そう、これでもう完全に後がありません
しかも来週から出張やねーん!
携帯でちまちま打ちたい……と思います。まる。
知識と認識で、妙にズレがある。
前々からあったのだが、やっぱり気になるのである。
例えば。
「……? なんですか?」
卓を挟んでをくるくると
いや、セレナに注目したが、焦点はセレナではなく、食べているものである。
だから、気にせず食べてくれ、と手を振ると、可愛らしく頬張り心底おいしそうに食べ始めるセレナだった。
そう。パスタだ。
小麦を素材とした食事は俺の時もあった。
パンとかな。
だが、アレも随分変わったものだ。
前にセレナが
え? なにアレ。なんであんなふわふわなんだ?
密度無くね?
食べた気がするのかそれで?
思わずこねたら、セレナにひっぱたかれたからなぁ。
食べ物が関わったときのセレナはガチである。
いや、脱線したが、パスタであるパスタ。
このパスタ、という小麦を細長く練ったものだが。
はっきり言おう。
俺はパスタ、と言うものを当然ながら知らなかった。
だから、初めてセレナがパスタを作る旨を告げたとき、脳内にはクエスチョンマークが埋め尽くされたものである。
だが、セレナがパスタを含めた複数の料理を運んできたとき。
そのどれもが知らない料理だったにも関わらず、セレナの言うパスタが
言葉に名詞の質を内包して伝達している、と言えばいいのか。
会話すれば、その単語がなにを意味しているのか分かるのだ。
だが、それがどのようなものかは説明を受けないと分からない。
例えば、前にも紹介したゴムだ。
この謎空間内に無造作に球体があったので蹴り転がしたり頭の上に載せてバランスを取ったりして身体操作の練習をしていたら、セレナがそれをボールと呼んだのである。
先も述べたとおり、自分が扱っていたものがボールと呼ぶのだとはすぐ分かったが、それを自分も使いたいと言ったセレナに渡したら。
「うわ重っ、なんですかこれギュッとしてる。まさかこれゴムの固まり!?」
が、ゴムの話題になった切っ掛けである。
つまり、ボールが球体を示す名称であることは聞けば分かったのに、その素材であるゴムに関しては、ボールがゴムで出来ていると言うことを除いて、その性質もなにも分からなかったのだ。
その点に関して補正がない、と言うことは……推論でしかないが、言語の呼称や言い回しの世代間を埋める補正であって、知識は補填しない、と言うことなのだろう。
どうしてこうなっているのか全然分からんわ。
ん?
「ん?」
また、セレナと目が合う。
で、俺はそのまま固まった。
セレナがパスタをぐるぐるぐるぐる全て大きな玉に丸めていた。
皿に乗せられた山盛りパスタが丸々ボール状になっている。
正直、セレナの顔より大きい。
一度、やってみたかったんだよねー。とはセレナの談である。
「…………どうやって食べるんだろう」
普通に齧りつくんじゃないか?
「いや、そうしたらせっかく丸めてるのが一気に崩壊しそうで……」
あぁ、分かる。
結局。
セレナは皿におろして、端からあらためてフォークに巻き直し始めた。
「ごちそうさまでした」
わお、この娘ぺろっと全部平らげおった。
_/_/_/ _/_/_/
様々な色合いの投光器からの輝きを浴び、半球状の建造物の天井が開き、誰が演奏しているかも分からない複雑な演奏が彼女達を踊らせる。
その手には、槍でも剣でもなく拡声入力端子を持ち、舞と共に歌を唱え、凄まじい数の聴衆が息を合わせ、彼女らの美声に合わせ盛り上がる。
祭りだ、と思った。
祭りは政。
王が民を率いるに不可欠な高揚を生み出す大儀式。
中心には
アイドル。
俺には違いがよく分からないものの、人々の羨望を集めるものである、ということは違いない。
それを一身に受ける彼女らは、輝くようであり、いつも戦場での凛々しく刃鳴散らす姿とは打って変わって別の魅力を示しているようであった。
さて、ここらで彼女と近しい年頃である、今朝のセレナを思い出してみようではないか。
「最近、新しい移動法を思いつきました」
寝転がりながら思い切り伸びをしたセレナはそのまま転がってこっちまでやってきた。そのまま尺取虫のように上体を持ち上げ、何を考えたかこちらに枝垂れ掛かってきた。
「このあと、あなたが歩けば私は労力なくして移動することができます」
えへん。とこれが齢十七の少女が発した言動である。
世代が違うであろうから言うまいが、俺の頃なら数人子供を産んでいてもおかしくない歳だというのにこれである。
はっ。
呼吸するための器官があれば鼻を鳴らしていたであろう俺はそのまま彼女の望むまま進み、ずりずりつま先を引きずられながらセレナは上機嫌に鼻歌など嗜んでおる。
「ふんーふふふー。これぞ労力ほぼゼロの移動法〜ゆけーのいず〜」
ほう。
いい気で居られるのも今のうちだ。
俺は真っ赤な敷物の上にセレナをぶち転がし、そのまま敷物でセレナを梱包していく。
「ぶぺっ!? ちょ、何何何何!?」
ぐるぐる巻きにした後、敷物の端を持ち上げる。
「ま、待って! 待つんだ! それ以上いけない! 確かに労力をほぼ使わ——」
最後まで聞く気はない。
思い切り、引いた。
「ふにぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぁあ〜れえぇぇぇぇ——ッ!!」
|セレナが対ノイズ装甲で作っていたなんか回る送風機《プロペラ》に向かって声を放つような奇声を放ちつつ、ものすごい勢いでセレナが転がり去って行った。
駄目だ。モノグサが天元突破しつつある。まるで干物だ、なんとかしないと。
調理用にと積み上げていたノイズの山にセレナストライク。崩れたノイズの山に埋もれていくセレナの悲鳴を聞きながら、いかにしてあの子を活動的にするか思案する俺であった。
——と、いう朝の経験を経た俺である。
なんでうちの子と、こんなに差がついてしまったん?
嘆きたくなっても仕方がないではないだろうか。
と、言い忘れていた。
いつもの如く、謎の召喚で出てきたのはいつにない程最大規模の群衆の真っ只中であった。
不幸中の幸いというべきか、初の出来事だが、俺しかその場に呼び出されなかったため、俺を目撃した数人の延髄に軽く刺激を与えて意識を奪い、その場にいる人の群れ、その死角を縫って逃亡、巨大な祭壇の開いていく天井に飛び移り、儀式を見下ろす位置を陣取ることに成功したわけである。
どうやら、今回は機を読んでノイズ共を群衆へ襲い掛からせるべく待機させているようである。
呼ばれたくせにそのような指示的なものからはハブかれる俺であったが、それはそれで幸いだ。
出鼻を殴りつけて挫かせてやろう。
ならば——襲撃し、何かしらを妨害する意図がるというのならば、やはりこれは儀式であっているのだろう。
だが、一つ足りない。
祭壇はある。
巫女の実力は申し分がない。
信徒の数と狂奔も十分だ。
では、祭具はどこだ?
祀られるべき、信仰を集める焦点としての役割を持つ、偶像は何を以って立てている?
この身の感覚を跳ね上げる。
この場での媒介は、当然ながら、巫女の歌である。
歌は歌う者、聞く者問わずトランス状態に移行させ、不純物のない高度な祈りを奏で出す。
セレナや奏、翼の歌を聞いて分かったのだが。
ならば、俺同様、何某かの特異なモノは、言っては難だが、
つまり、今まさに俺の力となっている二人と信徒の歌は、意図的に流れていく先にある何かへ歌を捧げているということだ。
……地下、か。
我が身の糧になる歌を量として測っていくと、その流れが地下に向かっている事がわかる。
もう少し、この歌を聞いていたいゆえ名残惜しいが。
この儀式の真相を断じてからでも遅くはあるまい。
だが、俺が身を乗り出す前に歌は中断されてしまった。
その他でもない、地下から吹き出た爆発によって。
……遅かった。
少し、歌を堪能しすぎたようだ。
二人の高い練度の歌とそれをより盛り上げる設備による祭場全てから来るような歌を受け、腰が重くなっていたらしい。
これではセレナの事を言えまい。
煤が舞っている。
……待機中に活動限界に達した個体でもいたのか、すでに人と心中を遂げたモノがいたのか。
爆発の中心に、いったい、どれだけの人がいた?
巫山戯るな。
他でもないこの俺の怠惰が招いた不要な犠牲ではないか。
地中より、振動が登り上がって来る。
上等だ。
この間の特訓で何故か対フレンドリー・ファイア効果判定を免れた肉弾攻撃を受けるがいい。
開いていた天井より、飛び降り、全身を捻る。
螺旋回転でうねる俺は地面から顔を出した巨大ノイズに出会い頭、炸裂した。
た、たたたた、た、たた、た、対フレンドリー・ファイア効果判定・修正・有効
ちぃ——前と違って対象が肉厚すぎたか!!
弾かれる我が身、質量の差で同じ反発が起きてもこちらだけがこうなる——相手は反動でその面を地面に叩きつけていた。時間が稼げたのがせめての効果か。
だいぶ飛ばされていたのか、目線と同じ高さに、鳥型がいた。
腰を捻る。身を捩り、鳥型の変形、地上へ今まさに特攻を掛けようとしているところへ回し蹴り。
対フレンドリー・ファイア効果判定・有効
お互い反発、鳥型は遥か彼方へ、俺は弾き飛ばされた倍の速度で墜落する。
全身回転、ジャイロ効果で垂直落下のベクトルを拡散、かつて、幼き日に女神イシュタルが魅せた武術の動きを持って足から衝撃を偉大なる大地へ解放。
速度を以って、足りない質量を補う爆撃が大地に炸裂した。
無論、無差別な爆発ではなく、垂直に土砂が吹き上がるようにだ。
再度跳躍。噴き上がったものは武器となる。
俺の数倍サイズの瓦礫。
持ち上げることもできるがここは素直に地に引かれる質量を頼るとしよう。
両手を添え、双掌打。
叩きつけるというよりは、押し込む要領で、地下より這い出た虫のような巨大ノイズの頭に押し付ける。
大地と、挟み込むように。
巨大な炭が吹き出した。
弾き返された意趣返しはこれで終わりだ。
無論、これで終わりではない。
地を食い破って来た巨大虫型は、一体ではないのだから。
そして、巨大芋虫型は液状のノイズの群体を吐き出した。
今まさに、俺が向かう先でまるで嘔吐のように吐き出される液体。
撒き散らされたそれは、泡立つように盛り上がり、その一つ一つに周りの液体が収束し、一般的な小型サイズのノイズ集団として出撃する。
えー。
思うのだが、俺の体もあんな風にデロゲロ自由自在なんだろうか。
あの細長くなって高速移動するのさえできないんだが。
今現在、武器はない。
先の回転突撃も、すでに対策されている可能性もある。
ならば構わん。
たとえ撃破できずとも、遥か彼方までぶち殴り飛ばしてくれる!
しゃがみ込み、頭が膝よりも低く下がった時点で足を蹴り出す。
超低空反動突撃。
助けられなかった男性を尻目に、死にたくないと泣く少女を助けに向かう。
そのまま頭突き。
構うか、と黒炭ブチ撒けながら吹き飛ばし、反動で吹き飛んだ少女を受け止める。
彼女が俺に向ける顔は恐怖に固まっていた。
仕方あるまい……付け加えるなら、遅かった。
吹き飛ばしたノイズは煤になりながら砕け散って行った。
つまり——
炭素変換機能を発揮し終えた、という事だ。
次の瞬間には少女は炭になりきった。
恐怖に凝り固まったままの表情で。
そのままある意味ではあるが精巧なデスマスクそのものとなって。
腕の中で崩れゆく少女の最後が焼き付いている。
セレナと、たいして変わらぬ年頃の少女が……。
最近、セレナだけではなく、兵士達にラッキースターだの何だの、扱われていたから失意していた。
俺もまた、人類から見れば不倶戴天の化生である事を。
彼女にとっては俺もまたノイズ、俺では最期の瞬間まで、安堵すら与える事ができなかったのだと。
逃げ惑う人々。
その恐怖を向ける目には、当然俺も映っている。
これだけの人々の真っ只中に出るのは初めてだった。
市街地に出た事はある。
それでも、一般的な道路にせいぜい通行しているぐらいだ。
これ程の祭りの只中は初めてだった。
いつもは遠巻きに恐れられるだけ出あった。
これだけの群衆の只中、俺を中心にここまで恐れられるのは、思ったより堪えるものなのだな。
人の進行を逆行し、追ってくるノイズを迎撃する。
自分が向かってくる事に気づいた人々がまるでマグロに襲われるイワシの群れのように左右に開いていく。
それでいい。
俺はノイズでしかない。
本来、あなた達の敵でしかないのだから。
死にたい。
死なせてくれ、と。
人を触媒とし
海へ殴り飛ばして文字通り星と変え、前進する。
助かりたい、死にたくない、と。
我先にと。人々は他者を顧みず押しのけ、弱いものは転倒する。
それは主に幼い者や年を重ねた者達であることは、いつの世も変わらない。
倒れた子供に蛭型ノイズが覆い被さろうとし。
させるか、たわけが。
隙間につま先を差し込んで、触れさせる事なく蹴り飛ばす。
「……えっ……」
ゆけ。
言葉は通じない。何か叫んでいるようにしか見えぬだろう。
だが、語気だけは通じるはずだ。
行け。
生きろ、と。
しかし、子供は呆然として、動き出さない。
助からないと思っていたからか、助けたのがノイズだったからなのか。
動かないのならば、待っているのは死のみだ。
俺は子供と言えど一人のために他の助けられるであろう多数を見捨てる事は……そう、たった一人を最優先にすることはできない。
俺は、もう少し語気を強めて、地を踏みしめた。
「う、うわあああああーん」
砕ける舗装、そこに込められた力を本能的に察し、恐怖した子供はベソをかきながら走っていく。
あぁ、それでいい。
——しかし、なんだろうか。恐ろしい程体が軽い
ずん、と重い心持ちとは裏腹に、身体のキレが恐ろしい程良い。
打ったノイズが彗星のように飛んでいく。
もしや。
先の儀式か?
先も言ったが、俺は歌を糧とする。
セレナ達、対ノイズ装甲を扱う者達はその力になる歌を歌う事ができる。
その装甲もまた、歌を動力源とする。
なるほど……そうか。
本当に、儀式だな。
今逃げ惑う群衆。
彼ら、奏と翼の歌に魅了され、興奮のただ中にあった人々もまた、彼女らの歌と同調し、歌の底上げに貢献していたのか。
初めは、奏と翼の歌を、地下の何かに供給させる口実のための祭りだと思っていたが。
だが、それだけではなかった。集った人々の精神的なパルスを束ねて位相を揃え、一点に指向させるためでもあり、祭りであることは必然であったのだ。
ならば、地下にあるのは、俺のような何か、歌を喰らうもの、それも大食いだ。
先に、そちらを片付けねばならないか。
通常のノイズが歌を糧としないことはわかっている。もしそうならば、俺が今相対しているノイズが相当強化されていなければおかしいからである。
先程、大型ノイズに弾かれた技で一気に掘り進めるべく、腕を捩じり上げる。
「悪ぃ、そっちは、多分うちらがトチった奴なんだ。行っても解決しないから止めてくれないか」
見上げる。俺を止めたのは、奏だった。
話しかけてくるとは珍しい。
いつもは、何かと血気盛んに挑んでくるというのに。
俺としても、若い戦士を鍛えるのは楽しかったから、よく相手をしたものだ。
「……さっき、あんた子供を逃がしただろう? 虫のいい話なんだけどさ……あの人達をさ、助けてくれないか? 悔しいんだけど、あたしさ、時限式なんだ。せっかくあたしと翼の歌を聴きに来てくれた人達なんだ。本当なら一人だって死なせたくはないんだよ……」
……時限式というものが、よく分からなかったが、今彼女はまともに戦える状態ではないのは確かだ。
纏っている装甲から溢れ出していた力が弱々しいものとなっている。
助けるのは無論だ。もとより、そのために俺はいる。
彼女は、俺を含めたノイズというものに強い敵愾心を抱いていた筈だ。
大切なものをノイズに奪われたという事は、容易に……想像がつく。
抱く感情よりも、人を救う事を優先した——その決断、敬意を向けるに値する。
その時であった。
砂嵐混じり、と言う意味でのノイズ混じりの光景が脳裏をよぎった。
花に囲まれる家屋の隅。
年老いた女性が、花々の陰で、声を堪えて泣いている。
……誰、だったか?
その手に握りしめているのは、誰の服だったのか……。
ついに祭場が崩壊し始めた轟音ではっ、と意識を取りもどす。
俺は……一体、何を思い出そうとしていた?
既に、隣に奏はいなかった。
戦場で惚けるなど日和ったか俺は!
「目を開けてくれ! 生きることを諦めるな!」
奏は、戦場において自殺行為としか言え無い———槍を投げ捨てて、胸から血を流す少女に駆け寄っていた。
かろうじて、という形で少女は生きてはいたが、至急治療が必須であり、逃げる事などできはしまい。
祭場には奏と翼、少女と俺含めたノイズ多数といったところだけが残っていた。
後は逃げたか、ノイズの自殺に巻き込まれ、煤と化したか。
——逃げ惑う同じ人に踏み潰されたか
仮説だが。
奏たちが纏っている装甲は、歌の力を蓄積できない。
故に、戦う最中は常に歌っている。
歌唱が途切れれば、スペックが著しく低下するようなのだ。
もし歌っていない時も、もう一人が歌う事でそれをカバーする。
だが。
では、俺は本日どうだっただろうか。
歌を聞いた。
力を蓄積、いつに無い力を引き出せた。
それは、奏でと翼が装甲を纏う前はどうだっただろうか。
答えは、是だ。
俺の体は、喰らった歌を蓄積できる。
ならば、先の二人の歌とそれに同調する会場の民草。
そして装甲を展開してから二人の歌った歌。
一体、どれだけの力が今の俺には蓄積されている。
そして。
力が満ち溢れつつも、肉弾戦。しかも生身では飛ばすことしかできない俺と。
力を失い、装甲も崩れ落ちそうな奏。
力は、一体どちらにあればいい?
後は、俺の決断と覚悟だけだ。
構わない。
言ったろう、助けられる数——いや、もうここで失われる可能性があるとすれば、少女と、力を失いつつある奏。
対して、炭化しても幾度も再構築される俺。
比べるまでも無いだろう。
奏が槍を拾い上げる。
その顔は晴れ晴れとしたもので、俺はこの顔を今までなんども垣間見てきた。
一番、最近なのは四年前。
セレナだ。
俺が持ってすぐ使えるように奏に背を向け前に立ち、彼女の槍を掴む。
「おい、何してんだお前、急にぼーっとして動かなくなったと思ったら今度はあたしの邪魔しやがって」
阿呆はお前だ。若き戦士よ。お前はまだ生きられる。この人生を戦い続けられるにも関わらず、死ぬ気だろう。
「こら、引っ張るなって、あたしはこれから——」
一拍、間をおき。
「思いっきり、歌うんだからさ。せっかくこんなに沢山の連中が聞いてくれるんだ。だから、あたしも」
同じか。
セレナがかつて歌った、もれ無く歌えば七孔噴血、血まみれの凄まじい顔付きとなること請け合いである、あの歌を。
だから、させるものか、と言ってるだろう。
俺の方が槍の前の方の柄を掴んでいるため、前方に踏ん張る。
奏もまるで綱引きのように踏ん張り、重心を後ろに掛ける。
これでは埒が明かん!
「ええい! 分かったよ、こうなったらこのままやってやらぁ!」
Gatrandis babel ziggurat edenal————
あ、この馬鹿娘歌いだしやがった。
ならば、このままやってくれる!
なんか似たような事を言い。
俺は槍の切っ先を。
「Emustolronzen fine el baral zizzl——あ、この馬鹿なにしてやが——」
俺が何をしようとしているのか直前で気付いた奏は、慌てて槍を引き、槍の軌道を逸らそうと——
あ、が。
——しきれず俺を後頭部から額までその槍で貫通した。
が、が、がが、が、がああああああああああああああああああああああああッ!!
当然、力が弱まっているとはいえ、ノイズを軽く破壊するエネルギーを内包した一刺しだ。刺す事は意図していたが、まさかの頭部貫通に凄まじい衝撃が脳髄を揺さぶる。
まぁ、脳があるのか、そもそもそこは本当に頭なのかも知らんのだが。手と同じ形だしな。
痛覚をも失っている我が身が唯一の救いか。だが、これは、全身に、はし、る、力が強すぎる。だが、これで、かな、で、も気、づくは、ずだ。
「あ……。お前大丈夫か!? てか何してんだ! 馬鹿かお前バッカじゃねえのか!? またはノイズか! あ、ノイズだこいつ……。じゃなくてすま、あ、本当、一体何がしたいんだよお前は! ……え?」
貫いた槍を通じて、俺に蓄積されていた歌の力が奏の方へ供給されていく。
ひび割れ、崩れかけていた装甲が瞬く間に修復され、奏は目を見開く。
「これって、もしかしてフォニックゲインなの、か……? まさかお前……」
思わず奏は槍を離し、槍を引き抜く手間も惜しい俺は、彼女と向き合う。
どうだ、これだけの力があるのなら、そんな自殺行為、する必要がないだろう?
「これなら、もう少し戦える……でも無理だ」
え? 何故に?
「あたりまえだろう? お前まさか途中で止められると思ってんの? どうしてくれるんだよ、人の覚悟ぶっ潰してさ! あー、あー、あー、どうしてもうちょっと早くしてくれなかったんだよ、少なくても死ななくて済みそうなのはありがたいけど結局無茶苦茶痛い目に遭うあたしってばまるっきり歌い損じゃないかああああああーッ!」
はぁーっ!? 俺なんて刺され損だぞこら!? お前が抵抗しなきゃ歌い始める前に槍刺して供給できたわ自業自得だこの馬鹿娘!
「ええい! どうせ思いっきり空っぽになるまで歌う予定だったんだ、ここでいっそ綺麗に女、天羽奏、一華咲かせてやらあ!」
Gatrandis babel ziggurat edenal————
奏はそのままやけっぱちになったのか、続きを歌い始めた。
「いけない奏、歌っては駄目!」
俺と奏と違い一人シリアスな空気の悲痛な翼の悲鳴が届く。
了解した。
途中で止められ無い。
いや、そんなギャグにしてはならん。
それは、半端な状態での暴発を恐れてだろう。
そう、
実際奏の人命が掛かっているのだ。
自棄っぱちになってるが、生きられるなら生かさねば、男が廃るというものである。
ならば。
俺は奏に向き合い、その顔を両手で鷲掴みにし、奏を触診する。
かつてのセレナほどでは無い。
だが、すでに奏は内部に相当のダメージを受けている。
よくぞ歌えるものだ。食道に血がこみ上げてきているはずであろうに。
「え? ちょ、待ッ、何すん———」
無理やりにでも、物理で止める。
お前こそ生きる事を諦めるなこのたわけがあッ!!
思い切り仰け反り、ムシュフシュすら打ち砕いた我が石頭を振りかぶる。
「おま——ちょっと待て! お前わかってんのか!」
聞く耳持たん。彼女の額に頭突きを振り落とす。
「デコからあたしの槍がまだぶぐがふぁあッ!?」
額から結構な出血を撒き散らし、奏は白目をむいて意識を消しとばした。
……あ、そうか……やべ。今俺、額から槍の切っ先が飛び出てたの忘れてた。
割とざっくり奏の額に槍は刺さった。血がぶびゅった。仰け反った。
「奏ッ!?」
翼の悲鳴が2割り増しになった。ん。まぁそぅだな。本気ですまん。
そして。
奏の切り札の歌は、中途半端な発動でかつ、手を離れてなお槍の切っ先を中心に放たれた。
俺は文字通りロケットの如く吹き飛んだ。
その影響は、進行上にいた、ノイズをほぼ全て広範囲に巻き込んで消滅させ。
同じく爆心地にいた奏は俺とは逆に吹き飛ばされ、負傷している少女のすぐ横に炸裂、並んで俯く事となるのであった。
……狙っていた事と、だいぶ違うのだが。
しかし、先程奏が歌っていた歌にさりげなく入っていたジグラットとは懐かしい単語である。
セレナに会ったときは、すでに歌い終わった後だったしな。
そして。
飛んで、飛んで、飛んで。
あー。俺にぶっ飛ばされたノイズ共、こんな感じだったのかぁ。
なんて考える余裕がある程吹き飛ばされ。
着弾。
そのあまりの衝撃に。
俺の意識は闇に沈んだのであった。
子供の泣き声が聞こえる。
子供とは、あらゆる未来を内包した、無限の可能性の卵である。
その子供の、現実に打ちのめされる鳴き声には耐えられない。
泣き止まさねば。
未来に、まだ希望はあるのだと、指し示さねばならないのだ。
だが、凄まじい衝撃で打ち付けられたダメージ故か。
対ノイズ兵器を体に突き刺したせいなのか。
体はピクリとも動かない。
あれからどれほどの時間が経ったのかは分からない。
だが、そうだとしても、とっくに活動限界時間に達し、崩壊しててもおかしくはない筈だが。
コアモジュールにフォニックゲインの過剰投射を確認
警告
キャパシティのオーバーロード。コアモジュール、並びに筐体が臨界点に到達、崩壊を及ぼす危険性があります
警告
過剰投射されたフォニックゲインを直ちに放出等、対処を実行命令下達
……
…………
………………
対処の未実行、もしくは不可を確認
応急処置として、コアモジュールの機能拡張、及び、新規格コアモジュールに適合可能な筐体構造へ拡張・更新
当該事案活動時、接触していたフォニックゲインデバイスの構造を模倣
警告
危急時の応急的な回路拡張処置により、対■ェ■バ■ファイアウォールにセキュリティホールが生じた可能性、多大
ただちにプラントに帰還し、再調整を実行せよ
実行を断念
保留を指示
筐体に待機指示
筐体の更新を終了するまで活動の休止を実行
それから、いったいどれだけの時間が経ったのだろうか。
なにかが、俺を叩く振動を感知する。
俺は痛覚を有さない。しかし、触感は存在する。
感じ方からして、これは攻撃ではない。
むしろ、これは自傷行為か? 何か鬱屈した感情を叩きつける時のそれに近い。
つまり、俺はノイズどころか木石と同じ様な扱い。動くモノだとさえ認識されていない可能性がある。
衝撃が変わった……もしかして俺の額から突き出ている槍で傷付いたのか。
ただ、その事で、何か変化が生じたらしい。
いつもとは異なるアナウンスが脳裏に響くことにより、俺の活動は再開する。
当機のアウフヴァッヘン波形に完全相似形質の生態波長を確認
波長保有個体、物理接触を実行
波長の完全同期、確認
該当個体を当機の一時的ユーザーとしてチケットを発行
経過継続報告、ゲノム情報を取得
該当個体を、当機の最上位システム管理権限者として提言
命令上位権限者として登ろ——
現在実行中の作業タスクを全フリーズ
最優先執行項目を強制起動
コアモジュールに規格未登録の関数を確認
起動後の活動時、作戦へ支障の可能性、上限値の予測不可能
修正不能
一時保留不能
廃棄不能
破壊不能
排除不能
自己崩壊命令実行拒絶
——貴官を関数による筐体の命令最上位システム権限者として登録
セルフチェック終了
再起動実行します
整備担当者には後日、レポートの提出を実行義務を付与
雨が降り注いでいる。
初見の少女が泣いている。
濡羽色の髪をぐっしょりと雨の重さで垂らし、整っていながらも極東人特有の彫りの浅い顔を。
その顔を濡らしているのは、雨なのか、それとも涙なのか。
手を押さえており、赤い雫が俺に降り注がれている。
やはり、怪我をしているのか。
なんとか——泣き止ませられないものか。
駄目なのだ。
子供の泣き声は、本当に駄目なのだ。
身を起こす。
そう言えば、包帯一つ持ってない体たらく。
「ノ……ノイズ……」
うんまぁ、そういう反応だわな。
目の前にいた少女は腰を抜かし、へたり込んでしまった。
しかしな、俺は知っているんだぞ、さっき何かへの憤りで俺に拳を打ち付けていたことを。
まっことただのノイズだったらお前さんはとっくにその時炭化して死んでるんだからな。ここにいるのが俺であった事を感謝して欲しいぐらいだ。
「え……?」
まあ、まだ子供相手だから仕方がないのだが、もう少し観察眼を鍛えてほしいものだ。
「ノイズだからって、それは言い過ぎだと思うんですけど……」
…………は?
ちょっと待て。
今俺は、何のジェスチャーもしていなかった。
関わりの深い者は、俺が首を傾げたりするだけで結構意思が伝わる事が多い。
セレナとか。最近は割と奏にも読まれていた気がする。
だが、今回は別だ。初見の相手で克つ、俺は身振り手振り、ボディランゲージを表してなどいない。
だとすれば、
「え? だって言にこうやって喋って……」
残念だが少女よ、俺の発する声は人には気合い一発叫んでいるようにしか聞こえないらしい。
「え……ええ……」
当機へ行動規範を下達
「きゃあっ……また、今の、なんの声……?」
なんたる事か。少女は、俺に命令とログを兼ねて下されるアナウンスすら聞こえるらしい。
「めいれい……と、ログ……?」
全く理解できず……それは想定外すぎて俺も同様だが……戦慄する少女の事情など知った事か、と無情にもアナウンスは淡々と下るのであった。
曰く——
問われよ。『貴官は、当機のマスターか?』
驚いた……俺に、そんなものがあるのか、と。
事態は依然、全く以って不明だ。だが、目の前の少女が少なくとも、足掛かりになる事は違いあるまい。
帰還への。
ならば。
最低限の礼儀として、俺が何者であるかを告げぬ理由はない。
先ずは、我が正体を明かそう。
俺は、生前、ウルク第一王朝第六代王ウルヌンガル直属兵士団兵士長……そうだな、ハイトと呼んでくれ。
「……ハイト?」
あぁ、今はしがない、生前の自我を取り戻した、ただの機能不全稼働中まっただなかのノイズにすぎないがな。
「そ……それはどうも……? わたしは、小日向、未来といいます……ちゅ、中学生です」
これはどうもご丁寧に。
アナウンスの指示通り、というのは腑に落ちないところもあるが、俺は一度、何としてもあの謎空間へ帰還しなければならないのだ。
……そう、俺は活動限界を越えてなお、炭化する事もなく外にいる。
きっと、セレナが泣いているはずだ。
この間、三日間遭難した時などは、もう十七になると言うのに目を真っ赤に腫らして出迎えてくれたものである。
人と四年間、全く接していないせいで、新しい問題が発生しているのだ。
セレナはかつて、献身的な活動により、自分達を実験対象にしていた者達を含めて助けだした事がある。
他でもない、俺と彼女が出会った時なのだが、それに対して帰ってきたものは、感謝では無く実験台の損失への不満でしかなかった。
安堵でさえなかったのだ。
当然、彼女は傷付き、不信感を抱くようになった。
だが、セレナの本来の性格ならば、それでも、その心根が揺らぐ事はなかっただろう。
彼女には姉がいて、人々と接する中でその心を癒し、再びより強く立ち上がらせたであろうからだ。
だが、良くも悪くも、彼女が傷ついたその時以来、接していたのは言葉の通じない俺だけだ。
その結果、心の傷が歪な形で縫合されてしまったのだ。
人にとって、最も大切なのは人との交じり合いなのだ。それを一切絶たれたセレナは、元々お姉ちゃんっ子であったようだし、その欠乏している部分の代用として俺を求め……。
あれは駄目だ。依存でしかない状態になっている。
あぁ、いつか。姉に返してやらなければ。
セレナを本当の意味で癒す事ができるのは、家族だけなのだから。
全く、俺は子供を泣かせてばかりで育児に難のある男だな……。
……あれ?
いやいやいや、何を脱線してるのだ、と気をとりなおし立ち上がる。
少女——小日向未来の前に跪き、告げる。
故。我は問いに対する返しを請う。
問おう。
「あ、は、はい」
佇まいを直す少女へ。
貴女が俺に適合したマスターか。
「………………え、あ、はい?」
当然ながら、彼女の、返答は困惑だった。
分かるわー。俺だって言われたらそうなるしなぁ。
今回の蛇足
真っ赤な絨毯
後に世界三大美女の一人がこれに包まって嫁入りした……絨毯の原典。
婚礼の際用いると、LUK値が上がり、結婚生活の安定度が上がる
そう、彼女はこれがあってもあんな悲惨な結末に至るほど酷い政状から立て直しを図ったのである。
死後の互いの願いから見るに相思相愛、ただ、ふくよかである。
祭壇
彼にとっては、ライブは国家事業レベルの何かしらの儀式にしかみえなかた。
彼の生きていた時代は、宗教的な祈りやら歌やらは実際、国家レベルの政治的大事業だったのだ。
しかし実際、シンフォギアの歌とか、作った人の素性考えると、あながち根っから間違えてないような気がする。
幼き日に女神イシュタルが魅せた武術
その時代に存在しないはずの体技。
普段はマアンナという弓舟で空を支配し、一方的に爆撃してくる女神であるが、万が一地に降りたとしても、
本来なら遙か未来に生まれる絶技。人はそれを——マジカル八極拳という。
星型ノイズがフォニックゲインという言葉を知るのは一体いつの事やら
いい加減、シンフォギアと言う単語を言わせたい。
しかし、原作世界において、フォニックゲイン自体が櫻井女史の造語である可能性があり、そうすると先史自体の遺物(星型の脳裏に流れるアナウンス)がその単語を使用するわけがないのですが、ここでは昔から使われていて、ここ数千年、先史時代の崩壊とともに死語となっていたモノを了子が再び使い始めた、という独自設定にしております。
奏とのやりとり
星型ノイズ、ガス欠の奏にフォニックゲインを渡そうとするが、そもそもそういう綿密な意思疎通ができないのが星型の境遇である。
奏からしたら、決死の絶唱を邪魔しに来たようにしか感じない。
慌てて無理やり星型がフォニックゲインを受け渡したが、絶唱は途中まで進んでいる。
完全に制御し、暴発を防ぐためにも歌い切らねばならぬのだが、フォニックゲインがあっても今の薬切れで適合率の低い奏には自殺行為だった。
故に、絶唱の出力を星型の頭に刺さってるアームドデバイスに移し、絶唱を中途で停止しても暴発する事を防ごうとしたのだが、そも、覚悟完了の奏は物理でしか止める事が出来なかった。
言葉が通じない弊害がでかすぎる。
まぁ、運良く、額から突き出ているガングニールが奏でのデコに炸裂した事によるアームドギアと装者の物理接触で、絶唱の出力を吸い取ったため、奏がバックファイアで風に溶けるようなことにはならなかったが、星型に絶唱を制御する術など全くなく、槍からジェットの如く絶唱がぶっ放され、ロケット花火さながらに星型は文字通り星となったのであった。ちゃんちゃん。
現在星型はガングニールの刃部分だけが錐のようになって一部貫通している状態になっている、柄やら何やらは一切合切絶唱でぶち壊れた。残っているのは貫通している刃だけである。
奏は絶唱の完全詠唱こそなく死亡を免れたが途中まで歌った負荷で内部がボロボロ、星型を射出した絶唱を余波とはいえモロ受けて、響の隣に炸裂、二人仲良く瓦礫にもたれかかる形となった。
この際、後頭部をかなりヤバいレベルで強打、長期の療養を余儀なくされる事となっている。
診断は頭蓋骨亀裂骨折と軽い脳挫傷。あと額に刃物による裂傷。バックファイアだけでは無く、物理で結構重症である。
解除されかけてたとはいえ、シンフォギア装備済みでこれはとんでもない破壊力であ……いや、フォニックゲインを供給して完全修復していたからそれどころじゃねえ!?
たぶん、奏は次に星型を見つけ次第、助走をつけて殴りつけに行く。
おまけだが。
星型が、矢鴨ならぬ矢ガールならぬ槍ノイズになる。
星型、やっと名乗る
相手は未来。自分のせいで響が大怪我(したと責任を自主的に過剰に背負っている)、自責の念で潰されそうになっていた。
詳細は次話以降。
最大の進展は、星型の通訳ができてしまった事。
今回、意思疎通が上手くいかないと助け合おうとしていた筈の星型と奏の二人が思い切り足を引き合うという事例ができてしまった。
バラルの呪詛恐るべし。だが、今後それを改善できる可能性が芽吹いたのだ。
だが、セレナとか、言語が通じなくても割と仕草で読んでいるスペシャリストに成り果ててしまっている。
奏も大分出来るようになっていたが、練度が低かった。
星型ノイズの座右の銘
「技に著作権はない」