ある日の昼下がり私たちは翼竜の撃退依頼を受けて空港をタキシングしていた。
いつもの食費稼ぎ程度の簡単な仕事。
そのはずだった。
「なんか、騒がしくない?」
「確かに……って、なにあの機体」
左の誘導路から許可もでてないのに割り込むようにF-2が高速で突っ込んできた。
私はぶつからないようにブレーキを踏んで無線で警告する。
「ちょっと、許可も出てないのに危ないよ」
しかし応答が無かった。
「感じ悪っ!!」
「全くだよ」
マナーのなってない冒険者も居たもんだ……。
F-2はそのまま滑走路に進入して急いで離陸していく。
まるで何かから逃げるように。
「あらら、上がってった」
「ありゃ帰ってきたら罰金ものだね……」
「私達も割り込まれた慰謝料くらい取っとく?」
「大賛成!」
「ふふ、怒られて罰金取られて慰謝料も払ったらすっからかんになっちゃうね」
なんて話をしながらタキシングしていく。
滑走路まで後ちょっとのところだ。
すると管制塔から無線が入る。
《エンジェル0-1、こちら管制塔。緊急依頼です》
「緊急?」
《さきほど、街で強盗を働いた犯人が冒険者のF-2を強奪し離陸しました。直ちに追跡してください》
「さっきのF-2?」
《それです。離陸後はこちらで誘導します。現在受けている依頼はこちらでキャンセル申請とキャンセル料を支払います。強盗犯を最優先で追跡してください》
「まぁ、キャンセル料まで支払ってくれるなら……。0-1了解」
《滑走路は空いています、直ちに離陸してください》
「了解」
《対象機は離陸の仕方から見て燃料が十分に搭載されていないものと推測します。恐らくアフターバーナーを使用しての超音速飛行は不可能と思われます》
「了解、武装は?」
《翼端にAAM-5が2発、機関砲600発です》
「了解。ちなみに、追いついたらどうするの?」
《警告射撃をして空港に引き返すように指示してください。従わない場合は撃墜を許可します》
「了解」
「盗まれた冒険者は可哀想だねぇ……」
「まったくだね」
「もしハルのトムキャットだったらどうする?」
「燃料の入ったドラム缶にぶち込んで火をつける」
「残酷すぎる……」
なんて話してる間に滑走路だ。
私はスロットルを全開にする。
「さて、行きますか」
《ターゲットは北に向かって飛行中、方位360。速度400、20マイル、高度800》
「了解」
私たちのF-14Dなら簡単に追いつけるしレーダーも強力だ。
これなら逃げられても簡単に見つけられる。
「エンジェル0-1、エアボーン」
《目標は低空を飛行しています、翼竜や鳥との衝突に注意してください》
「了解」
「はい、みーっけ」
「早いね」
「ふふん!トムキャットのレーダー舐めたらアカンぜよ!」
「知ってる。目標はどう?」
「変わんないかなぁ、高度500まで下がってる以外は」
「レーダー探知から逃げるつもりかな」
「多分ね!どうする?ロックオンしてビビらす?」
「あり。やってみよ」
「おっけー!STTロック!」
これで目標のRWRは警報を鳴らすはずだ。
……RWRの電源が入っていればだが。
「回避機動は?」
「うーん……それがまったくなんだよねー……」
「燃料に余裕がないから動けない……のかな」
「どうだろ……もしかしてRWRの電源入れてないとか」
「そんなことある?」
「でもほら、強盗犯なんでしょ?急いでて入れ忘れてるとか」
「それは有り得るかも……」
それよりも無線機の電源さえ入っていない可能性もある。
とにかくエンジンだけ始動させて飛び立った可能性がある。
「とりあえず近づいて警告射撃を……っと、見つけた」
相手は速度400、こっちはマッハ1で近づいていた。
すぐに目標を視認した。
「管制塔、こちらエンジェル0-1。タリホー」
《了解、接近し警告射撃を実施してください》
「0-1了解」
回避する気配のないF-2に後方から接近する。
またオープンチャンネルで呼びかけた。
「そこのF-2。もう終わりだよ。指示に従って反転しなさい」
「撃ち落とされたくなければね!」
反応を見るがまったく動く気配がない。
さっきからずっとロックオンしているのでRWRが警報を鳴らし続けているはずだが……。
「まったく……弾薬費払ってよ。高いんだから」
私は斜め後ろから警告射撃をした。
曳光弾がコックピットから見えたはずだ。
「ほら、もう終わりなんだから観念してとっとと帰るよ」
そう無線で言った時F-2は突然バレルロールをして急減速しようとした。
完全に後ろを取る気だ。
「やる気なの!?」
「相手がその気ならこっちもやるまでだよ!!」
「あーもう分かったよ!管制塔!こちらエンジェル0-1!対象機に明らかな攻撃の意志を確認!反撃します!」
《こちら管制塔、了解》
F-2をギリギリ追い抜きそうなところでこっちも減速しオーバーシュートだけは避けれた。
だがドッグファイトになってしまった。
こっちはAIM-9Lが2発とAIM-7MHが4発。
対して向こうはAIM-9Xと同等かそれ以上の性能を持った異世界の日本が作った04式空対空誘導弾、AAM-5。
おまけに機動性は向こうの方が高い。
「こうなったら燃料に余裕のあるこっちが引きずり回してガス切れにしてやる……!」
「いい案だね!!採用だよ!」
敵機は十分な燃料がない。
それならなるべく相手のエネルギーを削ぐ動きをして燃料の消費を増やさせれば勝機はある。
あとは動きが鈍くなったところを撃つかもう一度降伏勧告すればいい。
「さぁ、追いかけっこだよ!」
急旋回するF-2の動きに合わせようと操縦桿を動かす。
しかしやはり軽量かつ機動性の高いF-2はこちらよりも動きが早い。
おまけに燃料が少ないためにさらに軽くなっているだろう。
「ハル!このままだとミサイルが来るよ!」
「OK!後ろしっかり見ててよ!」
私は赤外線ミサイルに備えてフレアをばら撒く。
赤外線画像誘導のAAM-5にどこまで有効か分からないが……。
「撃ってこない……?」
敵機は明らかにこちらを攻撃できる位置に居るのに撃ってくる気配がない。
機関砲はおろかミサイルすら撃つ気配がなかった。
「もしかして操作が分かってない……」
「なんか閃いたの!?」
「あのF-2、操作が分かってないのかも」
私は回避機動を取りながらそう言った。
相手はこっちを攻撃できる位置に居ながら撃ってこない。
恐らく本当に飛ばせるだけの技量しかないのだろう。
そして敵の後ろを取ってビビらせて逃げさせる作戦かもしれない。
「マヤ、どっかに捕まってて」
「え?!」
「急減速してやり過ごすよ!」
敵が真後ろに付き、少し接近したところでエアブレーキを開いて操縦桿を思い切り引く。
その時にラダーを踏んで機体を回転させた。
バレルロールのような形で敵機をやり過ごして背後を取り返す。
敵は慌ててアフターバーナーを吹かした。
「そんなに吹かしたら……燃料持たないよ!」
私はサイドワインダーを選択してロックオンする。
撃つ前にもう一度だけ警告した。
「そこのF-2、もう終わりだよ。撃ち落とされたくなかったら抵抗をやめなさい」
警告して返事を待つ。
だが待っても返事は無かった。
それどころかさらに逃げようと高機動を繰り返した。
「はぁ……気が乗らないけど……FOX2!」
至近距離でAIM-9Lを発射する。
敵は回避する間もなくミサイルはエンジンに突き刺さった。
機体後部が激しく破損し錐揉みを起こして墜落していく。
幸い、強盗犯は脱出方法は分かるらしくベイルアウトしていた。
但しここは街からかなり離れた草原。
魔獣が沢山いる。
早く救助のヘリが来ないと魔獣に食べられてしまう。
「テキサスタワー、こちらエンジェル0-1。対象機を撃墜、パイロットはベイルアウト」
《こちら管制塔、回収のヘリがすでにそちらに向かっています。到着まで10分》
「了解、仕事の早いことで。」
《回収機の到着及び、逃走犯の収容をもって依頼完了となります。現在位置で警戒待機してください》
「0-1了解」
「はぁー……ひと段落だね」
「うん。でも見た感じ降りた時か私が落とした時に怪我したみたい」
「え?あ、ほんとだ。うずくまってる」
「……重傷じゃなきゃいいけど」
私はゆっくりと左旋回しながら逃走犯の様子を見守る。
手が動いているように見えるので死んではいなさそうだが……。
「そういえば落としちゃったけどこのF-2の持ち主にはどういうの?」
「え?」
「ほら、撃墜しちゃったわけだし」
「あ……」
確かに持ち主にはなんて言おう……。
盗まれたことによる補助金はギルド側から出るだろう。
ただこの機体がもし私のトムキャットのような存在だったら……。
そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「まぁ……頑張ってみる」
なんて話してるウチにヘリは到着して逃走犯を回収した。
逃走犯は着地に失敗して足を骨折した以外は命に別状はなさそうだ。
「はぁ……終わり終わり。帰ろ」
「帰ろー!ちょうどお腹減った!」
「お昼食べたでしょ」
「おやつ!!」
「まぁ……私もちょっと小腹がすいた」
「じゃあ帰ったらカフェでも行って何か食べよ!」
「そうだね」
進路をテキサスに向けて飛行する。
食費稼ぎの簡単な仕事がこんな事になるなんて……。
報酬はもちろんしようとしていた仕事の3倍以上は出て燃料弾薬費もギルドが持ってくれた。
普通に仕事をすれば燃料弾薬費は自費だから運がいいのか悪いのか……。
なんて考えながら空港に着陸した。
格納庫に機体を仕舞い戦闘機から降りるとおじさんが駆け寄ってきた。
「嬢ちゃん!大変だったの!」
「うん、まさかの事態だったよ」
「まったく迷惑な事してくれるもんじゃい……あ、それはそうとお客さんじゃぞ」
「お客さん?」
「言い難いんじゃが……あのF-2の持ち主じゃ」
「うげっ……」
「あ、あはは……私も行く?」
「わ、私ひとりで大丈夫……マヤは帰ってて」
おじさんは私たちの格納庫にある休憩室に案内してくれた。
そこには20代そこそこの若い男性がいた。
今にも泣きそうな顔で。
「あの……」
「あの……」
声が被る。
「あ、えと、そちらがお先に……」
私は噛み噛みでそう言った。
「あ、いえ……あの……僕のF-2は……」
「えと……あの……」
すごく言い辛い。
ちくしょうあの強盗犯め。
アイツのせいでなんで私がこんな目に会わなきゃならないんだ。
「ごめんなさい!」
私は謝るしかなかった。
「明らかにこっちも撃とうとしてきたから……反撃するしかなかった」
「いえ、いいんです……しかたないですよね」
「本当にごめんなさい……」
そのあと1分くらい無言でいると見かねたおじさんがカタログを持って来た。
「まぁなんじゃ、災難な話じゃが新しい機体のための補助金もでるんじゃろ?」
そうだ、冒険者なら撃墜された時などにギルド側から一定額の補助金が出る。
特にこう言った機体を盗まれ、やむを得ず撃墜措置になった時は乗っていた機体を買い直せる額が支給される。
申請はちょっと面倒ではあるが……。
「そ、そうですよね!」
「それになんじゃ!ワシの所なら安く……」
「ちょっと、商売しない」
「なんじゃ!ちょっとくらい良いじゃろうが!」
「まぁおじさんの売ってくれる機体なら安心だけど……そういうの良くない」
「しょぼーん……」
なんてやり取りしてると相手側も少し気が紛れたのか笑顔になっていた。
そしてギルドに補償金の申請に向かっていった。
「それにしても、嬢ちゃんも災難じゃの」
「なにが?」
「出かけようとしたら必ず何かあるもんな」
「……気の所為だよ」
だと思いたいが本当に大抵何かあるのでもういっその事この街から引っ越してやろうかと思っていた。
「ま、無事に仕事も終わって撃墜数1増えたし良しとするかの!」
「ぜんっぜん良しじゃないけどね……」
モヤモヤしたまま休憩室を出るとマヤが待っていてくれた。
「あれ、帰ってなかったの?」
「んー……まぁ、気分でね!」
「……ありがと」
「いえいえ!」
マヤはニコッと笑って出口の方に歩き出した。
「さ、帰ろ帰ろ!」
「うん。今日は私の奢りで何か食べよ」
「え!?いいの!?」
「待っててくれたお礼。それとさっきの愚痴でも聞いて」
「はーい!任されよ!」
そう言って少し空が少し赤くなってきた中歩いて近くのステーキ屋で早めの夕食にした。
まったく災難な1日だ……