「それじゃ、道中気をつけて」
《りょーかい!そっちもね!》
テキサスを同時に離陸して2機はそれぞれの目的地へと向かうために旋回した。
「今日初めて乗ったけど動きがトムキャットと違うね!」
「でしょ。ちょっと翼見てて」
「え?わかった」
加速していくとストライクワイバーンの可変翼が動き、矢のような形状に変形した。
「え、すご!」
「水中尾翼まで水平になってるからね」
「ほんとだ!すごいねこの機体!」
おまけにスーパークルーズ能力があるためアフターバーナーを使わなくても音速を突破できる。
このままの速度を維持すれば目的地まで1時間だ。
「でもやっぱり整備にはコストかかるよねー・・・」
「うん、おじさんがこの機体のこと色々調べてくれたけど可変翼の機構が難しいみたい。トムキャットの3倍の整備費はかかるって」
「えーっと・・・おいくらに?」
「月々20万」
「うっへぇ・・・」
「それでも今まで仕事してきて貯めた分があるから当分は大丈夫」
なんて話をしていると音速を突破した。
それにしても飛ばしやすい機体だ。
まだドッグファイトは経験してないがかなりの機動性があるだろう。
おじさん曰く、失速機動も可能らしい。
またこの機体のレーダーは同時に4つの目標を補足して同時攻撃ができるようだ。
ミサイルはアムラームやR-77などアクティブホーミングミサイルならなんでも搭載できるという。
ただ欠点は翼下パイロンが装着できないため兵器搭載量が少ないという事だった。
それでも胴体のウェポンベイに空対空ミサイルなら8発までのミサイルが搭載できる。
また、この世界で研究段階であるステルス機能も有しているとか。
どういった原理でレーダーから消えているのかまだまだ解明されていなかった。
「それにしてもハル、この機体の計器ってすごいね。全部タッチパネル」
「うん、画面も大きいから見やすい」
飛びながら色々と操作してみた。
オートパイロットも使い方は分かったので今は目的地を入力して自動操縦で飛行している。
「ねぇ、マヤの妹ってどんな人?」
「え?私の妹?んーとね・・・お姉ちゃんっ子・・・?」
「なんで疑問形なの」
「いや、他の姉妹を見たことないからね。私の村って1人っ子が多かったから」
「そうなんだ」
「そういうハルは?」
「私は・・・」
「え?あ・・・ごめん、そうだったね」
「いいよ、大丈夫」
私の家族は昔飛行機事故で全員死んだ。
正確には家の上に飛行機が落ちてきた。
それも旅客機が。
民間機を襲った空賊を撃退しようとした冒険者の戦闘機が誤射を起こし、民間機を撃墜した事件があった。
そしてその機体は私たちの住む村に墜落、私の家は家族ごと消えてなくなってしまった。
私はたまたまバイトのような形で村の連絡機を操縦して離れていたため無事だった。
・・・帰り道で村からの緊急無線、近づく救難ヘリ、立ち上る煙・・・今でも鮮明に覚えている。
「思い出させてごめん・・・」
「だから大丈夫」
思い出すと確かに辛いが、これが運命だったと割り切っている。
とはいえ、あの民間機を撃墜した冒険者はその後逃走したと聞いて今でも見つけたら撃ち落としてやりたいほど憎んでいる。
賞金首として手配されているからもう落とされてるかもしれないが。
「それにしても代わり映えの無い風景だね・・・」
外を見てそう呟く。
見渡す限り山や森や川・・・村がいくつかある程度だ。
「マヤ、両親に帰るって連絡はしてるの?」
「うん、昨日のうちにね!お父さん喜んでたけどお母さんからお父さんを何とかしてって言われちゃった」
「なんで?」
「お父さん、VTOL機が好きなんだけどハリアーの排気で建物燃やしちゃったり草原に火をつけちゃったり・・・」
「・・・無茶苦茶してる」
「しかも今度は最新型のF-35Bを買うとかなんとか」
「あれ、F-35Bってまだ市場に出てないんじゃないの?」
「それが最近廃棄された野戦飛行場に立ち寄った冒険者が20機くらい見つけたんだって」
「20機も?」
「どうもその機体を配備してる異世界の空軍基地か何かに扉が開いちゃったみたい」
「それ・・・向こうの人困ってるよ」
「あはは・・・たぶんエライ目にあってるね・・・」
とはいえ私の乗るこの機体も元は異世界の人の機体だ。
この尾翼の3本線がどういった意味なのか気になるところだが・・・。
「それで、何機か放出されたのとステルス機能はオミットされた機体が製造されて出てきてるんだってさ!」
「オリジナル機は高そう・・・」
「うん、5000万ドルだって」
「エルフから貰ったダイヤでも売らないと無理だね・・・」
「逆にステルス機能無しの機体は600万ドルらしいよ!」
安いのか高いのかよく分からない・・・。
でもこの世界でVTOL機はそこそこ人気のある機種だ。
特に舗装した滑走路を作れない小さな村からすればVTOLは貴重な村の航空戦力だった。
ちなみに滑走路を持たない村向けに攻撃ヘリなどに空対空ミサイルを搭載可能なように改造するプランなどが出ていたりする。
ミサイルもサイドワインダーからスパローなどのレーダー誘導ミサイルまで様々だ。
「VTOLか・・・」
「どしたの?」
「ううん、なんでも。」
正直私はVTOL機は苦手だ。
そもそもヘリコプターの操縦が苦手なため、ホバリングなどできない。
マヤは固定翼機も回転翼機も飛ばせるためマヤ向きかもしれない・・・が、彼女曰く、自分で操縦する機体があまりにも高速だと目が回ってしまうらしいためVTOLは乗りたくないそうだ。
「あ!ハル、このあたりで進路0-2-0に向けて!」
「了解。0-2-0」
右旋回して進路を020に合わせる。
「ここからあと30分ほど行ったら私の村だよ!」
「了解、レーダーは大丈夫?」
「なんにも・・・あ、待って何か捕捉」
「敵?」
「えと・・・IFFに応答が・・・かなり大型だから・・・あー・・・」
「早く教えて」
「これ、爆撃機を信仰する会の宣伝機かも」
「え?」
「妹・・・えと、名前はマイって言うんだけど、マイが宣伝機はスクラップから組み上げたB-29だからIFFなんてもん積んでねぇ!って言ってたの思い出して」
「・・・なんて危ないことを・・・」
「爆弾槽にたっぷりとビラ詰め込んで飛んでるんだよね・・・あはは・・・」
マヤは笑っているが・・・敵味方識別装置が無い状態で飛ぶなど自殺行為だ。
空賊にはもちろん、冒険者にだって撃たれても文句は言えなかった。
「まぁ大丈夫だよ。あの爆撃機を攻撃しようものなら100機くらいの爆撃機が飛んでくるから・・・」
「・・・恐ろしい・・・」
「前、どっかのカルト教団が爆撃機を信仰する会に異端者だなんだって攻撃したら次の日にはカルト教団の本拠地から支部まで焼け野原になってたそうだから・・・」
「・・・」
その話は聞いたことがある。
なんのカルト教団だったかは忘れたがとにかく好戦的で自分たち以外の宗教は許さないだから滅するみたいな考え方の連中だった。
そして色々な宗教団体に攻撃を仕掛けていたのだが爆撃機を信仰する会に攻撃を仕掛けたのが運の尽きだった。
目撃者によると攻撃を仕掛けた翌日の早朝から空を埋め尽くすほどのB-52やらTu-95などが飛来しカルト教団本拠地を跡形もなく消し飛ばしてしまった。
爆撃は何時間も波状攻撃で続き生きている者どころかカルト教団の構成員までも文字通り消えてしまって骨の一つも見つからなかったそうだ。
しかもあまりの爆撃に防御魔法すら役に立たなかったという。
そしてその次の日から国に点在する支部を片っ端から爆撃してものの一週間でカルト教団は壊滅したそうだった。
それだけの事をしておいて騎士団などが動かなかったのは民間人に1人も死傷者を出していないこと、居るよりは居ない方がマシのカルト教団を片っ端から空爆したことだった。
しかし、それでも派手に空爆をしていくこの集団が危険組織に認定されていないのは、確実に民間人への誤爆が無いこと、そして爆撃対象はこの国にとって居たら困る集団等だったためむしろ有効な戦力として見られていた。
教団側としては爆撃機さえ崇めてれば何でいいそうだった。
「敵にだけは回したくない・・・」
「戦闘機の護衛無しで来るからね・・・」
それについても聞いたことがある。
まさかの防空専用に改造したB-52とTU-95を使っているそうだ。
近づこうものなら馬鹿みたいな弾幕を張られるらしい。
「あ!ハル!あそこの村見える?」
「うん。あれ?」
「うん!」
「了解、西からアプローチするよ」
「了解!」
マヤが指を指した先には小さな村と長めの舗装された滑走路が見えた。
あれがマヤの村なのだろう。
「帰るの何年ぶり?」
「んーっと、3年ぶりかなー」
「そっか。じゃあ喜んでくれそうだね」
「うん!あ、でもトマホークを連れてこれなかったのは残念だな・・・」
「仕方ないよ。もしかしたら戦闘機動をすることになったかもしれないし」
「まぁね・・・」
なんて話をしてるうちに滑走路は目の前だ。
「さてと、着陸前チェック」
「はいはーい!ランディングギア」
「ダウン、チェック」
「フラップ」
「チェック、オートフラップセット」
淡々とチェックをこなして異常がないことを確認した。
「チェックリストコンプリート!」
「了解、ありがと。じゃあ降りよっか」
村は無管制飛行場だ。
レーダーと目視、必要なら無線で安全を確認した。
「着陸まであと1マイル」
ゆっくりと高度を下げていく。
この機体は低速度域でもかなり安定した飛行をするため着陸がやりやすくていい。
機体はゆっくりと確実に滑走路に着陸した。
「ふぅ、到着っと。燃料が・・・50%くらいかな」
「燃料なら補給出来るよ!」
「なら良かった。駐機したら先に降りていいよ」
「分かった!ありがと!」
「家族に会えるのが楽しみで仕方ないんでしょ」
「あはは・・・バレちゃった?」
「大体雰囲気で察してる」
そして機体を停止させてエンジンを切りキャノピーを開けるとマヤはすぐに降りていった。
マヤの家族・・・妹に会うのが若干怖いがどんな人達か楽しみだった。