ややこしいですがよろしくお願いします。
〜祈side~
「あ~眠ぃ、部屋で寝てぇ」
「もう、教室の目の前でそんな事言うのやめようよ」
「いや眠いもんは眠いって」
ああだ言いながら扉を開く。教室に入りまず目が合ったのは黒板に何かを書いている乃木だ。実際昨日のこともあり一番顔を合わせたくない人物だった。
「おはよう栞那。……と星崎」
「おはようございます若葉さん!」
「(ついでかよ)……おはー」
栞那はとてとてと乃木の近くに寄っていき話を始めた。俺は適当に挨拶を返して手を振りながら別の勇者に挨拶に行く。鞄を肩にかけとある席に近付く。そこには一人黙々と本を読む少女が座っていた。
本と顔の間で手を横に振りこちらに意識を向かせて俺は挨拶をした。
「よ、伊予島。相変わらずの読書か」
「び、ビックリしたじゃないですか……声をかけてくれれば顔を上げたのに……」
「いやー邪魔するのも悪いかなー、って」
「結局邪魔してるじゃないですか……もう星崎先輩は……」
小さく笑うこの少女は伊予島杏。まさにthe女の子って感じのやつだ。栞那と仲が良くそれ繋がりで俺も仲がそこそこ良くなった。
「あ、そういえば……昨夜は何を言い合ってたんですか?」
本に栞を挟みそんな事を聞いてきた。と言っても昨夜の出来事はアレしかない。
「乃木と言い合ってた。悪いな、うるさかったよな」
「あぁいえ、私は読書に集中してたので。それよりもタマっち先輩が──あ」
「あ?」
小さな口を開いたまま何かに気付いた杏。反応からして俺の後ろに何かがあるらしいが……まぁ、予想はついている。
「杏から離れろぉぉぉぉおおおおっ!!!!」
横に体を動かすと同時に先程まで俺がいた場所に小さな影が飛び込んできた。その影はその後も鞄を振り回し俺に当てようとする。
俺は自分の鞄でそれを受け止めその小さな影──土居球子という少女に語りかける。
「離れたぞ落ち着け」
「いいや、タマの気が済むまで付き合って貰う──ぞっ!」
鍔迫り合いの状態だったのを力任せに弾かれよろめく。
「おっ、と」
「! もらったぁ!!」
垂直に振り下ろされる鞄、それを俺は間一髪で机を軸にし土居の後ろへ周り込めた。しかし流石勇者、と言うべきか体制をすぐに整え俺を視界に捉える。
すぐさま反撃を──と思った時だった。
「2人ともそこまでです!」
凛とした声が教室に響き二人の動きが止まる。そんな状態の中で俺達は睨み合い言葉を飛ばした。
「くそっ、あと少しだったのに……」
「あと少し……ねぇ」
「……何だよ」
「別に」
挑発気味の言葉に乗りかかる辺り単純だと思う。
「た、タマっち先輩、星崎先輩も……それくらいに……」
伊予島の言葉でお互いに無言で席に座った。
朝の教室に漂う微妙な空気、毎度の事だが未だに慣れたとは言えない。
元々人付き合いの得意ではない俺にとって同年代の女子とは“話す”という選択肢がない。熊本にいた時でもクラスで必要以上の事は話さず無言を貫いていたくらいだ。
しかしそんな俺でも例外はいた。
「おはよう……星崎くん」
「おはようございます先輩」
千景──郡千景先輩。
同じ趣味を持つ先輩で勇者の一人。その事もあるからか、それとも最初にそうだったからかは知らないが本人はタメ語でいいと言ってくれた。しかし流石に教室では色々とまずいので一応敬語で話している。
「……そう言えば昨夜、少し騒がしかったけど何かあったの?」
本日二回目の質問。やはり寄宿舎の近くで騒ぐと周りに聞こえるらしい。
俺は伊予島に説明した事をもう一度言った。すると自分の事のように溜息をつきながら、普段通りの口調で。
「それは、災難だったわね」
「それに慣れかけてる自分もいますけどね」
二人揃って微笑する。
やはり千景といると落ち着ける自分がいる。人を避けてる千景と人付き合いの苦手な俺、違いはあるが似たような所があるからだろうか?
「おっはよーございまーす!!」
説明が終わり千景が席に座る。それと同時に二つの音が教室に響いた。
一つは始業のチャイム、それを聞いた乃木達も席に着いた。そしてもう一つは──。
「ふーっ! ギリギリセーフだね!」
「判断に困るタイミングだな」
えへへ、と笑いながら全員と挨拶を交わして席へ着くのは高嶋友奈。いつでも明るくクラスのムードメーカー的存在。他人と壁を作らない性格の彼女はこのクラスの誰とでも仲が良く、いつも皆を笑顔にしているのは一種の才能ではないかと思うほどだ。
そんなこんなで勇者と巫女が揃い午前の授業と戦闘訓練が始まった。
~栞那side~
「疲れましたぁ~」
食堂でだらしなく声を上げる。現在私達は午前の日程が終了しお昼を食べている最中だ。
「少しは運動してたのにこんなにも疲れるなんて……」
「しかしいい動きをしてると思うぞ。道場にでも通っていたのか?」
「あ、いえ。ほぼ独学で……」
「ほぉ……」
その時、何となくだけど若葉さんの目が光った気がした。
「昼にでも手合わせを願いたいな」
「えぇ!? む、無理ですよ! 私なんか秒で終わっちゃいますって!!」
両手を前に出してブンブンと振って断りを入れる。すると先に食べ終わり本を読んでいた杏ちゃんが反応をした。
「栞那ちゃん……応援してるよっ」
「うぅ~~! まだやるって決まってないのに~~」
食堂に響く笑い声。
こうしていると少し変だけど普通の中学生って感じがして安心する。
「おっと、私は諏訪の勇者と通信があるから失礼する。手合わせは……また今度な」
「あはは……」
ニヤリとして席を離れる。きっと免れた、のだろう、うん、そう思おう。
「…………」
若葉さんが食堂を出ていった後にお兄ちゃんが椅子から立つ。トイレかと思ったが、どこかその顔は真剣で。
「お、お兄ちゃん? どうかしたの?」
「少し話したい事があってな」
そう言い左手首に付けてるブレスレットをトントンと叩く。
その仕草はお姉ちゃんと話す、という意味が込められている。外ではあまり口にしない方がいいと言われたので、お姉ちゃんから貰ったブレスレットを指しお互いに伝え合うのだ。
「? 誰と話すんだあいつ」
「大社の人じゃないかな?」
「ふーん……」
不満げな球子さん、それは私も同じだ。
「(何を話すんだろう……後で聞いてみようかな)」
~祈side~
「天照」
『──っと。ごめんね諏訪を見てきてたから遅れたよ』
「諏訪は……」
『堕ちるね、それも時間の問題だよ。でも意外と長く耐えたのは驚いたね、これが人の底力ってやつなのかな?』
足止め、時間稼ぎ、人類最後の捨て駒。言い方はいくらでもある諏訪は四国という最後の砦、その戦力が安定するまでの場所であっただろう。
現に三年も準備を整えれた。これは大社としても予想外だったのではないだろうか。
『一人の勇者、一人の巫女。お互いに支え合い信頼し合い……人々を奮い立たせ、最後の一瞬まで人としての輝きを失うことのなかった』
たとえそれが、諏訪ではなく四国の為だとしても……か。
「諏訪の勇者──白鳥歌野、か」
きっとその人こそが本当の勇者なんだろう。
物語のように人々の希望となり続け三年もの間を生き延びてきた、しかしその三年が辛い事だけではないと俺は思う。それは乃木からの話を聞けば分かる事だった。
『君も、いつかはその勇者のようになれるといいね』
「はは。人を率いるなんて死んでもゴメンだ、俺はその役割は向いてないからな」
冗談なのか本気なのか曖昧に言ってくる天照、そういうのは他の奴には任せるべきだ。
人類は人の手にはあまりにも大きい。俺はただ一人を……栞那を守れればそれだけで──。
『……ん?』
「? どうかし──」
響き渡る聞き慣れない警報音、音の発生源は俺のスマホからだった。その音が聞こえたその瞬間に俺達の音以外は全て消え、空を飛んでいた鳥がその場に停止していた。
『へぇ、これがこっちの結界か』
天照は海の向こうから伸びて迫ってくる植物の蔦や根を眺めながら呟く。
これが樹海化。
神樹が作り出す対バーテックス用の戦闘場、四国を守護する最後の手段。
次の戦場は四国。ここが堕ちれば世界は終わる、まさに最終決戦の始まりだ。
そんな戦いに身を投げるのは六人の勇者で……。
『さぁ頑張れ勇者、生き残ってみせてね。私の加護が君を守る事を祈るよ』
「生き残るさ。そうでもしないと栞那が一人になるからな」
言葉を交わし終え俺達は植物に飲み込まれた。
そして目の前に広がる景色は、見た事もないとても不思議な世界だった。
次は戦闘になります。
今回も読んでもらいありがとうございます。