「・・・・ん・・・」
私は目の覚ます。
なんだろう、懐かしい匂いが・・・。
「あれ・・・マヤ・・・?」
体を起こすと私はベッドの上だった。
それに何だか懐かしい家具がある。
ここって・・・。
「私の家・・・?」
その時ドアが空いた。
「あ、お姉ちゃん起きた!」
「え・・・リン・・・?」
「どうしたの?幽霊でも見たような顔をして」
「い、いや・・・」
「とにかく早く来て!今日は皆でお出かけでしょ!」
私は混乱する。
忘れもしない、あの長く綺麗な黒髪でメガネをかけた可愛らしい顔を。
・・・あの墜落事故で死んだリンだ。
でもなんで・・・。
「夢・・・?」
私は頬をつねる。
「いたっ・・・ということは夢じゃない・・・」
「ハルー!早く降りてきなさい!」
「あ、う、うん!待ってて!」
私はとっさにそう言った。
聞こえてきたのはママの声だ。
「もしかして・・・今までのが全部夢だったのかな・・・」
匂いも感覚も全部本物。
お腹を見ても撃たれた傷もない。
「はぁ・・・」
私はため息を着いてベッドから起きる。
「・・・マヤ・・・エル・・・きっとどこかに居るよね」
私は夢の中で出会った友達の名前を呼んだ。
私はそのまま私服に着替えて1階に降りる。
何故だか私服も夢の中で買った服だった。
「酷くうなされてたって聞いたが大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよパパ。悪い夢だったから」
「えー、お姉ちゃん幽霊でも取り憑いてるんじゃないの?」
「それは絶対にない」
「どんな夢だったの?」
「飛行機を操縦してたら墜落して山賊に襲われた」
「そりゃまた悲惨だな」
「ということはお姉ちゃん、無理やりされたい願望・・・いたっ!!」
「ちょっと、食事中に変な事言わない」
「ははっ!リンだって年頃だもんな!」
「お父さんは黙って食事しなさい」
「ふふっ・・・」
いつもの風景なのに懐かしく感じてしまう。
私も席について朝食を食べた。
「今日はどこにいくんだっけ」
「あら、言わなかったかしら」
「ド忘れ」
「近くにいい街があるの。そこまでハルに飛行機を飛ばしてもらうって約束でしょ?」
「お姉ちゃん、もしかして年?」
「・・・次言ったらその口縫い合わすから」
「ひぇっ!」
「・・・まったく」
そう言われても何故だか思い出せない。
どこの街だったか・・・。
「どの街だっけ・・・」
「あら、ほんとに忘れたの?リゾートよ、リゾート」
「あ、リゾートか・・・」
確かにこの村の近くにそんな名前の街があった。
とにかく娯楽施設が多く料金も格安で観光するにはもってこいだった。
「ほら、食べたら歯を磨いて顔も洗ってきなさい」
「うん」
私はパンを食べ終えて牛乳を飲み干し、洗面所に向かった。
そして、両親と妹と村の飛行場に向かう。
「どれを飛ばせばいいの?」
「リアジェットを借りたからそれだな。家族で免許持ってるのお前だけだし」
「パパも取ればいいのに」
「俺は飛行機が苦手でな」
「ふーん・・・ねぇ、お姉ちゃん!私副操縦士席に座りたい!」
「いいよ。補佐よろしく」
「了解!」
リンは笑顔でそう答えた。
私は飛行場の担当者に案内されてリアジェットに乗り込んだ。
「さてと、始動前チェック・・・」
「さすがパイロット・・・」
「リンは取らないの?」
「私はこの村の役場で働くって決めてるの!」
「ふふ、どうして?いい人でもいた?」
「なっ・・・お姉ちゃんには関係ないしっ!」
「リンったら、隣の幼馴染の子と付き合い始めたのよ」
「お、お母さん!!っていうか、お姉ちゃん知ってるでしょ!」
「知ってるよ。わざと」
隣にはリンと幼馴染の男の子、ダイが住んでいる。
その子もリンもまだ16歳だがダイは村1番のガンナーで村の防衛を担っていた。
2人は幼い頃から仲が良く、ほとんど気付いたら付き合ってたような感じだ。
村公認カップルのようなものだ。
「早く孫の顔が見たいわね」
「ま、まだ早いよ!!」
リンは顔を真っ赤にしてママに抗議していた。
私はその間にもエンジンを始動して滑走路へタキシングする。
「えーっと・・・フラップ10・・・風向240度風速10ノット・・・滑走路24、ヘディング238・・・ランウェイクリア」
私は滑走路に到着し出力を上げる。
ゆっくりと機首を上げて離陸する。
「おぉー・・・さすがハル・・・」
「た、頼むぞゆっくりな!」
「お父さんはビビりすぎよ」
コックピットのすぐ後ろの席でパパは冷や汗をかき、ママはそれを見て笑っていた。
その時だった。
《・・・ル・・・!ハル・・・!》
「ん?」
《起きてよ!!帰ってきて!!》
「なに・・・?」
「どうしたの?」
「いや、無線から・・・」
《待ってろ!電圧よし!クリア!!》
その時、体に電流が走るような感覚がし、何かを思い出しそうになる。
「なんでかな・・・なんだか懐かしい声」
「・・・ハル、あなたはどちらを選ぶの?」
「え?」
《いかないで!!帰ってきてよ!!ハル!!》
《離れて!もう1回だ!!》
私の名前を泣きながら叫ぶ女の子の声。
夢の中で出会った友達の声に似ていた。
「・・・このまま飛べば、ママ達とずっと暮らせる気がする・・・」
なぜか私は本能的にそう思っていた。
だが、同時に飛行場に引き返したいという気持ちもあった。
「なんでだろ・・・」
その時もう一度体に電流が走るような感覚がする。
そして、その時夢の内容を思い出した。
「あれ・・・私・・・なんで・・・」
いや、あれは夢じゃない、現実だ。
私は767の機内で撃たれて、救出され、意識を失った。
「・・・・」
「・・・戻りなさい、ハル」
「ママ?」
「そうだよ、お姉ちゃん」
「・・・まだ間に合う、戻れハル」
「戻るって・・・どこに・・・」
「飛行場、そこでお姉ちゃんのお友達だって待ってるよ」
「友達・・・」
私はその名前を呟く。
「マヤ・・・エル・・・リリア・・・それに・・・ミオ・・・」
《クソっ!!まだ戻らない!!》
《ハル!!お願い!!やだよ・・・!死なないでよ!!》
《大丈夫だ・・・大丈夫、戻ってこい・・・死なせないぞ!!》
私はその無線を聞いて決意した。
「・・・ごめん、ママ・・・パパ・・・リン・・・一緒には行けないよ」
「ふふ、そう言うと思ったわ。ほら、帰りなさい」
「・・・うん」
「着陸するまでは一緒だよ!」
「た、頼むから落とすなよ!」
「パパはいつまで怖がってるの?ふふっ」
私は涙が溢れてきた。
懐かしい家族の声を聞いたせいだろう。
それに、もう会うことは無いから。
「ハル、次会うときはちゃんとお婆さんになってからよ?」
「そうだよ!そのときは私が肩揉んであげる!」
「リンに介護されたら逆に殺されそうだよ」
「ちょっと!!なんでよ!!」
「あはは!」
機内は懐かしい私の家族の笑い声と笑顔で満たされた。
飛行機はまるで自動操縦をしているかのように滑走路へと降りていく。
『500』
500ft。
もう皆といれる時間も少ない。
「リン、ランディングギアダウン」
「ほーい!」
「さぁ、ハルのお手並み拝見ね」
「任せてよ、ママ」
『300』
『Minimums』
「コンテニュー」
滑走路は目の前だ。
私はもっと皆と居たい気持ち、そしてマヤ達に会いたい気持ちでいっぱいだった。
願うことならもっと家族と居たい。
でも、それは絶対にできない。
それは・・・この世から去るということになるから。
『200』
「そろそろお別れね」
「まだ200ftだよ」
「滑走路で停止したらだから!」
「じゃあ止まらずに突っ走る?」
「それは絶対にダメだよ!」
「・・・分かってるよ」
『100』
「・・・ありがと、みんな」
「まだ早いわよ、ほら、お父さんが震えて声出せないから」
「う、うっせぇやい・・・!」
「あはは!お父さん泣いてるー!」
「娘の成長が嬉しいのと飛行機怖いのと混じってな・・・」
「そこは娘の成長で泣きなさいよ、まったくもう・・・」
「ふふっ、パパらしくない」
「そういうお前だって泣いてるだろ・・・!」
「だってみんなと会えて嬉しいし?」
私は涙を流しながらも笑顔でそう答える。
『50』
私はいつもよりずっとゆっくり降下する。
・・・もっと長くみんなの声を聞けるように。
『30』
もう本当にこれでお別れだ。
私は寂しさを堪えて操縦する。
『20』
まるでお別れのカウントダウンだ。
このGPWSはそう聞こえてくる。
『10』
機体は滑走路に接地した。
私は逆噴射装置を作動させる。
「リバースグリーン・・・」
機体はゆっくりと減速していく。
「60・・・ぐすっ・・・」
下がっていく速度を見て涙が再び溢れてくる。
「やだ・・・やだよ・・・みんなと離れたくない・・・!」
私は思いをぶちまけた。
「親孝行だって出来なくて・・・反対を押し切ってパイロットになって・・・」
「ううん、ハル。あなただけでも生きていてくれた事が私たちは本当に嬉しいの。だから、これからもしっかりと生きて」
「うん・・・うん・・・」
「私たちは空から見守ってるよ!空飛んでるお姉ちゃんを!」
「お、俺も見守ってるからな!」
「お父さんはいつまでビビってるの?あ、泣いてるのか・・・」
「・・・ハル!お前は強い子なんだ、それにこんなにお前を待ってくれる友達だっているんだからな、父親として誇らしいぞ!」
パパは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも無理やり笑顔を作ってそう言った。
私はふと駐機場のほうこうを見るとこの飛行機を見て手を振っているマヤやリリア達が居た。
「ほら、もう時間よ」
「バイバイ、お姉ちゃん!」
「・・・次婆さんになる前に来たら、張り倒すからな!」
「・・・うん、分かってる・・・ありがと、パパ、ママ・・・リン・・・」
そう言うと同時に機体の速度はゼロになる。
そして目の前が急に明るくなった。
「・・・はっ・・・!?」
「よし!!心拍数と呼吸が戻った!!・・・ふぅ・・・」
「ハルぅぅぅ!!!うええええん!!」
「・・・マヤ・・・?」
「そうだよマヤだよぉぉぉ!!」
目を覚ますと病院の手術室だった。
「・・・ただいま、マヤ・・・」
「おがえりぃぃぃ!!うぉぉぉぉんんん!!」
「・・・なんちゅー声を・・・」
意識を完全に取り戻した私は医師から状況を聞いた。
私はここまで運ばれる機内で意識を失い、病院に到着してすぐに心肺停止になったそうだ。
そして私が意識を取り戻してから数分後リリア達が病院に駆けつけた。
私はリリア達と話しながら、夢の中で出会った家族のことを思い出す。
きっと、皆は空から見てくれる。
だから私は精一杯頑張って、仲間たちと生きよう。
そう思いながら心の中で今はもう居ない家族に、私は頑張るよと伝えた。
「まったく・・・心配したんだから・・・」
「うぉぉぉぉんんん!!リリアァァァ!!」
「マヤは泣き止みなさいよ!ていうか汚なっ!!」
「お、女の子が出しちゃダメな声と顔になってます・・・」
「だっで・・・だっでぇぇぇ!!」
「はいはい・・・ていうかアンタも重症なんだから寝てなさい」
私たちはその後、様子を見るために2人部屋に入れられた。
2日後の検査で異常がなければ普通の病室で傷が癒えるまで入院だ。
「でもリリアさん、フランカーは大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・・・」
「どうしたの?」
ミオに聞くと私が意識を失ったと聞いた瞬間、泣きながら私の名前を叫ぶように呼び、早く病院に行きたいがあまりハードランディングでギアをへし折っていた。
そのまま滑走路外に出たらしいが・・・。
「・・・落ち着いてよ・・・」
「誰のせいよ!!」
そのせいでリリアのフランカーは1週間は入院だそうだ。
幸い、損傷したのは左のギアと左の翼の先端部のみで大した損傷ではないそうだ。
また、ヘリの機内ではエルが取り乱し大変だったそうだ。
今はこの前助けた同じ獣人のナユのところに行っているそうだ。
とはいっても私たちがいる病院と同じなのだが・・・。
「・・・大丈夫かな」
「なにが?」
「エル。伝えた方が良いんじゃないかなって」
「ハルが一瞬あの世に行ったって伝えていいの?」
「う・・・それ伝えるとヤバいかも・・・」
エルの事だ大泣きしてたぶん傍を離れなくなる。
そうなると今度はナユが精神的に不安定になってしまう・・・。
「で、あの世は行ったの?」
「ちょっと!そんな事聞いちゃダメですよ!」
「いいじゃない、こうやって生きてるんだから」
「あはは・・・」
「ほんどによがっだよぉぉぉ!!うえええん!!げほっ!!ごほっ!!うぉえッ!!!」
「いつまで泣いてんのよ!ていうか汚なっ!!吐きそうじゃないの!!」
「だっでぇぇぇ!!」
「あ、あはは・・・マヤさんハルさんが大好きですもんね・・・」
「だいすきぃぃぃぃ!!!」
泣き叫ぶマヤを何とか宥めながら私は恐らく行ったのがあの世だった話をする。
家族に会って温かい気持ちになれた話を。
それを聞いてリリアとミオも涙を流す。
「うっ・・・うぅ・・・いい話ね・・・」
「ぐすっ・・・ほんとですね・・・」
「うぉぉぉぉんんん!!いい話すぎるよぉぉぉ!!!」
「いや、あんたは落ち着きなさいよ」
「い、いつまで泣いてるんですかね・・・」
泣きそうになっていた2人の涙を引かせるほどの大号泣をするマヤを見ながら私は帰って来れて良かった。
そう思った。
これからきっと1週間くらいは病院生活だ。
まぁ・・・この生活も3回目くらいだが今回も今回でのんびりと過ごさせてもらおう。
・・・それよりも泣き叫びすぎてマヤが死なないか心配になってきた・・・。