ある日の夕方。
私とエルは山の中に居た。
「ねぇ……復帰1発目からこんなことしなくていいんじゃない……?」
「ハルが払ってくれた治療費くらい稼がないと」
「じゃあ私を連れていかないでくれますかねぇ……?」
「相棒でしょ」
「そういう問題じゃない」
エルがどうしてもかかった治療費を払うと稼いで返すと言い出し、仕事を持ってきた。
……持ってきたはいいが何故か私も一緒に行くことになってしまった。
まあ……行く前にまだケガがとか心配だからとか散々言ってたらじゃあ一緒にという話になったのだが……。
「さてと……この辺で休憩だね」
「この辺でっていうけど……どこまで行くの……?」
「んー……あと1日歩いてこの位置まで」
「あと1日ぃ!?」
エルはそう言って地図を広げた。
私はまさかの単位に驚いて声を上げてしまう。
「だって仕事は狙撃だよ?」
「いや……そうだけど……そうなんだけど……」
私は戦闘機のパイロットでガンナーではない。
さすがに何日も山はキツい……。
「ハルだってベイルアウトしたらこんな場所で過ごすことになると思うよ」
「何回か経験あるからこそ嫌なんだよ……」
とはいえ今回は撃墜された訳でもないしターゲットはアンデッド系のモンスター。
それを召喚して自らの仲間としてこの辺で悪事を働いてるネクロマンサーの排除だ。
このネクロマンサーも元は人だが何百年も前の人物で今は骨だけらしい。
だがその状態でも魔法の力で生きているらしい。
正直、何百年も前の人物なんてそうそう居ないため排除するのも惜しいが悪事ばかり働いているのでさっさと頭に弾丸ぶち込んで成仏させてしまえという依頼だった。
エルはその為に今回私が昔買ったTAC-338を持ってきた。
弾薬は338ラプアマグナムの死霊用の弾薬だ。
祈祷師が何ヶ月も祈りを捧げ、魔法使いが死霊系魔獣に効く魔法を掛けた特殊弾だ。
ちなみに魔法がかかっている以外は通常弾の為、死霊以外にも効果はある。
ただしアンデッド系モンスターの場合はこの弾丸が着弾すると二度と復活できないらしい。
「とりあえずここまで行って狙撃出来るタイミングを探す」
「でもだいぶ前目標から遠くない?」
「1kmは離れてないと感ずかれるかも」
「でも1キロの狙撃は……と思ったけどエルなら出来るか」
「1.3kmまでなら確殺」
「頼もしいね……」
「ところでハルのその銃は初めて見る」
「これ?Sig MCX」
「Sig?これと同じメーカー?」
そう言ってエルはP226を出す。
「そう。そのメーカー。私のお気に入りの異世界メーカーかな」
「ふーん……でもいいね、短くてサプレッサー付きだし。弾は5.56?」
「ううん、弾薬は300ブラックアウトってやつ」
「300ってことは……7.62mmくらいのやつなの?見た目5.56だけど……」
「M4のマガジンで使える弾みたい。結構強力だし魔獣相手には強いんじゃないかな」
そう言って私はエルに新品のMCXを見せた。
「ところで……あと1日だよね……」
「まぁ1日っていっても休憩とか含めたらの話。今日はもうここで終わる」
「良かったぁ……」
「ハルが弱音吐くの珍しいね」
「そりゃ半日こんなところ歩いてたらね……はぁ……」
私はプレートキャリアを脱ぐ。
上着の胸付近は汗でびっしょりだ。
「蒸れちゃった……臭くない?」
「全然。むしろいい匂い」
「……臭いって言われるのも嫌だけどいい匂いって言われるのもなんか……」
「珍しく顔が真っ赤」
「やかましい」
なんて話しながら夕飯の準備をする。
火を起こしてまるでキャンプだ。
「はー……火って落ち着くねー……」
「うん。ほんとだね」
「エルは大丈夫なの?」
「え?」
「動物は火が苦手」
「私を普通の動物と一緒にしないでよ」
「ふふ、だよね」
私たちは持ってきていた鹿肉を焼いて軽く塩コショウで食べる。
シンプルだが焚き火で焼いたからか普通に焼くより美味しかった。
食べ終わるとエルは少し離れると言ってどこかに行った。
私はトイレだろうと思い少し横になった。
「はぁ……疲れた」
装備だけでも15kgを超える。
そこにリュックの中身も合わせて25kgはある。
「それにしても……よくこんなに荷物持てるようになったな」
戦闘機を操縦するためには体力が必要だがそのおかげでこれくらい余裕になったのかもしれない。
「ただいま」
「おかえり。トイレ?」
「ううん。地雷埋めてきた」
「あ……ごめんね。聞いちゃって」
「ちょっと!?違うからね!?」
「え……地雷ってそう言う……」
「違う!!!」
なんて冗談を言い合いながら夕飯を食べて焚き火で温まる。
「ふぁ……」
「寝てていいよ。ハルには無理に付き合わせてるし」
「ん……じゃあお言葉に甘えて……」
そう言って私は寝袋に入る。
1日歩き通した疲れですぐに寝てしまった。
「……起きて……ハル」
「ん……」
「……何かいる」
エルに揺さぶられて起きる。
エルは拳銃を手に周りを警戒していた。
「どうしたの……?」
「変な臭いと足音がした。アンデッド系のモンスターかも」
「分かった」
私も起きて近くにあったMCXを手に取る。
そしてなるべく音を立てないようにチャージングハンドルを引いて初弾が入っているか確認した。
「……最低でも音は2つ……」
エルは目を閉じて音に集中する。
私はその間に寝袋から出て周囲を警戒した。
「……腐ったような臭い……あと呻き声……」
「……それ完全にゾンビの特徴だよ」
「はぁー……だよね。臭いったらありゃしない」
「う……なんか私も今気づいたかも……」
鼻を突くような悪臭が漂ってきた。
肉が腐った臭い。
ゾンビだ。
「どうする?」
「……倒して逃げるか……そのまま逃げるか……」
「でもこの臭いがこっちまで来るってことは近寄ってきてるんじゃ……」
「だよね……」
私はなるべく口で息をしながら銃を構える。
すると森の奥に動く影が見えた。
「エル」
「見えてる」
エルはいつの間にかライフルに持ち替えていた。
そしてすぐに発砲する。
「ダウン」
「ナイスキル」
「どうする?」
「なにが?」
「アンデッドなら何年も前の貴重品とか持ってるかも」
「……この臭いの中行くの?」
正直、あのゾンビが何万ドルもする貴重品を持っていたとしても近寄りたくない。
バチクソ臭い。
あと汚い。
「冗談だよ冗談。私だってこの臭いの相手に近寄りたくない」
「じゃあ早く行こ」
一刻も早くこの場から離れたかった。
「……ねぇ、臭いついてないよね」
「んー……」
宿営地を速攻で片付けて歩き出して数分。
なんだか体が臭い気がしてならない。
「……ハルってほんといい匂い」
「……そういう分析しないで」
「臭くないよって言っただけなのに」
「じゃあ臭くないでいいよ!」
「恥ずかしがり屋め」
「やかましい」
なんて話しながら山道を歩く。
するとエルは地図を見ながら立ち止まった。
「ねぇ、いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」
「……いいニュースからで」
「目的地はここから直線で500mないくらい」
「……ねぇ……悪いニュースって……」
私たちの目の前には50mはある高い崖のような山があった。
幸いにも傾斜が急なだけで木も生えているし登るには登れそうだが……
「この山を登れば500m。迂回したらあと3km」
「……」
……50m我慢すれば終わりなのと、あと3kmアップダウンのある山の中を歩き続ける……
「どうする?」
「……エルに任せる」
「じゃ、行こっか」
エルはそのまま山に向かった。
……分かってたけど……。
「ハル、大丈夫だよ。いい感じの木も生えてる」
「はぁ……はぁ……そういう……問題じゃ……ない……」
登り始めて2分。
すでにキツい。
足は滑るし体は重いし……。
そして下を見て絶望する。
まだ5mくらいしか登ってない。
「迂回すれば良かった……ぜぇ……はぁ……」
「ふぅ……なんか懐かしいな」
「私も……獣人なら……行けたかな……はぁ……はぁ……」
「んー……私は狩りとかするときにこういう崖登ったりしてたからね。慣れっこ慣れっこ」
「私は……慣れて……ない……!!」
文句を言いながら登ること20分。
最後の10mくらいは半分キレながら登っていた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
全身汗だくだ。
「あ」
「ぜぇ……はぁ……なに……」
「第2ラウンド」
私はエルが指さす方向を見て泣きそうになった。
20mくらいのさっきよりは傾斜がマシな崖があった。
「もうやだぁ……!!」
私は恐らく軽く泣いていただろう。
何が悲しくてこんな特殊部隊みたいなことをしなければならないのか……。
「大丈夫、登りきったらロープ垂らして上げるからそれを掴んで上がってきて」
「キツくない……?」
「さっきよりはマシ」
さっきがキツすぎたのでもうどのレベルか全く分からない。
でも登るしかない。
だってここ降りる方がキツい。
エルは私が休憩してる間にひょいひょいと登りロープを垂らしてきた。
「はぁ……がんばろ……」
私はロープを掴む。
たしかにさっきより楽だが……キツイものはキツい。
「はぁ……はぁ……」
10分くらいで何とか登りきった。
「お疲れ様」
「疲れた……」
「あとちょっと。がんばろ」
「遠回り選んどけば良かったよ……」
私は嘆きながら歩く。
しかし残りはほとんど平坦な道だったのでそこまで疲れずに済んだ。
目的地に着くとエルは双眼鏡を取り出す。
「さてと……」
「目標は……」
私はスマホでターゲットの画像を検索する。
目標はまぁ予想通りの格好だった。
真っ黒いローブに水晶の着いた杖、そして全身が骨だ。
なんでこう、悪い魔法使いはこんな格好ばかりなのだろうか……。
「ハル、居たかも」
「はやっ。どこ?」
「牧草が置いてある小屋から2時方向20m」
「んーと……」
その方向を見ると確かに黒い服を着た何かが動いていた。
しかしこれだけで狙撃は出来ない。
「あれはターゲット?」
「恐らくね。これだけの情報じゃ撃てないけど」
「もうすこし観察かな……」
そして動きを見ること数分、黒服の何かは立ち上がった。
「……確認、ターゲット」
「撃てる?」
「動きが止まったら撃つ」
「りょーかい」
そして呼吸を落ち着けていた時だった。
「……ん?」
エルがなにかに気づく。
「こっちを見て……」
その時だった。
急に体が浮くような感覚がする。
「ッ!!!ハル!!」
「え……?」
目の前が眩しく光を目を閉じた。
そして次にを開けると小屋の中にいた。
「ここどこ……って、え!?」
何故か両手は頭の上で縛られて天井から吊るされていた。
「やばっ……!!」
逃げないとと暴れてみるが全くダメだった。
すると小屋の扉が開く。
「クソっ……!!」
よく見たら足まで拘束されている。
これじゃ逃げられない。
そして扉からはあのターゲットのネクロマンサーが入ってきた。
「……離してよ」
ダメ元で言ってみるがネクロマンサーはゆっくり歩いて私の前に来た。
完全に骨なのに動いているのが怖すぎる。
するとネクロマンサーはカタカタという音を立てながら口を動かした。
何かを喋っているつもりらしい。
「……?」
私が首を傾げるとネクロマンサーは何かを閃いたような素振りを見せて紙とペンを取ってきた。
……筆談か……
『喋るの久々で声出ないの忘れてた』
「でしょうね……」
『それよりも悪い事をしに来た娘にはお仕置をするべきだ』
「…………」
そう伝えるとネクロマンサーはどこかに行く。
まずい……さすがに拷問とかされたら……
「エル……はやく……」
私は祈るように呟く。
だが先に来たのはネクロマンサーだ。
……というか何でお鍋持ってきた……?
「あの……なにそれ……」
私は恐る恐る聞いてみる
『おでん』
「おでん!?」
どういうこと!?
するとネクロマンサーはその鍋の中から湯気の立つタマゴを取り出してきた。
すごく美味しそうな匂いがする。
『あーん』
「ちょっとまっ……絶対熱いやつ……!!」
『おいしいよ』
「あっつぁぁぁぁ!!!」
熱々のお出汁の滴るタマゴを口の中に放り込まれる。
しかもコイツ骨だから熱さを感じないのか素手でねじ込んでくるので吐き出せない。
「はふぅ……!」
私は、はふはふ言いながら食べるしか無かった。
ていうか普通に美味しいのがめちゃくちゃ腹立つ。
『お大根もどうぞ』
「いりません!!」
私は拒否したがまたねじ込んできた。
「あっちぃぃぃ!!!」
『おいしい?』
美味しいじゃねえ。
熱くて味もわからんわ。
私は心の中でそうツッコんだ。
「あぅ……美味しいのが腹立つよぉ……」
そこから20分ほどかけて鍋の中にあった熱々おでんを全部食べされられた。
お腹は空いてたのでちょうど満腹になったのは良かったが何だこの謎の状況は。
「エルぅ……はやくぅ……」
私は涙目で呟いた。
するとネクロマンサーは次のものを持ってきた。
謎のイボイボの板だ。
「なにそのイボイボしたやつ!」
『足ツボマッサージ』
「や、やめ……なにするの!」
そのイボイボの板を私の足の下に置いた。
その瞬間とんでもない痛みが足裏から来る。
「いったぁぁぁぁ!!」
『きもちいい?』
「いいわけないでしょ馬鹿なの!?」
私は全力で腕に力を込めて体を持ち上げる。
すこしは痛みがマシになった。
すると……
「あはははは!!!や、やめてぇぇ!!」
ネクロマンサーは脇をくすぐってきた。
私は堪らず体を下ろす。
「いだだだだだだ!!!!!!」
『綺麗になれるよ』
「ほんと後で殺してやるから覚えてろ!!」
『もう死んでる』
「うるさーい!!!!!」
そこからまた30分は足ツボマッサージ拷問を受けた。
そしてまたネクロマンサーは次の道具を持ってくる。
「もう勘弁して……」
『今までのはお遊び』
「もういやだぁ……」
地味にキツイ……。
普通に体力も限界だった。
だが次に持ってきた道具は普通のマッサージ器に見え……
「あれ……それなんかリリアが持ってるの見た事あるような……」
『これ?』
「それ……」
夜に部屋から変な声とこのマッサージ器の音がしていた。
そして私は察する。
『これエッチな使い方するやつ』
「やめ……やめろぉ!!」
ネクロマンサーは電源を入れて私に近づけてくる。
ろくに動けないので諦めかけていた時だった。
「ハル!!」
扉が破壊されてエルが突入してきた。
そしてネクロマンサーに数発の銃弾を浴びせる。
ネクロマンサーは倒れて動かなくなった。
「大丈夫!?怪我は!?」
「大丈夫……なんとか……」
「はぁ……良かった……」
エルは安心した顔をしてネクロマンサーに対死霊弾を撃ち込んだ。
そして私の拘束を解く。
「よくここが分かったね」
「ハル、私は犬の獣人だよ」
「あ、そういえば」
「忘れないでよ」
「ウソだよ。ちゃんと分かってる」
そう言って私はエルの頭を撫でた。
エルは嬉しそうに尻尾を振った。
「ていうか何これ」
「リリアがよく使ってるやつ」
「あー……お土産に持って帰ってあげる?」
「たぶん見たことないくらいブチギレるよあの子」
「ふふ、だろうね」
私たちはネクロマンサーの写真を撮って小屋から出た。
それにしてもまさか転移魔法で転移させられて縛られるなんて思ってもなかった。
「ところでハル、何されてたの?」
「……聞かないで」
「なんか拷問みたいなことされてた割には余裕そうな声聞こえてたし」
「……思い出したくないから本当に聞かないで」
私は恐らく今後数年はおでんが食べられない気がする……。
「マヤも呼んだからここで待と」
「分かった。あ、そうだ。時間あるなら……」
「どこいくの?」
「小遣い稼ぎ。酷い目に合わされたし漁ってやらないと気が済まない」
「それはいいアイデア。私も行く」
そしてマヤが迎えに来るまでの2時間ほどをネクロマンサーの寝床を漁って戦利品を集めた。
これで当分の生活費には困らないし戦闘機のアップグレードも出来そうだ。