夢は憧れから生まれる。
この二つは人にとって必要不可欠。
だが、もし。もしもどちらかを捨てなければならないとすれば…果たして、どちらを捨てるべきなのだろうか。
焚き火を弄っている。パチパチと言う心地よい音が耳に響き、浮き上がる火の粉が蛍のようでちょっと面白い。ただ、頭の中で繰り返されるのは同じ言葉だ。それをずっと、繰り返している。
私の剣を捨てる。その言葉を、私は否定する事が出来なかった。そう、分かっているのだ。最初から。
彼女の剣を極める事は、
「…と、言っても…そう簡単に捨てられないよ…」
「君がその剣を捨てられないと言うなら、申し訳ないがボクは元の居場所に戻らせてもらうとしようかな!」
呻きながら膝に顔を埋めると、横から妙にイラッとする声色なまーりんさんの声が聞こえた。何だかそれが気に食わないので、少しムッとしながらそちらを見て言い返す。
「別に教えてくれなくても結構ですーだ!」
「そう、別にボクは何も教えなくて良いのさ。そんな事をする必要は無い。君はそのままでも一流には至る事が出来るだろうからね。
ただ、もっと相応しいモノがあると言うだけさ。良く考えて選ぶと良い」
「ぐっ…」
急に真剣になった彼に反論出来ず、思わず目を逸らし、再び思考に没頭する。言っている事は間違ってはいないのだ。これは義務ではない。それは私にとっても、彼にとっても。ただ、彼には私を鍛える理由があって、私は強くなりたい。彼が教えてくれるなら、きっと私はお姉ちゃんに追い付けるだろう。何故か、それを確信出来る。
だが、それは何よりも難しい事なのだ。何故なら、私が強くなる為に捨てなければならないモノは…私の夢そのものなのだから。本末転倒…とは少し違うかもしれない。言ってみれば、私がやるのは本来の意味とは違うが蜥蜴の尻尾切りの様な物。尻尾は切り捨てる事が出来るが…それは、掛け替えのないものなのだ。捨ててしまえば、もう二度と戻らない物だ。果たして…私にそれが出来るのか?
「…まーりんさんは、何で私に剣を教えてくれるの?」
「折角だから、と言う他無いね。強いて何かを付け足すとすれば…君は英雄になれる。その器を育ててみたいと思ったのさ」
「変なの。私たち初対面なのに…でも、何か不思議では無いね」
木の枝で焚き火を弄り、ぼーっと時間を浪費する。思考にも集中出来ないので両膝を立てて座り、少し昔の事を思い出す。
お姉ちゃんとお兄ちゃんに、初めて会った夜の出来事だ。…ああ、そう言えば…結局アレは何だったのだろう?あの、お姉ちゃん達と出会った夜。凄くかっこよかった事を覚えている。お姉ちゃんと戦うその姿はお空を流れる流れ星の様に鋭く、美しかった。でも、あの後…変な黒い影が沢山現れて…確か、あのお坊様は―
「さて、悩んでいる君に幾つか質問をしようか」
「え?あ、うん。良いですけど…」
今、結構大事な事を思い出そうとしてたのに…と、少し頬を膨らませたが、多分あまり思い出すべきではない気がするので素直に質問に答えるとする。
…しかし、質問か。彼の目は私の内心を見抜いているようで、正直ちょっと怖い。ただ、何となく…離れてはいない。見られているかもしれない不快感は無い。実は彼は仙人様なのではないだろうか?それならこの感覚も納得が行くのだけれど。白いし。
と、何だか少しだけ余裕の戻った思考に気が付いた所で彼からの質問があった。
「君の夢は?」
「剣士になる事。そしてあのお姉ちゃん…
迷う事は無い。そう、これは間違いの無い事実だ。確かに私は、あの二人にそう宣言した。
…ただ、何かが…引っかかる。
「では続いて、次の質問だ。君にとって、君が追い求めようとしているその剣は何なのかな?」
「う…答えづらい…けど、憧れ…かな?」
これも、同じだ。
「成程。ボクから見ても良く再現出来ていると思うよ?
…さて、では次の質問に行くとしよう。君は、君の夢をどうしたら叶えられると思う?」
「え…それ、は…」
簡単だ。剣を極めること。たったそれだけの簡単な質問。だが、私の口は答える事が出来ない。何故なら…それを理解したくは無いからだ。
「そう、君の夢は宮本武蔵の様な剣士になる事だ。
だからこそ、君にその剣は合っていない。だから夢を叶える事は不可能だ。ボクなら、君の夢を叶える事が出来るだろう」
「…ああ…」
言われて、しまった。これでは、もう剣を捨てるしか無いじゃないか。だって、ここで今の剣を捨てなければ
それは…
「…それは、私が望む事じゃない。私が、望むのは…!」
「そう。君は憧れを望んでなんかいないのさ。君が望むモノはもっと違うもの。君はその望みを、望む物全てを叶える為に存在していると言っても過言ではないさ」
「…とりあえず、善意だけで教えてくれる訳じゃないって言うのは、分かったかな…
うー…言ってる事が否定出来ないのが悔しい!」
地面に置いた刀に目をやる。この二本はじいちゃまが打った刀だ。二振りとも、多分名刀と呼ばれるものなのだと思う。捨てるのは…凄く、嫌だ。だってこれは、大好きなじいちゃまが打った刀なのだ。私の、大好きなじいちゃまとの思い出なのだ。何故か居なくなってしまったじいちゃまとの、大切な思い出。
だから、一本を鞘に刺したまま地面に突き刺した。深く、深く、深く。もう子供では居られないのだ。
今は泣いても構わない。しかしこれは悲しい別れではなく、成長だ。であれば―
「ああ、良い笑顔だね。泣いたままだとボクも罪悪感で教えにくいから助かるよ」
「…はい!これから宜しくお願いします!」
ごめんなさい。そしてありがとうじいちゃま。
ぬいは、必ず強くなります。
話は変わる。しかし所は変わらず。時も変わらず。同じ地、同じ時にて。一騎の羅刹が―
―否。違う。否。否。否、否、否!同じ場所?同じ時?断じて否!それはとうに始まっていた。それはとうに終わっていた。かの妖術師が企んだ、七騎の悪鬼羅刹の召喚等大した事では無い。たかが前座。単なる茶番。
神秘無き一撃はサーヴァントには通じない。諸君ならば知っているであろう世界の摂理である。
かの宮本武蔵により、宿業は両断された。七騎の悪鬼羅刹は確かに断ち切られた。確かに、英霊剣豪共は滅された。
しかし、未だ終わらず。英霊剣豪は滅されようとも、宿業が両断されようとも、悪鬼羅刹共の残滓は消えてはいないのだ。則ち未練。怨嗟の叫びの残響である。それは決して消える事なく後の世に響き、人の世に牙を剥く。獣に在らず。人に在らず。英霊に在らず。骸に在らず。此処に集うは七騎の悪鬼羅刹の成れの果て。敗北を認めぬ、理性無き、宿業すら無き残骸共也。
これより出でるは血華咲き乱れる遺骸共の極地。
敗北せし者共が足掻き喰らう死山血河の死合舞台の成れの果て。
その刃の名。言う価値も無し。
その骸の名。既に在らず。
いざ、いざ、いざ。いざ覚悟召されよ若き剣士。
いざ、尋常に―
これより始まるは前座の後始末。英霊剣豪七番勝負、番外。ここに開幕。しかし未だ少女は未熟であり、敗北は必死である。
今宵、獲物を見つめる影一つ。その眼光は、何を映すか。
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