《エンジェル0-1、風向320風速5、滑走路35、離陸を許可。先行機の後方乱流に注意》
「離陸許可、エンジェル0-1」
飛び立っていく旅客機、B-777を見ながらスロットルを全開にする。
今日は旅客機の護衛依頼だ。
ここから王都までの航路を一緒に飛ぶ。
「ギアアップっと・・・うわっ!!」
久しぶりの護衛の仕事。
対象に近づきすぎて後方乱流に巻き込まれた。
一瞬で機体が反転する。
「あぶなっ・・・!」
「ちょ、ちょっと!!管制官だって気をつけてって言ってたじゃん!!」
「ご、ごめん・・・」
なんとか機体を立て直す。
《エンジェル0-1、こちら管制塔。機体に異常はありますか?》
「異常なし、依頼の続行は可能。エンジェル0-1」
《タワー了解》
さすがに焦った・・・。
久しぶりとはいえ後方乱流を舐めていた。
「ハルがなんか素直にごめんって言ってくれたの珍しいし許してあげる!」
「ちょっと、それだと私が普段謝りもしない女みたいな感じなんだけど」
「実際そうでしょ?」
「泣きそう」
「あはは!嘘だよ!」
なんか最近マヤに弄られ始めた気がする・・・。
まぁいいか・・・。
「ねぇハル、そういえばエルの治療費ってこの仕事で賄えるの?」
「うん。元々お金自体は足りてたけど払うと生活費が危ないってくらいだったから」
「そっか!でも・・・あの、残念だったよね」
「何が?」
「あの教団の子・・・」
「・・・・」
エルにあの後、その事を伝えると涙を流して悔しがっていた。
それもそうだ。
エルの応急処置はお手本のように適切だったが腰の銃創を見逃してしまっていた。
でももし見つけていたとしてもヘリが来てからでは間に合わなかったそうだ。
「でもこれであの教団が根っからの悪者ばかりじゃないって分かった」
「あの子みたいなのも稀だと思うけどね・・・」
「まぁね・・・ほんと、空飛んでてよかった」
ガンナーならそういう状況によく遭遇する。
つくづく戦闘機乗りで良かったと思う。
「さて、そろそろ雇い主とコンタクトしようか」
「そうだね!」
「ワールドトラベル058、こちらエンジェル0-1」
《エンジェル0-1、こちらワールドトラベル058。王都までの護衛よろしくお願いします》
「こちらこそ。こっちはF-14が単機、武装は機関砲フル、サイドワインダー2、スパローが6。燃料は王都まで持つけど戦闘になると給油が必要になるかも」
《ワールドトラベル058、了解。戦闘時の行動はどうしますか?》
「なるべく私たちから離れないで。でも相手次第では低空に退避してレーダーに見つかり辛い動きをお願い」
《了解》
敵機のスペックにもよるが低空まで逃げればレーダー波が地表面で乱反射してレーダーに映らなくなるはず。
まぁ、何も無いのが1番だが。
「なるべく私たちは後方上空でそちらの乗客に見えない位置にいる」
《了解しました》
私たちは上昇して旅客機後方3マイル、高度差は2000フィートほど取った。
この位置なら後方乱流の影響も少ないし乗客からも見えないだろう。
王都では何やら一般客を招いてのパーティもあるらしく、この便は満席だった。
・・・逆に私たちを撃墜しこの便を強制着陸させられれば身代金はガッポリ取れるので空賊から狙われやすくもなるが・・・。
ただ、この便はなるべく途中にある全ての街の近くを飛ぶので何かあれば応援がスクランブルしてくれるはずだ。
「あ!そうだハル!今日のお昼いいの持ってきたよ!」
「え?」
「じゃーん!テキサスで1番美味しいと噂のサンドイッチ!」
「あれ買えたの?」
「うん!ハルがトムキャットの準備をしてる間にね!今日が朝早くて助かったよ!」
「そういう所はちゃっかりしてる・・・」
「まぁまぁ!ほら!ハルの分もあるから!」
「ありがと」
このサンドイッチは販売開始から1時間もあれば売り切れるという超人気の品だ。
正直、私はこう言ったものには疎く、なんでこんなに人気なのかは知らないが中身に入っている生ハムとチーズがとにかく絶品なんだとか。
それとホイップクリームとカスタードクリームたっぷりのフルーツサンドも買ってくれていた。
・・・美味しそうだが胸焼けしそうだ。
「あと4時間・・・ふぅ・・・」
「のんびり行こうよ!」
「そうだね」
オートパイロットをONにして、ウェイポイントを自動で辿るようにする。
あとはレーダーと周りを目視で監視だ。
「そういえばこの先の街って・・・」
「何かいい街でもあるの?」
「ううん。いい街っていうかやばい街っていうか」
ここから約2時間ほど飛んだところにテックという街がある。
ここは主に航空機やそれに搭載する武器、独自の新兵器を開発していて良くそこら辺に向けてぶっぱなしている。
最近は火薬と物体を加速させる魔法を併用し80cmクラスの砲弾をとんでもない勢いで発射するバケモノ砲を開発しているらしい。
マジカルキャノンとかいう可愛らしい名前をしているが、飛んでくるのは通常の榴弾、クラスター弾、フレシェット弾、化学砲弾・・・とにかく砲弾そのものがデカいのでいろんな物が飛んでくる。
おまけに射程も1000km近いとか。
「そんなバケモノキャノンがあるんだね・・・」
「まぁその代わりに発射には加速魔法が使える魔法使いが居ないとダメだけどね」
「ていうか・・・それもう撃てるんだよね・・・?」
「前ニュースで見た時は試射までは成功してるって」
「それで射程は1000・・・?」
「スペック上は。どうしたの?」
「それってその・・・ここは射程内だよね・・・?」
「ギリギリね」
「怖すぎるんだけど!!!」
「大丈夫だよ。味方なんだから」
「そうだけど試験中のバケモノの射程内なんて怖すぎるじゃん!!どこ飛んでくるか分かんないし!!」
「まぁ、一理ある」
実際、精度はあまり高いものでは無いらしいが砲弾の性能で賄っているそうだ。
クラスター弾なんて目標の近くで炸裂しVT信管の着いた子爆弾がその辺に散らばって空域を制圧するとかなんとか。
「何も来なければ何も無い」
「まぁね・・・そういう時に限って来るけど・・・」
「やだやだ」
そう言いながら快晴の空を飛ぶ。
高度は38000ft。
上を見上げれば綺麗な青が広がっていた。
「いい天気だねぇ〜・・・」
「そりゃこれ以上上に雲なんて無いからね」
「まぁそうだけど・・・っていうかそんなマジな事言わないでよ!」
「私にもっとオシャレな表現できると思う?」
「できる!ハルならできる!」
「なにを根拠に・・・」
「ほら!なんか言ってみてよ!」
「んー・・・」
10秒ほど考えてやっと出てきた。
「スゴク キレイ」
「なんで棒読みなんだよっ!!!」
「ソラ キレイ ニンゲン ソラ ヨゴス」
「心優しいがために人間に敵対してるバケモノやめてよ!」
「あははっ」
なんて話しながら順調に飛行していた。
そして例のバケモノ砲がある街から200kmほどの距離に来た時だった。
「・・・あー・・・ハル?お客さん・・・かも」
「はぁ・・・まぁ来るよね・・・」
「対象は正面・・・IFF・・・敵!」
「了解。ワールドトラベル058、こちらエンジェル0-1。敵と遭遇、少しだけ私たちから離れて」
《ワールドトラベル058了解》
なるべく戦闘に巻き込まないように旅客機を少し遠ざける。
そして敵の詳細を確認しようとした時だった。
《はろー!はろー!そこの旅客機!今すぐ俺たちに従いギアダウンしやがれ!》
《こっちは5機!そっちの護衛は1機!妙な真似すんなよ!》
相手はオープンチャンネルで呼びかけてきた。
確かにレーダーに映る機影は5機だ。
「ハル・・・!さすがに5機は・・・」
「大丈夫。賭けになるけどいい考えがある」
「な、何するの?」
「今ケータイに送った情報をテックのギルドに転送して」
「え!?こ、これまさか・・・」
「そゆこと」
「あ、危なくない!?」
「大丈夫。旅客機連れてるんだから変な狙いはしないよ」
私はマヤにテックのバケモノ砲に支援砲撃を要請する旨を伝えるように言った。
最悪砲弾が外れても敵は驚いて編隊を崩すだろう。
そうすれば勝機はある。
それにRWRに映る敵機のレーダー波はMig-23。
トムキャットのほうが性能は上だ。
ただ、ここから砲撃まで時間を稼ぐ必要がある。
それに砲がこちらを狙いやすいように真っ直ぐ飛ばなければ・・・。
「ハル!送った!」
「了解・・・さて、時間稼ぎでもしようかな・・・」
私は無線周波数をオープンチャンネルに合わせた。
「あ、あの・・・私たち初めての仕事で・・・み、見逃して貰えないですか・・・?」
私は精一杯の弱い子アピールをしてみる。
後ろで思わずマヤが吹き出しそうになってるのを見てちょっとムカついた。
《おいおいなんだよ!ずいぶん可愛い声だな!》
《お前ら護衛機を落とすんじゃねーぞ!》
「お、お願いします・・・この仕事を終わらせないと生活が・・・」
《そうだな・・・じゃあ気が変わった、嬢ちゃんが相手してくれるなら旅客機を逃がしてやるよ》
《こちとらご無沙汰だからな!》
空賊機は私たちの後方に周り何時でも撃てる位置について余裕をぶっこいていた。
「な、なにをしたらいいですか・・・?」
《何って・・・ナニだよ》
《い、言わせんなよ・・・》
なんだよコイツら思春期の子供か。
なんで旅客機襲う度胸があるのにこういうこと言えないんだよ。
「それなら後席に座ってる子が経験豊富だから・・・」
「うぇ!?」
「わ、わたし初めてだから・・・」
《な、なんだよ・・・初めて・・・》
《ゴクリ・・・》
予想外の反応にこっちも驚いていた。
これ・・・砲撃無くても落とせたかも・・・。
「ハル、砲撃まで10秒だって!」
「良かった、支援要請受理してくれた」
「まぁ、こっちは旅客機連れてるからね!」
「さて、このダルい演技は終わりだね。マスターアームON」
《な、なぁ嬢ちゃん?好みの男性とか・・・》
《おい抜け駆けずるいぞ!!》
「・・・好みね、こういう演技に引っかからない男の人かな」
《え?》
私はちょっと悪い笑みを浮かべていることだろう。
・・・相手があまりにマヌケ過ぎてというのもあるが。
「知ってる?地獄への直行便は足が早いんだよ。ほんの数十秒稼げるだけでもいいってこと」
《な!?お前ら・・・!!》
「今すぐ逃げる事をオススメするよ、大間抜け」
その直後に空賊機のいる場所で大爆発が起きる。
街から発射された対空用の80cmクラスター砲弾だ。
「3機は落ちたか・・・さて、後片付けだね」
「やっちまえー!」
私は思い切り操縦桿を引き後方にいたMigをやり過ごす。
「ベイルアウト出来ればいい女の子と付き合う機会あるかもね」
必死に逃げるMigにサイドワインダーのシーカーが重なりロックオンの音が鳴る。
「FOX2」
ミサイルはフレアを撒き散らして必死に逃げるミグの背中に刺さった。
機体は錐揉みを起こして落ちていくが幸いパイロットは脱出出来たようだ。
「あと1機」
「Goodkillハル!」
旋回して残りのミグを狙おうとした時だった。
《ま、待った待った!!降参!降参だ!!》
「なに?ここまで来といて?」
《た、頼む!頼むから命だけは!!》
「はぁ・・・分かったよ。別にあんた達を殺したいわけじゃないし。さっさとそこのベイルアウトしたマヌケ君を連れて帰ってあげてよ。責任もって」
《分かった!分かった!!》
「・・・ほら、早く行った行った」
ミグは脱出した僚機の場所を確認するように旋回し逃げていった。
「撃墜1・・・ふぅ」
「お疲れ様!ていうか・・・何あの演技」
「上手かったでしょ」
「上手かった・・・のかな・・・?」
「なんで疑問形なの」
「だってあんなハル見た事ないし!っていうか経験豊富ってなに!!」
「え、夜な夜な1人で・・・」
「し、してない!!・・・たまにしか」
「え?何してるの?私が経験豊富って言ったのはいつの間にか夜食1人で作って食べてるから料理の話なんだけど」
「・・・ッッッッ!!!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げるマヤ。
「だ、騙したなぁ!?!!?」
「騙したも何も勝手に勘違いしたのそっちでしょ」
「ハ、ハルだってたまにしてるでしょ!!」
「・・・さて、なんの話やら」
「今度盗撮してファンクラブの連中に売ってやるからなぁぁ!!!」
「そんな事したら・・・分かってるよね?」
「報復!!報復攻撃だよ!!」
「・・・それ私へのダメージがえげつないくらい高いんだけど・・・」
「じゃあ私の撮っていいよ!!」
「いやどういう理屈・・・っていうか需要な・・・いや、あるか」
「もういっそ一緒にヤる!!」
「待ってマヤ今怒りかなんかでおかしくなってる。落ち着いて」
「うわぁぁぁ!!ムラムラするぅぅぅ!!!」
「なんで!?」
なんて戦闘も終わりよく分からない雰囲気で護衛対象の旅客機と合流した。
あと王都までは1時間・・・。
のんびり行こう。