騒音のミストレス   作:九十欠

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どうも皆さまお久しぶりです
今度は半年です。季刊連載かっ!

今回一番時間が掛かったのが、長すぎる話を区切ることでした
一話一話が読みやすく短くしております

今回、一挙四話あげます。
これは1/4です

最初、これ全部で一話だったんですよ……


05 憂慮

「ねぇ、響……」

「あれ? 未来、どうしたの、今日はなんだか暗いけど」

「ごめんね、響のほうが大変なのに」

「いや〜、もう大変って事はないんだよねぇ。元気爆発へいきへっちゃらばんばんざい! って感じでしてね。えへへへ……いつも言ってる通り、ご飯が少ないってこと以外はー」

「あぁ、うん。それ以外は?」

「未来が凄いさらっと流した!?」

 最近新しくできた人脈のせいで、スルースキルが着々熟練度育成されている未来である。響自身言っているが、言われすぎて飽きてきたのである。

 

 それは、未来の幼馴染である響がリハビリに勤しんでいる時であった。

 響はもうじき退院ということもあり、リハビリの運動はどちらかというとハードな筋トレになりつつある。

 心臓近くの切開手術であったため、がっつり体力を失ったのだが、一言若さ、というレベルをはるかに超越したレベルで復調しているのだ。

 

 後は経過観察を経て、良好とさえみなされれば、いつでも退院出来る程である。

 

 そのため、初めは響の痛々しさを目撃して悲壮感と自罰意識を隠し切れなかった未来であったが、近頃は響の食欲に慄き、さっぱりそのような事は無くなったのであった。

 そんな未来だが、今日は珍しく浮かべる表情が重かったりする。

 

 そんなこんなで、響が持ち前の明るさでぐいぐい攻めていくと、ついに観念したのか、ポツポツと話し始める。

 響は珍しく、黙って促すだけである。

 

 

 

「実はね? 前、外国の人とメル友になったって言ったよね」

「うん。英語の勉強すっごく頑張ってたよね! ……私、せめてテスト終わるまで入院してようかなぁ」

「それ、復学直後に追試受けるタイプだから観念したほうがいいよ」

「未来の平坦な口調が怖い!」

「そう、英語頑張ったんだよ私」

「今のスルーするの!? もしもーし、もしもーし! もしかしてそれ、メル友さんからの影響なんですかー!?」

 

「あー。大きいねそれ。何故かって? 私が頑張って英語覚える前に、二人……いや、一人と一匹? いや、一体? 分からないけど、どっちも日本語完全にマスターしちゃったんだよ──」

「え?」

 日本語は世界で最も複雑怪奇、習得が困難とされる言語の一つとされる。

 未来が英語の日常会話を習得しきる前に、セレナが日本語をネイティブで話し始めたのである。

 ハイトの方も、奏への謝罪文での失態がまるで嘘かのように、翌週翼に完璧な文章を提出したのである。

 拝啓で始まり、敬具で終わる形式文である。

 近頃開花した、花の美しさから時候の挨拶に始まり、丁寧な謝罪へ繋ぐと、最後に季節の変わり目であるために、体を案じつつ締められていた。

 

 日本のしきたりやらなにやらの英才教育を受けていた翼をして唸らせかけ、何やら引っかかる文面である。

 どことなくビジネス定型文じみてるなこれ……。

 

 などと言う感想も併せて抱いたのだが。

 ただ一つ、粘土板で渡してくるのは全くブレなかった。

 そこまでするなら筆でしたためてこい、と口にしなかった翼は我ながら自重したものだ、と自画自賛である。

 一方、残念ながら、奏はまだ意識を取り戻していないため、その文章への反応はないのだが。

 

 脱線したが、未来は決して勉強が出来ない訳ではない。

 どちらかと言えば優秀である。

 だがしかし、相手は学歴皆無とはいえ、日がな一日暇なセレナ(ニート)である上に、脳そのもののスペックも高い方なのだ。

 ハイトの目論見同様、彼女は、会話に飢えていた。

 習熟することさえ出来ればよいのだから、そりゃあもう、頑張った。

 

 加えて、セレナには娯楽が乏しかった。

 彼女らの居住環境でありふれているのはノイズである。

 付け足すならば、ハイトしか読めない取説付きの聖遺物の山である。

 まだ未来がハイトのマスターになる前、マネキンのような聖遺物にフォニックゲインを注ぎ込み、起動させたのだが、普段使っているものとは別の調理機器であったらしく、危うくセレナが滅多斬りの()()()()になるところであった。

 慌てて駆けつけたハイトと調理マネキンがそれだけでアクション映画一本取れそうな激闘の末、セレナのシンフォギアの特性を重ね、白金色のオーラをまとったハイトが崩拳を奇跡的なタイミングで炸裂、機能を停止させた(壊れてない)一大事があったのだ。

 

 勝手の分からない物を弄ってはいけません、的な内容で、正座させられたセレナは、何を言っているのか大体分かるが、口にしている言語がその実全く分からない説教という苦行を延々と行われ、グロッキーになった経験でだいぶ懲りたものである。

 

 未来がいるのだから通訳してもらえばなんとかなるのだが、未来はサイケデリックなこの空間に踏み込むことを頑なに拒んだのだ。

 星型ならば兎も角、通常のノイズに対して、一般人寄りの未来が忌避感を抱くのは当然と言えるのだが。

 

 何より、あの空間に入ったら最後、ノイズ食べさせられそうで……と未来は語っている。

 

 

 

 そんな感じで、非常に娯楽に飢えていたセレナは、未来に頼んで東京スカイタワーの近くに門を極小で開けてもらい、居住空間にテレビを設置したのだった。

 

 結果、テレビで日本語を覚えつつノイズをボリボリ摘みながらテレビの前で寝っ転がる無精者(セレナ)が爆誕した。

 テレビという娯楽を味わい尽くすために、とんでもない速度で日本語をマスターしたのは言うまでもない。

 

 それを見たハイトは随分と深刻な面持ちで、未来に相談というか忠告をせざるを得なかった。セレナにゲームやネットまだまだ早いと念押ししたのである。

 まぁ、テレビという情報媒体があるので、興味を持つのは時間の問題だったりするのだが。

 

 そして何より、ハイトが筆談ではあるが英語と日本語をマスターしたのが大きい。

 理解できる会話は、セレナの元々優秀な知性に、学習意欲をますます加えることとなった。

 

 結果。

 それは何の前触れも無く起こった。

 

 ある日、自室に戻った未来は、デスクの引き出しから生首が生えていているのを目撃した。

 危うく絶叫するところだったのを口の奥に飲み込み抑え込むと、そのホラー的物体は「Hello〜」なんて言っている生首セレナだった。

 流石に何か一言言ってやろうとのしのし前進する未来だったのだが。

 

 実はその引き出し、内側がセレナとハイトの居住空間に常時接続されているのである。

 未来(みらい)の世界のネコ型ロボットが未来からやってきた経路を見てこれだ! とハモっている(未来にはハイトの言葉がわかるのでハモっているのが分かった。さすが育ての親と子である)のを見てうわぁ、と思わずツッコミかましたものである。

 結局、頼み倒されて実行したのだが。

 実際採用するとシュールな上に不気味だった。

 スペース的にあり得ない所から人やら海星やらが湧いてくるのだ。冷静に見るとただただ不気味である。

 

 そんな、ホラーな見た目のセレナがいきなりネィティヴな日本語をくっちゃべり始めたものだから、未来は怒涛の情報過多に思考停止するしかなかったのである。

 当然、のしのし進んでいた歩みものしの、ぐらいで止まってしまったぐらいだった。

 

 完璧にマスターするまでは、イントネーションのおかしいカタコトを通すという筋金っぷりで、サプライズしたかったらしい。十分驚きましたよ、そりゃあ。

 

 

 

「私の努力ってなんだったんだろうって……」

 遠い目をする未来。

 響はビシィッ! と指をさして。

「あー。それはきっと私に英語を教えてくれるために巡ってきたものなんだよ」

「うん。分かったよ響」

 未来はにっこりと微笑んで。

「じゃあ、明日から勉強セット持ってくるね?」

「へ?」

「ノルマクリアしないとおやつ無しだから?」

「そ、そんな未来さん……わ、私に絶食しろと、そうおっしゃられるのですか!」

「……初めから諦めるとかないなー。うん。冗談のつもりだったけど、やめた」

「ちょ、ちょちょ、未来さん……?」

「促成コースで頑張ろうか。追試とか鼻で笑い飛ばせるレベルまで引き上げてあげる」

 ハイライトの消えた瞳で、顔だけは満面の笑みだった。

 

 翌日から、退院まで、響は勉強漬けの地獄の中で悲鳴を上げ続けたという。

 

 

 

 

 

 

 学校では、もうまともに勉強できないかもしれないから。

 

 病院から帰る電車の中。

 未来が睨みつける中吊り広告には、ツヴァイウィングのライブで起きた特異災害の特集が組まれていた。

 

 そこで、何が行われていたか。

 どれだけの被害が出たのか。

 

 生存者が何をして生き残ったのかと。

 

 

 

 

 

 

_/_/_/                       _/_/_/

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 ミクの御母堂が行う夕餉の支度を手伝い終わった俺はミクの部屋で新たにできた趣味である読書を勤しんでいた。

 丁度一息付いた、そのタイミングで我らがマスター、ミクは帰ってきたのである。

 

 あぁ、おかえりミク。A、B、Dもな。

 

 加えて護衛に追随していた三体を労い、挨拶を交わしている間に、ミクは、俺を横目に見つつ鞄を放り出してベッドに倒れこんだ。

 制服着たまま寝ると皺が出来て、明日の準備に余計な一手間が加わるぞ。

 

「う〜る〜さ〜い〜。ちゃんと自分でやるから〜」

 言質はとったぞ。

「分かってるから〜」

 

 なんてタレている我がマスターから一歩遅れて、床やら壁から三体のヒトデが湧き出てくる。

 それぞれ、赤、橙、青色のヒトデは、それぞれA、B、D、とミクに名付けられている。

 何故そんな、アルファベット単字というシンプルすぎる名が付けられているかと言うと。

「えい」

「ビー」

(ディ)

 発音からそのまま取っているのだ。

 

 この三体は女性格を有しているため、ミクの護衛として常に侍っているらしい。

 

 ……俺、やってなかったな、そういうの。

 

 何せ女性格であるから、男性格である俺なんかを立ち入れ難いところでも安心してついて行けるんだそうだ。

 

 ……思春期だねぇ。

 セレナも見習って欲しいものだ。

 見習われたらそれはそれで寂しいかもしれないが、な。

 そもそも、俺は日常生活では致命的に護衛に向いていない。

 

 ヒトデ型の中で俺だけが唯一、透過能力を使えないのである。

 

 これが、日常においてミクの側に居なかった理由だが、考えて見て欲しい。

 学生生活を謳歌する十代前半の少女。

 ただしノイズ同伴。

 恋をし、気になる相手の言動に一喜一憂する少女。

 ただし、ノイズがいる。

 

 各所省にコールなりっぱなし請け合いの台無しに間違いない。

 

 その点、他の奴らは壁でも床でも透過して潜り込み、常に側で護衛が可能なのだ。

 適材適所、これが一番だ。

 

「ところでさっきから何読んでるの?」

 お、やっと興味を持った様だ。

 

 いやなに、せっかくこの国の言葉を学んだのだ。

 この国の製紙技術は素晴らしい。

 かつて我が故郷では、大神獣が森林資源を守っており、先王とその友による大激闘の末やっと確保できた贅沢品なのだ。王宮ですら、記述には最新の技術をもって練り上げられた粘土板を使い続けていたというのに、知識をそのような贅沢品に記して残すとは贅の極み。堪能しない訳にはいかないと意気込むのも至極当然と言えよう。

 そして、俺が主に読むのは生きるために必要な知恵を得るための手段としてだ。

 これは、民草でも実践可能な医術知識をしたためた──

 

「長い長い長い、簡単でいいから」

 折角この国の讃えるべき事柄と知識の貴重さをこの国出身であるミクに事細かに説明しようとしたのに。

 どうもミクは、俺の言葉が通じるのではなく、正しくは言語化した思考を受信しているらしい。

 

「いや、だから、何を読んでいるの?」

 ふむ。そうか……。

 つれないな、ミク。

 ならば、率直にタイトルで示そう。『過信してはならない民間療法』だ。

 ここを見てみるがいい。ネギという植物の薬効が事細かに記されている。この国の研究は素晴らしいな。

 

「……一番肝心な所に読解が及んでない!?」

 むむ。失礼な。ちゃんと読み込んでいるぞ。

 例えば、この蜂蜜と生姜の効能についてだがな。

「いや、だからそこじゃ無くて」

 …………ふむ。

 

 人が、進歩を止めるのは、自分を動かしていたそれまでの考えに拘り、人の意見を聞かなくなることだと言う。

 俗語でいう老害、と揶揄されるものだ。

 

 ならば、幾つになっても不知を認め、学ぶ姿勢をなくしてはならない。

 新しいものを取り込み続けなければ、何事も澱むのである。

 ミクの方が年若いからと言って知識面で俺を勝らぬなどあるわけもない。

 謹んで教えを受けるとしよう。

 

 この、『人類古今東西拷問史』についてだが……。

「このタイミングで違う本出すの!?」

 

 何故か難しそうな表情で差し出した本を睨むミク。

「また凄い内容の本だよね……」

 

 俺としては、鉄の処女(アイアン・メイデン)とヤギの刑が気になるな。

 そもそも、鉄の処女とか、拷問じゃなくて処刑じゃないかと思うんだが?

「疑問持つのそこなんだ……っていうか、ヤギってなに?」

 

 足に塩を塗ってヤギに差し出すと延々舐められ、凄まじくくすぐったいそうだ。

「想像以上にしょうも無いなぁ……でも、そのくすぐったさは確かに拷問かも」

 

 その様子を想像したのか、苦笑を浮かべるミク。それは大変微笑ましい。

 だがな──

 これは実際、大変恐ろしいぞ。ヤギの舌は猫と同じでザラザラしているのだから。

 このヤギという奴は、一旦舐め始めたが最後、延々と足を舐めるからな……。

「くすぐったくておかしくなっちゃうとか? 確かにそれは怖いなぁ」

 

 それもあるが、足の肉がだんだん削ぎ落とされる。しまいには骨まで見えてきてな。痒みがだんだん激痛に代わるのだ。股ずれの超凶悪版だな。

「やめてイメージが途端にグロテスクになったッ!」

 

 見ざる聞かざる状態になったミクは頭を抱えてブンブン振り回している。

 はっはっは、新しい知識を得るのは感情に刺激を与えられて、素晴らしいだろう?

 とまあ。このように、価値観の違う者同士の知識の交換は本来、大変有意義なものなのだ。

「今の私はいったい、どこに有意義を感じられたんだろう……」

 

 そうか? と、前置きはこの辺にしておいて、だ。

「今の一連が前置きだったんだ……」

 

 そうだが。

 俺なりに、俺とミクの主従状態を考察してみたんだが、聞いてくれるだろうか。

「いいよ、興味あるし。

 そういう重要そうな話は断り入れてくれるのに、さっきみたいなドギツいイ話題はなんで問答無用なんだろう。今度セレナに聞いてみるかなぁ」

 セレナとはほぼジェスチャー会話だから会話の癖なんかは分からないと思うぞ?

 変に嫉妬に拗れるかもしれないからやめて欲しいが、同年代の会話を制限するのも憚れる。

 うむ。難しいものだな。

「また、小難しい無意味なこと考えてるし、私にはどっちも聞こえるんだから、会話か考え事か独り言か区別がつかなくてちょっとキモいよね」

 

 ……聞こえてるぞミク……それで、だ。俺とミクの主従関係だが。

「ふむふむ」

 

 古代文明の遺物とそれを扱う者、と言うならば、ノイズとそのマスターという関係だろう……普通、ならばだ。

 俺たち以外にノイズとそのマスターという者がいるのかは分からんが。

 

「え、違うの?」

 大きくは変わらない。未だあの製造プラントからノイズを召喚するものとノイズ達の関係ならば、間に挟まれている何かしらがあるとはいえ、まさにそれと言って相違ないだろう。ツヴァイウィングの二人が、対ノイズ装甲を展開し、戦うのもまた同じだ。

 

 つまり、この場合は道具と担い手の関係だな。

 あくまで判断は担い手が全て下す形だ。

 その命令は絶対であり、道具はただその意志通りに働く。

 だが、俺とミクは主従でありながら意識がある。自我があるだろう? 命令に意見を挟むことが出来る。故に、偏に道具とは言えないのだが……。

 

 実はな、ミクは俺達に前者である事を強いる事が出来る。

「え?」

 

 疑問は尤もだろう。だがな。ミクは未だ意識していないが、やろうと思えば俺たちの意思を完全に殺して絶対遵守を執行することができる。

 ミクのマスター権限はそれ程に強力だ。

 このことは、教えておかなければと前々から思っていた。

 ミクは知らなければならない、自分に出来る事を全てな。

「それ、逆に教えない方がハイトには良かったんじゃないかな?」

 

 ミクはそれが俺のデメリットではないかと言いたいんだな。

 だがな。ミクがそれを自覚しているか否かで大きく変わるんだ。

 俺達はな。紛いなりにも自身の意思というものがある。

 つまり、極論するなら判断基準は大きく『やりたい』か、『やりたくないか』で、その基準にいたってはそれぞれ異なる、ということなんだ。

 当然、俺や他の海星型ノイズ、ミクもそれぞれ違う。

 

 何が言いたいのか。

 そう、意志の差異が生じるんだよ。

 当然、食い違って反発することもたくさんあるだろう。

 同じ事柄を目的としたとして、優先順位はそれぞれ異なる。

 ミクと俺の意見が違ったとしよう。

 俺もミクもそこまで幼稚ではない。互いの要求を擦り合わせ、落とし所を見つけるだろう。

──だが、それが譲れぬものならばどうだろうか。

 意思を通したいミクの発言が、俺の意思を完全に無視した『命令』となってしまったら、俺は一切抗えない。

 文字通り、言葉のみでねじ伏せられるのだ……そうなってしまえば──それまで通りの関係を継続するのは至難を極めるだろう。

 人生、そういう訣別は何度かあるものだが……ミクとはその様な別れはしたくないのでな。

 

「ん? 言いたい事は分かるけど、そんな風に意思がぶつかったりしないと思うけれど」

 そうだなぁ。

 俺は言うべきか一瞬考え。

 ミクの幼馴染が居ただろう? 確か、立花伊吹、で合っていたか?

「響です」

 忌引きだったか?

「響です! ひ、び、き!」

 

 ミクが怒っている。

 おかしい。間違って居ないはずだが……。

 鼾、だよな?

 

「真面目にしてくれないと、私にも考えがあるんですよ」

 いや、こっちとしても真面目なんだが。

「そうですか。そっちがその気なら……小日向未来がマスター権限を持ってハイトに命ず……じが」

 まぁ、待て。俺にジガディラス・ウル・ザケルガは出せん!

 何か不吉なことをミクが言いかけるので慌てて遮る。

 具体的にひとでなし! とか言われそうなことをされるような気がしたのだ。

「私だって魔本持ってませんよ!? と言うかハイトはナグル系の魔法しか本に出ない気がする」

 身体強化系か、いいとこ突くな。

 しかしだな。ミクよ、思い返して欲しい。

 ミクの行いかけた不吉な何かを遮り、俺とミクの関係を振り返る。

 

 あの漫画見て思ったのだが、俺たちの関係は似ていないか?

「それは確かに……じゃなくて!」

 

 彼女とミク、お前が等しく危険にあった場合。俺達はミクの望みに逆らってでもミクを優先する。この意味が分かるか?

 再びミクの言葉は遮られた。

 

 ミク……いや、この場合はマスターと言った方がいいだろう。

 俺達の第一根本命題、それはな。ミクをマスターとして戴くことだ。

 それぞれ、俺たちは何らかの目的を持って活動することだろう。

 俺にだって、そういうものはある。

 だが、そのためには何より。ミク、君が、マスターであることが最低条件だ。

 そのためには、マスターの望みが自分の生死よりも友の命を優先した場合、そもそもミクに従うための最低条件である『ミクがマスターである』が危ぶまれる。

 恐らく、皆自主的に、彼女を見捨ててミクを守ろうとするだろう。

 絶対にミクが安全な上で、余裕があれば、動く者もいるだろうがな。

 ……どう、思った。

 

「駄目……それは絶対、駄目」

 それを聞いたミクは、顔を真っ青にしながらも、意志を強固に固めて告げた。

 絶対に、友を助けろと、自分を見捨ててでも、という魂の発露だった。

 

 そうか。それがミクの望みなら、命じて、従えろ。

 それだけが、その場合、彼女を守る術だ……俺が、初めに言いたい事が、分かったか?

 

 こくり、とミクは頷いた。

 しかし……その目は危いものを宿していた。

 ミクは聞こえないと思っていたのか。

「折角……何のために……契約……」

 なんて言っていたのだ。

 やはり、本心ではノイズ等のマスターになんてなりたくなかったのだろうなぁ。

 だが──ノイズを従えるのは、ノイズに危険な目にあわされた幼馴染を守るために有効だと思ったのだろう。

 例え、ノイズに襲われたことでその幼馴染がノイズにトラウマを持っていて、自身がノイズと関わっていると知られて恐れられる可能性があったとしても。

 

 ……自罰的だな。

 危うい。っていうか、俺のマスターになるのは罰認定なほど嫌なのか……嫌、なんだろうなぁ。

 

 だがまぁ、この残酷な想像はしてもらわなければならない前置きがあるが、対処法がないわけではない。

 

 ミクよ。俺とミクは念話が使えるだろう?

「……使えるけど……」

 

 なんで、そんな親の仇を見るような目で俺を見るのだ?

「おかげで、響に時々生暖かい目で見られるんですよ……!!」

 ……は? ミク、もしかして念話の時声が出るタイプか? 念話の意味ないだろうに。

「いきなり話しかけられたら声出るに決まってるでしょ!? で、何が言いたいの?」

 えーとだな。

 念話が通じるいうことは、俺達は間違いなく経路(パス)が繋がっているということだ。

「パス?」

 首を傾げるミク。うむ、専門用語だったか。

 

 まぁ、所謂見えない導線のようなものが俺とミクの間では繋がっていて、念話なんかはそれを通じて行われていると思えばいい。

「分かりやすいような、分かりにくいようなー」

 

 言ってしまえば糸電話だ。

「あ、それだとなんとなく分かる」

 普通の糸電話と違うのは、伝えるのは声だけではない、ということだな。

 

「えと、例えば?」

 まぁ、焦るな。

 先ほど言った関係性以外にお互い意志を持つが、優劣のある関係に使役者(マスター)使い魔(サーヴァント)というものがある。

 ミクのイメージでいえば、魔術士と黒猫やカラスが近いかな?

「それはどっちかっていうと、魔女じゃないかな……」

 言ってて気付いたが、大量の海星を従える女性と言えば、最早魔女と言っても過言ではないとおもうのだが、どうだろう。

「勝手に増えたのはそっちでしょーがあああああああああ!!」

 

 無節操に『文明浸食』で殴り倒しまくったからなぁ。

 

 いや、貶した訳ではないのだ。

 どうどう、と荒ぶるミクを揺さぶって宥め、本筋に戻る。

 つまり、印象だけではなく、使い魔として俺たちを運用することも可能ではないか? ということだ。

 魔術士として使い魔にできることがミクと俺たちにも出来るはずだ。

 

 幸い、使い魔の運用に関しては、妻に習っている。拙いが、元々難しいところは使い魔を従える事だ。それは既に解決しているからな、今日中にもマスターできるだろう。

 

「ねぇ、ハイト。結局あなたは、私に何をさせてくれようとしているの?」

 流石に気づくか。

「導入から結構無理があったからね。意図は分からないけれど」

 そうだな、俺は話術が下手だからな。

 だが、こう見えても俺は元十三児の父親だ。

 子供と呼んで差し支えないミクが、何か不安事を抱えていることくらい分かっているさ。きっとご両親も心配しているだろう。

「そんなに分かりやすいかな」

 普通、子供といえど、思春期に突入した女性の心は察し難いのが俺なのだが……その俺が分かるのだ。ん? さっきといってることが逆だって? 娘を持つ父親はいつもそれに苦しんでるんだ。分かれ。

 ただ、相当気に揉んでいる事だということが分かるさ。そしてそれが、最初の優先順位の話題で分かった。

 大切な幼馴染である、挿し花鼾嬢の事だろう。

「いや、響だから。『すっ飛べ』」

 

 ぐっふぉおおおおおへぶべばごっふぉおおお!?

 躊躇なくノーラグで命令が下された。

 グミ強度の肉体が部屋で数度、猛烈な勢いでバウンドした。

 思ったより強烈だった。

 

「まぁ、確かに響の事で不安事があることは確かだから……」

 な、何事もなかったかのように話題が戻っただと……!

 恐るべし。マスターとして順応しすぎである。

 

 なあに、この技術がマスターできれば、少しは心配事が減るだろう。

「つまり、ハイト達に何かさせるんだね?」

 そうだ。なにか、心配事があるのなら、ミク自身が離れていても見守れるようにすればいい。

 

 手筈は住んでいるな、A、B、D。

「英!」

「Bi!」

「ディ!」

 

 さっき、ミクと帰ってきた三体を呼び出す。

 何か、心配事があるなら、見守れるようにすればいい。

 幸い、目ならば、このようにたくさんあるのだから。

 

「ハイトだけじゃなくて、皆も呼んだりして、どうするの?」

 言っただろう。パスが伝えるものは声だけではない。

 俺達を遣わせ、視覚の共有。それを試してみないか?

 




ジガディラス・ウル・ザケルガ
 『金色のガッシュベル』において、主人公、ガッシュの兄ゼオンの最強魔法。
 先王である父からバオウを受け継げなかった彼は努力でそれを編み出した。
 ゼオン初登場時、そのパートナーがキレかけたとき、思わず唱えそうになったがゼオンに止められ、じが……になった。
 今回? 自害せよでしょ、ランサー妥当。
 ところでこの説明なんでこんなに長くなるの?

 未来さん、既に病みかけている。そんな子が海星ノイズ全員に対して令呪無制限状態。凄い爆弾にしか思えない。

 ハイト。未来に総数ほぼ無制限の稼働型監視カメラを与えるという暴挙に出る。
 鬼に金棒、ヤンデレにカメラ。戦犯確定、響の将来が怖い。

 今回はセレナ、生首状態のみの登場。未来響サイドになるとどうしても控えめになってしまう。
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