「たまにはトムキャット乗りたい・・・」
「あはは・・・ごめんね、まだちょっと傷の調子が・・・」
「いいよ、嫌味で言ってるわけじゃないから」
「まぁでも・・・ほら!ヘリもいいでしょ?」
「まぁね・・・」
私はトムキャットに乗れない不満を八つ当たりのようにマヤに言った。
仕方ないことだが。
今回受けたクエストはSAR。
捜索救難だ。
捜索救難とは言っても場所はほぼ特定されていて迎えに行くような形だった。
依頼者は要救助者のパーティメンバー。
妙に報酬もいい。
「で、助ける人が・・・伝説の人なの?」
「そうみたいだね」
「ハルはどういう伝説か知ってるの?」
「まぁ・・・うん。本で読んだことあるから」
伝説の人・・・というが伝説というよりもいい意味でも悪い意味でも化け物って感じだ。
何しろその人の格言は「本当の空中戦は脱出してからだ」だからだ。
戦闘機乗りとしての腕も確かな人物なのだが、撃墜数よりも被撃墜数のほうが多い。
ただしどんな損傷だろうが脱出し、隙あらば脱出した後に敵戦闘機を撃墜しているのだ。
その方法も、ポケットに入っていたスパナを敵機のエアインテークに放り込む、護身用の44口径拳銃でコクピットをぶち抜く、LAWという重さ2.5kgほどの対戦車ロケット弾を脱出後空中でぶっ放して敵機に命中させる・・・などなど。
1番聞いててヤバかったエピソードは脱出後背後の敵機のパイロットを持っていたスナイパーライフルで射殺したあとその機体に飛び乗って奪って帰ってきたという事があった。
その時、「クイックショットの練習してて良かった」と意味不明な発言もしていたそうだが、そんなのさすがに嘘だろうという人々も居た。
そういう人達に向かって彼は「戦場民ならこれくらい出来て当然」とさらに意味不明な発言をしていた。
そして、奪ってきた敵機のガンカメラに満面の笑顔でパイロットをぶち抜きキャノピーを破壊して乗っていたパイロットを放り投げる瞬間が撮影されており、これがきっかけなのか伝説の人と言われるようになっていった。
1部では脱出の人とか言われているらしい。
「賞金首じゃなくて良かった」
「う、撃たれて死ぬのはやだね・・・」
「同感」
「まぁとりあえず早く見つけて帰りましょう。ただでさえ装甲車分マイナス出てるんだから」
「う・・・ごめんなさい」
「べつにマヤのせいじゃないからいい」
「そうだけど〜・・・」
「・・・まぁ吐かないでね」
「もうそれは忘れて!!」
この前の装甲車を買ったはいいが外に出るとあまりに揺れが酷く、簡単に車酔いしてしまったために完全に街乗り専用になってしまった。
まあ・・・街自体はそこそこな広さだし飛行場までの足が出来たから良いか・・・とポジティブに考えていた。
・・・砲手席からは未だに酸っぱい臭いがするが。
「ていうか、SARで場所も分かるとは言え、自衛用の装備が貧弱すぎないかしら?」
「そう?そもそも救難機仕様のこの子に重武装もおかしい話だと思うけど」
「まぁそうだけどさ・・・」
リリアの言うことも分かる。
単機で武装と言えば、本来増槽がある部分に装着したM2重機関銃とホイストがある場所と反対側のドアの下に装備したスティンガーミサイル。
機関銃も装弾数は両方合わせて600発、スティンガーは2発しかない。
あとはチャフとフレア、私たちの個人携行火器くらいだ。
「これでも改造したほうなんだよー!」
「こうするくらいならDAP仕様のほうが良かったんじゃない?」
「私は救難機仕様のほうが好きなの!」
「そこはマヤのこだわりだからね」
「そうなのです!」
「私はしっかり武装してあるほうが安心感あって好きなんだけどね」
「じゃあリリアのフランカーには155mm榴弾砲を」
「私のフランカーに何する気よ!!ガンシップにでもしたいの!?」
「うん」
「ひどいわよ!!」
「実家に空対地ミサイルぶち込む人が何を言うか」
「あれは・・・えーっと・・・あの・・・事故だから・・・」
「・・・レーザー誘導だったよね」
「・・・はい」
「命中まで誘導してたって言ってたよね」
「はい・・・」
「有罪」
なんて話しながら目的地に向かう。
それにしてもリリアは本当に実家に向かってよく空対地ミサイルぶち込んだものだ・・・。
だが何故かその時のお見合い相手に気に入られ猛烈なアタックを仕掛けられているが毎回丁重にお断りしていた。
ちなみに丁重にというが、しつこい様なら500kg爆弾を頭の上に落とすぞと脅してるだけだ。
「ん・・・ハル、前に何か・・・フレア?」
「目標かも。急ごう」
「了解!」
「リリア、ホイストは使える?」
「えぇ!」
「分かった。マヤ、私は武装を担当する」
「了解!じゃ、いっちょやりますか!」
フレアが上がった位置に到着すると近くに戦闘機の残骸とパラシュートが落ちていた。
その近くに人が横たわっていた。
「まずい、重傷かも」
「マヤ!ホバリングして!降りるわ!」
「了解!」
ホバリングを開始するとリリアはホイストを使い降下していく。
《大丈夫ですか!?》
《あぁ・・・ちくしょう・・・やりすぎたぜ》
《ハル、命に別状はなさそうだけど骨折してるかも》
「了解、担架を下ろす?」
《いえ、ここに着陸できそう。着陸してそのままピックアップするわ》
「了解。マヤ、いける?」
「これだけ広ければね!」
「了解、行こう」
ヘリはゆっくり着陸しリリアが目標を担ぎこんだ。
「すまない、助かった・・・」
「あなたが伝説の・・・」
「あぁ・・・そう言われてるみたいだがな・・・しくったよ」
「?」
「まったく、パイロットぶち抜いて戦闘機奪ったまでは良かったんだがな・・・」
「待って。いきなり話がおかしい」
「こんなもん出来て当たり前だろうが。俺のパイセンは脱出したあとRPGで後ろの戦闘機撃墜してもう一度脱出した戦闘機に乗り込んで飛んでったぞ」
この人あれか。
新しい種族か何かか。
「いてて・・・あぁちくしょう・・・パイロット放り投げたら足が射出レバーに引っかかっててよ。一緒にイジェクトだよ」
「・・・・・・」
「あ、あの・・・ところで・・・お名前は・・・」
「名前・・・ふっ・・・遠い昔に捨てちまったぜ」
なんでそこだけ痛い感じなんだよこのオッサン。
「まぁ・・・そうだな。俺のコールサインはオメガだ。気軽に呼んでくれ」
「あ、うん・・・よろしく」
「ところで、3人揃いも揃って美人ばっかだな。俺のパーティに来て欲しいよ」
「丁重にお断りします」
「悲しいねぇ・・・まぁいいさ。姉ちゃんがくれた痛み止めが効いてきて助かったよ」
「いえいえ。たまたま持ってただけだから」
機内ではオメガの伝説の話で盛り上がっていた。
その時だった。
「ん・・・レーダースパイク・・・」
「ん?」
RWRに警告音が鳴る。
「しまっ・・・!!ミサイル!!!」
「チャフ?!フレア!?」
「どっちでも!!」
「了解!!」
私はチャフとフレアを同時に射出した。
「リリア!後ろなにが来てる!?」
「まだ見えない!!どこからなの!?」
「7時方向!高速!!」
「あれだ!!」
オメガは少し上空を指さした。
「ハル!見えた!フィッシュベッド!」
「空賊の標準機だね・・・マヤ!敵が追い抜いたら撃つよ!」
「了解!」
その時だった。
「おい!こいつ使っていいか?!」
「そ、それ弓矢だよ!?」
「あぁ!たまにはコイツ使ってみたくてな!痛み止め効いてるし行けそうだ!」
「なにが!?」
「パイロットの姉ちゃん!高度上げてあの野郎が下を通過するようにしてくれ!」
「えぇ!?わ、分かった!」
高度を少しあげる。
ミグはその間に急接近してきた。
「よーいいい子だ・・・そうだそこだ・・・」
オメガは弓矢を構えて呟いた。
「あらよっと!」
次の瞬間矢が発射される。
同時に・・・
「ちょっくら鹵獲してくるぜ!!」
「はぁ!?」
「ちょっ、オメガさん!?」
リリアの制止を振り切り飛び降りる。
そして数秒もしないうちに敵戦闘機も重なった。
一瞬だけ見えたコックピットにはさっき発射された矢が突き刺さっていた。
「あ、あれ死んだよね!?」
「い、いや、満面の笑顔で飛んだからたぶん・・・」
「笑顔だろうがなんだろうがあの速度だよ!?」
ドン引きする私と焦るマヤ。
だが次の瞬間キャノピーらしきものが吹き飛び、コックピットから乗っていたであろうパイロットが放り投げられた。
そしてそれまで操作されていなかった機体が急旋回してこっちに向かってくる。
《ほーら見たか!簡単だろ!》
「どこが!?」
「・・・人間のやることじゃない」
「・・・同感よ」
《はっはっは!!ニュータイプだからな!》
「ただの大馬鹿野郎だよ・・・」
「尾翼に三本線でも書いとく?」
「なんで三本線?」
「あら、知らないの?異世界のトレンドよ。馬鹿の尾翼に三本線は」
「何それ・・・」
「さぁ、異世界の事だし」
私たちはその後数分、キャノピーが吹っ飛んだミグを目で追いかけていた。
あとから聞いた話だとこの人の持ってる機体はこうやって鹵獲した機体ばかりだと言う。
・・・だから脱出するのに抵抗がないのか・・・。
だが飛んでる戦闘機を鹵獲なんてもうこの人そのものが魔獣ではないだろうか・・・。
人型魔獣イジェクトマン・・・。
私の中では勝手にそう呼ばせてもらうことにした。