神にしか許されぬ愛。
だから、男は神となる。
時系列は、NEXT DIMENSION開始前か、或いは進行中。
「セイヤさんが帰って来られるそうよ」
お屋敷のメイドさんたちが話しているのを耳にして、わたしは胸を躍らせました。
わたしの弟の星矢は、一緒に暮らしていた孤児院からこの城戸家に引き取られた後、ギリシアへ送られました。
そこでなんらかの修行をする為だそうでしたが、その修行で命を落とす事も少なくないのだと耳にして、わたしは矢も盾もたまらず、孤児院を飛び出しました。
なんとかギリシアへ渡り、弟のいる「
そしてギリシアまではなんとかたどり着いたものの、わたしは「
その場所を探しているうちに崖から足を踏み外し…命は助かったものの、記憶を失っていました。
助けてくれた親切な老夫婦が営む店の手伝いをして日々を暮らしながらも、何か大切なものが心から抜け落ちた感覚は、どうしても拭えませんでした。
原因不明の日蝕が世界を覆ったあの日、奇妙な仮面を着けた女の人が、わたしを訪ねてきました。
彼女はわたしに、「あなたを探している人がいる」と告げました。
基本的に無口で、説明が苦手である様子の彼女の言葉を、何故かわたしはすんなり信じて、彼女の言うままについて行きました。
そこでわたしはすべてを思い出したのです。
わたし自身のこと、弟のこと。
そして知ったのです。
わたしの弟が、この世界を守るために戦う、聖なる闘士だということを。
その戦いが終わり、地上に太陽の光が戻った後、わたしはグラード財団により、日本に連れ戻されました。
まずは城戸邸に滞在して、弟が戻るのを待つように言われました。
ですが、何日待っても、星矢は一向に日本に戻ってはきませんでした。
星矢どころか、この城戸家の当主である沙織嬢すらも戻らぬまま、わたしはなぜかこちらのお宅で、上流教育を受けさせられ、沙織嬢の名代として、主に夜会などに出席させられていました。
わたしはこんなことをする為に、日本に帰ってきたのではありません。
そんな時でした。
メイドさん達のお話が耳に入ってきたのは。
・・・
「星華さま、違います!お戻りください!」
わたしを追いかけてくるメイドさん達の言葉など耳に入らず、『セイヤさんが戻られた』という部屋に飛び込んで、わたしは弟の名を呼びました。
「星矢っ!?……え?」
その部屋の真ん中に、ぽかんとした表情を浮かべて立っていたのは、高級そうなスーツを着た、背の高い男の人でした。
☆☆☆
「そうか、弟さんが帰ってきたと思ったんだね。
それは申し訳ないことをした。
さぞびっくりしただろうね。
弟さんだと思った相手が、こんなおじさんだったなんて」
「そんな、おじさんだなんて。
わたしこそ、とんだ失礼を…」
目の前で真っ赤になって縮こまる、高校生くらいの女の子を、僕は素直に可愛らしいと思った。
僕はロリコンではなかった筈だが。
沙織は客観的に見れば、確かに絶世の美少女だと思うけど、可愛げというものはまるでない子だからなあ。とても新鮮だ。
「晴夜様。
お話中申し訳ありませんが、決済していただきたい書類が溜まっております。
できれば、すぐに取り掛かっていただきたいのですが」
幼馴染というか、僕の乳姉妹(故人)の兄に当たる男、今は沙織の執事兼ボディガードの辰巳徳丸が、恭しく僕に話しかけてくる。
「徳丸、君もなかなか鬼だね。
いや、本当の鬼はわが姪っ子かな。
なにせ、自分が日本に帰って来られないからと、総裁の仕事を全部、僕に押し付けようってんだから。
こんな貧乏くじ、せめて若くて可愛い女の子と、ひと時お茶を楽しむくらいの時間の余裕がなければ、とてもやってられないよ。ねえ、お嬢さん?」
僕がそう言ってにっこり笑いかけると、向かいに座るその少女も、少し戸惑いつつも、つられたように微笑んだ。
…今、気がついた。
この子は笑った顔が少し、僕の母に似ている。
僕の名は
僕の両親は僕が13の年に離婚して、僕は母方の姓とその家の当主を名乗ってはいるけど、一応6年前に亡くなった父にとっては、婚姻中に授かった唯一の嫡出子ということになる。
というのも父が死の間際に語った事だが、父には僕以外100人以上もの庶子がいる。
…念の為に言うが、それが父の没後すぐに亡くなった母との離婚の原因ではない。
むしろ母との離婚が父を暴走させたのだと思う。
その証拠に、後で調査したところ、庶子たちは全員とは言わないが、ほとんどが母との離婚後に生まれている。
母は離婚の原因について、最後まで僕には伏せてこの世を去ったが、聞いたところによれば、母の方から離婚を切り出し、渋る父を置いて城戸の家を、僕を連れて出て行って、実家の褄吹家に戻ったのだという。
褄吹家は跡取りの長男である伯父が、独身のうちに亡くなっていたから、母が僕を連れて帰ってきた事は、褄吹家にとっては渡りに船だったようで、それから母は一度も、父と顔を合わせることがなかったそうだ。
その、父の名は城戸光政。
この城戸家の前当主だった男、そしてグラード財団の創設者である。
今回、僕がこの城戸家に呼び戻されたのは、財団運営に関する権利を、全部僕に一任する事を正式に決定したと、ギリシアにいるという沙織から連絡があった為だ。
実際にはこれまで、決済関係の大体の事は、彼女の代わりに僕が処理していたのだが(何せ次期総裁として任命された時、沙織はまだ7歳の幼い少女だったのだから)、それを以降は完全に「おまえやれ」になったわけだ。
何せ、沙織は本当は僕の姪などではなく、この地上を守る女神様だそうなので、人の世界の煩わしい些事にかまけている暇はないようで。
だが、敢えて叔父として言わせてくれ。
おまえは女神なんかじゃなく、鬼だ。
☆☆☆
「で、徳丸。あの子、一体誰なんだ?
…彼女なんだろう?
今後、沙織の代わりに、グラード財団の顔として使う予定だって子は」
この後、ダンスの授業だと言って彼女が連れていかれた後、僕は徳丸に訊ねた。
「辰巳とお呼びください、晴夜様。
…その通りです。
晴夜様にはこれから、彼女の教育についても、御相談に乗っていただきます。
これもお嬢様のご意向です」
「僕の質問に答えていないよ、徳丸。
あれは、どこから連れてきた?」
「…この近くにある孤児院にいた娘です。
ですが、その弟は旦那様の子ですので」
「なんだって?
…なるほど。じゃあ、彼女が待っている『セイヤ』は、僕にとっても実の弟ってわけか」
…何だろう。なにかが引っかかる。
・・・
星華は一度も僕の足を踏む事なく、ダンスを一曲終えて一礼した。
昨日の練習の際には講師が結構な頻度で足を踏まれていたのに、どうやら彼女は本番に強いらしい。
「晴夜さんが付いていてくださったからです」
そう言って僕を見上げ、微笑んだ星華の表情が、なんだかいつもより大人びて見える。
まあ、夜会用に化粧も施しているのだから、当然といえば当然なのだろうが。
星華はこれまでにも何度か夜会に出席させられていたそうで、その時は徳丸が同伴してはいたものの、要人やその子弟と話などをする際には従者は一旦引かねばならない為、心細い思いをしていたのだという。
僕が当主を務める褄吹家は、まあ城戸家と肩を並べるほどではないにせよ、それなりの名家と言われているし、僕が城戸光政の実子である事は、誰も口には出さないが要人はほぼ知っている。
その僕がそばにずっといるのだから、確かにそれから無理に引き離してまで、彼女と一対一で話をしようなどとは、誰も思わないだろう。
…というか、そんなに不安を覚えるほど声をかけられていたのか。
確かに今も、星華自身は気付いていなさそうだが、政財界要人の主に子弟たちの、彼女に対する視線が熱い。
星華は一応、城戸の分家筋との養子縁組を済ませてあり、対外的には城戸の令嬢として扱われる。
彼らが見ているのは星華自身か、それとも彼女の城戸家令嬢の身分なのかはわからないが。
どちらにしろ沙織に比べて夜会慣れしていない雰囲気もあり、与し易そうに見えるのは間違いない。
…これからは、僕が気をつけてやらねば。
「晴夜さん…?」
僕が黙っている事で、自分が何か失敗したのかと思ったものか、星華は僕を見上げて、少し不安げな表情を浮かべた。
ああ、ごめん。
そんな顔をさせてしまって、僕は早速保護者失格だ。
「…堂々として。背筋を伸ばし、胸を張って。
そうすれば、不安の種は自分から逃げていく。
大丈夫、今日の君はとても魅力的だし、ダンスも完璧だった。
もし何かあっても、僕が必ず守るから、安心して笑っていなさい」
僕がそう言ってやると、星華はほんの少し頬を赤らめ、それから微笑んで頷いた。
…おかしい。僕はロリコンではなかった筈だが。
何故この微笑みに、胸がドキドキしているんだ。
思春期の初恋でもあるまいし。どうかしてる。
☆☆☆
…我を受け入れよ。我は神なり。
神に不可能はなく、禁忌もない。
汝の望みはすべて、神の名のもとに、叶えられよう。
我を受け入れよ。
そして神となれ。
虚空から声がする。胸が苦しい。
神だって?馬鹿馬鹿しい。
この地上の神ならば、うちの姪ひとりで間に合ってる。
他をあたってくれ。
僕には関係ない。
汝は抱えている。
この地上で、最も清らかで、美しい罪を。
だがそれは、神のみに許された愛だ。
汝は神とならねばならん。
いずれ汝は己から望もう。
自ら神とならん事を。
…………。
☆☆☆
「なんてこった…!」
手にした書類に頭を抱える。
正確には、そこに書かれている一文に。
“父を同じくするきょうだいの可能性が極めて高い”
ひらたく言えばそういう事だ。
それは、僕と星華とのDNA鑑定の結果だった。
時間的な計算は合う。
彼女は父と、僕の母との離婚が成立した、1年半後に生まれている。
彼女の弟の「星矢」の資料は城戸家にまだ残っており、それに添付されている写真を見たら、少し僕の小さい頃に似ていた。
星華は母親似なのだろう。
そして星華にはどことなく、僕の母に似たところがある…。
恐らく彼女たちの母親は、僕の母に似ていたのだろう。
母に去られてプライドと心が傷ついていた父の前に、母に似た女性が現れて、父はその人に惹かれたのだ。
そうでなければ、単なる一夜の慰めであったなら、星華に同父の弟など出来るはずがない。
…これは、喜ぶべきことのはずだ。
彼女は正真正銘、城戸家の令嬢であり、僕の妹だ。
だが……僕は子供じゃない。
少なくとも、己の裡に生じた感情を、全く理解できないほどの子供ではなかった。
気がつけば僕は、星華に惹かれていた。
彼女の笑顔と、ひたむきさと、僕を頼ってくるその儚げな瞳も、すべてが僕を魅了していた。
触れたいと思った。手に入れたいと望んだ。
だが……その想いは、それ自体が罪だった。
彼女は血の繋がった、僕の妹だったのだから。
「晴夜さん」
柔らかな声音が、僕の名を呼ぶ。
知られてはならない、この想いは。
不意に、頭の中に、声が響いた。
我を受け入れよ。
神に罪も、禁忌もない。
我と同化せよ。
褄吹晴夜。汝は我。我は汝。
汝は今より、神となる。
「晴夜さん?晴夜さん!……っ!!」
…こちらを不安げに見上げ、名を呼んでくる彼女の身体をかき抱き、その唇を奪う。
驚いたように見つめるその瞳を見返しながら、唇が勝手に言葉を紡いだ。
「我が名はゼウス。全知全能の神なり」
つづかない。
年齢:30歳 男性
身長:180cm 体重:70kg
小さい頃は原作主人公にちょっと似てたらしいが、基本、特徴の薄いイケメン。
某有名大学経済学部卒業。五ヶ国語習得。スポーツ万能。
つまり腹立つくらいの無自覚ハイスペック。
まあ全能神に目ェ付けられるには充分な器っていう宿命。
自分では書かない彼の今後の人生に幸あれ(爆