高度20000フィートの大空で   作:イーグルアイ提督

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仲間を連れて村へ

《エンジェル0-1、テキサスタワー。滑走路35への着陸を許可します。》

 

「滑走路35への着陸許可、エンジェル0-1」

 

「ハル、私の知り合いグループはもう準備してるってさ!空港に降りたら私が呼んでくるから補給とかしてて待ってて!」

 

「了解、調整はついてる?」

 

「おじさんが燃料とミサイル準備して待ってるって!」

 

「了解」

 

機体をゆっくりと接地させる。

激しい空中戦の後だ、正直言うと機体各所を念入りに点検したいが今こうしてるウチにもバケモノにさらわれた女の子の命が危ない。

慎重に飛ぶしかない。

 

「じゃあちょっと行ってくる!」

 

「分かった、エンジンはかけたままで待ってるから機体の後ろには行かないでね」

 

「りょーかい!」

 

トムキャットを駐機場に移動させて私は補給を始める。

 

「嬢ちゃん!フィッシュベッドと交戦したってな!」

 

「うん、空賊のね。3機居たよ」

 

「よくミグで探知出来たのぅ・・・」

 

「たぶん早期警戒機がいたよ。それっぽいのも補足してたから」

 

「空賊も贅沢な装備を持っとるもんじゃな。ならフェニックスも積んでくか?」

 

「ううん、代わりに地上支援するかも知れないからLGBお願い」

 

「よし!ペイブウェイはサービスしといてやる!」

 

「ありがと、おじさん」

 

おじさんはそのままレーザー誘導爆弾を搭載するために補給用の車両で倉庫に向かっていった。

 

「後は・・・あの子待ち」

 

増槽も満タンにし、待機する。

機関砲には20mmの曳光榴弾を搭載して対地攻撃に備えた。

数分もしないうちに整備員がF-14に爆装を施してくれた。

 

「料金はどうする?」

 

「引き落としで。」

 

「分かったぞぃ!まー、嬢ちゃんはお得意様じゃからまけておくわぃ!」

 

「ありがと」

 

補給も終わった。

あとはマヤを待って飛ぶだけだ。

 

「操縦系統・・・チェック・・・油圧・・・よし」

 

飛行に必要な装置類を点検しているとマヤが駆け足で帰ってきた。

 

「おかえり」

 

「ただいま!輸送機で行くから到着まで護衛してほしいんだって!」

 

「了解。でもよくOKしてくれたね」

 

「だって私の村出身の人たちのパーティだからね!」

 

「そうなんだ。」

 

「うん、私の舎弟もいるしね!」

 

「待って、舎弟って何」

 

「んー、なんか前から私のこと好きみたいで告ってくるんだけど面倒臭いから舎弟ならいいよって感じで」

 

「それ・・・いいの?」

 

「泣いて喜んでた」

 

「・・・」

 

マヤの知らない1面を見た気がする。

まぁでも、これであの村は救われるわけだしいいか。

 

「行こっか。輸送機は?」

 

「えっとね、確かC-1だよ。あ!あれあれ!」

 

マヤが指さす方向にはタキシングを始めたC-1輸送機が居た。

 

「コールサインは?」

 

「エアカーゴだったかな確か」

 

「エアカーゴって民間機じゃなかったっけ」

 

「うん、民間機借りて行くんだって!ちゃんと護衛の報酬も貰えるよ!」

 

「ちゃっかりお小遣い稼ぎするんだね・・・」

 

「ふふふ、お土産代くらい稼がないと!」

 

「そのお金で何か奢ってね」

 

「もちろん!」

 

なんて話をしてるうちにC-1が前を横切り私達もそれに続く。

 

「エアカーゴ、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「そちらの護衛を担当します。目的地まで安全な航行を」

 

《了解、よろしくお願いします》

 

「テキサスタワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ。》

 

「前方の輸送機に続いて離陸許可を要請します」

 

《了解、現在着陸進入中及び離陸する航空機はありません。そのまま滑走路に進入し離陸してください》

 

「了解」

 

珍しく空港は空いていた。

運の悪い日は何分も待たされる時もあるから今日は運がいい。

 

《エアカーゴ、滑走路17から離陸を許可します。離陸後はそちらの飛行計画に従って飛行してください。》

 

《滑走路17から離陸を許可。エアカーゴ》

 

《エンジェル0-1、エアカーゴに続いての離陸を許可。離陸時は輸送機後方の乱気流に注意してください》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

輸送機が加速し離陸していくのを確認してから私達も滑走路に入る。

 

「行こっか」

 

「ハル、疲れてない?」

 

「大丈夫、でも巡航中はオートパイロット使ってすこしゆっくりしようかな」

 

「分かった、監視は任せてね!」

 

「お願い、任せたよ」

 

スロットルを開きアフターバーナーに点火した。

轟音と共に加速する。

すぐに離陸可能速度に達し機首を上げた。

空は少し曇ってはいるがコンディションはいい。

 

「ギアアップ」

 

車輪をしまい、輸送機にゆっくりと近づいた。

ここから2時間ちょっとのフライトだ。

 

「そういえばハル、珍しく爆装してるんだね」

 

「もしかしたらに備えてだよ」

 

「久々の爆撃になるのかなー・・・」

 

「LGBだから誘導よろしくね」

 

「おまかせあれ!」

 

武装は短射程ミサイル2発に中射程のスパローが1発。

本来スパローを搭載するパイロンにはレーザー誘導用の装置を積んである。

あとは500ポンドレーザー誘導爆弾が4発だ。

 

「やっぱり爆弾積むと重い・・・」

 

おまけに満タンの増槽も2つぶら下げている。

空対空ミサイルの時だけならまだしも爆装も施しているためにどうも機体の動きが重かった。

最悪、空中戦になれば爆弾は投棄してドッグファイトに入るが・・・。

 

「何も来て欲しくないね」

 

「前にそう言って敵が来たけどね」

 

「それはマヤが暇だから敵こいなんて言うから」

 

「わ、私のせいじゃないもん!」

 

「はいはい」

 

なんて話をしばらくしていると巡航高度に達した。

高度35000フィート。

雲よりも高い。

見上げると青くて広い空が広がっていた。

 

「オートパイロットON・・・私ちょっと休憩する」

 

「うん、レーダーは見てるからね!」

 

「お願い」

 

私はシートのすぐ脇に付けたドリンクホルダーから差し入れで貰った紅茶を取った。

 

「いい天気・・・というかいい景色かな・・・」

 

私は紅茶を少し飲んでまったりとした。

その時私はふと絶望的な事を思い出す。

 

「・・・しまった。紅茶って飲んだらトイレに行きたくなる効果が・・・」

 

村からテキサスまで飛び、テキサスではトイレに行ってない。

そしてあと2時間は村まで飛ばないといけない。

 

「・・・・・・・・・」

 

ヤバい。

意識したら妙に尿意のようなものが。

 

「・・・マヤ、トイレ行きたかったりしない?」

 

「んー?さっき行ったから大丈夫だよ!」

 

「あ、うん・・・そう」

 

若干冷や汗をかく。

あと2時間。

たぶん耐えれるだろうけど、もし敵機が来たらヤバい。

というかトイレの事なんて考えるんじゃなかった!

 

「ハル?黙り込んじゃって大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

・・・今なら引き返せるか・・・

いや、トイレで引き返すってなんか嫌だ。

今はあのトイレが付いてるであろう輸送機が羨ましい。

 

「ま・・・まだ耐えれる・・・」

 

「ねぇ、ハル?もしかしておトイレ?」

 

「へっ!?え、い、ち、ちがう・・・」

 

「あはは、我慢しなくて良いのに!携行トイレなら私持ってるから!」

 

「・・・ありがと・・・借りるかも」

 

なんでこういう時に限って準備いいんだこの子は。

・・・いや、女の子が携行トイレ使うってどうなんだ。

隠せるものが・・・何も無いし何より自分が出したもの到着まで持っとくなんて嫌だ。

どうしよう・・・

 

「はい、ハル」

 

「え・・・あ、あり・・・がと」

 

・・・でも緊急事態に贅沢言えない・・・うん。

そう自分に言い聞かせて受け取った。

 

「ちゃんと女の子用買ってあるから!」

 

「・・・うん・・・」

 

・・・トイレ装備されてるって噂のSu-34がこんなに羨ましく感じるとは思わなかった。

 

「・・・とりあえず限界までは我慢しよ・・・」

 

そして私は喉が乾き無意識に紅茶を飲んだ。

そして飲んで気づく。

 

「・・・」

 

「ハル?」

 

「・・・飲んじゃった」

 

「え?う、うん。喉乾いてたんだよね?」

 

「・・・ちょっとトイレ行きたいって気持ちあったのに飲んじゃった」

 

「え・・・い、いやでもほら!携帯トイレあるじゃん!」

 

「使いたくない・・・清潔なおトイレがいい・・・」

 

「贅沢言わない!!」

 

まだ限界という程でもないがそこそこヤバい絶望感に飲まれ始める。

まだあと1時間以上・・・

頑張れ・・・為せば成る・・・為せば成る私の体。

 

「あ・・・ハル!」

 

「ん?」

 

コックピットに電子音が鳴る。

 

「ま、まさか・・・」

 

「対空目標・・・2!速度400!」

 

「・・・無視だよ無視」

 

「無視できたらいいんだけど・・・こっちに来てるよ!」

 

「・・・なんで!なんでこんなタイミングなの!!」

 

「おー・・・ハルがやり場のない怒りを爆発させてる・・・」

 

「エアカーゴ!退避して!こっちで対処するから!」

 

《了解!》

 

私はこんなタイミングで来た不明機に対して軽く殺意を覚えていた。

 

「ハル!?まだ敵って分かったわけじゃ・・・」

 

「私が女の子捨てる前に・・・確認して仕留める!」

 

「ヤバい・・・ハルが暴走してるかも・・・」

 

「こっちはトイレ行きたくて仕方ないんだよもう!!」

 

「・・・トイレを急いでる女の子に撃墜されるかも知れない敵さん・・・可哀想・・・」

 

呑気な事言ってる場合じゃない。

携行トイレを使いたくても戦闘機動中にそんな事する余裕はない。

しかもハイGのかかる空中戦だ。

・・・持つかな私の膀胱・・・

地味に尿意が増している。

 

「マヤ!敵は!」

 

「だから敵って分かったわけじゃ・・・」

 

その時、レーダー警報が鳴った。

敵だ。

 

「空賊ごときが私のトイレを邪魔しないでよー!!」

 

「必死だねぇ・・・」

 

そりゃ必死だ。

コックピットで漏らすなんて死んでも嫌だ。

私は涙目で操縦桿を握る。

 

「敵機は何!?」

 

「えーっと・・・AV-8ハリアー・・・かな・・・カラーは真っ黒・・・ついさっき交戦した空賊の仲間かも!」

 

「だったら機動性はこっちのほうが上だよね!」

 

爆弾を積んでいても何とかなりそうだ。

むしろ私の膀胱が何とかならない気がしてきた。

 

「トイレ行っとくんだった・・・!」

 

「正面!3マイル!!」

 

雲の中から2機のハリアーが出てきた。

距離は近い。

私は操縦桿のトリガーを引いた。

 

「落ちて!」

 

交差する前に機関砲で射撃する。

弾丸は敵の1機のエアインテークに吸い込まれた。

 

「撃墜!ベイルアウト確認!」

 

ハリアーからは搭乗員が脱出していた。

私はそれを確認して一安心した。

いや、まったく一安心出来ない。

コイツ早く落とさないと私の膀胱がマジヤバい。

 

「敵は!?」

 

「旋回して後ろにつこうとしてる!」

 

「くっ!」

 

敵がいる方向に頭を向けようと旋回する。

だが身軽な相手はトムキャットより旋回が早かった。

 

「後ろ!ロックオン!!」

 

警報がコックピットに鳴り響く。

私は旋回を止めて急降下に入った。

 

「もうなんでこの空域、空賊いっぱいなの!?」

 

「それは後ろの敵に聞いてよ!こっちはそれどころじゃない!」

 

「あ、うん・・・ハルは後ろの敵よりヤバいのと戦ってたね」

 

ただ確かに四時間前にもこの空域で空賊と交戦した。

仲間の捜索に来ただけの機体かも知れないが・・・

 

「相手はすばしっこいよ!どうする?」

 

「何とかして見る!」

 

最高速度はトムキャットより劣るとは言え、向こうもちゃんとした戦闘機・・・正確には攻撃機だが後ろにつかれたら簡単には振り切れない。

私は速度を落としつつ上昇する。

 

「オーバーシュートしてくれたら・・・」

 

思いが通じたのか接近していた敵機はトムキャットを追い抜いた。

 

「後ろを取った!」

 

機関砲のレティクルを敵機に合わせてトリガーを引こうとした時だった。

相手はエンジンノズルを真下に向けて真上に急上昇した。

垂直離着陸が出来るハリアーらしい機動だ。

再び後方につかれる。

 

「相手がハリアーなのが悪いねこれ!」

 

「余計な事して避けないでよ!落ちてよ!!」

 

「ハル・・・相手も必死だから・・・」

 

「私だって必死だよ!!」

 

私は無線を全周波数に合わせて叫ぶ。

 

「そこのハリアー!!卑怯な手で逃げないでよ!!こっちはアンタのせいでトイレ行きたいのに行けないんだから!!大人しく落ちろバカヤロー!!!女の子に撃たれたらご褒美でしょ!落ちて・・・落ちてよー!トイレに行かせてよー!!」

 

「ハル!?」

 

私の心の叫びである。

・・・本心からの。

すでに高機動のせいか軽く限界を迎えそうだ。

 

「ハ、ハル・・・気持ちは分かるけど・・・無線をオープンにしなくても・・・」

 

「うっさい!!こっちは限界なの!!」

 

すると突然コックピットの警報が鳴り止む。

 

「あれ、ロックオン警報が消えた。・・・ん?発光信号?」

 

「発光信号!?何!」

 

「えーっと・・・トイレ・・・え・・・」

 

「何!!」

 

「トイレ終わるまで待ってるって・・・」

 

「有難いけどふざけんな!!」

 

私はまた無線をオープンにして叫ぶ。

でももう限界なので待ってくれるならしてしまおう・・・

 

「え、ハル・・・?」

 

「もう無理!」

 

「あ、うん・・・後ろ・・・来てるけどね・・・」

 

マヤは後ろを見ながら何かボソッと呟いたがそれどころでは無い。

私は携行トイレを取り出して用を足した。

 

「・・・助かったぁ・・・」

 

その時だった。

何かが上空に来た。

私はふと上を見上げる。

 

「・・・な・・・!?」

 

「・・・まぁ・・・うん・・・」

 

私はきっと顔真っ赤だろう。

ハリアーが背面飛行で上空に張り付いていた。

パイロットはカメラでこっちを撮っていた。

フラッシュの量からして連写しまくっている。

 

「・・・そりゃ可愛い女の子が上から丸見えの所で今からトイレしますって宣言したら覗くやついっぱい居ると思うよ・・・」

 

「・・・ッッッ!!!!」

 

ハリアーのパイロットは写真を取りまくりながら親指立てている。

私が出来るのは顔を真っ赤にしながら中指を立てるくらいだ。

・・・だってまだ終わってないからね・・・。

 

「落としてやる落としてやる落としてやるぅぅ!!!」

 

こっちが終わったのを確認してハリアーは反転、全速で逃げていった。

私は旋回して全速で追いかける。

 

「そのコックピットにスパローぶち込んでやる!!」

 

「ハル・・・いやでも覗きはいけない事だからね。うん。成敗しなきゃ」

 

ハリアーはヒラヒラと逃げ回る。

射線を確保しても垂直上昇で逃げられる。

相当な手練のドスケベ野郎が乗っているようだ。

 

「ハル!もう引き返そ、ね?」

 

「もう私生きてけない・・・」

 

「だ、大丈夫だから・・・ね?」

 

「・・・」

 

燃料計を見て少し冷静になる。

まだ距離は半分以上・・・燃料は増槽を使い切りかけていた。

ここで反転しないと村まで燃料が持たないかも知れない。

 

「・・・村に向かうよ」

 

「いいの?」

 

「いいかダメかで言ったら今すぐアイツを叩き落とさないと気が済まないけど・・・村に行かないと・・・次会ったら許さない・・・」

 

「あはは・・・まぁ行こっか」

 

「・・・もう絶対余裕があったらトイレ行っとく・・・」

 

きっと私は涙目だろう・・・

進路を村に合わせて飛行を再開する。

・・・早く地上に降りたい。

 

 

 

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