「…これが…切符…?」
「そうじゃ、「幻想郷」へ行くための切符じゃな」
「…」
桃色髪の少女と緑色髪の少女はもう一度「切符」といわれたものを見る。そして、お互いに顔お見合わせた後もう一度妖怪狸の顔を見る。
「…どう見ても招待状にしか見えないのですが…」
「うむ、それは儂も思ったから気にするでない」
一行は今、妖怪狸の住処にて話をしている。昨晩の一件ののち、「心」を取り戻した緑色髪の少女は感情を取り戻し、表情に明るさが戻っていた。
そして、彼女の姉から妖怪狸の策略であったと知り、顔を赤面させる。まさか、あの場にこの場にいる全員がいたとは…。
穴があったら入りたい気分であったが、その恥ずかしさを堪え、とりあえず妖怪狸にお礼を言う。
妖怪狸はやはりお礼を言われ慣れていないのか「気にするな」との一言を恥ずかしそうに述べた後、そういえばと彼女たちに例の「切符」を差し出した。そして彼女たちに「幻想郷」、「八雲紫」、「切符」について一通り説明した後、話は冒頭へ戻る。
「…お話はわかりました…、ですが…私たちが受け取ってよいものでしょうか…」
桃色髪の少女は俯きがちに応える。その言葉の意図がわからず妖怪狸は首を傾げる。
「…余計なお世話だったかの?」
「いえ、貴方の考えている通り私たちに…、こちらの世界に…居場所はありません。せっかく「心」を取り戻したこの子も、こちらの世界にいては、また同じようなことにあうかもしれない。私は、この子が「心」が取り戻した今だからこそ、向こうの世界…「幻想郷」に行くことは賛成なのです、ですが…」
桃色髪の少女はそこまで言ってまた俯く。その意図に緑色髪の少女は気付き、口にする。
「きっとお姉ちゃんは…お礼がしたいんだと思う。今まで匿ってもらったり、私を治してくれたり、それから向こうへの手配までしてくれたから…、
何もお礼もしないで行くのは…、きっと心残りができちゃうんだと思う」
緑色髪の少女の言葉に、なるほど、と妖怪狸は納得する。自分が良かれと思ってやってきたことが、逆に彼女の心の枷になっていたとは気づかず、思わず苦笑する。しかし…、これと言ってお礼なぞ考えてはいなかったため、妖怪狸は返答に困る。
「はい!…それじゃ、私たちが向こうに行くまでの間に何か考える!それでいい?!」
勢いよく、片手をあげて緑色髪の少女は自分の意見を言う。出会った当初とは全く違う印象を見せるその姿に、一瞬妖怪狸はポカンとなる。
だが、元来の彼女の気質がこのような性格であったのだと即座に納得する。桃色髪の少女もその元気な姿に思わずくすっと笑う。
「…ああ、承知した。それでは、それまで楽しみにさせてもらおうかの」
妖怪狸はそう言うとにかッと笑う。その姿に少女たちは顔を見合わせ微笑む。そして、彼女たちの「お礼探し」が始まった。
「うーん…」
緑色髪の少女は唸っていた。それと同じように桃色髪の少女も頭を捻る。
「お礼とは言ったものの…何が良いのかしらね」
「何か欲しいものでも聞いてくる??」
「それも手だけど…、私たちが手が届きそうなもので何かお礼ができる物の方がよいわね…」
「うーん…難しいよ~~」
緑色髪の少女はごろんと寝床に寝返りを打つ。あれから少女たちは一度、妖怪狸の住処にある彼女たちの部屋に戻り、「お礼」について考えていた。
だが、彼女の欲しがりそうなものと言っても彼女の人柄的には、「世話好きな点」しか見えてこない。そもそも知り合ってからまともに話をしたのが先のことであったため、彼女の「嗜好」や「性格」についてもよくわかっていない。そんな相手に「お礼」を考えるのは、正直なところ難題であった。
「お礼」を考え始めて半刻ほど。早くもその計画が座礁しそうになっていた。
「…やっぱり欲しいもの聞いてくる?」
「…」
緑色髪の少女の白旗宣言に桃色髪の少女は黙り込む。そしてそっと自分の「目」に視線を落とす。
「…いいえ、もう少し考えましょう。あの人は私たちのために時間をかけて準備してくれたんだもの。私の「目」でそれを探るのは簡単だけど…、
それは…釣り合わないと思うから」
桃色髪の少女はそう言うと、緑色髪の少女に向き合う。そしてにっこりと微笑む。
その顔に緑色髪の少女は驚き、楽しそうに言葉を口にする。
「…お姉ちゃん…、そうだよね!時間ギリギリになるまで考えよう!」
「…ただし、私たちの身支度の時間も考えないとね。貴方、一度考え事すると他のことが手つかずになるんだから」
「もう、わかってるってば!」
桃色髪の少女は笑い、緑色の髪の少女はぷくっとほおを膨らませる。彼女たちの「お礼探し」は、妖怪狸のお礼を探すとともに、彼女たちの止まった時間を動かすための時間であった。彼女たちは、他愛もない会話を繰り返しながら「心」を失ってからの姉妹の時間を取り戻す。お互いの絆を確かめ合うように。
妖怪狸は1人自室に籠り、物思いにふけっていた。部屋の隅の一角に置いてある椅子に腰かけ、部屋を眺める。そこには、先代が残していった遺品が数多く飾られていた。先代…彼女の師匠にあたる妖怪狸は、かつての百鬼夜行の一員であり、そしてその頭角でもあった。
人間と妖怪との抗争で命を落とし、その報告だけを受けた彼女は絶望と復讐心が芽生えた。が、不意に先代の言葉が脳裏をよぎる。
「…人間と妖怪ってのは、その種族だけが違うだけで「心」ってのは一緒なんじゃ。そりゃ、誰かが殺されりゃ恨みたくもなるし、殺したくもなる。
だけど、「恨み」ってのは恐ろしいことに繋がっていっちまう。妖怪が人間を殺し、人間がまた妖怪を殺す、その負の連鎖が。
だから「恨むな」。例え、儂が死んだとしてもそれの仇を討とうと思って殺したのなら、また止まらんくなる。我慢するってことじゃない。
復讐に駆られるよりも、まず自分の周りを見渡せ。助けを求めている奴がいたら助けろ。泣いているものが居れば、その理由を聞け。
怒り狂うやつがいれば、止めろ。…つまり何が言いたいのかっちゅうと…周りの皆が気楽に笑顔で暮らせるように行動するってことじゃ」
人一倍、いや妖怪一「お人好し」と言われた先代は自身が持つ「変化」の能力を駆使し、その抗争でも戦っていたのだろう。それこそ、彼の言う理想通り「殺さず」に。きっと人間と妖怪とが手を取り合えるそんな世界を夢見ながら。
彼女は先代の「理想」を引き継ぎ、「恨む」ことをやめた。先代の遺言通り、周りが笑顔で暮らせるように行動してきた…つもりだった。
だが、思っているよりも抗争の爪痕は強く、「恨む」ことをやめたものは多くはなかった。そればかりか復讐心に駆られるものが後を絶たず、彼らを諭そうとしたが受け入れてもらえず、結局彼らに何もしてやることはできなかった。彼女は何もしてやれない自分に嫌気がさし、1人隠居した生活を送っていた。そのうち、彼女のことを知るものは少なくなり、そして先代の「二ツ岩」の名だけが彼女に残っていた。
「儂は…彼女らにうまくやれたかの…」
誰もいないその虚空に向かい、1つ問いかける。ふと彼女らに出会った時、儂は咄嗟に行動した。それは先代の「理想」だから動いたというものではない。
儂が…そうせねばならんという予感めいたものがあったからだ。それからの行動も彼女たちの事情を聴き、そして「最善の手」を考えた。
これはかつて儂がとってきた「理想」のために動いた行動とは全く異なるものであった。
そこまで考えて、彼女は閃いた。そうか、先代と儂で違った点は…こういうことか。先代の周りには、彼を慕う妖怪が数多くいた。
それはきっと、先代自身の無自覚な奔放さ、手厚さに惹かれたものであったのだろう。
当時の儂は、同情さにばかり目がいき、彼らの目線で行動していたが、それでは結局彼らの目線でしか考えられない。その先を考えるならば、儂がその模範にならなねばならなかったのだと…。
彼らの模範的な存在、強いてあげるなら憧れのような存在こそが先代であったのだと今更ながらに納得する。
「彼女らは…うまくやっていけるかの…」
その虚空にもう一つ言葉を投げかける。八雲紫が「切符」を渡した際に言った言葉。「「ルールに沿って行動できるのなら幻想郷側としては大歓迎ですわ」」
現代とは違う、異なった場所での異なったルールで生きる。そして一歩でも踏み外せば、即座にその首が断首されることになる。そんな危険なところへ彼女らを行かせて本当に大丈夫なのかとあの時の不安がよぎる。だが、その危険を顧みず、幻想郷へ行くと決めたのは彼女ら自身でもある。
願わくば…彼女らが無事で、そして欲を言うならば幸せに暮らせて生けることを願う、と妖怪狸は目を閉じる。
こんばんは!いつも見てくださりありがとうございます。第5話になります。
今回は、前回からの続きでこいしがようやく「心」を取り戻した回になります。
やはりこいしちゃんは明るい方が可愛い!と思いつつ、こいしちゃんのセリフを考えてる時が楽しかったです…(笑)
そして、まだ終わりません泣→いつになったら終われるのか…
とりま、第6話でお会いしましょう!