翌日、桃色髪の少女と緑色髪の少女は妖怪の区域の市に来ていた。目的は「お礼」の品を作ってもらうことだ。結局あれから色々と考えた結果「ある物」を贈ろうということになった。だが、それには結構な時間が要するため、姉妹はその作成者を探しに市に出向いていた。
「さとり妖怪」であることは何かと面倒になるため、二人は可能な限り「目」を隠し、市を巡っていた。そして、とある店の店主に尋ねてみたところ、市のはずれにある店に居を構えているとのことであったので、その場所に向かう。
市から歩いて四半刻、何とかその店にたどり着きその店の入り口を開ける。「いらっしゃい」と声がして、年配の妖怪が顔を覗かせる。
年配の妖怪は、姉妹を見るなりふと驚いたような表情を見せた。「おや、これはまた可愛らしいお嬢さんが来たね」そう言うと、年配の妖怪はお茶の用意を始める。
「あ、あの結構ですので…」桃色髪の少女は断ろうとすると、「いいんだよ、ゆっくりしていきな」と年配の妖怪に切り伏せられた。
年配の妖怪は近くのテーブルに着くよう指示し、二人が席に着席し、二人分のお茶を二人の少女に差し出す。そして、漸く話が始まった。
「で、うちの店に何か用かい?」
「はい、ここでは手作りの品を作っているということで伺いました。そこでこちらの品を作っていただきたいのですが…」
そう言って桃色髪の少女は一つの紙を取り出す。それには、「ある品物」の設計図及び要求事項等が書かれていた。
年配の妖怪はそれを受け取ると、その「品物」の見取り図を眺める。そして、尋ねる。
「…これをいつまでに作ればいいんだい?」
「…可能であれば、2日後の朝にお願いしたいのですが…。」
「…それは中々に急なお話だねぇ」
そう言うと年配の妖怪はふと見取り図から目を逸らした。そこにはあからさまに面倒だと言わんばかりの表情が浮かんでいた。
桃色髪の少女はその様子に俯く。やはり無理か…。そう思っていた矢先に緑色髪の少女はその頭を下げていた。
「急なお願いで無理を言っているのは分かっています。でも、その品物を贈りたい人がいて…、私たちのこれからを変えてくれた大事な人なんです…だから…お願いします!!」
突然の言葉にその場にいた桃色髪の少女は驚き、合わせて「お願いします」と頭を下げる。
二人の少女のお願いに年配の妖怪は腕を組んで熟考した後、尋ねるように問いかける。
「あんたたちの気持ちは分かった。…ところでこれを贈る相手ってのはどんな奴なんだい?」
「えっと…、狸の妖怪さんみたいで色々なものを葉っぱ一つで化けさせることができるひとなんです。」
たどたどしく、緑色髪の少女は答える。そして、それを聞いた年配の妖怪の様子が変わった。
「!…狸の妖怪…ね」そう言うと、年配の妖怪は奥に引っ込む。そして一枚の写真を持ってくると二人の少女に見せる。
「この妖怪のことかい?」と年配の妖怪は写真の一部を指さす。そこには、様々な異形の妖怪が並んでいたが、一人尻尾を生やした明るく笑う若い女狸の姿があった。
「…今と雰囲気は違いますが、おそらくそうだと思います」桃色髪の少女は答える。
その返答に満足したように年配の妖怪は頷くと、その写真を懐に仕舞い、こう言った。
「依頼は了承したよ、二日後の朝だったね。それまでにこちらは仕上げておくよ」
さっきまでとはうって変わった態度に桃色髪の少女は動揺し、慌ててお礼を述べる。
「…ありがとうございます!えっと…お代は…」
「いらないよ」
「え…?」
「いらないって言ったのさ。その代わりと言っちゃなんだが、こいつを渡すときに言付けを頼んでもらっていいかい?」
少女たちは無事に依頼を終え、帰路に着いていた。道中、緑色髪の少女は「あ!」と言って、立ち止まる。
その行動に桃色の髪の少女は振り返る。「どうしたの?」
「えーと…、閃いちゃった!」えへへっと笑い顔を浮かべる妹の顔には何かいいこと思いついた!という顔が浮かんでいる。
本当に我ながら、我が妹は感情がわかりやすくて良いなとほほえましく思う。
「それで…、どこか寄りたい場所でもあった?」
「うん!、あそこのお店いってみよう!」
緑色髪の少女の指さしたその先の店を見て、桃色髪の少女は「ああ、なるほど」と納得した。
「…きっと、素敵な贈り物になるわね」緑色髪の少女の意図がわかり、桃色髪の少女は答える。
「うん!」少し赤くなった顔を隠すように、緑色髪の少女は足早に店の方へと駆け出す。
時は流れ、あっという間に旅立ちの日となった。身支度を終え、あとは「お礼」の品を贈るだけとなり、桃色髪の少女は再び、あの店を訪れていた。店の扉を開け、「カランコロン」という呼び鈴がなり、店主が顔を出した。
「待っていたよ。一応、しっかりと作ったつもりだがね…見てくれるかい?」
そう言うと、店主もとい年配の妖怪はその手に持ってきた「お礼」の品が入っている箱を見せる。白い包み紙に包まれたそれを慎重な手つきで開封すると…、予想以上の出来のものがそこにあった。
その出来に少女はほう…と息をのむ。そして桃色髪の少女は言う。
「…素晴らしいです!ありがとうございます。でも、本当にお代は…」
「いらないって言ったはずさ、その代わりの言付け忘れずに届けておくれよ」
そう言うと、年配の妖怪は軽く片目をとじて見せる。その仕草に見た目とは違った愛嬌の良さを感じ、少女は微笑む。
「…わかりました!必ず伝えます!」
そう言い、少女は慎重な手つきでそれを元の箱に戻す。年配の妖怪はそれを見届けると、満足げに店の奥に戻る。
その姿に、桃色髪の少女は一礼する。あの人も…私たちと同じように救われたのかもしれない。そして、そのお礼を言えずに…誰かが来るのを待っていたのかもしれない。
…私たちはもうこちらの世界に戻ってはこないけど…、この品があの人たちにとって再開の印となれれば…!
その「お礼」の品に複数の思いが込められていることを知り、桃色髪の少女はその願いを届けに帰路を急ぐ。
「お姉ちゃん~!!」
目の前から聞き覚えの声がする。ふと前を見ると、その手いっぱいに「例の品」を抱えて妹が手を振っていた。
「…受け取った?」
「ええ、見せてもらったけどかなり良い出来だったわ」
「え~、私も見たかったな」
「…渡したときに見てもらおうか?」
「うん!」
元気よく返事をし、妹はその「例の品」を両手に抱え直す。ふと、その「例の品」を見ると、その中に別のものが混じっていることに気付いた。
「…それは?」指をさして妹に尋ねる。妹は一瞬ドキッと顔を硬直させたが、申し訳なさそうに顔を逸らしながら言う。
「えーと…うーん…、今日で最後だから…」その表情に照れ隠しが見えているのがわかる。
そして妹の意図がその品の「言葉」で理解し、ふふっと笑う。
「…喜んでもらえると良いわね」
「…うん!」妹は力強く頷く。私たちはそれぞれの思いを胸に再び帰路へ急ぐ。
姉妹が帰ると、ささやかながら妖怪狸の計らいにより夕食の用意がされてあった。すぐさま手伝おうとするが、すでに準備は終わっているらしく、すぐに
夕食となった。他愛もない話をし、腹を満たし、準備を終え、旅立ちの時間が近づいていた。
「いよいよだね…!」
「そうね…」
緑色髪の少女は緊張した上面で顔に笑顔を作る。桃色髪の少女も同様に顔を強張らせる。「お礼」の品については、旅立つ前に渡したいと伝えてあった。
そして、その準備が整い次第渡す予定であったが、実際渡すとなると「本当に受け取ってもらえるのだろうか」と不安になる。
だが、「お礼」の品を渡すのは私たちが決めたことであり、店主の言付けもある。彼女らは覚悟を決め、部屋を出る。
「…なんじゃ、戦にでも行くような形相じゃの」
少女たちの強張った表情にふと妖怪狸は冗談交じりの笑みを漏らす。その言葉に幾何か緊張が解け、二人はそれぞれに「お礼」の品を差し出した。
一つは箱、そして一つは花束であった。妖怪狸は嬉しそうに気恥ずかしそうにそれらを受け取り、まずは花束を見つめる。
赤と紫色の色とりどりの大きな花が覗かせるそれを見て、妖怪狸は問いかける。
「これは…?」
「はい!その花は私が選びました!花言葉っていうものがあってそのお花の花言葉は「感謝」っていうんだって。ピッタリでしょ!」
そう言いつつ緑色髪の少女は胸をずいッと張って見せる。その姿に妖怪狸と桃色髪の少女は笑う。相変わらずの元気な姿にそして洒落た贈り物をもらい妖怪狸はありがとうの、と緑色髪の少女に片目をとじて見せる。緑色髪の少女は予想通りの反応に嬉々とし、笑顔を作る。
そして次に箱の方を開けてみる。
そこには…、緑色の帽子があった。形状は盆踊りで被るような編み笠の形状だが、その編み目はほとんどなく単一の緑色で統一されていた。
そして、帽子の両端には金色の鈴とリボンが飾られていた。思いもかけない高級な贈り物に妖怪狸は感嘆の声を漏らす。
「おお…見事なものじゃ、ありがとうの。これは手作り品かの?」
「はい、市の方に出向き、一から作ってくれるお店にお願いして作っていただきました。全体的な構想は私が立てて、リボンや鈴は妹のアイディアになります」
「鈴は、お姉さんと初めて会ったときに私たちを猫にしたところから持ってきたよ!それから、リボンはワンポイントみたいで可愛いなと思って!」
姉妹は思い思いの作品のポイントについて説明する。楽しそうに話すその声に頬が自然に緩む。
「ありがとうの…、しかし、この特注品は高かったのでないのかの?」
「いいえ、実は言付けを預かっているのです…」
桃色髪の少女はその帽子の作成者の言付けを伝える。その昔、妖怪と人間の抗争で自分の家族を失ったときに一緒に泣き、励ましてくれた妖怪がいたこと。
自暴自棄になり復讐心に駆られた自分を止め、正しい道に戻してくれた妖怪のことを。そして、最後彼女に言い忘れていたことがあったこと。
「…私のために一途に色々としてくれたけど、私は貴方に何も返せてはいない。だから、彼女たちの贈り物に借りて礼を言わせてもらいたい、本当にありがとう」
桃色髪の少女は言付けを言い終えると、部屋の中は静寂に包まれた。妖怪狸は…泣いていた。そして自身で泣いている姿に驚き、服の端で涙をぬぐう。
「…いやはや、恥ずかしいところを見られてしまったの。そうか…あの人は無事でおった、それだけで十分じゃったが…、儂のしてきたことは…間違いではなかったのじゃな…」
妖怪狸はたどたどしく言葉を紡ぐ。先代の「真似事」では誰も救えなかったと嘆いていたが、救えていたものもあったという事実に、妖怪狸は胸が熱くなっていた。その意図を読み取ったのか、桃色髪の少女は声をかける。
「…きっと救えています。その人だって、私たちだってそうです。貴女は良かれと思って多くの人に最善の手を尽くしてきている。皆が皆言葉では言い表せなくても、
心の内では必ず救った人のことを覚えています。だから…、1人で悲しまないでください…。貴女のことを思ってくれている人が沢山いるんですから」
その言葉が妖怪狸の胸を打つ。そうじゃな、と妖怪狸はひとり呟く。あふれ出る涙をぬぐい、もう一度前を向く。
儂は忘れていた…、儂のしてきたことに関して儂は一切感謝の意を受け取らなかった。すべては儂の思うようにお節介を焼いているだけ。じゃから、彼らから受け取る物などないと。
じゃが、それは彼女らの感謝の意を否定していることに他ならない。言葉にしないだけでそれぞれがその感謝の意を持っており、彼女らはそれを言いたいのだ。
独りよがりではだめだ、もっと彼らの心の声を聞くために、彼らが笑顔になるように儂からその心を開いていかなくては…。
「本当に…ありがとうの」
そう言って妖怪狸はまるで我が子のように二人の少女を抱きしめる。二人の少女は顔を見合わせ、お互いに笑顔を作る。
「お礼」の品作戦の成功を心の中で祝いつつ、そして妖怪狸の心にようやく触れられた気がして、二人の少女は強くその光景を焼き付けるのであった。
こんばんは!第6話になります。
今回は前回の続きからの「お礼」のお話と前回の最後に書きましたマミゾウさんの過去話に絡ませた話なります。色々とオリキャラ的な感じを考えていくと、ふとこうだったのでは?という妄想で色々と書き進めています(笑)
脳内100%妄想ですがお気に召しましたら幸いです。
さて、本当に次回で最後になります!!←何度目…
それでは第7話でお会いしましょう!!