高度5000ft、速度400ノット。
約700ノット近い速度でフルクラムとすれ違う。
「ハル!加速加速!」
「分かってる」
ヘッドオンでのガンキルに失敗した私はアフターバーナーを使ってミグを振り切ろうとした。
「やっぱミグ相手に格闘は無理だよねぇ・・・」
「だから一撃離脱戦法だよ」
「まぁそうだけど・・・っと、ロックされたよ!」
私は操縦桿を引いて上昇する。
ついでに減速も行う。
上昇とエアブレーキの展開で機体は一気に減速した。
その5秒後にミグが私達をオーバーシュートしていった。
「・・・貰った」
トリガーを引いた。
相手のミグからピンク色の煙が何ヶ所も上がり、エンジンと胴体の半分がピンク色に染まっていた。
「勝負あり・・・だよリリア。」
《にゃぁあぁぁぁ!!悔しいったらないですわぁぁぁ!!》
「だからなんでお嬢様言葉なのやら」
コックピットで喚き散らしている姿を見たくなり私は一つイタズラをしてみることにする。
「マヤ、カメラ準備してて」
「何するの?」
「ちょっとイタズラする」
「オーケー!何するか理解したよ!」
帰るための編隊を組む振りをして後方から接近、右にロールして背面飛行になる。
大型のF-14が背面飛行で近づいてくれば嫌でも気づくだろう。
リリアはこっちを見上げていた。
「はい、チーズ」
「お、これはベストショット!」
キャノピーとキャノピーが触れ合うのではないかと言う所まで接近して1枚写真を撮った。
コックピットで何をしたのか理解出来たリリアはこっちを指さして悔しそうに何か言っていた。
でも無線を私達は切っていたので何も聞こえない。
「おえ・・・胃の中のもの上がってきそう・・・」
ずっと背面飛行だったため、マヤが吐きそうだった。
私は操縦桿を押し込んで上昇、再びロールして水平飛行に移る。
そして無線のスイッチを入れた。
《何考えてんのよこのバカー!危ないでしょ!!》
「リリアのいい顔頂いたよ」
《にゃぁぁぁ!!!ほんっと昔っから嫌なヤツなんだからぁぁぁ!!》
リリアの機体はパイロットの気持ちを表してるかのようにフラフラと揺れていた。
「賑やかなお友達だよね・・・ってあれ、何これ」
「どうしたの?」
「レーダーに何か補足・・・UNKNOWN・・・IFF応答なし」
「魔獣?」
「それにしては速いし・・・飛行機かも」
「了解」
今ある武装は訓練用の模擬弾頭のAIM9ともしもの自衛用に積んできたAIM-9とAIM-7が2発ずつ。
バルカン砲にはペイント弾しか入っていない。
リリアのミグもR-73と赤外線誘導型のR-27が2発ずつだった。
「リリア、レーダーコンタクト。UNKNOWN。捕らえてる?」
《何も・・・こっちの範囲外》
「方位190・・・ヘッドオン。2分程度で交差するよ」
「分かった。回避」
右旋回して避ける機動をした。
リリアもそれに続く。
「あれ、上昇してる・・・ヤル気かな?」
「ヤル気って事は・・・冒険者じゃないよね」
「だね、しかも頭をこっちに向けてるっぽいし・・・賞金首かな」
「また面倒なのが・・・」
《レーダーコンタクトしたわ。こっちもIFF応答なし・・・》
「リリア、燃料は?」
《まだ30分は戦っても持つけど・・・》
こっちもまだ増槽の燃料を使い切っていない。
もし戦闘になっても大丈夫だ。
格闘戦にならなければ・・・の話だが。
「この辺の賞金首なんて居たっけ?」
「さぁ、分からない」
「まぁ機器の故障かも知れないしね」
だがその予感はすぐに無くなった。
レーダー警報が鳴り響いた。
「なっ!?」
「やっぱ敵じゃん!!」
「ブレイク!!」
左に反転し降下する。
下は山岳地帯だ。
稜線を利用して隠れようとした。
「リリア!アイツは敵だよ!」
《え、マジ?》
「いいから逃げて!」
《わ、分かった!!》
「ちくしょう!あれ誰だよー!」
「この近くにいる賞金首って誰か知らない?!」
「ちょっと待って思い出す!」
山に近づくと警報も途切れた。
だが、敵もレーダーから消えしまった。
「あのまま直進してくると・・・」
マヤは上を見上げていた。
そろそろすれ違う頃だった。
「あれかな・・・アレだ!!フリースタイル!!」
Yak-141フリースタイル・・・垂直離着陸が出来る戦闘機だ。
「そういえばこの辺で突然現れた戦闘機に撃墜されたって冒険者結構居たよね」
「アイツ・・・だね、垂直離着陸なら場所を選ばないし」
「パイロットがどんな奴なのか情報は?」
「ギルドで見た情報だと・・・尾翼に死神のマークが書いてあるからリーパーって呼ばれてたはず」
「死神か・・・大層な名前」
でも機体性能はリリアのMIG-29にも引けを取らないという話を聞いた事がある。
そうなると格闘戦になったらこっちの負けだ。
「リリア!敵はYak-141フリースタイル!!」
《それ私が来月買おうと思ってたのにー!》
「そこ?まぁいいや・・・格闘戦になったら援護よろしくね!」
《分かったわ!》
そういえばと私は昨日ギルドで50代くらいの男性パイロットが話していた内容を思い出す。
リーパーは昔は腕のいい冒険者でその時代からあのYak-141に乗っていたらしい。
そして冒険中に補給のため立ち寄った街で出会った同じ機体に乗る女性と意気投合しそのまま結婚、2人は二機編隊で数々のクエストをこなしていった。
だが、ある時その彼女の機体のIFFが故障していたが自分が近くにいれば仲間も気づくだろうと思い2人はクエストに出かけた。
だが突然現れた翼竜の群れと交戦する際に近くにいた冒険者も参加、こちらが6機に対して翼竜は何と15匹もいた。
大混戦の空中戦の際、味方機が誤ってリーパーのパートナーに空対空ミサイルを発射してしまった。
それはエンジンを直撃し、運悪く脱出する前に空中で爆発してしまった。
最愛の人を失ったリーパーはミサイルを撃った味方のみならず、その冒険者パーティの編隊機を全て撃墜、そこから人が変わってしまったらしい。
そして死神のマークを尾翼に書きリーパーと呼ばれるようになったとか。
「救えない・・・よね」
「何が?」
「あの敵機の話・・・」
「私は詳しく知らないけどね・・・ま、とりあえず今月の食費には困らないって話だよ!」
「・・・まぁいいか」
私は反転し、敵機を探した。
その時ふと上方を見上げると急降下してくる物体を見つけた。
「やばっ!」
私は思いっきり右旋回をするとさっきいた所に30mm機関砲弾が降り注いだ。
「ハル!」
私は後ろを振り向く。
ピッタリと後ろに食いついていた。
並の機動じゃかわせない。
「リリア!援護して!」
《分かった!突っ込むわ!》
フルクラムが上空からダイブして接近してくる。
だがそれをあっさり見抜いたのかリーパーはヒラリと避けてしまった。
代わりにリリアが後ろを取られる。
「リリア!チェックシックス!ブレイク!!」
《分かってる!クソ!逃げれないわよ!!》
「援護する!」
「ちょっと待って!トムキャットじゃ格闘戦で負けちゃうんじゃ・・・!」
「分かってるけどリリアが危ない!」
必死に低空で右へ左へと旋回するフルクラム。
だが敵機はぴったりと後ろにいた。
私は加速してもう1度敵の後ろに着いた。
「サイドワインダーなら・・・!」
兵装をAIM-9に選択し、ロックオンする。
「FOX2!」
これで落ちる相手だとは思っていないが・・・
だが発射することで相手は逃げる。
「リリア!今のうちに離脱して!」
《嫌よ!もう1度仕掛ける!》
「もう15分近く最大推力なんだよ!燃料を見てるの!?」
《あっ・・・》
「早く逃げなさい!」
《・・・帰って来なかったら許さないからね!》
「フラグどうもですー!今は余計だけど!!!」
マヤが無線に向かって怒っていた。
「ハル!どうするの!?」
「正面からタイマン決めてみよっか」
「はぁ!?」
「明らかにミサイルで攻撃すればいいのに何故か撃ってこない・・・ということは明らかにレベルの低い私達を見て遊んでるよ」
「性格わっる!!」
「どこかで曲がっちゃったんじゃないの?」
とにかく、ヘッドオンで攻撃しよう。
機銃はペイント弾だが正面から攻撃すれば相手のエンジンに吸い込ませる事くらいできるはずだ。
「行くよ!マヤ!」
「行くよって・・・あぁもういいや!覚悟決めた!!!」
機首を相手に向けると相手もそれに乗ってきた。
チキンレースのスタートだ。
「まるでチキンレースだよ!」
「そのつもり!」
近づく敵機、こちらのガンレンジに入る頃には向こうもこっちを射程に捉えているだろう。
ガンの残弾は残り200発。
2秒程度で撃ち切ってしまう。
「ガンの射程内!!」
マヤのその言葉と同時に相手から機関砲の発砲炎が見えた。
私も同時にトリガーを引く。
スローモーションだった。
発射された弾丸が見えてる気がした。
その直後に轟音と衝撃、警報の音が聞こえた。
あと視界が真っ赤になる。
「ハル!ハル!!大丈夫!?」
「だ、大丈・・・夫・・・」
横を見ると第2エンジンに繋がる空気取り込み口が大きく抉れ、破片がコックピットのキャノピーを貫いていた。
私のヘルメットにも直撃してバイザーが割れていた。
第2エンジンからは30mm弾の直撃で出火していた。
私は第2エンジンへの燃料をカット、消火に務める。
「ハル!血が・・・!」
「大丈夫・・・意識はしっかりしてるから」
ヘルメットを触ってみたが、破片がぶつかったせいで凹んではいたが何も刺さってなさそうだ。
バイザーが割れたのでその破片で怪我をしたのだろう。
「他に損傷は・・・?」
「ちょっとまって・・・右の垂直尾翼が半分消し飛んでる・・・あと右主翼のフラップが・・・」
でも何とか飛べている。
帰ることは出来そうだ。
「敵機は?」
私は意識がハッキリしてきたので上昇して旋回する。
すると山の斜面に滑ったような跡があり、その先にリーパーのYak-141があった。
機体は黒煙を上げていたが形を留めていた。
「・・・どうするハル?」
「撃墜・・・ってだけでも報酬もらえるんじゃないかな」
「だよね!」
私は旋回しつつ降下、マヤに機体と死神のマークを写真に収めてもらった。
「帰ろう。第2エンジンは消火できたけど長くは持たないよ」
「だよね・・・っていうか・・・運がいいというかなんというか・・・」
全くだった。
30mmの弾丸なんて1発でも被弾すれば撃墜される可能性があるのに運良くエンジンを貫通、尾翼と主翼のフラップを吹き飛ばされただけで済んだ。
強いていうならエアインテーク上部にも貫通弾があり、破片がキャノピーをぶち割り私が軽い怪我をしたくらいだ。
右目に血が入ってよく見えないが・・・まぁ何とか着陸は出来そうだ。
「帰ろ・・・ギルドで報酬と修理申請しなきゃ」
「そうだね!でもこれ・・・エンジンは交換だよね・・・」
賞金首報酬が飛んでいきそうだ・・・
「おかえり!」
空港に降りるとリリアが待っていた。
私たちを見るなり笑顔で駆け寄ってきた。
だが損傷したトムキャットを見て今にも泣きそうだった。
「ハル!怪我したの!?」
「ちょっとね、大丈夫だよ」
「ごめん・・・ごめんね、私があんな所で飛ぼうなんて言ったから・・・」
「大丈夫だって。運が悪かっただけだよ」
「まぁウチらめちゃくちゃ運良かった気もするけどね」
マヤは穴の空いたトムキャットのエアインテークを見上げていた。
「あの敵は?」
「インテークにペイント弾吸い込んで落ちてったよ。落ちたっていうか不時着だけど」
という話をしていたら修理の見積もりをしていたドワーフのお爺さんが話に入ってきた。
「リーパーを落としたのか!?」
「何とかね、運良く帰ってこれたけど」
「お前さんのような娘が落とすとはな・・・いや、良くやった!その功績を讃えてエンジンの交換はタダでやってやるぞ!」
「やった!今月なんとかなりそう!」
マヤは食費を削らなくていい事に喜んでいた。
ただトムキャットの損傷は思ったより大きく、ドワーフの整備員曰く、これで落ちなかったのが不思議な状況らしい。
被弾箇所は燃料タンクの近くにもあり、あと少しで機体が爆散していた可能性もあるようだった。
実際、燃料漏れも起こしていた。
また正面から1発私達の足元を貫通していった弾丸があったそうだ。
それはバルカン砲に当たって止まっていたらしい。
おかげでバルカン砲は完全に破壊されていた。
修理費だけで賞金首報酬の6割が飛んでいった。
おまけにトムキャットは当分飛べない。
「ねぇ、ハル。仕事・・・どうする?」
「ダンジョンでも漁りに行こっか」
せっかくなのでガンナーでもすることにした。
報酬の残りで銃とアタッチメント、弾薬は十分に買える。
「それしかないよねぇ・・・まぁいいや、どこかで宿探そうよ」
「そうだね、美味しい物食べたいし」
「私も・・・」
「リリアも行こ」
「やった!」
怪我をした額に包帯を巻いてもらい私達は傷だらけのF-14が置いてある格納庫を後にした。