冒険者¦職業「戦闘機パイロット」
「ひーまーだーよー」
「・・・うるさい」
「あと何時間かかるのー?」
「3時間。文句言ってないで見張ってて」
「はいはーい・・・どうせなら何か来ればいいのに・・・」
「やめてよ、縁起でもない」
そんな話をするのは雲より高い高度10000mの世界。
私は愛機のF-14Dのコックピットで文句を言うRIO(レーダー士官)のマヤと話していた。
「護衛クエストなのはいいけどさぁ・・・何で旅客機を戦闘機が守らなくちゃいかんのか」
「仕方ないでしょ。航空機の素材が主食の翼竜がいるんだから」
「知ってるけどさ・・・鉄なんか食べて美味しいのかな」
「さぁね。主食なんだから美味しいんじゃない?」
「ふーん・・・あ、ということはこのトムきゃんも!」
「やめて」
「はーい・・・」
すぐ近くを飛ぶ、旅客機B767を横目にそんな話をした。
この世界には昔、魔王と呼ばれる存在がいた。
正確には今もいるが。
ほんの百年前、その魔王の配下の1人が異世界を侵略してみようと思い立ち異世界へ繋がる扉を開いた。
そこからこの世界の歴史は大きく変わった。
元は剣と魔法の世界だった。
勇者や冒険者、魔法使いなどがパーティーを組んで魔物を討伐したり魔王討伐のために旅をしたりしていた。
だが、何かの間違いなのか異世界への扉がこの世界の至る所に開いてしまい、そこから異世界の技術が流れ込んできた。
その中でも大きく歴史を変えてしまったのは軍事技術だった。
今では剣や弓は廃れ、冒険者も勇者も小銃や機関銃で武装している。
そして人類の夢でもある空を飛ぶ技術、航空機も入ってきた。
賢者達や学者達は何としても航空機に乗りたい、そして作りたいと考え血も滲むような努力の末、航空機の操縦技術の習得と生産方法を作り出した。
最近は魔法で異世界で使われている航空機などをコピーして召喚するという、とんでもない方法をしている。
また異世界からの技術の一つに宇宙技術もあり、人工衛星などを打ち上げて日々の生活を便利にしていった。
「マヤ、レーダーに反応は?」
「なーし。あと少しでテキサスの街だよ」
「了解」
テキサスの街。
昔、この街が作られて名前がまだ無かった頃、異世界から流れてきた地図を見たこの街の地学者がこの世界の地図と異世界で似たような位置の場所を暇つぶしに探した時に偶然、この街と異世界のアメリカという国のテキサスという場所が一致したらしい。
それを領主に伝えてみたら、面白いと思った領主がそのまま街の名前にしてしまったのだと言う。
街には港と空港があり、街の周囲には比較的弱い魔物や簡単なダンジョンなどがあるため駆け出しの冒険者たちが集まっていた。
「まったく、街と街の移動に飛行機使わないといけないなんてね・・・大変なご時世だよ」
「街どうし離れてるからね。それに街の外は魔物が多いわけだし。昔なんて歩きか馬なんだからそれに比べたら便利なものだよ」
「まーね・・・あ、ハル。今日の報酬で何食べる?」
「お肉」
「だよね・・・」
「何か食べたいものあるの?」
「港近いから新鮮な海の幸とか!」
「でもお肉」
「結局お肉かい!」
晩ご飯の話をしていたら街の管制官が呼びかけてきた。
《エンジェル0-1、テキサスギルドタワー》
「エンジェル0-1」
テキサスの街は冒険者ギルドと空港が一緒になっている珍しい街だ。
《長時間護衛、お疲れ様でした。ワールドトラベル1665便に続いて滑走路17に着陸してください。風はほぼ無風です》
「エンジェル0-1、了解」
雲の切れ目から街が見えた。
街は昔ながらの美しい木組みの街並みで周りを少し高い壁に囲まれていた。
その街の真ん中には街並みに不釣り合いな空港と長い滑走路があった。
街の外壁には地対空ミサイルも配備されていた。
《エンジェル0-1、ワールドトラベル1665》
「エンジェル0-1」
《護衛、ありがとうございました》
「どういたしまして。あとは安全な着陸を」
《了解しました。お疲れ様でした。》
そうお礼を言われて無線を切った。
「一安心」
「そうだねー・・・あ、まった。安心できない」
「え?」
「3時方向からボギー・・・」
「ここで来るかな」
「まぁ、ほら。そういう日も、ね?」
「マヤが敵こいなんて言うから」
「うぐっ!・・・ごめんなさい・・・」
「いいから、迎撃するよ。エンジェル0-1からタワー。3時方向にボギー確認。例の翼竜の可能性があるため迎撃します」
《タワー、了解》
私は右に旋回して不明機と正対する。
「どうする?スパローしか積んでないけど」
「視界外でやりたいけどもし街に帰る航空機だったらまずい」
「だよね。」
「接近して確認しよう」
「了解、ターゲットの高度は7600ft」
「了解」
上昇してターゲットと同高度になる。
あとは相手が何か確認するだけだ。
「目標近づく・・・10マイル!」
「分かった。マヤ、翼竜相手に格闘戦は厳しいかも知れないから1度離れてからスパローで攻撃する」
「了解!相手が翼竜ならの話だけどね!」
そうこうしてる間に正面に何か黒い点が見えた。
何かが動いてるような感じだ。
「どうハル、分かる?」
「・・・翼竜」
「街に近づかれると厄介だし、迎撃しよっか」
「撃墜したら追加報酬の申請が必要だね」
「あはは・・・そこはしっかり持っていくのね・・・」
マッハ1で目標に近づいた。
数十秒もしないうちに目標とすれ違う。
あの航空機が主食の翼竜だった。
「エンジェル0-1、エンゲージ」
「マスターアームON!」
操縦桿を引いて約3.5Gで旋回する。
翼竜はもう離れてかなりの距離になっていた。
だが、AIM-7スパローの有効射程圏内だ。
「ターゲットロックオン!」
「FOX1」
「ファイア!」
翼下のパイロンからスパローが1発発射される。
マッハ4の速度でミサイルは翼竜に向かっていった。
「命中まで5・・・4・・・3・・・2・・・スプラッシュ!」
「撃墜?」
「レーダーから消滅・・・撃墜だよっ!」
「ふぅ・・・帰ろっか。燃料もそろそろ危ないから」
「そうだね!追加報酬で何買おうかなー♪」
後席のマヤは追加報酬の事で頭がいっぱいの様だった。
その後は翼竜の残骸を確認して写真撮影、テキサスの街へと進路を取った。
街は夕暮れ時で夕日がとても綺麗だった。
着陸して駐機場に機体を止めた時、夕日とF-14Dが重なり思わず写真を撮ってしまった。
「んん・・・くぅぅぅ!!やっぱ地上はいいよねー」
「じゃあマヤはガンナーになればいい。RIOは別に見つける」
「やめてよー!私ハルがいないと死んじゃう!」
「私は薬物か」
「似たような物!ハルの匂い嗅いでないとダメなの!」
「気持ち悪い」
引っ付いてくるマヤは引き剥がし、ギルドに入る。
受付で報酬と戦闘機の整備、補給の申請もして今日の宿を探した。
「それにしてもさー、ハルは新しい機体とか買わないの?」
「え?」
「トムきゃんに乗り始めてもう3年くらい経つでしょ?最近、複座のホーネットとか出てるしと思って」
「マヤは他の機体のほうが好きなの?」
「違うよ!さっき駐機場で複座のフランカーとか見て思ったの!」
「・・・私はあのトムキャットが1番だから」
「何かハルの彼氏みたいだね」
「トムキャットが墜ちる時は私の死ぬ時」
「やめてよ縁起でもないから!」
なんて会話しながら街を歩く。
街にある屋台からはいい匂いがしていた。
それにしても、この街は様々な人がいる。
パイロットの冒険者の他にガンナーと呼ばれる銃火器をメインに扱う冒険者、魔物を狩ってその素材で鎧や武器を作るモンスターハンターと呼ばれる冒険者・・・色々だ。
私達、パイロットの仕事はさっきのような民間機の護衛や行方不明になった冒険者の捜索、付近に点在する集落が魔物の襲撃を受けた際に航空戦力を持ってそれを撃退する航空支援や冒険者からの要請を受けて近接航空支援を行ったりだ。
またもう一つ重要な役割が発見された魔王軍の拠点や訓練キャンプを空爆する事だった。
魔法使いを後席に乗せて爆弾に結界を通過する効果を付けてもらって爆撃した事もある。
「この宿でいいか」
三階建ての宿に入る。
中はとても綺麗だった。
安宿とは違う雰囲気だ。
「あー!!」
入るや否や、いきなり1人の少女に指を指されて叫ばれる。
「あ、リリア」
それは昔からの幼馴染のリリアだった。
「久しぶり。ずいぶん可愛くなったね」
「え、か、可愛くなった?ほんと?」
「うん、その黒髪綺麗だよ」
なんて話をしていたら横でマヤが頭を抱えている。
「バカなァッ!!なぜ、なぜあのハルがァッ!!!」
「幼馴染だし」
「え、えへへ、可愛いだなんて・・・じゃなくて!!」
「褒めたんだからもういいでしょ」
「その冷たさやっぱりいつものハルだ」
何故か横で安心しているマヤ。
「今日こそ決着付けてやるんだから!」
「え・・・まだやるの?」
「そーよ!!」
リリアは私と同じパイロットだ。
幼馴染=勝負するものとでも思っているのかずっと勝負を挑んでくる。
最近は主に空中戦だが。
「この前、フルクラムを買ったのよ!これで勝ちね!」
「・・・」
そりゃ格闘戦に持ち込まれたらこっちの負けだ。
でもリリアは昔から格闘戦が苦手だと言っていた。
「・・・あんた昔から格闘戦が苦手だって言ってたでしょ」
「ち、ちがうしっ!!」
「まぁいいけど・・・せめて今日はやめてよ。さっきも6時間近く飛んでたんだから」
「ふふっ!怖くなって逃げるのね!」
「大切なライバルが目の前で死んでもいいならやるけど」
「・・・あのー、それもしかしてRIOの私も含まれてます?」
「うるさい」
「あ、はい・・・」
実際、かなり疲れていたのでこれ以上の飛行は危険だと思っていた。
「え、えと・・・ほんとに疲れてるの?」
「うん。これ見たら分かるでしょ」
私はクエストの詳細が載った書類を見せる。
「えと・・・じゃ、じゃあ明日勝負だからね!!」
「はいはい・・・ルールは?」
「ロックオンを10秒以上かペイント弾の被弾でどう?」
「乗った。いいよ」
「やった!じゃあ明日ね!」
そう言ってリリアは宿を出ていった。
というか何しに宿に居たんだこの子。
「マジでやるの?」
「マジでやる」
「いいけどさ・・・相手がいくら格闘戦が苦手だって言ってもMig-29だよ?こっちは大型のF-14だし・・・」
「大丈夫」
「まぁハルがパイロットだからいいけど・・・ま、いいや!とりあえず部屋とって休も!」
「うん」
「そーいえばさ」
「うん?」
「昔は魔王って居たらしいじゃん?今どこにいるんだろうなって」
「さぁ。ただ、出てこられたらみんな困るって事しか」
「まぁね」
昔学校で聞いた話だが、魔王軍は世界各地に開いた扉のせいで異世界の技術がこの世界に流入。
扉を開いたのは魔王軍だが日頃の行いでも悪かったのか自軍の圏内には一つか2つくらいしか開かず、しかも繋がった世界が核戦争で滅びた世界だった。
放射能汚染と言うものが酷すぎる事と、魔王軍からしてもまったく魅力のない世界のため扉を閉じたらしい。
おまけに世界各地に扉が開いている事にも気づいていなかった。
そしてそろそろ世界征服に乗り出そうとした時は扉が開いて30年後で世界は剣と魔法から銃と魔法という世界になっていた。
おまけに航空機も出てきて居て人間側の圧倒的な戦力差にすぐに壊滅的な被害を受けたらしい。
そこからは海底に逃げただとか異世界に逃げただとか。
「ふぁ・・・」
「あ!ハルの可愛い欠伸シーン!」
「なにそれ」
私の欠伸の何がいいのか。
部屋に入り、荷物をベッドに放り投げた。
「あ〜・・・ふかふか〜・・・」
「マヤ、先にお風呂」
「はいはーい・・・あ!ハルも一緒に入ろ!」
「そのつもりだけど」
「やったぜ」
「なぜ毎回私と一緒に入ることが嬉しいの?」
「そりゃ、こんな可愛い女の子と一緒にお風呂なんて天国ですよ!」
鼻息を荒くしながらマヤは言うが・・・
同じ女同士なのに・・・
「ほら!いこ!」
マヤは服を脱ぎ捨てながら部屋に付いている風呂場に向かった。
「いや、せめて服脱ぎ捨てるの止めようよ」
マヤが放り投げた下着が見事に頭に乗っかり、かなり滑稽な姿で私は言った。
「ハル!早く!」
「急かさないで」
私も風呂に向かった。
入るや否や洗いっこしようと言うマヤから何か恐ろしいモノを感じて断固拒否しておいた。
「はー・・・極楽極楽・・・」
「お年寄りみたい」
「まだピチピチの20歳ですもん!」
「知ってる」
「冷たいなー・・・」
「暖かいよ。マヤどこかおかしいんじゃない?」
「なんでよ!あ!もしかしてお風呂のお湯の話!?」
「もしかしてじゃなくてお風呂のお湯の話」
「私そういう話したんじゃないんですー!」
なんて話しながら1日の疲れを癒した。
明日はリリアとの模擬空戦。
戦闘機同士の空中戦など滅多に起こらないがたまに賞金首の排除というクエストで戦闘機乗りがいる事がある。
大体はバケモノみたいに強いヤツらばかりだが。
「マヤ、お先に出るよ」
「はーい、私はもうちょいのんびりして行くよ」
「のぼせないように」
「分かってる!」
私は体を拭いて着替え、ベッドに寝転んだ。
明日必要なモノを考えながら天井を見ていたらいつの間にか寝てしまった。
私は見慣れたコックピットに座っていた。
「ハル!後ろ後ろ!!」
「くっ・・・・!!」
F-14Dのコックピット。
操縦桿を目一杯手前に引いて上昇する。
「相手のガンレンジに入っちゃうよ!!」
「分かってる・・・!」
F-14とMig-29。
格闘戦能力が違いすぎる。
私は右にロールし降下に切り替えた。
Migもそれに着いてくる。
「振り切れないよ!!」
私は今度は左にロールしエアブレーキを開きながら上昇する。
急減速で相手をオーバーシュートさせようとした。
その時だった。
機体が大きく揺さぶられる。
同時にコックピットに警報が鳴り響く。
正面を見ると左の垂直尾翼の半分が無くなったファルクラムが現れた。
左エンジンをファルクラムの左垂直尾翼が切り裂いていった。
アフターバーナーを全開にしていたため、漏れた燃料に引火。
しかも一気に推力に差が生じたため、テールスライドを起こした。
「ハル!第1エンジンが!!」
「分かってるよ!!リリアは大丈夫!?」
「無事っぽい!!」
コックピットには火災警報が鳴り響く。
エンジンから出火していた。
「どうするの!?」
「ここは海の上!あと5000ftある!」
「だからどうだってのー!」
「錐揉みから脱出できるかやってみる!!」
私は思いっきりラダーペダルを踏み込み、エンジンの推力を落とす。
《ハル!脱出して!》
対戦相手のリリアの叫び声が入った。
「トムキャットを捨てれない・・・!」
「今はそんな場合じゃないから!!」
すでにトムキャットは回復不能な錐揉み状態に陥っていた。
エンジンの火災も止まらない。
「・・・マヤ!イジェクト!!」
「遠心力で手が届かない!!」
戦闘機は高速で左に水平に回転している。
遠心力のせいで手が上手く伸びない。
「マヤ!!」
「うぐぐぐ・・・!!あとちょっと!!」
高度はのこり3000ft。
「届いた!!」
その声の後で私はシートに固定される。
そしてキャノピーが吹き飛び一瞬強風を感じた後、シートが空中に向かって打ち出された。
私はその時ふと下を見た。
「マヤ・・・?」
後席だけが打ち出されていないF-14が視界に入ってきた。
マヤが何回もレバーを引いている様子が見えた。
私の心臓の心拍数が一気に上がるのを感じた。
戦闘機はその間にも一気に墜ちていく。
「マヤ・・・マヤァァァ!!」
直後にトムキャットは水面まであとすこしの所で爆発した。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は自分でもこんな声が出るのかというくらい大声で叫んだ。
「なんで・・・なんで!!マヤァァァ!!」
無情にも開くパラシュート。
なぜ私だけ無事なのだろうか。
「マヤ・・・やだ・・・やだよ・・・!」
私は大粒の涙を流して泣いた。
その時やたらと体を揺さぶられる感覚がした。
「・・・ル・・・!ねぇ!ハルってば!!」
「んぇ・・・?マヤ・・・?」
「そーだよ!いきなり私の名前叫んだと思った魘されてるんだもん!」
「あれ・・・?夢・・・」
「まったくどんな夢見てたんだか・・・」
夢オチだと気付き一安心した。
だけど今日の模擬戦はどうにも気が乗らない。
あんな夢を見たせいだ。
「ねぇ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「本当に?汗まみれだし・・・」
「大丈夫、暑いだけ」
「いや今日寒いんですけど・・・」
「・・・・・」
マヤが死ぬ夢を見た・・・なんて言えない。
なんてしてたらリリアが部屋に飛び込んできた。
「決闘のお時間ですわよ!!」
「何故にお嬢様言葉なの?」
「気分よ!」
「あ、そ・・・元気だね・・・」
マヤは疲れた感じで言う。
とりあえず夢は夢だ。
「とにかくすぐに飛行場で集合よ!」
「はいはい・・・」
それだけ言ってリリアは飛び出していった。
仕方ないので私達も対Gスーツを用意して出発の準備をした。
・・・賑やかな1日になりそうだ。