〜祈side〜
「酷い……」
「これは……これが、街か?」
目の前の信じ難い光景に刀を強く握りしめる。その現実離れした光景に、俺は目を疑ったのだ。
道は抉られ、建物は穴があり何かが通った形跡がある。そして地面に飛び散るのは赤く……ドロドロした液体で、その中心には肉の塊らしきものが──。
『……ふむ。これは人だね、とても
天照はそれを冷静に見下ろしている。
ぱっと見た感じ、高校生に見える見た目に巫女服……というか浴衣に近い格好。それでいて怖いくらいに落ち着いて、大人びた雰囲気。そんな女性の姿をした人が、そう言い放つのに違和感しか感じなかった。
現在、熊本城から街に降りてきた俺達は生存者を探す事にしたのだ。天照はするだけ無駄、と言っていたが少しでも希望は持った方がいいと思い行動をしている。
だが……。
「誰かー! 誰かいるかー!?」
そう呼びかけるも、あるのは静寂のみ。人の気配は無くて虚しく俺の声は闇に消えていった。
まだ冷たい外の空気が肌を触れると体がゾクッとした。いったい、それは寒さにしたのだろうか、それとも人が居ないという恐怖にしたのかはもはや分からないくらい混乱していた。
「(本当に誰も居ないのか? あの短時間で全員……?)」
橋を渡れば居るかもしれないが、ここからだと結構距離がある。
天照の無駄という言葉はここだけを示しているのか、それともこの県を示しているのか……聞けばいいだけだが、聞くのが怖い。それはこの光景を見てしまったからだろう。
「お、お兄ちゃん! 家! お母さん達は!?」
「おい!? 一人で動くな!」
突然叫んだ栞那は家の方角へ走り出す。そんな栞那を追うようにして俺も走り出したのだった。
熊本城から大体走ると十分くらいで着く俺の家に着いた。追いかけてみて分かったが、街は食い荒らされていて人だったものが散らばっていた。幸いにも白い化け物には遭遇しなかったからよかったが、もし遭遇していたら危なかっただろう。
俺は破壊されている扉から家の中に入る。あの時間帯はきっと父さんと母さんはリビングに居たはず──。
「…………」
思い出しながら俺はリビングに行く。リビングに行くと栞那が血だまりの中、力無く座って何かを抱きしめていた。
「か、かん……な? 何だよ、それ……」
「……お母さん達」
回り込みながら聞くとそう呟かれる。
そこに抱かれていたのは、二本の腕だった。力強そうな腕とほっそりとした腕、その手には指輪がはめられており……数時間前まで俺が見ていた手と同じだった。
「う、そ……だろ……」
体から力が抜けて刀を落としてしまう。そんな俺を見てこれまで黙っていた天照が口を開いた。
『この街での生存者は君達二人だよ。それ以外の人間はこの県には居ない、なんせ加護が届いて無いからね』
「っ──、加護……? 何だよ、それ」
力無い声で訊ねる。
するとふむ、と天照は考えるかのような仕草をする。そして数秒の間を開けて口を開いた。
『──あぁ、ごめん。私自身、よく分かってないんだ、だから勝手にそう読んでるだけ。何だろうね、神力とでも言おうか』
「神力? よく分からんが、それが届いてないのに何で俺達は生きてんだよ」
『君は私が依り代に選んだからだよ。君には今も私の力が流れてるはずだよ。そこの刀とかね』
と、落ちてる刀を示しながら言う。
確かに息が少し荒い栞那と違って俺は全く荒くない。走ってる最中、体が軽いと思ったのはそれが原因なのか? それに熊本城での化け物との戦いの時に負った傷も治ってるし……。
自分の体に明らかに変化が起きている事は分かった。
『そして少女が生きている、というか死ななかった理由は二つ考えられる。一つは何らかの形で私の力が作用した。でもこれは有り得ないね、そうだったら私が気付くだろうし……。まぁ、そしてもう一つは“勇者”としての素質があり、覚醒しているのか。だね』
神様やら依り代やら勇者やら、話が現実離れして頭が追い付いてこない。そんなゲームやアニメの話じゃあるまいし……いや、その力を俺は受け取ってる訳だが。
「お兄ちゃん……」
と、天照と話していると栞那が口を開いた。
「私達、どうやって生きていくの……?」
そうだ。言われるまで一番の問題を見落としていた。
こんなにも街は荒らされて、人は居なく、親は死んで、子供二人だけでどうやって生きていくというのだ。料理は俺も栞那出来るが、材料が尽きるだろう。
「それは……」
言葉を失ってしまう──そんな時だった。
『四国。四国へ行けば君ら二人は生活出来ると思うよ』
天照がよく分からない、いや分かるが。妙な提案をした。
「は(え)?」
思わず俺と栞那は口を揃えて変な声を出してしまった。
言葉の意味は分かる。
天照は四国へ行けと言ったのだ。だけど何故四国と言ったのか、そもそもどうやって行けばいいのか。と疑問は残るが……。
『面倒だけどあそこには土着神が集まって来てるから、加護が強くなりつつあるんだ。恐らく、人類最後の砦にするつもりなんだろうね』
飄々としている天照に更に混乱してしまう。
「四国って距離あるぞ? 俺、車も運転出来ないし……というかそもそも車通れそうにないし」
『移動手段は気にしなくていいよ、すぐにでも行けるから。それよりも、ほら、準備してきなよ。あぁ、別に大荷物とは言わないよ? うーん……二、三日の着替えくらいあればいいんじゃないかな』
「……そ、そこに行けば生活できるの?」
栞那がおどおどと意見を言う。
『そうだね、その通りだよ。まぁ今までとは違い、優遇や辛い事もあると思うけど……生活はちゃんと出来るし、学業にも取り組めるよ』
「……うん。それなら、不安だけど信用する。お兄ちゃん準備しよ?」
「え、お、おい……?」
栞那は決めた事に対する行動が早い、それは星崎家の人間は全員だ。
薄暗い家の中を歩いて、二階へと向かう栞那を俺は戸惑いながらも追いかけた。
『さて、二人とも準備は出来たね。移動を開始するから取り敢えず、私の手を握って』
バックを持ち準備が出来た俺達は一階に戻ってきて天照の指示に従う。言われた通りに栞那と片手ずつ握った。
『それじゃ……行くよ』
その言葉が聞こえると同時に、俺は妙な浮遊感を覚えた。
そして意識が少し飛んでいたのだろうか、その移動中の記憶はあまり無い。例えるなら、その間の時間が切り抜かれた感じだ。
意識が戻ると、崩壊した家の中に居たはずの俺達は冷たい風が当たる場所に居た。そして目の前には見た事の無い建物がある。
『それじゃあ次の場所に行こうか。そこで話をすれば、君達は生活出来るよ、私もサポートはするけど過度な期待はしないでね』
先に行く天照に栞那は震えながらも決意する。勿論、それは俺もだ。
「行こ、お兄ちゃん。もう、立ち止まってはいられないっぽいし……」
「……だな」
と、いうのが俺が……まぁ、結局は栞那もだったが。力を受け取り、この人類最後の砦である四国に来た一連の流れだ。
それからは嘘偽りなく生活する事が出来た。だが、違う事も言われた通りにあった。
例えば訓練だ。
あの白い化け物──バーテックスと名付けられた存在の襲撃に備えて、神の力を授かった少数の人間達が訓練をする事になったのだ。俺や栞那もそれぞれの訓練をしている。
「戻ろ、明日も学校あるんだから。風邪ひいちゃったら皆に申し訳ないし……」
だけど“今のところは”このように比較的普通の生活を過ごせている。だがそれもいつまで続けられるかは分からない……。
「そうだな。遅れたら乃木がなんて言ってくるか分かんないしな」
少し笑いながらも立ち上がり俺達の住む寮へと足を進める。
門限やら何をしていたやらで、他の住民に質問されるのが目に見える中、それに対する返答を二人で考えながら歩く。その時間が俺は幸せで、笑う栞那を守りたいと強く願う。
──その守る力を持っている俺達は、“勇者”と言われていた。