短小の物語群   作:眼鏡花

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 息抜きです。幻眼魔と吸血鬼が行き詰った為に思いつきとノリと趣味全開で突貫しました。
 ……吸血鬼終わらせたらコイツ連載しようかな。

 独自設定が多い上にキャラクターの口調がつかめない……(と言っても今の所出ているのは一人だけですが……)




『前マーリン』と魔法の世界1

 

 ――憂鬱だ。

 

 聖杯は破壊され私は生贄となった。私が「マーリン」として荒らしたその後の世界は、どうなったのだろうか。「次のマーリン」となってしまうだろうあの魔法使いは、今どうしているだろうか。

 

 麻帆良の展望台にて、私はそんな考えても無意味なことを考えていた。

 もう、悩んで13年目だ。あの神々の抵抗だったのか。「マーリン」という全体の中から「前のマーリン」を生贄にした「私」の側面だけがあの魔法使いの右腕に取り込まれること無く、こうして別の世界で生きている。

 赤子、それも女としてもう一度生きなおすことになり、右腕は代償による侵食が進んでいたが、フェニックスと似たようなものだろうと深く考えずにいる。性別のことも、それほど気にすることでも無かった。何故私が死んだ筈なのに腕はそのままなのか、と疑問を覚えたが、考えるだけ無駄だろう。そう感じて割り切ることにした。

 

 少し強めの風が吹き、右腕の布が外れかけていたことに気が付いた私は、布を巻きなおしながら街並みを眺める。水都アクエリアスと同じ広さと言われれば首を縦に振ってしまう位には、この町は広い。或いはそれ以上に広いのではないだろうか。ネクロポリスは対象外だが。

 

「む、久しぶりでござるな」

 

 何となく、そう、感慨深く思っていた所、知った声が自分に掛けられた。

 後ろを見れば、見知った顔がそこに居た。彼女が此処まで来るのかと思った。

 

――2日ぶり。元気にしている?

 

 知った顔ではあってもお互い仲が良いという訳でも無い。一月ほど前、この世界における私の「持病」で彼女と学園長に多大な迷惑を掛けた。これで説明が付いてしまうくらいの仲だ。

 付け加えるなら、私が気兼ねなく声を掛けられる生徒という珍しい存在でもある。

 

「大丈夫でござるよ。にんにん」

――そう。……悪かった。

「拙者は気にしてないし、気にし過ぎも体に毒でござるよ。アーサー殿」

――……否定できないかな。

 

 「忍者」という、暗殺者のような存在であるらしい長身糸目の彼女は、私を見下ろしながらそう言った。

 ナガセ・カエデというらしい。

 返した通り、否定出来そうもない。元「魔法使い」としてある程度罪悪感などは割り切っていたつもりだった。

 それでも、あの日。私は確かに人を殺している。古い価値のある――世界樹などが最たる例である――そういう物を狙い麻帆良へ侵入した魔法使いの一団に対して、私は魔物のような姿に成り果てて、この世界では通用しない必要悪を執行した。そのことに関しては、割り切れている。

 

 ――目の前の彼女を巻き込んだことに、罪悪感を抱いていた。

 ナガセの目の前で私が暴走し、彼女に襲い掛かったのだ。雷に打たれた後、生贄にされても、文句を言える立場では無い。

 

 その一件以来、この麻帆良を警備に当たっている先生方や魔法使いの生徒からは何時爆発するか分からない爆弾のように扱われている。確かに、私の意思だけで抑え込んでいた頃は私も少し荒れていた。

 

 今は学園長と吸血鬼の合作である封印用の術式が施された布で押さえつけられている。しかし、それでも痛む。腕に封じられた魂が外に出ようと暴れ狂っているようだ。

 

 かつてリブロムが共に戦ったと言っていた『最も魔物に近い魔法使い』ガラハッドは、これよりも酷い苦痛に永遠と耐えていたのだろうか。禁術を用いた後とはまた違う、この苦痛と。

 

 彼女の殺戮衝動もなりを潜めているとはいえ、大多数の魂から「殺せ、殺せ、殺せ」とうるさく声が伝わってくる。今もそうだ。ナガセに対して、そんな風に思っている私が憎らしい。

 

あの時は、本当に限界だったようだ。もしかしなくとも、何時魔物になってもおかしくはない。この世界での「魔物」の定義は若干違うが、私はこの世界における最も『魔物』に近い魔法使いだ。

 

 そんな私を生徒として擁護している一部の先生方――これには学園長も含まれる――や生徒に、何となく疑心暗鬼になっているのは、私がおかしいのか。周りが優し過ぎるのか。

 

 私『アーサー・M・カムラン』はそんなことを考えつつナガセと談笑していた。

 

 

「ナガセ。お願いがある。……私が――」

「んー、それ以上は言わせない」

 

 口を開こうとしたアーサーの頬を拙者は横に引っ張った。あまり表情を変えない友人はどうにも、何か恐ろしいことを考えている気がしてならない。

 

 今回は何を言おうとしたのか理解しているからこそ、拙者は止めた。そうしなければ、目の前の彼女は自分が死ぬ、或いは殺される方向に向かおうとするのが目に見えていた。

 死に急いでいる? 違う。

 

「アーサー殿。何をそんなに死にたがるのでござるか。拙者の目には、そうとしか映らない」

「……」

 

 親に怒られてしまった子のように、アーサーは顔を俯けてしまった。

 一月前。拙者は、山奥で修業していた時に偶然『魔法使い(侵入者)』たちを見つけ、同時に見つかった。そのまま戦闘に分身しても対応しきれなかったのでござる。今にして思えば、あのまま逃げればまけたはずだったのに、馬鹿なことをした。若気の至り、という奴でござろう。

 

 光弾が避けられぬタイミングで幾つも飛んできた時、それは微塵に切り裂かれていた。目の前に、突風のような速さで、鎌のようにも見える斧を持ってアーサーが現れたのでござるよ。

 

 その姿は、辛うじて人間であるという表現がそのまま当てはめてもいいくらい人間らしくなかった。剥き出しの筋肉のように見えた淡い赤色と黒の体。

 苦しそうな呻き声を響かせながら私を一瞥し、目の前の魔法使い達に奇声を上げながら突っ込んで行ったのだ。

 何故動けなかったのか。決まっている。

 

 あの目を見たから。真に覚悟で塗り固められた強い意志。それは確かに彼女の目に宿っていた。その目に、拙者は魅入られたのでござろう。

 

 そこからは一方的だった。魔法使い達を確実に倒し、切り裂き――最後には右腕を差し向け、拙者の目の前で殺したのだ。

 どんな原理で殺したかなんてわからない。

 ただ、魔法使い達の苦悶に満ちた声と、全身から破裂するように噴出した血潮から、漠然と殺したという事実は伝わった。

 そのまま血濡れになった彼女は猛々しい赤黒い光を放出したと思うと、更なる異形へと変貌していた。人間と呼べそうだったその体たらくは、もはや人間であることが出来なくなっていた。

 

 目と思しき部分からは、猛獣のような殺気が放たれるのみ。先程の魅入ってしまったあの目とは程遠い、狂った目。

 

 そこからは逃げの一手だった。切りかかって来ては避け、爆弾のようなものを飛ばしてきてはそれを回避し、千日手を重ねていた。精細に欠けた動きは読みやすく、しかし意表を突かれることもあった。

結果として避けきれず、一度だけ左腕を切りつけられた瞬間、アーサーが倒れた。

 その時、拙者は確かに耳にした。これは誰にも話していないことだ。

 

――ごめんなさい。

 

 弱弱しい、目と矛盾したような声色を。

 それを聞いてしまうと、そのまま放っておくのも忍びなく感じて、拙者は声を掛けるなどして、彼女に歩み寄って行った。

 事後処理として、生まれたままの姿になってしまったアーサー殿に服を着せてやったり、その間に高畑先生が拙者たちに接触をしてきたり、学園長との対談をへて今に至るのでござるよ。

 

「怖いのでござるか?」

「……」

「大丈夫でござるよ。拙者は、あんな程度で心に傷を負う程、軟ではござらん」

「……ありがとう」

「あいあい」

 

 頬をつまんでいた指を放し、そっと抱きしめてやる。顔を頷けているのは見えたでござるが、表情は硬いまま。……彼女が笑っているのを、拙者は一度も見た事がない。

 拙者にはよく分からなかったのでござるが、アーサーの右腕は悪さをしたものの魂が数えるのも面倒な程封じられているらしく、それが腕の中で暴れ、四六時中痛みが生ずるらしい。

 だからでござろう。顔はしかめ面にも見える無表情で形を変えず、目の下にもどんよりとしたくまが色濃く残っている。顔色も優れているとは言い難い。

 

「拙者から言えることなんてたいしたことではござらんが、アーサー殿も何か相談があったらいつでも相談するといいでござるよ」

 

 ……そう言えば、エヴァンジェリン殿から伝言を頼まれていたのをすっかり忘れていた。

 

「ああ、そう言えばエヴァンジェリン殿が家に来るように言っていたでござるよ」

「エヴァが……? ありがとう」

 

 訝し気な顔で何かやったか? と呟きつつアーサーが拙者の目の前をふらふらと去っていく。

 隣のクラスではあっても、拙者の友人である彼女を放っておくのは些か気が引けた。故に背負おうかと尋ねれば、この位で体調が悪い筈がないと言って聞かなかった。やはり、本人の元々の気質が強情なのだろうと考えながら、拙者は明日明後日の修行のことを考え始めた。

 

 




 良ければ活動報告もみてやってくださいw
 なお、主人公の姿はある程度ご想像にお任せしますが、普段は狂魔女の腕みたいになっています。隠しているだけで、実際は魔の腕Ⅳです。そこから、魔の腕Ⅴ、Ⅵに変化します。Ⅵは暴走状態みたいなものだと考えてください。

 では、いいユメを。
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