52ヘルツの人魚姫   作:UMA(未確認生物)

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未婚の方、子供のいない方を差別中傷する意図はございませんが、不快になるような文脈があるかもしれないので、その点を踏まえた上で読んで頂けると幸いです。


prologue side K

 

自分がいつか死ぬということはわかっていた。

 

もしかしたら今日、トラックに轢かれるかもしれない。

もしかしたら明日、通り魔に刺されるかもしれない。

もしかしたら来年の今ごろは、大病を患って死んでいるかもしれない。

 

身の回りには気付けないだけで、たくさんの死が潜んでいることを頭では理解していた、理解しているつもりだった。

 

それでも自分は大人になって会社で働いて、いずれは結婚して子供にも恵まれて、年老いて孫に囲まれながら死ぬのだと根拠もなくそう信じていた。

大人にすらなれずに、愛する人と一緒になることもできずに、誰にも知られることなく亡くなっていく、そんな不運な人生なんて自分には関係ないのだと漠然とそう思っていた。

 

平々凡々でも、代わり映えのしない日常であっても、明日の心配をせずに生きられることのありがたみなんて、考えたこともなかった。

今日という日がずっと続いていくんだという傲りは確かにあった。

 

 

 

それでも、この仕打ちはいくらなんでもあんまりじゃないか。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

剣を握る右手がじんじん痛み、繰り返された戦闘で乱れた呼吸によって膝は小刻みに震えていた。

ホルンカで補給した回復アイテムはとうに底を着いてしまっていた。

 

それでも。

 

「生き残った……俺は生き残ったぞ」

 

 

自分を励ますために絞り出した声は情けないほどに震えていて、静かな森に掻き消える。

耳をすませば鈴のように綺麗な虫の音が微かに聞こえ始め、空には満月が寂しそうに浮いていた。先程の戦闘なんてまるで無かったかのような現実に、お前は世界の主要人物ですらないのだと告げられてるような気がした。お前は世界から見ればその程度の人間なのだと……

 

ソードアート・オンラインと言う真の意味でデスゲームを告げられてから、どうにも思考が暗くなる。

家族から引き離された孤独からか、それとも始まりの街での……

 

奈落に沈んでしまいそうな意識を振りきるために、強く頭を振った。

 

 

掃討したリトルペネントはゆうに五十は越えていただろうか。数えるだけの余裕もないほどに追い詰められていた状況に、今になって冷や汗が止まらない。

 

震える手でアイテム欄を探ると、目的のものは当然のようにそこにあった。これだけの数を倒せば手に入るのは当たり前であっても思わず深い息が溢れた。

 

 

これから先、このゲームが、この世界がクリアされるまでに何度今回のようなことが繰り返されるんだろうか。

必要なものを手にいれるために死にかけて、上を目指すために死にかけて。

そして人を信じたが為に死にかけて。

 

いや、MPK事態は他人と関わるゲームである以上よくあることだ。モノによっては直接他人に危害を加えることが許されるゲームだって少なくない。

 

それでも、そうだとしても。

ゲームの生き死にが現実にも直接関与するこの世界でもそんなことが起こるなんて考えもしなかった。いや、考えたくもなかった。

 

少し考えれば分かることだった。既に犠牲者が出ているから実際にはそれより少ないが、約一万もの人間が存在するのだ。

ちょっとした田舎町よりも多くの人が存在するんだから犯罪の1つや2つ起こったところで不思議じゃない。

犯罪を取り締まる法律や機関が存在しないこの世界で、何1つ罪を犯さずに生きようって考えられる人間がどれ程いるだろう。

そこまで大袈裟に考えなくても、現実より死が身近なここで、自棄にならずに自分を保っていられる人間がどれだけいるというのか。

 

 

「帰るか」

 

 

これ以上はもう止めておこう。

たった一人、それもまだ未成年の自分が未来を憂き嘆いたところで、世界に波紋1つ立てられやしない。

思考は人間の財産だと言うけれど、ここでは一銭にもならないし、考えすぎて何も出来なくなっては死ぬだけだ。

 

とりあえず得るべきものは得た。あとは極力モンスターとの接触を避けて安全に村に戻って、当面の武器とお金を手に入れる。

そしてある程度強くなって、一人でも生き残れるくらいにならなくては。

 

 

そんなことを考えてた矢先、見覚えのあるシルエットが視線の先で複数蠢くのを見てしまい、思わず天を仰いでしまった俺は悪くない。

 

「もう勘弁してくれ……」

 

 

気力も体力も、もう戦闘を続けられるほど残っていなかった。あれだけの数に襲われたら、今の俺ではひとたまりもない。

 

こんなとこで、それこそ物語で言ったらプロローグですらないところで、俺は死ぬのか。

母さん、父さん、直……

 

 

頬を叩いて、自分に渇を入れた。

せめて、最期までは足掻いてやる。醜くったって、泥臭くたって、俺は生きたい。

こんなところで死ぬにはやり残したことが沢山ある。

 

さっきだってやれたんだ、絶対に生き残ってやる。

 

 

 

「……ん?」

 

 

俺の決意とは裏腹に、影の主は此方を見向きもせずに森の奥へと消えて行く。残されたのはヤる気に満ちた自分のみ。

道化のような自分の姿に、安堵と自嘲と解放感から俺の膝が嗤った。

 

 

目の前の俺ではなく森の奥に消えたと言うことは、ヘイトを高めてしまった、つまり実着きを攻撃してしまった人がいるんだろう。

戦闘音はしないから、そこまで近くではない。でもあまりにも距離が離れればモンスターが誘導されないはずだから、安心できるほど遠くでもない。

 

つまり、逃げるなら今。

生き残りたいなら、名も知らぬ哀れなプレーヤーのことは忘れて、一刻も早くホルンカに戻るべきだ。

 

 

幸運にも目的のものは手に入っている。

サブこそあるが、メインの剣の耐久値だって心許ない。

回復アイテムも底を尽きてる。

戦闘を続けるだけの気力体力もない。

 

 

これだけ撤退すべき理由が頭に浮かんでも、俺の足は一向に帰り道へ向かってくれない。

 

「あぁ、くそっ」

 

 

俺はヤケクソで、それでも足音は最小限に、モンスターたちの向かった方向へ走った。

 

 

「これで死んだら恨むぞ、名前も知らないプレーヤーさんよ」




自己満小説ですが、それでもこんな駄文を読んでくださる方には感謝です。
リアルの都合で不定期ですが、それでも更新は続けていきたいなぁ
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