~天照side~
人間というのはいつかは死ぬ。
どんなに力を持っていたとしても、どんなに他人よりも知能があっても、どんなに人から信頼されていようとも。結局死を迎える。それは意外と呆気ないものだったり悲しいものだったりと人それぞれ。
……たまに変な人間もいるけど。
『──君は逃げないんだね』
「……うん。うたのんが、そうしたように」
私を中心とした光の結界で包まれた諏訪の巫女は涙を浮かばせながらも覚悟を決めた目でそう言った。しかし、その目は私を見ているのではなく、その後ろにある勇者──だったものを見据えているようだった。
バーテックスの波に呑まれて既に活動が停止した身体が少しずつ動かされていく。やがてそれは私の結界による壁にぶつかり止まった。
「っ」
『力の無い人間如きが。どうしてそんなにも強がるんだい、怖いだろう? 逃げたいのだろう?』
巫女に問いかける。
「そんなの……逃げたいし怖いに決まってるよ。でもダメだから。私が逃げたらみんなに……うたのんに顔向けできないんだもん。……だから」
巫女は地面の土を掴んで私に投げつける。
『…………』
「私達は逃げない。あなた達なんかに負けない」
本当、あの少年といいこの巫女といい、どこからそんな立ち上がる力が生まれてるのか。目の前の巫女に至っては文字通り死が目前にあるというのに。
『大した覚悟だよ諏訪の巫女。それじゃあ……巫女らしく、信じた神に願いながら死ぬといいさ』
結界を解く。当然バーテックス達は流れるように押し寄せてきた。
直後、目の前の巫女はバーテックスに呑み込まれ腕を噛みちぎられた。骨が砕ける音、溢れ出る血、しかし巫女は絶望の表情だけは浮かばせていなかった。
『……ふん』
気に食わない。
まぁ勇者が死んだ今諏訪が堕ちるまでさほど時間はかからないだろう。それに四国の防衛準備は整っているはずだ、それくらいの時間は稼いでいた。……まるで鼻からそれが目的かのように。
『諏訪の巫女と勇者、か』
──真っ直ぐすぎるのも、求め続けるのもどうかと思うけどね。
~栞那side~
樹海……土着神である神樹が発生させるバーテックスとの戦闘空間。もっと怖いものと思っていたけど……。
「綺麗──」
思わずそんな言葉が漏れてしまう。
現実じゃ見れない風景、現実じゃ味わえない雰囲気、空気、それらは今私の前に広がり立ち塞がっていた。
「あ! かーんなちゃーん! ……栞那ちゃん? 大丈夫? ボーってしてるけど」
「はっ! す、すいませんつい!」
棒立ちになっていた私の前で手を振る友奈さん。その奥には球子さんや若葉さん達もいた。
みんなと少し離れた場所に飛ばされた私は端末のアプリで勇者を示す点が集まる場所に歩いていたところ、向こう側から友奈さんが来てたのだ。
制服の私とは違い既に勇者装束を纏っていて、桃色を基調としたその装束はどこか山桜を思わせた。
「栞那っ、無事だったか」
その後ろから若葉さんが駆け寄ってくる。そんな若葉さんも勿論装束を纏っていた。
「は、はい。少し離れた場所に居ただけですので。っと、遅れた分私も──!」
私は改めてアプリをタップした。瞬間花が舞い私の服装が変化してゆく。
オレンジ色の花びら──それは金木犀のように。
「星崎栞那っ、変身しました!」
制服からオレンジを基調とした装束を纏った。着慣れないからか少し違和感はあるが別に支障をきたす程ではないので無視をしていいと判断をした。
「わぁっ! 栞那ちゃん可愛い!」
「えへへ……そうですかね?」
「二人ともそういうのは後にしろ。……今優先すべき事は理解してるな?」
いつも優しい若葉さんに睨まれてしまい少し縮まり込む。しかし当たり前の反応だと思う、ここは戦場、そこの辺りをわきまえるべきだ。
「ごめんねー若葉ちゃん。でも、大丈夫!」
「……はい!」
友奈さんはパシンと拳を掌にうちつけやる気を示す。私も小さく頷き、意識を切り替えて武器を取り出した。
そこで私はある事に気付く。それは杏ちゃんが勇者装束を纏っていなかったのだ。
『装束を纏うには本人の精神面が大きく影響してくる』
いつか先生に言われた言葉。
杏ちゃんは誰よりも優しいから戦いを恐れている。そう、怖いのだ。“もしも”を先に考えてしまうから。
「伊予島は土居が守ってくれ。栞那は土居の前で敵をなるべく薙ぎ払ってくれれば助かる」
「オッケー! 安心しろ杏、タマが守ってやるからな!」
「私も頑張るからね!」
「う、うん……ごめんね二人とも……」
端末を強く握りしめ申し訳なさそうに謝る杏ちゃん。そんな姿を見て私は武器を握る力を強めた。
「(守らないと、私が……)」
「それと……」
若葉さんが端末に視線を落とし手短に指示を出す。
「星崎と郡さんだがアプリを見れば分かるように栞那同様少し離れた場所にいる。先に郡さんと合流し、その後に星崎と合流しよう」
幸いにもバーテックスの姿は見えていない。マップに表示されているがどの勇者も近くにはいなかった。
「近くに敵がいないとはいえ戦場だ、気は抜かないでくれ。よし……行くぞ!」
そして若葉さんの強い声とともに行動は開始された。
~祈side~
「……」
タン、タンタン……。
「…………」
タ、タ。タタタタタッ。
『戦闘区域にいるのにも関わらず君は何をしてるんだい?』
無言で端末を叩き続ける俺を見てることに飽きたのか声を掛けられる。それでも俺は端末を──アプリをタップし続ける
「見りゃ分かるだろ、勇者装束だよ。何故か発動しないんだ」
どういう事かアプリが反応してくれない。押せば発動すると先生からは説明を受けているのに。
『発動しないも何も君は既に力を振るえるじゃないか』
「は?」
予想外の言葉に思わず声が出た。
『君らの指す勇者という存在は神の力を扱う者の事なのだろう? それなら君は私の力を使ってるじゃないか』
天照の力──例えばこの刀。自分の意思で場所を問わず表れる、持ち運びに困らない優れもの。
『君は他の勇者とは違う依り代なんだよ? 神樹なんて君に必要ないさ、私がいるからね』
そう、知らぬ間に当たり前になってて忘れていた。俺の人間離れした身体能力、治癒力それらは天照のおかげということを。
「あー……なら何だ、変身! ──とか言えば纏えたりもするのか」
『出来るんじゃないかな? でもそんなに気合いを入れなくても刀を取り出す時のように少し意識すれば纏えるはずだけどね』
「意識……」
目を静かに閉じ集中する。
初めて力を振るったあの時を。思い描いた力を。そして──
「(
『おや、これは──』
天照の意外そうな反応に目を開く。
自分の姿を確認すると白を基調とした服装になっていた。強いて言うなら、天照の服装にどことなく近いものだ。
『私の真似かな?』
「元々お前の力なんだから真似も何もねぇだろ」
『おっと。それは失礼』
軽い冗談を飛ばされたがさらりと流す。そんな間に俺は自分の変化を体に馴染ませるように動かしていた。
先程までとは違い体がとても軽く感じる。それに奥から力がみなぎる感じも。
──やれる、戦える。
自然とそんな言葉が浮かんだ。
そう思ってからの行動は早かった。アプリで周辺を確認しどう動くかを考える。この場合は二択だった。他の勇者達と合流するか、それとも先に進み斬り込むか。
「(俺の後ろには千景か? まぁ他の奴らが近付いてるから任せるか)」
こちら(恐らく千景)に他の勇者達が近付いてるのが確認できた。なのでそちらは任せることにして俺は。
「…………」
足を進める。それを見ていた天照は一瞬笑い、俺の横に並び呟いた。
『さぁ始めようか、私の勇者』
「あぁ」
それが合図のように俺はまだ姿の見えない敵に向け跳躍をした。