番外編 幻想入りのお話   作:月陰 甕

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番外編 幻想入りのお話1 第6話からの続きです。


第7話

子の刻まであと四半刻。妖怪狸の住処の入り口で緊張な面持ちで一行はその到着を持っていた。一人の少女を除いて。この場にいない、緑色髪の少女は「ごめん、時間には戻るから先に行ってて」と言付けだけ残し、どこかに行ってしまった。その慌てた姿に妖怪狸は疑問に思ったが、桃色髪の少女は「わかったわ」と一言残し、彼女を見送った。

「大丈夫、彼女なりの最期のお別れを言いに行っただけですから」

桃色髪の少女のその言葉を聞き、なるほどと妖怪狸は納得する。二人は晴ればやかな夜の静寂の中、彼女の到着を待つ。

 

 

「…これで…よし!」

妖怪狸の住処近くの森の中、その中の一つ、大きな木の前で緑色髪の少女はひとりお供えをしていた。区域の市で買ってきたお供え物を用意し、さらに花束を置く。花束の白い包装の中には黄色い花と、白と桃色の花が添えられていた。

「この花の花言葉はね…、「友情」と「また会う日まで」っていうらしいんだ…」

1人呟くように話しかける。そこに彼がいるように。

「きっと…私たちにぴったりだなって思って!変わらない友情って素敵だと思うでしょ。それにきっと向こうに行っても私たちはどこかで出会える、そんな気がするんだ!」

少女は気丈に振舞って見せる。が、その目には涙が浮かんでいた。

「…私が「心」を失う前から君は私の…私たちの傍にいてくれた。

私たちは君から大切なことを教わった。悪戯も悲しみも怒りも喜び、そして友情も…。そのひとつひとつの積み重ねが私たちを作り上げてきてるんだ。

その積み重ねを壊したのは、僕のせいだと言うかもしれないけど、結局私は君にもう一度助けられた。自分の責任っていうかもしれないけど、そうじゃないの。

だって君が「僕と出会ってくれてありがとう」って言ってくれたように、私も「君に会えて本当に嬉しい」って思ったから。私たちの友情が奇跡を起こしたんだよ…」

あふれ出る涙が止められないまま、少女は話し続ける。そして意を決したように、前に向き直る。

「私は…もうこちらの世界に戻ってこないかもしれない…、君だけには「最期の」お別れを言いたくて来たんだ。」

そして、少女は涙をぬぐい、笑顔で声を張り上げる。

「今まで本当にありがとう!…さようなら…!」

そう告げると少女は向きを変え、森の出口へと向かう。一人の少女の強い思いにこだまするかのように森がざわめく。まるでそれは別の世界に行こうとする彼女を応援するかのように。

彼女が置いた花束が律儀に「いってらっしゃい」と言っているように揺らいでいた。

 

 

子の刻まであと少し。もう両掌の分の刻しかなくなっていたが、桃色髪の少女は妹の帰りを待っていた。その手にじんわりと汗がよぎる。それは彼女が戻ってこない焦りとこれから向かう世界への不安も混じっているからなのだろう。妖怪狸も半ば落ち着かない様子で少女の帰りを待っていた。

と、「ごめ~ん、遅くなった~」と森の方から駆けてくる人影が見えた。その声にほっと胸をなでおろすと、桃色髪の少女は「遅い!」と緑色髪の少女の頭に手刀を振り下ろす。「いだっ」とリアクションをとる姿に、妹がいつも通りであることを確認し、「…もう大丈夫なの?」と確認する。

緑色髪の少女は、「うん、もう大丈夫」とぎこちなく笑って見せる。その姿を見て、桃色髪の少女はぎゅっと妹を抱きしめる。

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん?」戸惑うように桃色髪の少女の胸の中で緑色髪の少女は困惑する。

「今まで、私は貴女のことをしっかりと見てあげられなかったかもしれない。だけど、これからは「一人の姉」として、貴女のことを見守っていくわ。だから…悲しい時はいつでも泣いていいんだからね」

その言葉に緑色髪の少女は涙腺がまた緩くなる。「お姉ちゃん…ありがとう」と小さな声で呟く。その小さな声に桃色髪の少女は優しく妹の頭をなでる。

「あー…お熱いところ申し訳ないがの、そろそろ時間のようじゃ」

完全に空気と化した妖怪狸の申し訳なさそうな声にハッと我に返る姉妹。そしてお互いに慌てたように取り繕う。始めて見せる姉妹の仲睦まじい姿に妖怪狸はほっこりしながら、確信する。この姉妹の絆があれば、向こうに行っても大丈夫かの。老婆心ながら行く先を案じていたが、どうやら杞憂だったようであると妖怪狸は考えを改める。

そして…時間が丁度子の刻となった時、妖怪狸の住処の入り口の空間にバリッと亀裂が入る。3人の妖怪はその空間何からかが飛び出してくるのを感じ、瞬時にその場を離れる。

それと同時に、一行が立っていた場所に勢いよく「列車」が姿を現した。急に現れたそれは何両目かの中腹まで顔を出すと、少女たちの前で停まり、その車両からプシュッと音を出した。

その音が扉の開閉音だとわかり、中から一匹の妖怪がゆっくりと出てきた。

「こんばんはー、幻想郷行特急列車只今到着いたしました。失礼ですが、ご乗車の方はどちら様でしょうか?」

そう質問してきたのは、…尻尾が多い狐の妖怪だった。頭には呪符の張ってある帽子とその中に入っているだろう際立った獣の耳、白と青の道化服、そして服の前には特殊な模様が施されていた。

目の前のその突然のことに少女らは動けずにいると、妖怪狸が助け船をだす。

「八雲紫殿の使いで…問題ないかの?」

「ええ、左様であります、それでご乗車の方は貴女でしょうか?」

「いや、こちらのお嬢さん方じゃよ。」

そう言うと、八雲紫の使いは少女らに向き直り、そして、笑顔で尋ねる。

「ご乗車の方は「切符」を拝見いたしますので、ご提示をお願いいたします。」

桃色髪の少女はその言葉に我に返り、用意していた二人分の「切符」を差し出す。使いはそれを確認すると、「はい、確かに確認いたしました。それでは、足元にお気をつけてご乗車願います」と、これまた笑顔で対応し、使いは車両の中に姿を消す。

いよいよ向こう側への入り口に立ったと思い、少女たちは足をすくめる。その姿に妖怪狸は近寄りその背中を軽くポンと叩いた。

まるで故郷を旅立つ若者を見送るように、そして彼女らがしっかりと自分の足で進めるように。その小さな気遣いが彼女らにも伝わったのか、ゆっくりと車両に足を進める。

そして、車両の入り口前まで来たところで少女たちは振り返り、妖怪狸に対峙する。その顔には…、憂いもなく晴れ晴れとしていた。

「…今まで本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」

「ありがとう!お姉さん!…それじゃ…」

「「行ってきます!!」」

二人の少女は息を合わせて、元気に告げる。まるで母親にでも言うような旅立ちの言葉を。

妖怪狸はその言葉に胸が熱くなるものを感じたが、グッと堪え、笑顔で答える。

「おう!こちらこそ楽しかったぞ!それじゃ…、気をつけての!」

他に言いたいことが沢山あったが、妖怪狸はそれしかいうことができなかった。いや、その心の内の言葉もきっと彼女たちには伝わっているだろう。「さとり」の能力を使わずともお互いのことを理解しあい、思いあった仲ならば言葉一つで伝わる物なのだ。

妖怪狸の言葉を最後にプシュッと音が鳴り、その扉がゆっくりと閉まる。ゆっくりと車両が動き出し、車両が出てきたその空間の亀裂に進んでいく。

最後の車両が亀裂に入っていくその最後まで妖怪狸は車両に手を振り続けていた。

 

 

彼女らを見送ってしばらく経ち、丑三つ時となった。

月明かりに照らされる野ざらしの切り株に腰掛け、妖怪狸はキセルを片手に物思いにふける。

口元にそれを運び、一服した後、深く深く白い煙を吐き出す。

「おや、煙草を吸ってるなんて珍しいね」

ふと背後からかけられたその言葉に、振り向く。そこには、変化をしていない黒髪の少女の姿がった。

「そちこそ、ここを訪ねてくるなんて珍しいの」

ふと現れた妖怪に目を移しつつ、妖怪狸は尋ねる。

「いやー、あの子たちが居なくなって寂しくなってるんじゃないかなって思ってさ」

「…」

半分冗談交じりに言った言葉だったが、不覚にも確信をついてしまったらしい。慌てて、黒髪の処女は弁明する。

「って冗談冗談、そんな怒んないでってば」

「ぬえ」

はっきりと名前を呼ばれ、そこに凄みが増しているのがわかる、あちゃーこれは一発殴られるなと思いつつ、黒髪の少女は目を閉じる。

…と思ったが拳がとんでこない。恐る恐る目を開けると、そこには覚悟を決めた妖怪狸の凛々しい顔があった。

切り株に胡坐をかき、そして少女に対面した妖怪狸は意を決したように口にする。

「儂は…百鬼夜行を作る。それこそ先代の率いていた百鬼夜行ではない、儂の百鬼夜行を」

突然のその宣言に一度黒髪の少女はポカンとする。と我に返り、妖怪狸に尋ねる。

「い、い、いきなりどうしたのさ?」

「何、ここ数日色々と思うことがあっての。昨晩あった出来事がきっかけでようやく踏ん切りがついた」

その顔には憂いはなく希望に満ち溢れていた。

黒髪の少女はその急激な変化に戸惑いを見せつつも、確認する。

「…それで、百鬼夜行を作るって言ってもどうやって作るのさ、人手も足りないんでしょう?」

「そこを主にお願いしたいのじゃよ」

「はぁ?っていうか、私もその百鬼夜行に入ってるの…?」

当り前じゃ、と言わんばかりに妖怪狸は頷く。その言動に半ば呆れながら、黒髪の少女はしぶしぶ了承する。

だが、心の内ではしばらくぶりに活気を取り戻した親友の奔放さが心地よかった。

そして、…親友の傍らに見覚えのない帽子が置いてあるのに気づく。

「ねえ、それって…?」

黒髪の少女は尋ねる。

妖怪狸はその帽子を手に取ると、ぶかっと被って見せる。そして「「お礼」の品じゃ」と言うとニカッと笑って見せる。

黒髪の少女はその返答に、頭に疑問符を浮かばせる。

その様子が面白く、妖怪狸は上機嫌のまま月を見上げる。

今宵の月は格別に美しく、誰かの笑顔を映し出したかのように晴れ晴れとした黄色に染まっていた。

 




こんばんは!第7話になります。

今回は…ラストです…。いやー思ったよりも長くなってしまって正直着地どころがわからなかったのですが、うまく終われたと思っております←

とりあえず、このお話はここまでとします。その後の古明地姉妹のお話は本編にてつなげようと思いますので是非本編をお待ちくださいませ。マミゾウさんの百鬼夜行本も余裕があれば…(笑)

というか番外編は完全にマミゾウさん本になってしまいました。。
一応、本編は構想としては地霊本になる予定です!!

それではここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました。それでは、またどこかでお会いしましょう!!

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