あの無法地帯の街から帰ってきて1週間。
今日、ようやくマヤが退院した。
しかしまだ激しい飛行をすると傷が開くかも知れないという事だった。
「マヤ、調子は?」
「なんとかね・・・でも、何かしないと腐っちゃいそう」
「大丈夫、マヤは保存料たっぷり」
「それどういう意味!?」
マヤは久しぶりの家に帰りリビングのソファーでくつろいでいた。
私も隣で冗談を言い合う。
リリアは買い物に行くということでさっきトマホークと出ていった。
「はぁー・・・こういう時こそ何かしたいよねー・・・」
「そうは言ってもマヤの怪我が」
「まぁそうなんだけどさぁ・・・あ!」
「その、あ!は絶対ろくな事じゃない」
「ひどい!ていうか、飛ばなきゃいいんだよね?」
「まぁ、ハイGがかからなければ」
「という事は車なら!」
「却下・・・って動くの早」
いつの間にかどこかに急ぎ足で向かっていった。
ついこの間まで重傷者だったとは思えない。
「ま、いっか・・・」
なんて思ってると何かの本を持ってきた。
「なにそれ」
「車のカタログ!」
「ふーん・・・私、車ってもっと綺麗な色してスリムな物だと思うんだけど」
「何言ってるのさ!エンジンと車輪がくっついてればそれはもう車なんだよ!」
「・・・それ、一般的には暴論」
マヤが持ってきた本はテキサスの車屋にある車種が乗っているカタログ。
本なので最新の情報とまではいかないが基本的に全ての車種が載っている。
で、その肝心な題名だが、テキサスのAPC&IFV・・・
つまりは装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車のカタログだった。
正直、街乗りで車なんてほぼほぼ必要ないので冒険者には重宝される車種ではある。
「1台買お!お金いっぱい貰ったし!」
「却下」
「なんで!」
「陸はヤダ」
なんて話してるとリリアが帰ってきた。
「ただいまー。今日はお肉が安かったわよ・・・ってマヤ何してんの」
「あー!リリア聞いてよ!ハルがぁぁ!!」
「ハルが正しい」
「まだ何も言ってない!!」
「どうせ空飛べないから装甲車か何か買って街の外行こうとか話してたんでしょ」
「え、なにリリアって人の心読めるの怖い」
「なんで私がハルに引かれるのよ!!ていうか本当にその話してたの!?」
「してた」
「ダメに決まってるでしょ!マヤは怪我治ったばっかりなんだから!」
「でも何かしたいぃぃ!!」
マヤは駄々をこねはじめた。
「はぁ・・・でも、なんにもしないのも暇だし・・・」
「え、ハル?」
「マヤ、体に異常が出たらすぐ報告。約束だよ」
「ハル・・・?ということは・・・」
「いいよ。車、買いに行こ。どうせ装甲車とかでも高くて300って所でしょ。報酬は1000出てるんだし」
「なーんか最近マヤに甘いわね・・・」
「そうかな」
「まぁいいけど・・・。で、何にするの?」
「今から話し合おうよ!」
「はいはい。了解」
というわけで3人でカタログを開く。
トマホークも何をしてるのか気になって近くで私たちの様子を見ていた。
「やっぱり定番のBTR?」
「荒野を走るんだったら装輪がいいと思う」
「でも走破性なら履帯じゃない?」
「うーん・・・でも燃費がね・・・」
「あとなるべく3人乗り」
「確かに。そうなるとやっぱり装輪のほうがいいんじゃない?」
そうこう話し始めて1時間。
決まったのはLAV-25。
街で1番流通している型だ。
オリジナルの車両と違って砲塔上部に自動化されたタレット式のM134があり、近づく敵に対して自動的に射撃する。
また後部の兵員区画はキャンピングカーのようになっておりベッドなどが着いている。
さすがに大型のキャンピングカーとまではいかないが野宿する時に便利だ。
値段は250万ドル。
装甲も12.7mm徹甲弾なら余裕で耐えるそうだ。
水上航行能力もあるので冒険するには持ってこいの車両だった。
「車も決まったし、行こっか」
「うん!」
目的のカーショップに電話をして確認してみると在庫もありすぐ引渡し可能なそうだ。
「そうだ!買ったら早速外行かない?」
「いきなり?」
「うん!ちょっとした冒険に!」
「分かった。この辺りに山賊も居ないし綺麗な草原でも見つけておやつでも食べよ」
「やった!」
「それじゃ冒険っていうか遠足ね・・・」
「似たような物」
「・・・似てる?」
なんて話しながら店に行き、早速契約をした。
車内も確認したが案外広々としていた。
オリジナルの車両からかなり内装を変えているようだ。
運転席にはモニターがありそこから周囲の様子を確認できるようになっていた。
ちなみに従来通りハッチから頭を出して運転したりもできる。
私はお金を払い、そのまま運転していく事にした。
「ハルが運転?」
「リリアやる?」
「私は助手席でいいわよ。マヤは砲手?」
「うん!砲手やりたい!」
「了解。じゃあ一旦家に帰って装備積んでから出よう」
「了解!」
というわけで安全運転で家に帰り銃と弾薬、食糧と水を最低でも三日分、予備の燃料を積んだ。
「ぜぇ…ぜぇ…しゅ、出発前から疲れたわ…」
「・・・張り切りすぎた」
「1時間ほど休憩していこうよ・・・死にそう・・・」
何を思って50ℓの燃料が入った携行缶を四つも積もうと思ったのか自分で自分を問いただしたくなる。
弾薬も余ってたからと私とマヤのAKの弾薬600発、リリアの実家から持ってきたというSMGのMPX用の9mm弾が300発。
今から拠点でも落としに行くのかと言いたくなるレベルではあった。
「ところでハル、どこまで行くの?」
「帰れるところ」
「アバウト過ぎない・・・?」
「冒険なんてそんなもん」
「まぁそうだけど・・・」
とりあえずここから北東に進んで200kmほどの所にある大きな湖に行こうと思っている。
比較的魔獣の脅威もなく、近く・・・とは言っても20kmは離れているが少々不気味な森と何故か綺麗な洋館が建ってはいるが。
悪魔が居るだとか幽霊が出るだとかヤバい噂が尽きないが湖から離れているのでそんなに気にする必要はないだろう。
「さてと・・・じゃ行こっか」
車に乗り込み、街の門に向けて車を走らせる。
行き当たりばったりな旅になるがそれもそれでいい。
「なーんか・・・息苦しいわね・・・」
「仕方ないでしょ。装甲車なんだから」
「まぁそうだけどさ・・・」
「やっぱりリリアみたいなお嬢様はオープンカーな装甲車がいい?」
「オープンカーな時点でそれもう装甲車じゃないわよ!」
「真っピンクなオープンカー装甲車」
「それ乗るくらいなら普通の車に乗った方がマシよ!」
「それは同感」
なんて話をしていた時だった。
ふと視線を前に戻すとなんだか真っピンクな物体が近寄ってきた。
対向車線なので当たり前だが。
「・・・・・・」
私はそれを視認して言葉を失う。
リリアもだったが。
それもそのはず、つい数十秒前に話していた真っピンクなオープントップ装甲車が走っていたのだ。
車体は恐らくBTR。
上半分が切り落とされ、車内には無反動砲と思わしき砲が一門着いていた。
そして乗っていたのは妙に派手な格好をしたガンナー集団。
全員が真っピンクな戦闘服を着て真っピンクな軽機関銃を持っていた。
そして全員男のくせして長いツインテールに無駄に男らしい口髭&顎髭。
ついでに筋肉隆々。
筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。
「ヤバいのが乗ってる・・・・」
マヤが砲手席でドン引きしていた。
もっとヤバいのは装甲車の背面に恐らく賞金首であった山賊のリーダーが磔にされていた。
亀甲縛りで。
涙目で周りを見ていたので生きてはいるだろうがこんな変態集団に捕まるなんて運がない・・・。
「見なかったことにしよう・・・」
私たちは全員同じタイミングでそう呟き街の外に出た。
「とりあえず道沿いに進むかな」
「それがいい・・・っていうか結構揺れるわね・・・」
「仕方ないでしょ。舗装されてるわけじゃないんだし」
「まぁそうだけど・・・うっぷ」
「早くない?」
「戦闘機に乗ってるとこの揺れはちょっと・・・」
「はぁ・・・じゃあハッチ開けて新鮮な空気入れよ」
「そうするわ・・・」
「あはは、リリアは意外と弱いね!」
「うるさいわよ・・・あなたは平気なの?」
「うん!私はあと30秒くらいあれば吐きそうだよ!」
「あなた私よりヤバいじゃない!!」
「あはは!エチケット袋取ってヤバい吐きそう」
「ハル!その袋早く渡して!!」
「・・・なにこれ」
私は結構本気で引き返そうか悩み始めた。
「ねぇリリア、キラキラ加工ってできる?」
「え?何それ。ていうかマヤはもう大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だからキラキラ加工がほしオロロロロ」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
「・・・・・・・・・・帰りたい」
「いやもうこれは帰りましょう!!引き返す!!」
「街出て10分だよ・・・」
「大丈夫あと10分あったらもう1回いけそうだよリリア」
「何がよ!!ていうかあなた女の子なんだからもうちょい気にしなさいよ!!」
「リリア、こんな格言を知ってる?」
「な、何よ」
「背に腹は変えられなオロロロロ」
「それ格言じゃなくて異世界のことわざでしょうが!!!」
「・・・ゲロイン」
「ハルはハルでそんな事言わない!!」
「・・・いい加減私おかしくなりそうだからどうにかして」
「どうにか出来たらしてるわよ!!」
「・・・もう車で外行かない」
車で旅は無理。
そうハッキリと分かったある日の午後だった。