極点へと至る道   作:リンフォン

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ちょっと文字量増えました
感想が来たら嬉し過ぎて英霊文豪と化します(大嘘)


まっしろおにぎり

 この旅に目的地は無い。ただ、剣を極めてみたい。あの人に届きたい。その一心で始めた旅だ。不安だらけだけど、辛い事があっても諦めなければきっと終わる旅だと思う。

 歩いている道は見慣れている訳では無いが、幼い頃から良く通った道の様に馬や人が踏み鳴らし、鳥の囀りが耳に心地よく入って来る。それだけで不安は薄れ、無言の旅路に何時の間にか鼻歌が混じる。

 思えばあの時も、私の人生を大きく変えたあの数日もこうして何度か、久々に人と一緒に道を歩いたのだ。確か、両親が死んでしまってからだろうか?いや、じいちゃまと歩いた事があったから久々でも無かったのかも。

 

「…結構、思い返そうとすると記憶があやふやなんだなぁ…」

 

 確かあの人も、私にはあの数日の出来事は覚えておくのではなく、不思議な夢だった程度に思う様になって欲しい…そんな事を言っていた気がする。

 それが今となっては、彼女の後ろ姿を追いかけて女の一人旅をしているのだ。恩を仇で返すとはこの事だろう。彼女もきっと怒って…いや、割と怒らないのかも?案外「仕方ないなぁ」なんて苦笑しながらおうどんを食べよう、と誘って来るかも。

 そんな事を考えていたからか、鼻歌と鳥の囀りに異音が混じる。

 

「う…お腹空いた…朝におうどん食べたのに…

 持って来たのは、おにぎりを4つだけだし…どうしよう、食べちゃおうかな…?」

 

 腹が鳴るほどお腹が空いていたのか、それとも私は割と食いしん坊なのか?

 どちらにせよ女の子としては恥ずかしい話ではある。ここは意地でも我慢して、腹の虫を気合で押さえつけつつ剣士として必要な集中力を鍛えて―

 

 

 

 

 

「食欲には勝てないのです…うぅ…おにぎり食べたら夜のご飯が無くなっちゃうよぅ…」

 

 気が付いたら近くの木に寄りかかって目の前のおにぎりを食べるべきか悶々としていた。それでいいの?おぬい。剣士にしては集中力が無さすぎない?おぬい。そんな事じゃ剣士として大成できないよおぬい!

 そんな心の声と格闘する事数分である。その間にも腹の虫は食事を寄越せ!と暴れ回り、若干お腹がきゅう、と苦しくなってきた。この、死ぬ訳では無いがじっとしていても精神に直接攻撃を加えられる感覚は嫌いである。

 今までの私であればすぐ様、おにぎりを綺麗に平らげていただろう…が、今のおぬいちゃんは一味違うのである。小太郎お兄ちゃん風に言うなら「成敗(ブレイク)ッ!」って感じで名案を思い付いたのだ。

 

「おにぎりを小分けにして食べれば、万事解決…!」

 

 そう、これが私の完全無欠の究極作戦、食べ残しの陣である。陣じゃないけど。

 おにぎりを一口大に分け、良く噛んで食べる。するとあら不思議。おぬいちゃんはとても幸せ。種も仕掛けも、南蛮由来の燃える水の様にありませぬ。無いのでござるよ。空腹の辛さもお腹に何かを入れると忽ちに腹を締め付けるようなあの苦しみも消えて行くのでございまする。正に絡繰幻法・呑牛。ぬいは、ああいう格好はいけないと思います。

 

「フフフ…私の完璧な作戦に穴はないのだ!いっただっきまーす!」

 

 早速一つまみ…と、行こうとした時。

 人を見つけた。白い髪に、所々に花の様な色彩をあしらった服を着ている。多分男の人だけど髪がとても長いし、凄く顔も綺麗だ。…行き倒れの渡来人、だろうか?

 咄嗟に逡巡する。もしも悪い、例えば山賊だったらどうしよう?私の剣の腕前はお世辞にも優秀とは言えない。あの人には遠く及ばないものだ。おまけに、人を斬ったことなんてない。

 肌が寒気立つ。考え過ぎか?いや、そんな事は無い。()()()()()()()()()()()()()()。私は、それを知っている。見た訳では無いが、確かにその残滓は私の中にこびり付いている。

 ()()()。そう、だけど。この人が困っているのなら助けない理由はない。実際、お荷物であったあの時の私はそうして助けられたのだ。きっと、彼ならそうする。お兄ちゃんなら、彼を見捨てたりしない筈だ。

 一歩踏み出す。足は重い。また一歩。足取りが少し軽くなる。二歩、三歩、四歩。恐怖を押し殺し、異人さんの所まで辿り着く。

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

 肩を揺すると、異人さんが少し身動ぎする。どうやら、生きていた様だ。

 目を開けた彼の顔はとても綺麗で、引き込まれてしまいそう。思わず息を呑むが、それよりもっと驚く事があった。

 

「…えっ…?」

 

 ()()()()()()()()()()()。何の前触れも無く、気が付いた瞬間には男の身体は霧散していた。

 間違いなく、これは罠。それか、これは。

 ()()()()()()()()()

 

「ッ…!」

 

 すぐ様、刀を両手に一本ずつ抜いて構える。遅い。仕掛けるなら男が消えた瞬間に何かあるはずだ。という事は、残る可能性は遊ばれているか、試されているか。

 

「出来れば、後者だと良いんだけど…!」

 

 待つ。待つ。待つ。ただの一瞬が、数分にも感じられる緊張感。命を懸けていると言う初めての感覚。とても怖い…が

 

()()()()()()()()

 

 物音に反応して刀を振り抜く。自分の中で最高の速度。殺せなければ、死ぬだけだ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ!

 刀を振り抜いたそこには―

 

 

 ―何も居なかった。

 

 

 いや、まだだッ!

 勢いそのままその先に見えた人影に素早く接敵する。振り切ったのとは逆の刀で胴を突くも、男が手に持った杖でそれを流す。ならばと受け流されて身体が男の後ろに倒れるのを利用し、男の胴を両断する様に刀を置く。が、それすらもいつの間にか男が手にした黄金色に光る両刃の剣によって防がれている。

 

「合格!うんうん、勇気、状況判断、反応速度。最後に関してはまるでなっていないがそれはそれ!そこを何とかするのはボクの仕事だからね」

 

 直感のままに刀を振るおうとした私の耳に入るのは、この戦いには似合わないのんびりとした声。爽やかな好青年、と言った声なのだか如何せん、声の調子が何と言うか…凄く怪しい。

 

「あいたたた…いやー、重労働の後の戦闘は堪えるねぇ、主に腰に。お兄さんが頼りになるのはわかるけど、日常の周回なら孔明君の方が便利だと思うんだ私!」

「いや、何の話をしてらっしゃるんですか…?」

 

 シューカイ、コーメイ。よくわからない単語が沢山出てきた。さてはあれか。この人、お兄ちゃんと同じタイプの変な人か…?お兄ちゃんは何となく面白くて親しみやすかったけど、この人からは胡散臭さを感じるので反応に困る。

 …それはそれとして、敵意は無さそうなので刀を鞘に収め、数歩離れる。改めて観察すると、結構長身の男だ。髪はまるで毛の深いモフモフの動物の様にボリュームがあり、なんと言うか、白い。

 

「さて、お嬢さん。どうやら私を疑ってかかっている様だがそれは筋違いという物さ」

「…ええと…と、言うと?」

 

 凄く良い笑顔で話しかけてくるから本当にいい人なのかもしれないと油断してしまう。が、何となく違うと分かる。この人は、私の思う良い人では無いような気がする。

 そんな私の考えを他所に、男は両手を広げて自己紹介を開始する。

 

「世界有数のキングメーカー。妖精郷に住まう花の魔術師。王の話の人。過労死の人。白いブラックなお兄さん、マーリンとはボクの事さ!」

「…うわぁ…」

 

 多分この人面白い人だ。信用は出来るし面白いけど優しい訳じゃない人だ。正確には、多分優しいんだけど何と言うか…価値観が違う?人だ。

 自己紹介と共に彼が差し伸べて来た手を不思議そうに眺めていると、穏やかな声色でまーりんさんは口を開く。

 

「さて、ボクは名乗った訳だし…君の名前を教えてくれるかな?」

「え、あ、私の名前はぬいです!さっきは急に斬りかかってごめんなさい!」

 

 私が勢い良く頭を下げると、少し苦笑する様な声と共に伸ばされた手が下がる。何か変な事をしてしまっただろうか?それとも、やっぱり急に斬りかかるのは不味かったのだろうか…?

 

「いやいや、あれはボクも狙ってやった事だからね、気にしなくていい

 所で…ちょっと気になったんだけど君のソレは我流かい?」

「え?あ、はい…教えてくれる人も居なくて。昔見た剣をこんな感じかなー、と」

「…ふむ、成程

 もし良ければ、ボクが剣を教えてあげようか?」

 

 少し考えた後にまーりんさんが口にした言葉は、私にとって夢の様な言葉であった。

 私の一撃を、じいちゃまの刀の一撃を防いだあの腕は私よりも遥かに上だと言うことは一目で分かる。そんな人から剣を教えてもらえるなら、私にとって悪い話では無いはずだ。どう考えたって有難い話だ。

 だから、その言葉に一気に飛び付いた。

 

「ほ、本当ですか!?是非、お願いします!」

「よし、じゃあ初めに」

 

 ただ、彼が発した次の一言は

 私にとっては、頭に金槌をぶつけられた様に最悪な言葉だった

 

「―君の剣を、捨てなさい」




さあ、もう一度よく考えるといい。宮本武蔵の剣を模倣した君の。剣の頂に立とうとした君の。本当の願いは、何なのだろう?
喜べ、少女よ。君の願いは漸く叶う。
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