最初は本当に気づかなかったし、前世の記憶というモノもなかった。幼いときにお祖母ちゃんからあなたは立派な魔女になるのよ、と告げられた時は驚いたけど嬉しかった。けれどいつからか違和感を覚えるようになったのだ。最初に変だと思ったのは自分の名前。『パンジー・パーキンソン』 `パンジー´ `パーキンソン´ 聞いたことがあったのだ。けど私はそれを勘違いとして処理をした。次に両親に連れられ、お偉いさん達が集まるパーティーで自慢気に『僕は純血なんだ、君もだろう? パーキンソン』と話す金髪の彼を見た時。
––––でも、こんなのって、こんなのって酷すぎるんじゃあ、無いのだろうか。今、私に全てを思い出させるなんて。
「……パーキンソン? 何をしているのですか? 組分けは終わりましたよ? 」
私が驚愕したまま帽子を被り、座っているとこれまた見覚えがある、厳格そうな顔つきの女性が言った。私はすみません、と謝り、椅子から立つ。そして彼が待っているスリザリンの席に向かった。目眩がした。
「パーキンソン、おめでとう」
意地の悪い笑みを浮かべた金髪の彼–––マルフォイが言う。私はマルフォイの言葉を無視して席に着いた。わざと無視したわけではない。言葉を発する事が出来なかったのだ。とにかく今は考えよう。まず、これからどうするかだ。原作でのパンジー・パーキンソンの出番はあまり無く、あったとしても主人公組に嫌味や皮肉を言うくらいだ。……つまり、あの三人組に関わることなく平穏な学園生活を送れるかもしれない! ……いや、でもハリー達とも関わりたいんだよなぁ。というよりも、ハーマイオニーに会いたい。困ったことにハーマイオニーと仲良くなって冒険したい
……という願望があるのだ。そして今凄く気になる事がある、外見だ。パンジーは原作では`パグ犬みたいな´と描写されていたはずだ……だが、今の私は艶やかな黒髪が特徴的な、おかっぱ頭の美少女になっている。なんだこれは。いや、決してパグ犬みたいな顔にして欲しかった訳ではない、寧ろ、美少女の方が嬉しい。やはり、生きてく上では外見というのも大切だと思うのだ。
「さぁ諸君、就寝時間。駆け足! 」
その声で周りは慌ただしく立ち上がる。
私が考えている間に宴が終わっていたようだ。え、私まだ何も食べてないんですけど。愛しの校長先生の話もまともに聞けてないんですけど。困惑しているとドラコに行くぞ、と腕を引っ張られた。
上級生の指示で私は女子寮に入らされた。なんか、性格の悪そうな女の子達と同室になってしまったのでちょっと悲しかった。まぁ良いや、寝る前にまたこれからの事を考えなくてはいけない。私は隣の子が寝ているのを確認して、トランクから紙とペンを取り出した。やりたい事を書くのだ。
一つ目は、 `パンジー・パーキンソン´ を演じながら、ハリー・ポッター、ハーマイオニー、ロンたちと仲良くなる事。
……これは難しそうだ。特にロン。
彼はスリザリンを毛嫌いしてるからなぁ。でも、一年生のうちに仲良くなっておけば……
二つ目は、ハリー達と冒険をしつつ例のあの人と関わらないようにする事。
まだ、死にたくない。
三つ目は、ハンサムな恋人と付き合う事。
ホグワーツには将来有望なイケメンが沢山いる。私はそのうちの一人と付き合いたい。出来れば主要人物じゃない方が良い。ハリーも良いがちょっと面倒くさい所もあるので却下だ。双子もイケメンだが付き合ったら大変そうだし、悪戯を仕掛けられたら嫌なので却下。スネイプは論外だ。セドリックとリーマス先生が理想なんだけどなー……あー、でもセドリック、チョウ・チャンと付き合うし……そうだ、二人が仲良くなる前に私がセドリックに近づくのは如何だろうか? うーん、とりあえずこの件は保留で。
……これくらいだろうか。
なんだか、ただの願望リストになってしまったような気がするが良いだろう。私は紙を枕の下に隠し、目を閉じた。
これから、どうなるか分からない。
けれど、せっかく美少女パンジーになったんだし、少しくらい楽しんでもバチは当たらないよね?
xx
パンジー・パーキンソン
原作、前世の記憶は曖昧にしか覚えていない。最終巻を読んでいない為、結末を知らない。意外と計算高い、スリザリン気質なところがあるが本人は気づいていないので余計にタチが悪い。ハリーポッターで一番好きなキャラはダンブルドア校長。なので、校長の事になると人が変わってしまう。スリザリンでありながらも、ダンブルドア校長、グリフィンドール、主人公至上主義。
xx
翌日、私は本当にホグワーツの寮で寝ていた。
てっきり、これは夢で朝起きたらまた自宅のベッドに戻っているだろう、と思っていたので衝撃を受けた。
「ほら、見ろよ。ハリー・ポッターが間抜けな顔をして立ってるぞ」
隣のドラコが教室を探しているのでろうハリーを見て嫌味ったらしく言った。マルフォイの性格の悪さは相変わらずである。私は適当にそうね、と相槌を打ちながら、歩く。マルフォイが待てよ、と言いながら追いかけてきた。
そこで、ふと私は気づく。
(これ、立場逆になってね……? )
確か原作ではいつもパンジーがマルフォイの後を追っていたはずだ。だが、今の状況はどうだろう。マルフォイが私の後を追いかけてる……! これは非常にマズい。マズいぞ。私がパンジーに成り代わった時点で色々マズいがこれ以上マルフォイに対して冷たく接するわけにも、いかない……! でも、この状況も結構アリかも……! いや、マズい!
「おい、パーキンソン。僕の話を聞いてるのか? 」
そこでハッと現実に引き戻された。
マルフォイが怪訝そうな表情で私を見つめている。どうせ、また自慢話だろう。ここは適当に合わせておこう。
「えぇ、勿論聞いてるわ。
私がドラコの話を無視するなんて有り得ないもの」
ドラコの腕に絡みつきながら、ホグワーツの無駄に長い、階段を降りる。あれ、何処に向かえば良いんだっけ。
それから、なんやかんやありながらも魔法薬学の授業があるという薄暗く寒い地下牢についた。寒くてじめじめしていて、こんなところで授業をするなんてスネイプは一体何を考えているんだろうと思った。最初は憂鬱な気分で教科書のページを捲っていたが、段々と気分が上がってきた。何故なら……横側の席にハリーとハーマイオニーが座っていたのだ。し・か・も、その前の席にはロンもいる!
「うわぁ……あれが本物のハリーだ……」
握手してほしい……でも、サインも欲しい……
思わず、自然と笑みが零れる。
私がハリーを見ているのに気づいたのか、ハリーが此方に視線を向けた。私が慌てながら、小さく手を振ると不思議そうにしながらも手を振り返してくれた。すると、隣の席のマルフォイと後ろの席のクラップとゴイルが凄い顔で私を見た。
「お前、まさか、ポッターのファンなのか? 」
「え!? あ、えっと……その、」
私がマルフォイの質問に答えられないでいると、タイミング良くスネイプが入ってきた。
スネイプ先生! そこまでというか今まで全く好きじゃなかったけどちょっと好感度上がったよありがとう。喉まで出掛かったそんな言葉を飲み込む。 マルフォイは相変わらず疑わしそうに私を見てきたがひたすらに無視した。
「この授業では杖を振ったりばかげた呪文を唱えたりはしない。いいかな、魔法薬調合の微妙な化学と芸術的な技を諸君が理解出来るとは期待していない。だが……一部の」
そう言った所でスネイプがチラリとマルフォイを見たのと同時にさっき上がりかけてた私のスネイプへの好感度が思いきり下がる。
「選ばれた者には……伝授してやろう。
人の心を操り、感覚を惑わす技を。
名声を瓶の中に詰め、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする、そういう技を。––––ところで諸君の中には自信過剰な者がいるようだ。既にホグワーツに来る前に力を持っているから、授業など聞かなくてもいい、という訳だ」
スネイプの視線の先にはハリー。
ノートで何かを書いているようでスネイプにはまだ気づいていないようだった。隣のハーマイオニーがハリーの肩を叩くとやっと気づいたようでノートから顔をあげた。
「Mr.ポッター。
アスフォルデの球眼の粉末にニガヨモギを加えると何になる? 」
ハーマイオニーが手をあげる。
ハリーは分からない、と首を横に振った。
「分からんか。ではもう一門。
ベゾアール石を見つけるには何処を探せばいい」
ハーマイオニーが先程よりも高く手を伸ばした。マルフォイ、クラップ、ゴイルが意地悪く笑っていた。ダメ、とは分かっているがついついスネイプを睨んでしまいそうになる。
「これも分からんのか。有名なだけではどうにもならんらしい」
……ひ、ひでぇ。
ハリーがハーマイオニーが分かっていると思うので彼女に質問してみたら如何でしょうか、と落ち着いた口調で言うとスネイプは不快そうに目を細めた。
「教えてやろう、ポッター。
アスフォルデとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。あまりに強力なため、『生ける屍の水薬』とも言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で大抵の毒に対する解毒剤とも呼ばれている。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名をアコナイトとも言うがトリカブトのことだ。どうだ、諸君。なぜ今、我輩の言ったことをノートに書き取らんのだ」
マルフォイ達はいっせいに羽根ペンと羊皮紙を取り出したので、私も適当に書く振りをした。
それから、おでき治療の簡単な薬を調合する事になった。無駄に長い黒マントを翻しながら、私達が干イラクサを計って、ヘビの牙を砕くのを見て回った。私はスネイプのお気に入りであるマルフォイと組んだので特に何も言われなかった。マルフォイが角蛞蝓を完璧に茹でていたので、スネイプが褒めていた。ちなみに、私は特に何もしていない。
「うわあああっ!! 」
誰かの悲鳴が響いた。
地下牢全体によくわからない煙が上がり、クラスの皆は椅子の上やら机の上に避難する。
マルフォイは私の腕を引っ張り、真っ先に椅子の上に避難していた。ヘタレなのも相変わらずである。バカ者! とスネイプが怒鳴り、杖を振るとこぼれてしまった薬を取り除いた。
「大鍋を火から下ろさないうちにヤマアラシの針を入れたのだろう? 」
小太りの少年、えっと……誰だっけ。えっと、ネズミ? じゃなくて……そうネビル! はしくしくと泣き出していた。その様子を見てマルフォイはふんっ、と馬鹿にするように鼻で笑うっていた。
「にしても、さっきの奴は本当に無様だったよな」
授業が終わり、マルフォイは後ろにボディーガードみたいなクラップとゴイルを立たせながら先程のネビルの事を話していた。二人はコクリと頷く。私は興味が無いのでマルフォイ達に着いていきながら教科書を読む。覚えられる気がしない。
「おい、パーキンソン、何してるんだ? 」
「教科書読んでるのよ」
「教科書よりも僕の話を聞けよ! 」
マルフォイが大きな声を上げるとクラップとゴイルは驚いたのか目を見開いていた。情けない。にしても、マルフォイってこんなに子供みたいだったっけ? いや、そういえばまだ子供だったな……私は此処にハリー達、グリフィンドール生がいないのを確認してから口を開いた。
「あ、ごめんなさい……そうね、本当に滑稽だったわよね。そういえば、木曜日から飛行訓練が始まるらしいわ」
咄嗟に寮の段話室で見た掲示の事を思い出した。
これで、話題を変えられる。
「そうみたいだな。
一年生がクィディッチ・チームの寮代表選手になれないなんて残念だよ。僕はこんなに飛行訓練なんかしなくてもあんなに上手く飛べるっていうのに」
「そ、そうね……」
それから、延々と終わる気配のないマルフォイの自慢話を聞かされ続けた。