「・・・やばい」
私は貯金残高を見て頭を抱えた。
あの救出作戦から1週間。
奴隷として女の子達を売った商人は騎士団によって全員逮捕。
そこから芋ずる式に関わりのある組織が摘発されていった。
しかしなんでそんなに早く商人が仲間の居場所を吐いたのか気になったのだが、噂によると喋りそうなやつの家族を誘拐してそいつの前に引きずり出してぶん殴ったり、殺そうとしてみたりと極悪非道もいい所の事をしていたようだ。
・・・それを国がやるのはどうかと思うが・・・。
とにかく、かなりの数の奴隷商人が捕まり、捕まっていた奴隷達も解放された。
そして、私たちにも報酬が・・・と思っていたのだが、恩赦を得たとは言え仮にも海賊と協力していた事がバレてしまい一時は逮捕までされかけたのだが、テキサスの領主が何とか交渉してくれ、国王様も奴隷解放の功績を認めて逮捕だけは免れた・・・が、代わりに報酬無しだった。
冒険者権限の剥奪が無いだけマシだと思おう・・・。
「仕事しないとヤバい・・・」
「まったく、後先考えないからよ」
「仕方ないじゃん・・・あの方法が手っ取り早かったんだから・・・」
私はどうしようかと考える。
仕事に・・・とは思うがまず幾ら必要かを考える。
何とか私とリリア、ミオの機体を飛ばす燃料は買える。
だが、食費や弾薬費がどうなるか・・・。
最悪、食費は切り詰めれる。
ただ弾だけは譲れない。
「まぁ悩んでても仕方ないしギルドに行きましょ」
「そうする・・・」
「今日は戦闘機?」
「うん。エルはどうする?」
「じゃあ私はナユのお見舞いに行ってくる」
「分かった」
助けたエルの友達のナユは精神的に深い傷を負っていて今は入院して療養中だった。
エルが行くと嘘のように元気になるらしいが、居なくなると途端に精神的に不安定になるそうだ。
「今日はこの5人でお仕事かな」
「私は良いわよ。飛べるなら」
「私もフランカーに乗りたいのでいいです!ね、ルイ!」
「・・・うん」
「ハルは私が居ないとダメでしょ!」
というわけでみんなOKのようだ。
家事は家にいるエルフの子達に任せて仕事に行く。
「そういえば戦闘機で仕事するの久々じゃない?」
「確かに」
「滑走路も直ったみたいだし良かったよね!」
「ほんとです!フランカーに乗れなかったらどうしよって思いました!」
「そういえば買ってからあんまり乗ってないよね」
「そうですね、かなり久々です!」
ミオが買ったのはSu-30M
リリアのフランカーのように推力偏向ノズルが搭載され、カナード翼も装備されたタイプのフランカーを購入した。
今はリリアとミオの機体がメインで戦闘を行い、私のトムキャットが簡易的なAWACSとして運用している・・・と言うことになっては居るが結局私も気づいたら敵に突っ込んで行ってるのであんまりそんな頭のいい運用は出来ていなかった。
「今日は碌でもない仕事がありませんように・・・」
そう祈りながら格納庫に入ると、悪い方に祈りが通じたのかおじさんがまた笑顔でこっちにきた。
「待ってたぞい!」
「全くもって待ってねーぞぃ・・・クソが・・・」
「ハルの口が段々悪くなる・・・」
「なんじゃ!そんな邪険にせんでもよいじゃろ!いい仕事の話じゃよ!」
「おじさんが斡旋してくれる仕事でマシなのひとつも無かったんだけど」
大体酷い目にあってるので・・・たぶん今回もだろう。
しかも大体断りづらい依頼だ。
「・・・一応聞いとくけど・・・内容は?」
「これじゃ!」
おじさんは紙を私に渡す。
それを皆で見た。
内容は、チャーター機を飛ばして欲しいという内容だった。
このテキサスから南に200kmも行ったところにある廃棄された飛行場を改装した村に行き、人と郵便物などを積んで王都まで飛ぶという内容だった。
ここから王都までは北に片道600km。
村からだと片道約800kmというところだ。
途中の燃料費は依頼者側が持つということだった。
ただし、護衛機を引き連れていてもそっちの燃料費までは持てないということだった。
報酬は60万ドル。
そんなに高い仕事でもないが、機体の整備費などを引いても私たち全員分の1週間分の食費にはなる。
なにより、民間機を操縦する機会はほとんどないのでこの際引き受けてみるのも良いだろう。
「ちなみに使用する機体は767じゃよ」
「旅客機なの?」
てっきり小型のリアジェットだと思っていた。
767に乗るのは初めてだ。
しっかりマニュアルを読まないと・・・。
「王都で売るものとかがあるんじゃろ。それに乗るのが80人とか言ってたの」
「それなら737とかあったんじゃ・・・」
「この街で機体を貸してくれる航空会社が無かったんじゃ。だからこの後ガンシップに改装するついでに中古で安かった767を買い取ったんじゃよ」
「・・・あの、何かとんでもない言葉が聞こえたけど」
「ん?767ガンシップ計画か?」
「なんでわざわざそんな事するの!?」
「いや、面白そうじゃから」
「そうだった・・・おじさんはそういう人だった・・・」
そして私たちはその依頼を受けることにした。
操縦は私とマヤ。
護衛機でリリアとミオ、ルイのフランカーだ。
「私、旅客機は初めて!」
「私も。副操縦士よろしくね」
「任せて!」
リリア達とは自分の機体の準備で一旦分かれた。
出発時刻になったら無線で連絡をすることになった。
私たちはおじさんに案内された格納庫に向かう。
そこには中古というにはあまりにも綺麗なB767-300が駐機してあった。
真っ白な機体に尾翼だけ青く塗られている。
戦闘機とは違った美しさがあった。
「じゃコックピットで打ち合わせしよ」
私たちはタラップを登って操縦室に入る。
そこには戦闘機にはない計器やスイッチ類が沢山ある。
しかし全て見やすく配置されておりマニュアルを見ながらどれがどの計器かを確認していった。
「んーと・・・これして・・・こーしたら・・・エンジンスタート・・・」
「これどっちかがチェックリスト読み上げた方がいいかも」
「じゃあ今回ハルが読んでよ!私エンジンスタートしてみたい!」
「分かった、じゃあマヤに任せる。」
そうやって準備していくと出発時刻になる。
機体はトーイングカーでエプロンへと出た。
「よし、じゃあバッテリー」
「えーっと・・・バッテリー・・・あった、オン」
「APUスタート」
「APU・・・よし」
APUの始動音が響いてくる。
私はAPUが動くまでに無線機の設定をした。
「リリア、準備いい?」
《いいわよ。コールサインは?》
「変わんない。私たちが0-1、リリアが0-2、ミオたちが0-3」
《了解》
《了解です!》
「それじゃ、マヤ、エンジンスタート」
「了解!えーっと・・・まずどれ?」
「んと・・・」
私はマニュアルを読み上げてスイッチの位置を示した。
エンジンは問題なく始動し回転数を上げていく。
「ナンバー1・・・始動。よし、大丈夫だね」
「ナンバー2も異常なしだよ!」
「おっけー、そしたら管制に連絡するね」
「了解!」
「テキサスタワー、こちらエンジェル0-1。南方向への出発許可願います」
《エンジェル0-1、タワー。南方向への出発を許可します。誘導路に従って滑走路17に向かってください。タキシングを許可》
「滑走路17にタキシング、エンジェル0-1」
私はゆっくりとスロットルを開いて前進を始める。
「ねぇマヤ。上に上がったら操縦してみる?」
「え?」
「これなら戦闘機ほど早くないから操縦しやすいと思うよ」
「うーん・・・そうだね・・・うん、ちょっとやってみるよ!」
「それじゃあ上に上がったら交代する」
「了解!あ、離陸前チェックリストやっとく?」
「そうだね。マヤが読み上げてくれる?」
「了解!えーっと・・・まずはフラップ15」
「ちょっと待って」
フラップはまだ下ろしていないのでフラップを15度まで下げた。
「フラップ15」
「チェック、えっと・・・アンチアイス」
「アンチアイス、オフ」
「チェックリストコンプリート」
「結構少なくていいね」
「異世界のパイロットだともっと多いのかな」
「どうだろ。それでもチェックリストとかは基本的に向こうの基準だと思うし」
「ま、ウチはウチ、よそはよそ!って感じだね」
「それでいいのかな・・・いや、その方が楽か」
事故りさえしなければ・・・だが。
《エンジェル0-1。滑走路上で一時停止》
「滑走路上で一時停止。エンジェル0-1」
「そういえばこれ、私が無線担当したほうがいいんじゃない?」
「なんで?」
「マニュアルだと作業分担みたいだし」
「じゃあ次の交信からお願い」
「任せて!」
滑走路に入り一時停止した。
するとすぐに許可が降りる。
《エンジェル0-1、風向180度風速6ノット、滑走路17から離陸を許可》
「えと・・・離陸許可、エンジェル0-1」
普段無線交信をしないマヤは少したどたどしく答えた。
私は許可を聞き少しスロットル開けてエンジンを吹かす。
「いくよ」
「了解!」
ブレーキを離して加速する。
ある程度加速した時スロットルを全開にした。
「えーっと・・・80」
「チェック」
機体はどんどん加速していく。
そしてある程度加速したところでV1の自動音声が入る。
『V1』
「ローテート」
マヤのローテートという言葉で機種上げをする。
機体はふわっと地面から浮いた。
「えと、ポジティブクライム・・・ギアアップ」
一つ一つ呼称しながら操作を行っていく。
「フラップ10」
ある程度加速したのでフラップを1段階上げる指示をした。
「スピードチェック、フラップ10」
マヤもそれに従ってくれる。
それを繰り返し高度は8000フィートまで上昇した。
本来ならもっと上に上がるのだが今回はかなり低空の8000を飛行する計画になっていた。
だが、管制圏を離れてしまえばあとは自由に飛行できる。
・・・だが、200kmなんてすぐそこなのであまり上には上れない。
「高度8000・・・マヤ、操縦してみる?」
「じゃあちょっとだけ・・・」
《あら、そしたらちょっと離れようかしら》
「なんで!」
《危ないからよ》
「ば、馬鹿にして・・・!」
《ふふ、珍しくマヤさんが怒ってますね》
「なんだよー!ミオまでそんなこと言うの!?」
《冗談ですよ、ちゃんと後ろで見守ってますから!》
「ほ、ほんと?」
《見守ってますよ!遠くの方から!》
「珍しくマヤが弄られてる・・・」
2人にいじられマヤは涙目になりながら操縦桿を握った。
「うぅ・・・ヘリと違うから怖いよ・・・」
「でも速度は倍程度しか出てないから」
「そもそも操縦桿の形も違うしヘリはもっと動き違うから・・・」
「そりゃね。大丈夫そう?」
「もうちょいやってみる!」
《後ろから見てる分には安定してるわよ。結構センスあるんじゃない?》
《なんだかんだ言いましたけど操縦上手いですよ!》
「い、今褒められても喜べない・・・」
マヤは真剣な顔で操縦桿を握る。
やはり普段トムキャットではレーダーを見ていて、航空機となってもヘリを飛ばしていたマヤにとっては苦手な航空機だったかも知れない。
「マヤ、疲れちゃうし交代するよ」
「お、お願いします・・・」
「りょーかい。アイハブ」
「ユーハブ・・・はぁ・・・旋回とかした訳じゃないとけど怖い・・・」
「お疲れ様。どうだった?」
「わ、私には固定翼は無理だよぉ・・・」
結構怖かったようだ。
マヤは下を向いたまま呟くように言った。
「さて、そろそろかな」
離陸して20分。
もう間もなく目的の村だ。
「んーと・・・あ、あったあった!」
マヤは右を指さした。
そこには森の中に少し古びた飛行場があった。
それでも3000m級の立派な滑走路が見える。
「確認、エアポートインサイト」
「自動で飛べたら良かったのに・・・」
「普段手動で飛ばすのに慣れてるから」
「そうだけど、旅客機の自動操縦ってすごいんでしょ?」
「まぁほっとけば目的地までは行ってくれるから。っと、それより着陸体勢」
「了解!チェックリスト?」
「そうだね」
私たちはチェックリストに示された通りに操縦し着陸体勢を整えた。
村は無管制飛行場らしく私たちは目視と護衛機のレーダー情報を頼りに安全を確認して進入する。
『2500』
機体の対地接近警報が高度を読み上げる。
滑走路に正対し落ち着いて降下する。
「速度注意!」
「了解」
マヤには計器の監視をお願いして私は窓の外を見て操縦する。
少し速度が下がりすぎていたようだ。
『1000』
高度は1000ft。
もう空港は目の前だ。
『Approaching Minimums』
「ランウェイインサイト」
進入時の最低ラインの警告が鳴る。
ここで滑走路が見えなければ着陸を中断するが・・・今回はそもそも晴れなので問題ない。
『500』
500ft・・・。
周りは森なので鳥が少し怖い。
だが幸いにも飛んでくる鳥は居ないので今のところは安心だ。
『minimums』
「コンテニュー」
「了解!」
『200』
「優しくお願いね、ハル!」
「分かってるよ」
『100』
高度は100ft。
もう滑走路の端に到達する。
『50』
細かい高度の読み上げが始まる。
落ち着いてゆっくり・・・。
『30』
『20』
私はゆっくりと機首を上げてフレアの姿勢を取る。
『10』
10ftの読み上げの数秒後、機体が接地する。
私はスロットルについているもうひとつのレバーを引き逆噴射を作動させる。
「リバースグリーン」
逆噴射とブレーキで機体は急減速する。
「60」
「チェック。んーと、どこ曲がればいいんだっけ」
「そこじゃない?えと・・・もうひとつ先の誘導路!」
「了解」
駐機場に到着するとそこには人や荷物がもう集まっていた。
間違って荷物を吸い込まないように少し離れた場所に止まってエンジンを停止する。
「リリア、ミオ。空中待機できる?」
《燃料に余裕はあるから大丈夫よ》
《こっちも大丈夫です!》
「了解。1時間以内に離陸するから」
《了解。焦らなくていいから》
「お気遣いどうも」
私はコックピットを出て機外に出る。
すでにマヤが村長と話をしていた。
「初めまして」
「おお!依頼を受けてくださって感謝します!」
「旅客機に乗れるなんて滅多にないから。えと、これで全員?」
「そうです、村人80人と・・・これですな!」
村長が指さすのは後ろにある貨物。
「中身は?」
「王都で買い取ってもらう火薬の原料です」
「了解、じゃあ乗り込み次第出発するから。マヤ、それでいい?」
「うん、いいよー!」
そう返事するマヤは村人の飼い犬と遊んでいた。
呑気なものだ・・・。
「さてと・・・」
私はコックピットに戻りエンジン始動の手順を復習する。
初めての機体だから1回では覚えきれない。
「スターター・・・よし、これでスタートだね。えとAPUは回ってるから・・・」
色々とチェックしているとマヤが帰ってきた。
「なんで顔濡れてるの?」
「えへへ、ワンコに舐め回されちゃって・・・村人さんから顔を洗ってきなさいって言われちゃった」
「まったく楽しそうだね・・・」
「帰ったらトマホークにしてもらったら?」
「アイツ意外と下心すごいから却下」
エル曰く、トマホークは私とマヤが好みらしく、隙あらば胸にダイブしたり太ももに埋まろうとしたりお風呂を覗こうとしたりとエロガキか!!と言いたくなるような事をしていた。
「マヤ、1度キャビン見てきてもらっていい?」
「了解!全員着席してたら戻ってくるね!」
「お願い」
私はマヤにチェックをお願いし、リリア達にもうすぐ出発だと伝える。
「0-2、0-3。もうすぐ出発するよ」
《了解》
《0-3、コピー!》
無線交信を終える頃マヤもコックピットに戻ってきた。
「客室異常なし!」
「了解。貨物も村専属のロードマスターがやってくれたから大丈夫だね」
「うん!私が付き添いしてたけど大丈夫そうだったよ!」
「了解、そしたら行こっか」
「はいよー!任せたよ機長さん!」
私はエンジンをスタートさせた。
ここはプッシュバック出来ないが駐機場が広いのでそのままUターンするとこにする。
風は150度から約3ノット。
穏やかだ。
ゆっくりとタキシングして滑走路に到達する。
「よし、左右大丈夫?」
「こっちはよーし!」
「こっちもよし」
16と大きく書かれた滑走路に入った。
風も変わらない。
「ヘディング157・・・ランウェイクリア」
スロットルをゆっくり開いて離陸推力にする。
「80」
「チェック」
《V1》
「ローテート」
私はゆっくり操縦桿を引いて地面を離れた。
ふわりと機体は空に上がる。
「ポジティブレート、ギアアップ」
ここまで異常なし。
そこからも何事もなく機体は巡航高度まで達した。
「ふぁー・・・いい天気」
「30000まで上がると日差しがキツいね」
「サングラスかける?」
「うん」
「はい!」
「ありがと」
私はマヤから渡されたサングラスをかける。
するとマヤが笑いだした。
「あははは!何かすごい厳つくなったよ!」
「どこが」
「顔!あはは!でも似合ってる!」
「そういうマヤも掛けてみなよ」
私はサングラスを外してマヤに渡した。
マヤはそれをかける。
「・・・ぷふっ」
「ちょっと!!何その笑い!!」
「いやだって、絶望的に似合ってない」
「ひどい!!」
《そっちは楽しそうね・・・》
「だって見てよ、面白いから」
《あんたの機体に異常接近していいなら見るけど》
「そりゃ危ないから禁止」
なんて楽しく話していると目的地が近くなってきた。
「そういえば降りたらどうするの?」
「村人の用事が終わるまで待機。王都観光でもする?」
「する!」
《賛成です!》
《私も!》
「じゃあ王都観光で」
「やったー!」
王都到着後は約6時間は待機しなくてはならない。
その間はせっかくだしお土産を買ったりしてもいいだろう。
なんて到着後の話で盛り上がりながら王都へと進入していった。
なんだかんだ生まれて初めて王都に行く。
せっかくだし観光も楽しもう。