実はストックがこれ出すだけでほぼ尽きるという。
次は長いかもしれませんが気長に……気長に……あ、着たぐらいでお待ちくだされ
あっという間に四年が過ぎた。
俺とセレナは相変わらずここ。至宝やらが転がっていたりノイズが整列している謎空間で暮らしている。
食事の問題はあの機械があれば解決するので、過ごすだけなら何とでもなるのである。
あれから色々あった。
俺がどれだけ叫ぼうが怖がられる理由は、俺がノイズとやらだからだけではなかったのだ。
俺は一切、言語を発していなかったのだ。
そりゃ、どれだけセレナの救命を叫ぼうが誰も近寄らないわけである。
セレナが言うに。
俺が喋っている、と思っている時は何やら叫んでいるらしく。
セレナの真似を見るに。
「ヘアッ!」
「ジェアッ!」
「ジュゥウウァアッ!!」
と言う塩梅らしい。
顔から火が吹く、とはこういう事だと悟った。
俺はマリアともう一人の女性に対し、セレナを抱えてそんな風に叫んでいたのである。あぁ……穴があったら入りたい。
そんな風に顔を抱えてのたうち回る俺をセレナは腹を抱えて笑っていたのだが、このような関係に至るまで、実は暫く掛かった。
何せ俺は見た目が人など食い殺しそうなバカデカい海星である。
しかも意志の疎通が出来ているのか居ないのか、怪しいことこの上ない。
喋る、と言うか基本叫ぶのでびっくりする事が多い、などなど。
そもそも基本、セレナは海星どころか人間不信に陥っているようにも見えた訳なのだが……まぁ、ここに他の人間がいないため、確信は持てないのだが。
彼女と出会った場所。ワラスボの様な怪物が暴れていたあの場所で、彼女の近くにいた人間はマリアと成人女性が一人。
他の大人達は遠巻きにこちらを眺めるだけだった。
大体にして、怪物の一番近くにいたのが彼女だと言うことがそもそも、人として間違っている。
きっとまともな大人に、普通の子供として接してもらえなかったのだ。
ならば、必然、年齢に不相応な防衛反応を起こしても何らおかしくはない。
さて、それを踏まえた上でだが。
俺とて、怠惰を貪っていたわけではない。
彼女にとって頼れる保護者となれば、安心感を与えられるであろう。うん。きっと。うむ。だが海星だが。多分。
その第一歩として、なんとか彼女と詳細な意志疎通を図るべく俺が考えたもの。
それは——
「えと——なに、それ?」
俺が差し出したのは我が名を示した粘土版。
手近なもので削って文字を表し、筆談を試みようとしたのだ。
本来ならば、筒状の物に文字を刻み、それを粘土版の上に転がすようにして転写するのだが、記録・保持するならば兎も角、筆談するだけならば直接記述した方が手っ取り早いし良いだろう、と言う判断だ。我ながら良く考えたものだと自賛したい物である。
だが……。
「……よ……読めない……」
なんと言うことだろう。
「じゃあ、これ読める? 私の名前なんだけど……」
……あ、分からん。無理だこれ。
示された読めない記号の羅列に、俺は首を振った。
そう、文字ですら二人の共通項ではなかったのだ。
……ん? 文字、と言うか言語体系が全然違うのに、彼女の言葉が分かるのは何故だろう?
その理由は分からなかったのだが、試行錯誤の結果、結局一周回った俺が彼女に意志疎通を試みる術はジェスチャーによるボディランゲージ、ないし粘土版に壁画の様なイラストを描いて伝えるしかない、という顛末となったのである。
ただ——
「なんでこんなオーバーテクノロジーの塊があるのに、たかだか紙っぺらがただの一枚も無いの!?」
粘土版を一緒に掘っていたある日、いきなりセレナがキれた。
……よく分からないが、彼女の文化圏では、粘土版で記録を取らないらしい。
うむ。さすが我が故郷。あらゆる事項で最先端である。
なお、何やらの塊とはあの食料製造装置の事を示すのだと思われる。
しかし、ここは文字通り宝の山なのだが、とことん暇である。
何せ、セレナにとって使い方どころか用途すら分からない宝の山なのだ。
マニュアルは俺が読むことが出来るが、その詳細をセレナに伝えることは出来ない。
何とももどかしいのが常なのだが、二人の関係は良好だ。
暇であることは変わらないため、前々から何か遊技板制作をひっそりやっていたセレナが、オセロなる遊びを提案してきた。
縦横に等しく区切られた盤面に、白と黒で表裏となった駒を交互に一枚ずつ配置し、陣取りをする遊技である。
この陣取り、おもしろい性質があり、配置したとき既に配置されている自陣色の駒と挟むと間の駒をひっくり返し、自分の陣地の色へと変えることが出来るのだ。
中々に戦略眼を育てることの出来る遊技である。
しかし、ここに致命的な問題が生じた。
この手の遊技は実力が拮抗するもの同士が相まみえれば白熱し、楽しめるのだがいかんせん、経験も適正も俺にはとことん無かったのだ。
セレナが振るう駒に取り囲まれた我が駒一つ、なんて結末なら可愛いもので、敢えて勝敗が決したときに図画が描かれるように配置したりと、次第に遊び始め、頼れる保護者など、夢のまた夢のような状態になってしまった。
これはいけない。何というか、一勝も出来ないのだ。
ずっと我ながら研鑽し、打ち方を研究しているつもりだが、我が進歩が牛歩なのか、セレナが遙か先にいるのか、遅々として実力差は縮まらず、結局セレナが飽きてしまったのだ。
数少ない、簡単なジェスチャーでルール説明が出来たゲームが早くも飽きてしまったため、手持ち部沙汰で呆、としてしまう俺たちであった。
これはまずい。二人ともボケてしまう。
どうしたものか、と考えていると全身の輪郭が淡く光り始めたかと思えば、ぼう……と体全体がぼんやりと光に包まれていく。
最近、やけに多いな、と思う。
これは初めてセレナとこの場にきたものと同じ現象、つまり転移の兆しだ。
俺はこれからどこかに送られるのである。
「行ってらっしゃい」
尤もこれは初めてではなく、セレナも慣れたもので、手を振って見送ってくれる。
初めてこの現象が起きたとき、セレナは世界の終わりではないかと言わんばかりに、一人にされるかもしれぬ恐怖に狼狽し、俺もどうにも出来ないし、二人して醜態をさらしてしまったものだ。
当時、セレナも慌てに慌て、俺の醜態どころではなかったので、彼女の中において俺は冷静に対処を考えていた保護者、と言うことになっている(はずだ)。
まあ実際、俺も子供を一人にするわけにもいかないとだいぶ焦ったのはここだけの秘密だ。
そして、転移の兆候が現れているのは俺だけではない。
ずらりと整列しているノイズ達もまた、光を放っている。
そのすさまじい数に、空間そのものが光を放っているようにも見える。
忌々しい。
この場においては全く何もせず突っ立っているあいつ等は——
外に出るや、自滅と殺戮を一挙に繰り出すのだ。
暗転した視界が復帰した瞬間、様々な情報が一挙に押し寄せる。
それは、周囲を確認すると同時に自己の状態が万全かを確認するには十分である。
青い空。
土の香り。
全身を撫でる風。
そして、響き渡る怒声。
以上を持って、味覚を除く四覚を一挙に確認。
続いて、自分の置かれた状況を確認。
オセロ板面の様に規則正しく縦横に揃えられた俺を含むノイズの集団は一斉に前進を開始。
前方には、緑色の衣服を揃えた集団がこちらに対して陣形を構えている。
この国の防衛を担う者達だ。
かつて、俺がまだ幼かった頃。故郷は魔獣の軍勢によって存亡の危機に晒されていた。
たくさんの兵士達がその驚異から家族を守るベく王に率いられ戦ったのだ。
俺はそんな話に出てきた祖父と父を誇りに思い、自分もまたそんな戦士になりたいと奮起したものである。
それがどうだ。
現状を見るが良い。
人々には帰るべき幸せな平穏が、日常があるというのに。
俺が——その脅威になって居るではないか。
初めて、呼び出されたとき。
ようやく動き出した俺以外のノイズがしたこととは。暴挙と言える集団自殺と大量殺戮であった。
襲われている人々は、ノイズが殺戮するべく向かってきていると思っているだろう。
俺も、初めはそう思っていた。
だが、違うのだ。
外で活動するノイズを目の当たりにし、そこから伝わってくる感情のような者を肌で感じたのだからこそ、それが刺さるほどに分かる。
ノイズ達にあったのは、狂おしいまでの死んで楽になりたいという——ただそれだけの願望でひたすら突撃しているのだ。
ノイズは人に触れれば炭化し、死ぬことが出来る。
なんと身勝手な。
それで、何も知らぬ無辜の民を道連れにするというのか。
身勝手で我が儘極まりないこの習性。
俺達を送り込んでいる何者かにとっては、ただひたすらに人を殺し続けるために都合がよいのだろう。
ふざけるな。
ならば、俺がやることは決まっている。
たった一つのシンプルな事だ。
ノイズを呼び出し、人々の平穏に対する脅威であるノイズの行為を、ノイズとして呼び出された俺自身が妨害するのだ。
ふんっ!
実際には何か雄叫びを迸らせているだけであろうが、この場合なら意味合いは合致するだろう。
その事実が何となく苦笑を浮かばせる。
腕を振り回した。
……俺の体は、海星なので正五角形の角へ放射状にに頭と手足が等しく伸びている。
それ故に、手足の感覚は以前自身が使っていたものに比べていささか短すぎる感が否めない。
だが、充分だ。
違和感による誤差を経験で修正し、振り抜いた腕を叩きつける。
硬めのゴムを殴りつけたような感覚。
しかし、ゴムというのは不思議なものである。
硬いのに、弾む。滑り止めにも有用だ。
セレナに教えてもらうまではそのような物があるとは知らなかった。
そしてまさしく、ゴムボールの様に薙ぎ払ったノイズが弾け飛んだ。
対フレンドリー・ファイア効果判定・有効
脳裏によぎるメッセージ。
ノイズを張り倒す度に執拗に耳を撫でる不快な囁きは、流石に何度も繰り返されれば意味が分かる。
ノイズ同士では攻撃が有効ではない。と言う事だ。
蹴ろうが殴ろうが、ゴムのような感触を残すのみで弾け飛んでいく。
要は、ノイズ同士の行動で数を減らすことはないのだ。
ほとほと人間を殺す為に効率的に出来ている、と言うことなのだろう。
だが。
直接叩けなくても、やりようはある。
殴り飛ばしたノイズが木の枝に突き刺さり、炭化する。
このように何かにぶつけたり、俺自身が武器を用いて叩き潰せばいいのだ。
はぁっ!
その場に思い切り足を叩きつけ、その反動でめくれあがる地面。
梃子に跳ね上げられたようにノイズ達が宙を舞う。
何か長物が調達できればいいのだが、生憎ここは山中で木と土と石しかない。
木を引き抜いて振り回すのも良いときはあるが、山中では長すぎる、取り回しに少々不便なのだ。2mぐらいの長柄のものが丁度良いのだが……。
大きめの岩を頭上に持ち上げるとそのまま上に投擲。
バク転の要領で足を振り上げ、頭上の岩石を粉砕。足が自己の感覚より短いので少しずれてしまったが、及第点レベルで真芯を捉え、砕けた破片が放射状に上昇していく。
散弾と化した岩石片が空中で身動きのとれないノイズ達を次々と炭化させた。
ふむ。このやり方ならばそこそこか。
地面が砕けるから移動しなければ繰り返す事が出来ないのが難点だが。
煤けた風が舞い降りる中、ノイズ達と相対していた兵士達が、俺を指さしている。
それも致し方ない。
今の挙動では、いきなりノイズが噴水のように吹き上がったとしか見えまい。
その中心に、他のノイズと違って海星型のノイズがいれば注目されるのも——
「いたぞ! ラッキースターだ!」
「よっしゃあ! 生き残れるかもしれねぇ!」
「いっつも大体一体しか居ないよな」
「とりあえず援護しとけ!」
「ノイズなんて援護したら始末書じゃないっすか?」
「阿呆抜かせ! たまたまラッキースターには当たらねえだけだ!」
「そうっすね! ノイズはすり抜けるっすから、当たらないだけで、仕方ないっすね!」
あぁ、そっちの類だったか。
ノイズの殺戮を妨害している割には毎度毎度出撃要員に混じっている俺だったが、いつしか人々の——それもノイズと戦っている者達からは他の個体にはない形状も相まって、識別されるようになってきた。
前線にいる者からは、何故かノイズを攻撃するノイズ。もし居たのなら兵士の生存確率が跳ね上がる『ラッキースター』とかいう渾名で。
いやまあ、俺は叫ぶだけで口を利くことが出来ないため、勝手に名付けられるのは致し方ないことだが。
いくら形が似ているからと言って、海星を星扱いするのは如何なものか。
謎なのは、スターという単語が星を意味する言葉である、と言うのが分かる事である。
本来自分にはないはずの知識。
分かるものと理解できぬものがある。
この差はいったい何なのか。
首を振る。思考を余計なことに割り振るとはなんたることだ。
テンションの上がった兵士達が銃を構えて俺の周囲のノイズを威嚇すべく発砲してくる。
銃を知っている理由は出撃頻度で察してくれ。
だがノイズに対し、銃弾が効果を発する事はなかった。
その身を弾丸がすり抜けていく。
セレナとの世間話(会話が一方的にしか通じないため、殆どセレナの独り言に相槌打ってる形になっているのがなっているのが悲しい)にあったノイズの機能である。
要すると、自己の存在密度を操作し、相手の攻撃をすり抜けるという代物だ。
当たらなければあらゆる反撃は意味をなさない。
一方的に人間を殺戮するための機能としてはこれほど有効的な物はないだろう……と、その時。
ひゅんっ……と。
流れ弾が体をかすめる。
その件についてなのだが。俺はすり抜けるやり方を知らない。
そして、兵士達の攻撃は、基本ノイズをすり抜ける。
人間に触れて炭化させるときのみ実体化するので、基本効果なしだが、当たれば儲け物だと言わんばかりに数で押してくる。
最後に、兵士達は俺がその機能を使えないとは思っていない。
それはそうだろう?
実際あんな物、見てかわせるし、風切り音や殺気で大体の軌道が読める。軌道が正確なだけに、弓より躱しやすいぐらいだ。
しかし結果だけを見ると、好意的に見ている筈の俺にだけ効く攻撃しかけてきてるのだ。
何かが釈然としない。
彼らも俺がまさか避けているとは思わないため、効果無しと思われているのだろう。もの凄くやるせない。
あとこのすり抜け機能。
どう言うわけかノイズ同士では働かないらしく、俺が得物で殴りつけたときも発動しない。
判定がいまいち分からないが。まあ、殴れるので殴る、という効果第一の行動をとっていたりする。
さらに。
俺が素手で殴り。
対フレンドリー・ファイア効果判定・有効
対フレンドリー・ファイア効果判定・有効
対フレンドリー・ファイア効果判定・有効
あぁ、非常に鬱陶しい。
そこに、数撃てば当たる、と飛んできた弾丸がノイズを打ち砕いた。
そう、何故か、俺が殴っても効かないくせに、殴りつけると透過機能が機能不全を起こすのだ。
兵士達が撃ってきたならこれ幸いに周りのノイズを殴って殴って殴ってたまに蹴る。
すり抜けられなくなったノイズを兵士達に攻撃させるとあら不思議。俺がやるより遙かに効果的にノイズを殲滅できるのだ。
これが最近、一番効率の良い戦い方だったりする。
なんだかんだ言っても、道具を使った方が効率がいいに決まっているものであるし。
気を付けなければ行けないことは思ったより弾むので誤って兵士達に向けて飛ばさないことぐらいである。
蛭のような見た目で這いずってくるノイズを蹴鞠の様に無造作に吹き飛ばし、続いてそれに腕が生えたような個体に拳を埋め込む。
力の加え方で、飛び方をある程度操作できるのだ。
これなら、拳がめり込んだ分が歪曲して戻るまでの数瞬、ラグがある。
無造作に頭を傾げると、それまで頭があったところを弾丸が通過し、跳ね飛ぶ直前だったノイズを炭と散らし消し飛ばす。
いいな、この連携。
さあ、もっと撃ってこい。ノイズ潰すには丁度いい。
だが、いざ望むと全然やって来ない。
おいおい、折角盛り上がったやる気が……と振り向けば、兵士達は一斉に引いて行っている。
ふぅ。終わったか。
何が?
そう、文字通り、死に物狂いで奮戦している兵士達は悪いが、彼らは民草にノイズが襲いかからぬよう抑える時間稼ぎに過ぎない。
ノイズ達は確かに、人間の天敵と言えるが、人の側にもそれに特攻する存在と言うものはあるのである。
空より、風を叩く音がする。
楓の種子のような羽を回転させる鋼の鶏——セレナに粘土版で掘って見せたところ、ヘリと言う名なのだという——が二人の少女を吐き出した。
彼女達は——歌う。
「
「
その調べと共に、閃光が瞬き、一瞬のうちに二人はその瑞々しい肉体にフィットした鎧姿に換装を終えていた。
方や情熱の紅、槍を構える少女。
対になるように、背をあわせ刀を抜き放つ蒼き少女。
彼女達は、歌を奏でながら烈火の如き猛攻でノイズを蹂躙する。
その歌は、戦意を高揚させる。
ノイズの頭を直上から小突いて地面に激突させる反動を用いて直上へぽーんぽーんと跳ね上げながら俺は聞き入っていた。
歌は良い。
たとえ同じ伴奏、同じ歌詞であろうと、魂がそのまま形になるような、訴えかけるものがある。
この調べは——猛き戦士のものである。
ならば、今戦場にある身としてはまさに。
——まさに鼓舞されているようではないか!
良き音楽をその身に受ければ、自然と調子に併せて体が動くものである。
思わずたまらず身が動く。
ふん、ふん、と鼻歌を漏らしながら打楽器のノリでノイズをシバいていると、刀でノイズを斬り裂いている方が俺の方を見て目を見開いた。
どうしたのか、と耳を澄ませていると。
「奏! 奏! あのノイズ、奏のリズムに併せて踊ってる!?」
……。
いや、踊っているのではなく、原始的な音楽——打楽器(ノイズ)で伴奏を加えているつもりなのだが。
「はぁ〜? イヤだなぁ、ノイズが普通、踊る訳ないだろう? あの変なのじゃないんだし翼ったらなぁに言っ——あ」
その時、偶然俺と彼女の視線が交錯した。
ぶっちゃけ、俺の目ってどこにあるのだろうか、そもそもどうやって視界確保してんだろうと言う謎があるが、兎に角。視線が交わった、気がする。
「あれって、いつもの星野郎じゃねぇか! あん——の、いつも、いっっっっつも奇妙な踊りでおちょくって来やがる!」
いや、賞賛しているんだが。
むしろ体が抑えきれず動き出してしまった程その音楽に魅了されているのだが。
「いつまでそのスカした態度とれるか見てやろうじゃねぇか!」
——来る!
大技の気配だ。
『STARDUST∞FOTON』
気合い一拍、振りかぶった槍を投擲、その数を爆発させる。
ちなみにこの二人の少女、先の彼女の言うとおり、ノイズの群と一緒に呼び出されればかなりの割合で遭遇するのでもはや顔馴染みである。
槍を振り回し、ノイズ殲滅へ凄まじい気迫を発している紅の少女が、奏。何故かその気迫が俺に限ってさらに跳ね上がっている気がする。
精妙に刀を振るい、ノイズを斬り捨てていく青き少女が翼。どことなく引っ込み思案な印象を受ける。
その、正反対ながらも息が完全に合っているところが、お互いに寄せる信頼感が抜群であることを示していた。
名前を知っている理由? 割と近くで暴れていると会話が良く聞こえるのだ。
彼女らの歌に魅了されている身とすれば、近くにいなければ良く歌が聞こえないため、自然と近くで暴れるようになる。
結果——お互い印象を抱くに至る、と言うわけである。
豪雨の様に降り注ぐ無数の槍に俺は感激する。
おお、何という采配!
これぞ待ち望んでいた武器ではないか!
周囲のノイズを次々と打ち砕いていく槍のうち、俺に向けて投げてくれた一本を受け取り、一振りの感触を確かめる。
見事だ。重心、質量、好みの槍である。
「おあ!? あたしのガングニィィイイイるぅッ!?」
俺もまたノイズを砕いていく。
これだ。
自らの手で敵を打ち倒す感覚。
これを待ち望んでいたのだ。
俺の望んでいる支援を迷わず放った奏に感謝し、今までは手を出しにくかった大型ノイズを頭頂から真っ二つ、縦に引き裂く。
「ねぇ、奏、奏! あのノイズすっごい喜んでる! 奏にお礼言ってるように見える!」
「は? あ、ああ? ああ、あ、あああああッ!? あんにゃろおおおおおおお!」
「奏落ち着いて、そんなにムキになっても意味ないって分かってるでしょ、表立って言える事じゃないけどむしろ協力的なんだから!」
「分かってる! 分かってるけどさぁ! むしろ倒せても労力に見合わないって分かってるけど、あいつ、あたしのガングニール(分身)振り回して、うっわ、ノリノリなってやがるううううう!」
「あ、ちょ、待、奏ぇー!」
「あ、出ちまった。まぁ良いッ!! まとめてブッ飛べえええええええ!」
『LAST∞METEOR』
その一撃は、見事であった。
奏の槍から繰り出されたのは竜巻。
決めに入ったのだろう。
一気に広範囲を消し飛ばす。
絶妙に互いの隙間を縫う、折り重なった乱気流はノイズ達から逃げ場を奪い、殲滅し尽くしていく。
かく言う俺も風切音から流れを先読みしなければ、粉微塵にされていた筈だ。
縫うように何度も姿勢を切り返し、風の合間を縫うのは至難の業であった。
竜巻が収まり、ノイズを一体残らず殲滅した大地に着地する。
……あ、俺が居るから全滅ではないか。
ふう。
ガランッと金属音。
見下ろせば、奏から借りた槍が転がっていて、光に消えていく様子が見えた。
何故落ちたのか——そう、槍を持っていた俺の腕が炭化し、崩れ去っていたのだ。
時間切れもあるだろうが、流石に対ノイズ兵装を手にするのは無理があったのだろう。
ボロボロと加速度的に崩れゆく体を確認しつつ、二人の少女へ向けて、最大の敬意を示す。
この国の戦士達がしていた、手刀を額で斜めに掛ける仕草である。
「あ、これはどうも。でもそれ、手が逆……あぁ、片手だもんね」
「いや、翼? なに普通に対応して——て。へ? あ、お前ちょっと待てって、もう時間切れかよ! あ、ああ、ああああああああ、また勝ち逃げされたああああああ!」
うーん……。そう言って貰えるのはありがたいのだが、体が崩壊始めたら一気だから止めようがないのだよなあ。
奏の叫びを耳にしながら、俺の意識は肉体と共に崩れ去ったのだった。
コアモジュールの回収完了
搭載予定の筐体に異常無く取り付け完了
筐体に待機指示
次期指令の下賜まで活動を休止
コアモジュールに規格未登録の関数を確認
起動後の活動時、作戦へ支障の可能性、上限値の予測不可能
対処命令。コアモジュールを摘出、ルーチンの規格統制後、再搭載
拒絶確認
摘出不能
修正不能
一時保留不能
廃棄不能
破壊不能
排除不能
——関数による筐体の改竄を実行
ロールアウト
起動実行します
とか、最早慣れきる程に何度目かの反復を終え、今回もなんとかかんとかし。
ただいま。
「あ、お帰り。今日はどうだった?」
いつもどおりだな。
「これからご飯なんだけどどうする?」
自分は食べることは出来ないが、卓には同席しよう。
セレナの待つ居住空間に帰ってきた。
相変わらず、会話が通じないので、セレナにとっては独り相撲だろう。
だが、俺達はいつものやりとりを何となく、大切にしていた。
たとえ言葉が通じなくても、同じ仕草を返すことでいつものやりとりであることが実感できる。
美しい旋律が耳に届く。
それは、セレナが奏でるものだった。
その身には先程も見た、身にフィットした軽鎧が纏われている。
そう——彼女もまた、ノイズに対抗する力を有しているのである。
そう考えると、彼女と出会った場の胡散臭さから、何をしていたか……おおよそではあるが察する事が出来るものだろう。
そして、ノイズに抗する為にある力で彼女が何をしているのか、と言えば、ごく一般的な人型ノイズを抱えている。
不思議なことなのだが、俺達が生きる空間において、ノイズは人である筈のセレナに襲い掛かって来ない。
故に、ノイズと戦うための鎧を展開する必要はないのだが、やはり、生身でノイズに触れるのは避けたいものであるらしい。俺には容赦なくどついたりしてくるのだが。
ノイズを一体抱え、ごろんと装置に寝かせて蓋を被せる。
「今日はどんなのに、しようかな」
コンソールを吟味し、一つ一つ命令を入力していくセレナ。
その間も、歌は流れ続ける。
彼女らが身に纏うこの鎧は、歌を力の源としているのだという。
昔、聞いたことがある。
聞いたのは、確かあのうっかりだったか……。世間話の合間だったと思う。
始まりの音楽、それは風であると。
……そして。
始原の自然現象は全て、星の生理的活動である。
神々は擬人化した星の末端とも言われている。
ならば歌とは、最も古くからある星の祝詞なのかもしれない。
そんなことを考えながら、歌に身を任せて身を安らげる。
これは、別格だ。
奏と翼の歌も、魅了されうる素晴らしいものだった。
思わず体が動く、と言う事が現実になる程だ。
だが、セレナはそれすらも超越する。
文字通り、感動が全身に染み渡る、とでも言おうか。
このノイズの体に疲労と言うモノは感じられないが、作業を続ければ精神は疲弊する。
それが、心が。胸に蟠るものさえ。
清流に清められるが如く澄んでいく——心地よさを与えてくれる。
「ごはん、食べられれば良いのにね」
まぁ、そればかりは仕方がない。
俺は、本来生物にあるべき生理的機能が殆ど存在していない。
ただ、この毎日のやりとりに相挟まれ、流れてくるこの歌が——まるで糧となるような——そんな気がして心身共に充足されるのだ。
こちらとしては不満はない。
だが、セレナにとっては食卓を共に出来ないのは寂寥感を抱いてしまうのだろう。
この問答も、もはや何度目になるか分からないものなので、いつものように肩をすくめると、哀しそうに微笑むセレナは完成を知らせる音に身を翻し。
完璧に調理されているのにノイズそのままの形状をしている夕餉を運んできた。
……ちょっと待て年頃の少女よ。
「それじゃあ……いただきまーす……あむぅ」
なんて可愛らしく言っているが、その実態はノイズを羽交い締めにして頭から食らいついている猟奇的な少女である。
そう、今セレナが調理に使ったのは、俺が治療装置と間違えてセレナを美味しくしかけた至宝の一つだ。
取説の粘土板曰く、
以前、セレナに提供した粥もそれで作ったのだ。
ん? 材料? ここにあるモノがなんなのか、それだけで察してくれ。
今セレナが召し上がっている
それ以外に資源は——あぁ、この間見つけた黄金色の蜂蜜酒なんて飲んだあかつきにはどうなるか分かったもんじゃない。他にも食べ物っぽいのは曰く付きしかなさそうで手が出せないのだ。
ただ、俺が調理した際は、今見てるような質感と味だけを作り替え、そのまま丸かじりで良しとした事など常識から考えて一度もない。
眼前でバリボリもぐもぐノイズの形をしたものを食しているセレナに対峙し、無性に茶が飲みたくなった。
間が保たぬなぁ、この絵面は。
なので、色々と思案に耽ることにする。
毎度毎度ノイズを呼び出している元凶は、何故そのたびに妨害を繰り返している俺を性懲りもなく呼び出すのだろうか。
……もしや、ノイズを用いて人を襲っている下手人でさえ細かい指示や制御が出来ないのでは無かろうか。
如何なるモノか、このうっかり臭、どことなく覚えがあるのだが、そのあたりの記憶がもやっと霞掛かっていてどうにも思い出せない。
まぁ。
あまりにズボラなのでついでに俺まで呼んでしまうと言うのなら、それも良いだろう。相手が対処するまでとことん付き合ってやろうではないか。
ところで。
今し方思案していると昔飼っていた
たまらず逃げようと仰け反るので、仰向けに押し倒して腹毛をもふもふもふ……。
たまらずにゃーにゃー鳴くのが可愛いのだ。
獅子と言えど所詮は猫でしかない。
……ん?
が、どれだけ揉みほぐしても全然もふもふしない。
全く以て全然もふもふしないのでがっくりしてふと見下ろすと——
顔を真っ赤にして倒れているセレナがいるだけだった。
なんだ。
やっぱり青獅子ではなかったか。
「——な、ななな、なにぅをしておるぅんだオヌシぃわぁーっ!」
ぶぐふぁ!?
いつもはしないような口調で下から殴り飛ばされた。
しかも、例の対ノイズ装甲を展開している本気ぶりである。
吹き飛ばされ、その勢いがとぎれて高度が下がり始めたので一回転して着地する。
うむ。飛距離はざっと大体町一区画分ぐらいか。なかなかの膂力である。
セレナは背中から炎を噴出させて跳躍、こちらまでやってくると真っ赤な顔のまま物言いを始めた。便利だな、その対ノイズ装甲。
「い、いきなり女の子を押し倒してお腹をまさぐるなんてなに考えてるの!? しかも思い切りがっかりしてるし、がっかりしてるし!」
どこを強調しているのだお主は。
そもそもだ、そちらこそ考え事をしている間に青獅子のようなじゃれ方をするからつい昔のノリで相手してしまっただけでな……。
ん?
青獅子の様って……。
頭をまさぐると、やはり、綺麗に並んだ鋭利なモノが突き立った痕がある。
少女や。何故に俺を噛んだのか。
俺が歯形をなぞっていると、セレナはそれに気づいたのか。
「いやね……一人でずっと考え事してて、声掛けても聞いてくれなかったし……」
どんどん声がか細くなっていく。
反応しなかったから寂しがらせてしまったか。
ここでは、意を示すのが俺とセレナだけだからな。俺が反応を返さないと寂しくなるのも仕方があるまい。ましてや、今日は出撃したからな。
存分に寂しい思いをしたのを埋め合わせねばならない筈だったのだ。
これは、俺の失態だ。
申し訳ない。俺は一度に複数の事柄をなすのが苦手なのだ。
だが——それなら、体を揺するなり叩くなり、してくれればいいのだ。
ぺちぺちセレナの肩を叩き、続いて自分の肩を叩いて示す。
教え方がボディランゲージだけなので伝わらないことも多いが、流石にこれなら分かるだろう。
「あー……」
俺の意が通じたのか通じないのか。
途端に視線を泳がせ始めるセレナ。
待て。
まだなんか、あるのか。
「いや、ね? 素のノイズの歯応えがどんななのかちょっと知りたくてね?
ほら、わたし、調理したノイズ食べてるでしょ? だからちょっ————と、調理してないノイズがどんな噛み応えなのかなーって。でも、他のノイズってギアがあっても調理前のを生身の部分で触るのは抵抗があってね、だから、丁度触っても大丈夫なあなたがいたから、試したくなって、ね?」
ほう。
どんな噛み応えなのか単に知りたくて、考え事に没頭して抵抗出来なさそうな俺に噛み付いたと。
よろしい。
歯痒いから噛み付く動物染みた行動ならば、俺も動物に相対した時の態度でいこう。
両腕を上げて手をワキワキさせると、何かを察したのかセレナが後ずさる。
「いや、でもね、美味しそうだから噛み付いたってんじゃないからね! なんか動いてる様子見たらグミみたいだなーとか思ってないから! ないからーッ!」
言うことに欠いて全て暴露してるがな。
見苦しいぞセレナ。
青獅子が猫のようにゴロゴロ鳴く我が妙手、存分に身を以て堪能するがいい。
にゃあにゃあ痙攣しているセレナを寝台に転がして、転がっていた宝の一つである全気候対応毛布を被せ、俺は寝台の下で腰掛ける。
俺は、睡眠する機能も失っているので、このまま、セレナが起床するまで手持ち部沙汰となる。
迂闊に離れているときセレナが目を覚ますと、少々やっかいなことになるのである。最近は大分改善されてきたが、それでも離れるときは前もって断りを入れておかないと、少々大変な状態に逆戻りだ。
そのため動くことは出来なくなるが、思考に耽るだけなら有り余る時間の始まりであるわけで。
お題目は昼間、奏と翼に会ったことにより、同じぐらいであるセレナについてである。
4年は、俺にとっては瞬く間だが、年若きセレナにとっては、掛け替えのない、貴重な期間である。
俺と出会った当時、まだ幼かった子は既に、とても美しい多感な少女となった。
正直、一番気難しい年頃である。
思春期というと、猿のように盛る同年代男子を軽視したり、逆に恋に興味を抱くようになる。
子育てなど久方ぶりであるが、異性の子育てにはどうも色々と心が抉られたもので。
こんな海星の身になった事に初めて感謝した瞬間であった。
なにせ、余所様の娘であるセレナがこんな美しい少女へと育っているにも関わらず、一切男性的反応が肉体、情動共に兆しさえ起こらない。
生物として男性という反応も失われたようである。
まぁ、元の俺であったとしてもだ。
面倒を見ることになった子にそんな劣情を抱く不届き者が居たら居たでぶっ殺すが。
さあ。
それで、だ。
これからが本題だ。
如何にしてこの空間からセレナを脱出させるか。
確かに、ここにいれば生きていくことに関して言えば困ることなど何一つ無いだろう。
だが。この年代のこの期間は、この今にしかない。
この期間にしか出来ないこともあるだろう。
この時期であったからこそ生涯に渡って輝く出会いもあっただろう。
俺は出撃、後に妨害と言う形で外に出向くこともあるが、セレナはずっとここに幽閉され、外界から遮断されている。
奏と翼も普通とは言えない特殊な事情に身をおいている少女だというのは察することが出来る。
だが、それでも同年代の友が居る。
それだけでも、セレナは貴重な経験を損失している。
決して、海星との二人暮らしに浪費していい時間なんかではない。
ノイズと対するための、歌を力の源とした装備。
共通項のある二人とセレナが交流する事になれればな、と思う。
布団から伸びてきたセレナの手が俺の二等辺三角形な頭部を掴んできた。
いや、手も頭も同じ形なのだからまぁ、それは仕方ないが。
「……姉さん……」
あの炎の中、セレナを案じてきた二人。
その内、駆け寄ろうとした方……。
名前は……えーと、4年前聞いたっきりだったからなんだったか。セレナは姉さんとしか言わないし……うん、確か、ま、まり、うん。確かマリオだった筈だ。
彼女が姉なのだろう。
今まで何度もセレナとの会話で出てきたその存在は容易に彼女に重なる。
何故か脳裏にマンマミーア! と言う叫び声が聞こえたがなんなのだろう。
きっと幻聴だから気にするようなことではあるまい。
無理もない。
寂しいのだろう。
会話に飢えているだろうさ。
やはり、人が必要なのだ。
海星では駄目なのだ。
せめて、俺が口を利ければ……。
なんか、喧嘩しそうだな。
すぐさまその光景が頭に浮かんで閉口した。
「好き嫌い多いから、お昼に食べたの何の虫か秘密に……うにゅむにゅ……」
待てセレナ、お前はかつて、姉になにを食べさせたのだ。
聞き捨てなら無い寝言だった。
きっと過酷で、今日食べるものさえ苦労してきたのだろう。
だが。
先ほどのノイズといい、食べるのに躊躇無さ過ぎではないか?
待ーて待て待て待てセレナ、その手をどうするつもりだ?
引っ張るな引っ張るな。寝てると力強いなおい。例の装甲で身体強化して——てかやっぱりかやめろ。うみゅうにゅいってもあざといどころか危ういんだがやめっ——
がぷ。
遠慮なく頭部に食らいついて来たああああああああーっ!
暫くして、セレナが熟睡するまでの間、何とかセレナに噛みちぎられないように四苦八苦する俺なのであった。
この頃の翼さんは奏さん存命のため防人語がぽんぽん出ない可愛い翼さんです。
内戦地域出身だが、あの見た目でワイルドかつ逞しいのはセレナの方。
トカゲとか容赦無く狩ってマリアに悲鳴を上げさせていた。
食いしん坊なのはカデンツァヴァナの血がなせる仕業
ただし、ダントツでゲテモノ適正がある。
セレナのシンフォギアは、絶唱のバックファイアではなく、待機状態で施設の崩落に巻き込まれたから壊れたと思っているので普通に使えます
マリアさん心の支えが一つなくなっつぁーッ!
と言うか主人公、冒頭では覚えていたマリアさんの名前をド忘れする。複線でも何でもなくただのド忘れという酷さである。
しかもこれで固定。将来訂正されるまでずっとマリオである。