってきた。
「おまたせー!ってあら?」
「君の相棒かい?」
「賑やかな相棒だけど」
とりあえずこれで全員揃ったようだ。
「では改めて・・・」
村長さんは依頼の内容を説明してくれた。
ここから少しのところに小さな村と大きな敷地をもつ洋館があるらしい。
そこにはこの村出身のエルフの少女がいる。
その子はその屋敷を中心に私たちのように大きな街、エルフ達の街を作ろうとして頑張っていた。
小さな村にはその協力者達が住んでいる。
まだ壁も出来ていないが少しずつ建設は始まっているらしい。
だが、エルフを敵対視するカルト教団がエルフの街など許さないと襲撃を企てているという情報を掴んだらしい。
この王国の政策は異種族も活躍できる社会ということでそういった異種族が街を作り上げたりするのを応援していた。
だから今回の襲撃の可能性があることを国王が知り、王国陸軍の地上部隊と技術者が街に向かっているらしい。
つまり私達は陸軍到着までその街と村を守れという事だった。
到着まで3日ということだ。
戦力は戦車20両、歩兵戦闘車30両、装甲兵員輸送車40両以上、輸送トラック50両、歩兵300名と大戦力だった。
また護衛にAC-130ガンシップに対空対地両方に対応できる武装を施したF-16が常について動いているらしい。
どうも国王様はエルフに思い入れがあるらしく過剰戦力気味の部隊を動かしていた。
対して敵のカルト教団は銃や戦車などを嫌っていて剣や魔法で攻撃してくるようだ。
ただし、そんな教団が今まで生き残れているにはそれなりの理由があるのだろう。
聞いた話によると最新型のAPFSDSやHEATに匹敵する威力の遠距離魔法を使ってくるらしい。
「ということです・・・この村は結界で外からは見えないようになります、でもあの子の家はそうもいかない・・・お願いします!」
「了解した。直ちに向かおう」
「こっちも行こっか。」
「そうだね!」
ヘリに向かう。
屋敷までは大した距離ではなかった。
「ねぇハル、あの人達だけでもよかったんじゃないかな」
「いきなり何を言うの?」
「いやほら・・・装備とか・・・経験とかね」
「まぁね・・・でも、私達だって賞金首撃墜の経験があるわけだし」
「そっか・・・そうだったね!」
「じゃあ行こっか」
マヤは頷き、エンジンを始動するための準備を始めた。
「燃料は・・・たくさんあるから大丈夫だね」
一通り点検を終えてエンジンをかけ始める。
彼らに負けないように・・・私達も頑張ろう。