「来たよ」「ほいさっさ、と」
強風で軋む鎮守府の執務室に、漣と響が大きな木箱を抱え入ってきた。
彼女らの姿を認めると、提督は立ち上がり、掛けてあった自前の古いコートを掴んだ。
「工廠に行こう」
呼んで早々急な彼の提案に、響が訊ねる。
「用があるのかい?」
彼は頷いて言った。
「あぁ、大淀さんから君達の゛改造゛とやらの話が上がってな。一緒に説明を聞こうと思って」
二人は゛改造゛という耳慣れぬ単語に、互いに顔を見合わせながら、とりあえず提督の後をついていくことにした。
○
「お待ちしておりました」
風の入り込まぬよう閉じられた、大きなシャッター脇の通用口を通ると、相変わらずの活気の中、明石と大淀が迎えに立っていた。
「どうも」
提督は軍帽を取って会釈し即座に被り直すと、響と漣も続いて挨拶した。
「それで、゛改造゛の件についてなんですが」
「あ、詳しい説明は大淀が」
彼が早速本題を切り出したところ、明石は大淀に丸投げした。任された大淀はこほんとひとつ咳払いをして、説明を始める。
「゛改造゛とは、端的に言えば艤装の性能の限界値を引き上げることを示します。その分使いこなすには相応の練度が必要になりますが……」
「私達は、その練度に達したという訳ですね!」
「そういうこと!じゃあ、早速改造しちゃいましょう!」
話の途中ずっとウズウズしていた明石が、堪らず漣のノリに合わせて口を挟んできた。その際、勢い顔を近づけてきたので、提督は慌ててそれを避けつつ彼女を諌める。
「お、落ち着いて。彼女達の身体に影響はないことは分かりましたが、まず同意を得ないと……」
そして漣と響を見ると、二人はむしろやる気満々の様子で、
「バッチコイ!」
「強くなれるなら、その方がいい」
どちらも肯定したのだった。
提督は彼女達の闘う意志に呆れと感嘆を覚えながら、承諾した。
「では、お願いします」
「了解しました!超スピードで仕上げますから、少々お待ちを」
目を輝かせる明石はとてつもない意気込みで、どこからともなく現れた妖精さんと一緒に、二人の艤装を納めた木箱を運んで、奥へと消えていった。直後、一際喧しい作業音が工廠を包む。
彼女の様子に、大淀は困ったように眉根を寄せた。
「すみません。明石ったら、機械のことになるといつもあんな風に夢中になってしまって……」
「いや、全く気にしてませんよ」
と言いつつも、騒音に手で耳を塞いでいると、ふとあるものが彼の興味を引いた。
それは、がらくたの山の隅っこに置かれた砲だった。
ちょうど、漣達の使うような型のもので、抱えれば提督の胸に収まるような小さなサイズだった。
「……」
かがんでそれを間近に見、なんとなく持ち上げようとすると、
「重っ!?」
危うく腰を抜かすところであったが、辛うじてそれは免れた。気づいた大淀は彼に手を貸して、少女二人も近付く。
「き、君達は普段からこんなものを使っているのか……」
ちょっとした漬け物石程度かと思えば、まるで地面に根っこでも生やしているかのような重量だった。
「そうだよ」
提督が持ち上げようとしてびくともしなかったその砲を、響がひょいと容易く持ち上げてみせた。
「なぜ……」
驚くというより男としてのプライドに傷付いていると、漣が、考え考え答える。
「なんというか、私たち人間ですが、艤装もまた人間としての一部っぽいと言いますか」
「分かるような、分からんような……」
「言い換えると、゛艦゛という存在であったから、今もある意味そういう存在であるから、艤装を使えるんじゃないかなー、と」
「そういうものか」
「そういうものです」
なんとなく気の抜けた空気が流れる中、奥からにょきと重装備の明石が現れた。
「出来ましたっ!」
「「早っ!?」
ふたりは同時に驚きの声を上げ、響も目をぱちくりとさせる。
明石は帽を脱いで額の汗をぬぐいながら、艤装の入った木箱を各々に渡した。
「ありがとう」「ありがとうございます!」
「1回演習で使い心地を試してみて、不備があったらまた言ってね……」
そう言うだけ言うと、明石はプッツリと糸が切れたように傍らの大淀にもたれ掛かった。そして、寝息を立て始める。
大淀はため息をつきながらも、彼女を支え、
「明石を降ろしてから、鎮守府に戻ります」
「分かった。しっかり休ませてあげてくれ。じゃ、行こうか」
「はーい」「うん」
「……いやはや、驚異だ」
先ほど自分が持った以上に遥かに重量のあるだろう箱を抱えて歩いていく少女らを見て、久しぶりに提督は艦娘という存在の不可思議を思い知らされるのであった。