SAO:Alternative GGO 黒影の銃撃主 作:SCAR And Vector
新連載、よろしくお願いします。
プロローグ1
黄色がかった分厚い雲が天空を覆う荒廃した世界。その広大な世界を代表しうる荒野フィールドの一画。一メートルほどの身長のごつごつした岩が集まるエリアに、彼は愛銃を抱えて潜んでいた。
誤作動を防ぐために引き金に指をかけないように細心の注意を払う彼に、彼の所属する『スコードロン』———ファンタジーでいうところのギルドにあたるプレイヤー組織———のリーダーから無線が入る。左耳に装着しているイヤフォン型の小型無線機の受信スイッチを入れ、リーダーからの指示を受ける。
「敵を確認した。距離は北西約70メーター。進行方向的にお前たちの方に近づいてくる。50メーターを切ったら発砲しろ。敵の武装は・・・」
正直、奴さんの武装なんてどうでもいい。早くこの相棒の引き金を引いて、彼らを殺してやりたい。
後方で狙撃に適したポイントに陣取っているリーダーが望遠鏡で彼ら不運な者たちの装備を確認し伝令するよりも早く、彼は無線の受信を切って目視で目標を確認していた。
彼ら敵勢力の武装に一貫性は無かった。恐らくモンスター狩りの帰りだったのだろう。敵総数の六人のうち半分は光線銃。この世界にしかない架空の武器である。
彼は腰のポーチから低倍率から高倍率まで指一本で対応できる高価な《索敵用可変倍率単眼鏡》を右目に押し当てレンズを覗いた。
アサルトライフル持ちが2人。ライトマシンガン持ちが1人。残りの3人は対人戦闘には不向きな光線銃。
そこまで確認すると、彼は左の腰に装備している《対光弾防御フィールド》を展開する為にそっと左手を装置に添える。ピンク色の結晶のような形状のスイッチを押せば、そこから光線銃から放たれる光弾の威力をかなり減衰させる《防御フィールド》が展開される。これに対抗するには実弾銃を使用するしかないのだが、光線銃持ちが半数を占める敵スコードロンにとっては戦力を半分も削られることになる。
彼は単眼鏡を腰のポーチに戻し、胸に抱えていた愛銃《FN SCAR-H》のグリップを握りしめる。
そして、今度は無線の送信スイッチを押して少し離れた岩の陰に自分と同じように息を潜める仲間に無線を送る。
「俺がフィールド作りますんで、光線銃の方はお願いします。実弾銃の3人は俺がやります」
「わかった。まかせる」
短く無線越しの会話を交わし、彼と、その仲間はそれぞれの相棒のキャリングハンドルを引いて薬室に弾薬を送り出す。
「敵、来るぞ。60・・・55・・・今だ!撃て!」
敵との距離を計測していたリーダーの発砲合図で、彼は《対光弾防御フィールド》のスイッチを押し、防御フィールドを展開させる。岩場から突如広がっていく防御フィールドを目の当たりにした敵スコードロンは、その場に立ち止まり周囲を警戒し始めた。だがそれは彼らにとって格好の餌食だった。
彼の仲間のマークスマンライフル持ちが岩場から上半身を露出させ中距離狙撃を開始する。なかなかのエイム力を持つ彼の仲間によって、光線銃持ちの3人は瞬く間に銃殺死体へと変貌していく。敵スコードロンの実弾銃持ちが自分たちの仲間を狙撃したプレイヤーに向かって威嚇射撃を敵の潜む岩場へと撃ち込んでいく。
しかし、それは愚行だった。視界の左側のポツンと立つ岩の横から、ひょっこりと細長い銃身が顔を出していた。そしてそこから放たれる小さな爆発。
1人目のアサルトライフル持ちは仲間にもう一人の敵影を発見したことを伝える前に5発の弾丸を撃ち込まれ死亡。2人目のライトマシンガン持ちはそれに慌てて持続射撃の手を止めた。その隙をついた《FN SCAR-H》の銃撃によって死亡。残る一人はたまらず踵を返して逃げ出すが、それはFN SCARより放たれた一発の銃弾が脳天を貫き一撃即死。
息をのむ3人のチームワークによって、6人の遺体が荒野の一画に転がった。戦闘が勃発し、終結されるまで約10秒。
『彼』は興奮の収まらない様子で、こぶしをぐっと握り小さくガッツポーズした。
荒廃した世界で数少ない大都会、中央都市『SBC グロッケン』の幾多のプレイヤーで賑わいをみせるとある酒場。先の戦闘で得たクレジットをふんだんに使い、彼らは祝杯を挙げていた。
「お前、また射撃の腕上げたんじゃないか?」
「いやいや、俺の腕なんてまだまだですよ」
「でも、ほぼ必中だよな。今回も命中率100パー」
「そんなこといったら、ゼンさんの狙撃も100パーですよ?」
先の荒野での奇襲戦闘で難なく勝利を収めた3人は、カクテルを片手に笑顔で談笑していた。
1人はFN SCAR-Hを使用していた男。名を『コウ』と言い、赤みがかった長髪を後ろで束ね、目が隠れるほど長い前髪を右側に流している。彼の隠れた右目は翡翠色に怪しく輝き、彼の細めの体を覆う軽装備を黒に統一しているのも相まって、独特のミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
そしてコウの眼の前の席に腰掛けるのは彼の所属するスコードロンを束ねるリーダー『ゲンジ』。野戦服を着用し、首元に巻いているデザート迷彩スカーフときれいに整った顎鬚がトレードマークの気のいいオヤジである。
最後の一人は赤いレンズのスポーツサングラスをかけた長身の男、『ゼン』。短い髪をオールバックに整え、彼らのスコードロンのメンバー内では珍しい中遠距離に対応できるマークスマンライフルを所持する男である。
彼ら3人が所属するスコードロンの名は『インヴィジブル』。様々なフィールドにおいて奇襲作戦を得意とするメンバーで構成されたスコードロンである。
それから彼らは30分ほどの談笑をして、コウを除く2人はログアウトしていった。
酒場に一人取り残されたコウは、退出際にサイダーをテイクアウトし、酒場を後にした。
コウはその足でまっすぐSBCグロッケンの全体像が眺められる展望台に向かい、荒廃した世界で煌めく夜景を眺め炭酸弾けるサイダーを飲んだ。
日本の横浜の夜景を連想させるグロッケンの夜景を、コウはとても気に入っていた。そしてそこで強炭酸のサイダーを飲むのが彼の習慣になっていた。コウはひとしきり夜景を楽しむと、サイダーを飲み干し一息ついてログアウトの操作を行う。
銃と弾丸がものを言う世界、『ガンゲイルオンライン』からコウは姿を消した。
目を開けると、そこはインテリアは必要最低限のものしかない質素なモノクロトーンの六畳間の寝室だった。家具は衣類が収納できる木製のベッドと衣装タンスとノートPC。
現実世界に戻ってきたコウ、実名『
「さむっ・・・」
時刻を確認して、不意に寒気が昂雅を襲った。12月上旬の気温では暖房も付けずにログインしていたため、四肢の末端はよく冷えていた。比較的寒さに強い昂雅だが、寒いものは寒い。昂雅は吐息で手を温めながら暖房を入れた。部屋が段々と暖まって暖気がリビングを包み込んだのを感じると、昂雅は寒さで縮こまった身体を引き延ばすように伸びをした。
現実世界での昂雅は、現在大学二年生の20手前の男である。成績の良かった昂雅は都内の大学を受験し見事合格。元々上京意欲の高かった彼は高校を卒業するとさっさと東京に移り住み一人暮らしを始めていた。今は過保護な両親には内緒でバイトをし、実家からの過剰な仕送りとバイトの給料と時々のGGOでの収入で生計を立てている。
昂雅は先ほどまでダイブして遊んでいたタイトルのパッケージを手に取り、表紙を飾る特殊部隊のようないでたちの男衆を眺める。
ガンゲイルオンライン。略称GGO。米国と日本にサーバーを置きザスカーなる正体不明の企業によって運営されるVRMMORPGの一つである。発売まだ8か月という若いゲームだが、ミリタリー雑誌で必ずといっても良いほど紹介される、ミリオタと呼ばれる人種ならだれもが知っているタイトルである。最近は一般にも全面的に広告され、ALOに次ぐ今最も勢いのあるゲームタイトルと言われている。
名前からして想像できるとおもうが、プレイヤーは広大な荒廃世界で銃を手に取り撃ちあうヴァーチャルシューティングゲームだ。
月々の接続料が三千円という割高であるのにも関わらず、プレイ人口が着実に伸び続けているのは、ゲーム自体の面白さだけではなく、GGO内の『ゲームコイン現実還元システム』という「ゲームで稼いだ金銭を現実に電子マネーとして還元できる」というシステムと、稀にレアな武器が手に入る事でそれを換金すれば現実世界で数十万という金額が手に入る、というギャンブル性の為である。
それ故トッププレイヤーとよばれる者たちの中にはGGOでの収入だけで生計を立てているものも存在する。コウもそのシステムにあやかり、月収4,5万程度稼いでいた。
GGOの舞台設定は終末戦争で荒廃した世界に宇宙船で戻ってきた人類が過去の遺産に頼って生活しているという設定になっている。ポストアポカリプスや荒廃し、文明が滅んだ世界設定を好むコウにとってGGOというタイトルは彼のストライクゾーンのど真ん中だった。
大学でできたミリオタの友人の紹介でGGOをプレイし始めた昂雅だったが、大好物だったのが吉か凶か、紹介してくれた友人を差し置いて廃人の道を走りつづけている。
GGOのパッケージをそっと戸棚に収納する。ソフトはアミュスフィアを接続しているPCに入れっぱなしである。
昂雅は泣き続ける腹の虫を収めるべく夕食の準備をした。冷蔵庫の余り物を作った簡単な夕食をとり、明日の大学の講義で提出するレポートを書き始める。あまり難しいものではなかったため、コウはレポートをものの小一時間で書き終えた。明日の課題も終え、昂雅は早めの就寝の準備を始める。
歯磨きも済ませ、寝室にやってくると、枕元に置いてあるアミュスフィアをひと撫でして羽毛布団を被る。
―――明日はどうしようか。また荒野で殺しまくろうか、それか今度は荒廃都市部で暴れまくろうか。
そんなことを考えながら、昂雅は意識を手放した。
午前七時。起床アラームの設定時刻ぴたりに目を覚ました昂雅は大学へ登校する準備をした。トーストを咥え気象予報を確認し、大学へ行く服装に着替える。自立の決意を表明するために開けたピアスホールに黒のリングピアスを付け、自慢の黒髪に寝癖がついてないことを確認してバイクのキー、財布、アパートの鍵、教科書の入ったカバンを持って部屋を後にした。
昂雅の住む部屋は都内の高級マンションの一室。昂雅は健康のためにとエレベーターを使わず階段を使って駐車場に降りていった。ワインレッドの単色ペイントのジェット型ヘルメットを被り、同色と黒のグラデーションの昂雅の愛車《MT-25》に跨る。低速でマンションの駐車場出口まで走ると、いつもこの時間帯に顔を合わせる身長185センチほどの同年代くらいの黒髪長髪美人が玄関ホールの自動ドアから出てきた。
おそらく都内の名門女子大の学生であろう。平日ならほぼ毎日出くわすためすっかり顔なじみになっていた彼女に軽く挨拶を交わし、昂雅はバイザーを下すとアクセルを絞って車道に躍り出る。公道を愛車で走って30分。昂雅の通う大学に到着する。
「よーっす昂雅」
「おはようございます、多嶋先輩」
大学の駐輪場にバイクを駐輪し、施錠していた昂雅の前に一人の金髪が現れる。彼は『
どうして昂雅がこんな見え見えの不良に昂雅が絡まれているのかというと、昂雅がこの大学に入学して1週間も経たない内のある出来事が発端だった。
ある日同期の女子学生が多嶋にナンパされているのを見た昂雅は、彼に他人に迷惑になることはやめるように促した。だが、いきなりしゃしゃり出てきた新入生に当然多嶋は激高。昂雅はその場でボコボコにされ、全治2週間の大怪我を負った。多嶋はこの件で謹慎処分となったが、謹慎が解けると学内で昂雅を見かける度に呼び出し金銭を要求するようになった。
事態を穏やかに収束しようと考えていた昂雅は初めの内は要求に応えていたが、金銭要求が1か月も続くとさすがに昂雅の堪忍袋の緒は切れた。
昂雅は多嶋の要求に金銭ではなく拳をはなった。その後は今までのうっぷんを晴らすかの様に一方的に暴行を行い、逆に多嶋は昂雅にむしり取られる結果となった。
その後しばらく、昂雅は学園の問題児を締め上げたヒーローとして一躍有名になった。昂雅と同じように恐喝やカツアゲ行為をされていた学生からは英雄のように持てはやされ、年上の学生からは新学期早々やらかした新星としてみられるようになった。
そして、当の多嶋からは因縁をつけられるようになった。昂雅はほぼ毎日のように絡まれては多嶋を返り討ちにする日々を強いられることとなった。
これは、最初の出会いから1年以上も経過した今も続いている。最近は早朝と放課後の毎日2回ずつ殴り合いの喧嘩をする日々が続いている。
「おはようさん。オラ、こっち来いよ」
そういって多嶋が身を翻し昂雅を2人の専用喧嘩場所として定着しつつある校内の噴水広場に先導する。通行人の学生はごく当然の様に彼らをスルーした。もう毎日のように行われるので、当たり前の景色として見られているのである。
「んじゃ、さっそく始めようぜ」
「わかりました」
広場に到着すると、多嶋は背中に背負う中身のほとんど入っていないカバンを投げ捨てた。昂雅も中の教科書が痛まないようにカバンを下し、互いに向き合い睨みあう。
2人が火花を散らしていると、校舎の方から喧嘩の見物人が窓からひょっこりと姿を見せた。小日向対多嶋、二人の喧嘩はこの大学のちょっとした名物となっていた。中にはどちらが勝つか賭け事を始める者も存在するほどだ。
互いにメンチを切り、多嶋が戦闘の火ぶたを切った。
「らあっ!!」
右の大振りパンチ。そこから左足のミドルキック。
昂雅は毎回見てきた多嶋のコンビネーションを躱すと、その長い足のリーチを最大限活かした右のハイキックを多嶋の顔面に見舞わせた。足の甲が多嶋の顔面を捉え、軽い脳震盪を引き起こす。多嶋は一撃で地に沈んだ。
そして巻き起こる歓声。多嶋を忌み嫌う学生から多嶋へ罵声が浴びせられる。
―――集団心理ってこえーな。
浴びせられる罵倒の大半が多嶋に恐喝されている学生からの者だと察すると、昂雅はそう思うしかなかった。カバンを拾い、泥を払い、構内へと入っていく。去り際、昂雅の舌打ちを聞いたものは誰もいなかった。
昴雅は腕っぷしはそこそこ強いほうだ。
彼が最初に他人に暴力を振るったのは小学5年生の時。大人しく、真面目だった昂雅はいじめっ子にとって格好の標的だった。繰り返される暴力に、夜な夜な枕を濡らす日々。そしてとうとう昂雅は切れた。集団での暴行だったにも関わらず全員を返り討ちにし、いじめの主犯格は昂雅によって鼻の骨を折る重傷。当然大問題となった。
その後昂雅は中学に上がった。人も環境も変わった新たな学校生活に昂雅は胸を弾ませ、小学校時代とは打って変わって毎日楽しそうに生活していた。
しかし、そこに訪れた両親の離婚。思春期に差し掛かっていた昂雅は深く傷付き、自分の居場所がなくなっていくのを感じるようになると根底にへばりついていた寂しさを拳に乗せるようになった。
夢に見た楽しい中学生活は、喧嘩に明け暮れる日々となった。
いつしか昂雅には喧嘩に措いて右に出るものがいなくなっていた。3年になった頃には全校生徒数百名を締める番長となっていた。
そして昂雅は高校生になった。そしてそこで出会った一人の男に、昂雅は初めて喧嘩で負けた。何度挑んでも、そのたびに返り討ちに遭った。その後、完全にそいつに打ちひしがれた昂雅は鳴りを潜め、勉学に励む様になった。
そして、昂雅は大学生になった。一度は牙を無くした昂雅だったが、多嶋に出会ってその内に秘めたる野性を見せるようになっていた。
放課後、サークルに顔を出すついでに多嶋を倒して、昂雅は帰路についていた。
マンションの共同駐車場に《MT-25》を留め、自宅に戻る。防寒具のネックウォーマーとグローブを脱ぎ、ジャージに着替えると昂雅はコーヒー片手に一息ついて寝室のベッドに横たわった。PCに接続されたアミュスフィアを被り、暖房を入れて仮想世界へ飛び立つ準備を整える。
アミュスフィアの電源を入れ、接続されたPCからGGOを起動する。
「リンク・スタート!」
仮想世界に飛び込む魔法の言葉を唱え、昂雅は、GGOの『コウ』としてSBCグロッケンのアスファルトに降り立った。
閲覧ありがとうございます。作者はあまり銃の知識に詳しくないので、拙い箇所もあるかもしれませんが、ご了承ください。
時雨沢恵一先生のSAOオルタナティブGGOSJをみて創作意欲が掻き立てられたので思い切って書いてみましたが、どうだったでしょうか。まぁ、大したものじゃないですがね(笑)
僕のもう一つのSAO小説にも、コウは登場する予定です。GGO編はまだまだ先ですが、気ままに執筆していきたいと思います。できるだけ偏りがないように、更新できるよう頑張ります。