SAO:Alternative GGO 黒影の銃撃主 作:SCAR And Vector
機械獣が吼え、コウとレンは敵の攻撃を纏めて喰らわない様左右に散開した。
2人は機械獣を挟み込む様に位置取ると、それぞれの相棒の引き金を絞り、自分が持てる最大火力の弾丸を機械獣に叩き込んだ。
クエストボス「アンティークギア・ウォッチドッグ」が現れる、この再奥エリアは半径50メートルほどの広い空間になっている。今まで通ってきた通路から、そのまま真っ直ぐ行けば頑丈そうな鉄の扉があり、ここが正念場だと言うことはコウはゲーマーの勘で理解していた。ドーム状のボス部屋の奥にはシェルターが存在しており、きっとそこにクエストの最終目標である「財」が積まれているのだろう。
しかし、それを手に入れるには相応の苦労が迫られる。この機械の番犬が立ち塞がっており、それを打ち破らなければならない。
コウは強敵と対面し、身体が熱く興奮を覚えて居ることを実感し、弾倉を撃ち尽くすまで引き金を絞っていた。
機械獣も2人の射撃にされるが儘では済まさず、2人が計100発程銃弾を撃ち込んだ辺りで攻撃を仕掛けてきた。
こちらの方がDPSが高い所為なのか狙いはコウにつけられ、機械らしくサスペンションやスプリングを用いた跳躍で機械獣はコウに向かって突撃する。
全長3メートルはあるであろう巨体に踏みつけられれば重傷は免れない。コウは危険を察知し、三歩助走をつけて飛び前転(ローリング)で機械獣の踏みつけを回避した。だがそれに留まらず、機械獣は再び跳躍した。最初よりか溜めが少ないのか跳躍の高度は低かったが、その分スピードが早く、コウは射撃の手を完全に止めて回避に専念した。だが三度目のタックルは避けきれず、左肩を機械獣の前脚、ブレードで造られた爪に引っ掛けられ回転しながら吹っ飛んだ。
「ぐあっ!」
固い床に身体を打ち付けられ、口から嗚咽が漏れる。ダメージは低く、体力はまだ緑の安全域だが2割以上減らされている。掠っただけでこれなので、直撃を喰らえば1発で赤の危険域まで減らされるだろう。
「くっ!レンちゃん!今の攻撃は食らうな!」
コウは大声で注意を呼びかけ、攻撃を再開する為に体勢を立て直した。コウが回避に夢中になっている時も、レンは持続的に射撃を続けてはいたが、いかんせん9ミリの小口径弾ではそれらしいダメージは与えられないのだろう。機械獣のHPバーの減少は微々たるものだ。
きっと外装が弾丸の貫通を妨げているせいだ。どうにか外壁を引っぺがしてダメージを増やしたいが、力付くで剥がすには接近する必要もあり、それには多大なリスクが伴う。
そんな思考を巡らせていると、機械獣の前脚の付け根を覆う鉄鋼版が開いた。自分の思いが届いて装甲板をひっぺがしたのだ!と思いたかったが、そんな夢物語みたいに物事がこちらの有利に進むはずもなく、開いた装甲板の箇所から小型ミサイルの赤い弾頭が顔を見せた。
「やっば!」
初めて見る敵の、初めて見る攻撃の予備動作だったが、コウの頭には警鐘が鳴り響いていた。
そして、何かに点火される音が聞こえ、小型のミサイルが射出口から飛び出した。
こちらに向かって飛翔するミサイルを見て、コウは全速力で駆け出した。自分の敏捷値で出せる最大のスピードで走り回り、襲来するミサイルの直撃を防ぐ。
全速力で走り出し、すぐ後ろで爆音が轟いた。幸いダメージは発生しなかったが、爆風が加速を後押しして激しく転倒してしまい、再びピンチに陥ってしまう。
コウは追撃を覚悟したが、機械獣は攻撃後の技後硬直で動けないのか動かないのか、追撃する気は無いようだった。コウはさっさと立ち上がり、装備欄を操作してロードアウトを変更する。
手に持っていたVectorとベストのVector用マガジンが入った3連マグポーチが消失し、新たにアサルトライフルマガジン用の4連マグポーチと、コウの愛銃SCAR-Hが実体化する。
装備を変更したのはVectorに使用する.45ACP弾より、SCAR-Hに使用する7.62ミリNATO弾の方が貫通力と威力が高いため、機械獣の装甲板を貫けるのではないかという判断に至ったからである。
どうやらその判断は正しかったようで、装甲板に明確な弾丸が貫通した痕が見えた。電気経路を直接傷付けられた為か、ダメージもそれなりに増え勝利の可能性が大きくなったのを実感した。
コウは趣向を変え、装甲板と装甲板を繋ぐつがいの部分に狙いを澄まし銃撃を加えた。ダメージを効率的に稼げないレンの為に装甲板を剥がし、内部をむき出しにするのが狙いなのだ。
「レンちゃん!俺が装甲板を外すから、そこに向かって射撃するんだ!」
「わかった!」
だが、そうは問屋が卸さない。機械獣は背中のタレットを起動させると、高レートの連射で攻撃してきた。生身の人間なら即蜂の巣だろうが、ここは仮想世界。射撃の手を止め、全速力で走り回ることでどうにか銃撃は回避することは出来る。
数秒後に銃撃が止むと、コウはレンに援護を頼み腰のグレネードポーチからプラズマグレネードを2つ取り出し連投した。放たれたプラズマグレネードはタイミングよく機械獣と接触直後に爆発し、青白い衝撃波を拡散させる。大幅に減少するHPゲージが、プラズマグレネードの威力の強大さを物語っていた。さらには装甲板を弾き飛ばし、中身のケーブルや電気回路を露わにした。コウは勝利の可能性が広がった事に喜びを感じており、同時に勝利を確信していた。
そこからは簡単だった。レンと共に出来る最大火力で装甲板が剥がれた弱点に弾丸を打ち込むだけだ。200発近く撃ち込んで、3本あるゲージのラストに差し掛かると、コウはレンに最後の作戦を伝えた。
「レンちゃん!俺のフラグを渡すから、それを奴の弱点に放り投げるんだ!」
「えっ!?で、でも!」
「大丈夫!レンちゃんなら被弾しない!絶対出来る!俺が援護する!」
「わ、わかった!!」
威勢のいい返事が返ってくるや否や、コウはピンは抜かずに、残った最後のフラググレネードをレンに投げ渡した。
「行って来い!レンちゃん!」
レンは飛んできたフラグをキャッチすると、機械獣の背中のタレットの射撃が止まるのを待った。
ドドドドドドドドドッ!
飛来する鉛の弾丸が、レンが潜むコンクリート製の掩蔽物を削って行く。角張っていたシルエットは次第にボロボロになって行き、陰に隠れるレンを掩蔽物ごと撃ち貫こうとひっきりなしに飛び交っていた。
戦闘のパターンから、タレットによる射撃時間は5.6秒。更に2秒弱の調整を加え、精度を上げた射撃が3秒続く。その後は、タレットの銃身の熱放射期間に入り、50秒は射撃できない。レンが狙うはその50秒だった。100メートルを10秒切って走りきるレンの脚力なら充分に間に合う距離である。
レンは機を逃さまいと、刻々と迫るその瞬間を待ち構えた。
何千発と放ってきた銃口から、最後の1発が飛び出した。射撃による銃身加熱で銃口から煙が細く立ち昇る。
レンは遮蔽物の陰から飛び出し、真っ直ぐ最短距離で機械獣に向かって走り出した。機械獣は右前脚の爪で迎撃を図ったが、ブレードで構成された爪が小さな体躯を捉える寸前にレンは地面を蹴り跳躍した。
レンは空中で機械獣の鼻先を踏ん付けさらに跳躍する。そしてそのまま空中で手榴弾のピンを抜き、装甲板が剥がれ露わになった電子回路に投げ込んだ。
そして、その5秒後に轟音が轟いた。機械獣は身体を大きく捩らせ爆発による衝撃で吹っ飛んだ。
「やったぁ!」
「レンちゃんナイス!」
レンは爆発の一部始終は見届けず、小走りでコウのもとまで移動する。
今の衝撃で新たに装甲板が剥がれ落ち、残ったHPも半分を切った。コウはレンの功績を称えると共に、鉛玉を剥き出しになった電子回路に撃ち込んで行く。機械獣は防御こそ堅いものの、装甲板を剥がして仕舞えば撃破するのは容易くなる。図体がデカいので狙いも付けやすいし、動き回ったりもしない為弾薬と多少のプレイヤースキルさえあれば誰でも倒せるだろう。
それから大した時間はとらずに、機械獣はレンの放った最後の1発によりポリゴン片となって霧散した。
古代の財宝を死守して居た番犬が消滅したことでクエスト行程が一つ進み、霧散していたポリゴン達がまた一つの塊に凝縮され、ラストアタックを決めたレンの手元にアイテムとして復活する。
「カードキー・・・だね」
「うん。それで奥のシェルターが開けられると思う」
2人は番犬が命を賭して護ろうとしていたシェルターに近づき、ドロップしたカードキーを使って自動扉のロックを解除した。シュッと軽快な稼働音を立て扉が開く。どうやら長い間放置されていたが、動作に影響はないようだ。
「お、あれだな」
六畳ほどの小部屋の奥に、厳重にロックされたケースが置いてある。コウは近付き、中身を取り出す仕組みを探る。正面の鍵がバーコードの読み取り機のような形状をしているので、きっともう一度カードキーを使うのだろう。
コウはレンからキーを受け取り、フチに描かれていたバーコードを読み取らせた。
ピピッと可愛らしい認識音が鳴り、赤いランプが緑色に切り替わった。レンの方を見やると、彼女もゴクリと生唾を呑んで頷いた。コウは脳内に宝箱を開ける時の定番のテーマを響かし、勢いよく箱を開ける。
「おおっ!」「おっ!」
中に入っていたのは縦25センチ、横10センチ程で断面が台形のテンプレ通りな純金のインゴットだった。それが縦3列横2列に並べられ、さらにそれが三段に積み上げられている。
「成る程な、換金アイテムって訳」
「でも何で金?」
確かに、このサイズの純金となるとそこそこのストレージ容量を圧迫してしまうだろう。純正な金と言うのは重いのだ。どうせならクレジットカードや小切手みたいな感じですぐクレジットに出来ればどれほどストレージ的にも労力的にも楽だっただろう。そう思ってからそこ、レンは素朴な疑問を抱いた。
コウはレンのちょっとした疑問を汲み取り、ある1つの仮説を提唱した。この財宝の持ち主が居ない為、真意は闇の中なのだが、なぜ純金のインゴットにしていたのか。
恐らくだが、小切手や現金など紙のままで保存しておくと、地上で起きた核戦争によって万が一にも消失してしまう恐れがあったからだろう。紙は耐久性が低いので、破れたり燃えたりしたらその価値が無に等しくなってしまう。
対して、インゴットとして残しておくとどうだろうか。金という物質そのものに価値がつくインゴットなら、もし衝撃で砕けたりしても価値が損なわれることは殆どないだろう。金なら燃えることは無い。
さらに言えば、時代によって通貨が変化した時でも(その時代での相場によるが)換金する事で再利用が効くという利点もある。これらの点を考慮し、この財宝の所有者はインゴットにして保存しておいたのだろう。
「ナルホドね〜」
コウの解説を拝聴し、レンは素直に納得した。
「確か金の相場は1kg1000クレジットかそこらだった筈だから・・・」
脳内で利益を計算しているコウを尻目に、レンは現実じゃ殆ど目にかからないであろう金塊を掴んで持ち上げようとした。
「重っ!!」
昔観た怪盗アニメの主人公を真似して見ようと思ったが、レンはあまりの重さに驚きを露わにした。
「金って意外と重いんだった・・・」
レンは化学で習った物質の比重の関係を思い出した。腰を落として踏ん張り、小さなアバターに比例した小さな両手を使って持ち上げる。自身のポイントを敏捷値に殆ど振っているので筋力値は殆ど無いと言ってよろしく、小さな体で胴体の半分程ある金塊を抱えるので精一杯だった。
「金の比重が19.32。インゴットの体積が軽く見積もって2000立方センチメートル程かな。トドのつまり重量は1つ約40キロ弱。アニメや漫画じゃ軽々と扱ってるけど、実際は片手で持ち上げるのさえ難しいんだ」
金塊の重さを支え切れずよろめいたレンを受け止め、コウは少しばかりの解説を挟んだ。
「まぁ、仮想世界じゃ筋力にパラメータ振っとけばこれぐらいへっちゃらなんだけどな」
小口径、軽量サブマシンガンを扱う素早さ一極のレンとは違い、凡ゆる戦況に対応する為に普段から多種多様な弾薬、爆薬、ツール、小銃を所持しているコウにとっては金塊を持ち上げる事など赤子の手をひねる様なものだ。
そもそも、弾薬や銃火器込みで総重量70kgを越えるコウが戦闘時にアスリート並みに走り回れるのも筋力値が相応に高いからでもある。
「じゃ、ストレージに仕舞って、さっさと引き上げようか」
「了解!」
合計480kgもあるインゴットを2人で分配してストレージに収納し、2人はクエストクリアによって拓かれた出口を使って地上に戻った。
「流石に4つも入れてると制限かかるな・・・」
「まぁまぁ、万屋まであと少しだからさ。頑張ろ?」
LGシロフォンで唯一の換金所へ向かう道中。2人は案の定容量超過による速度ペナルティを喰らい徒歩で万屋まで移動していた。モンスターやPKに襲われる事は無いため無理に急がなくても良いのだが、其処は儲けを逸るゲーム魂が邪魔をして、ついつい走り出そうとしてしまう。
「まるで夢の中で追い回されてる時みたいだ・・・」
「あー・・・わかるよその気持ち。あの、私ってこんなに脚遅かったっけ!?って夢の中でパニックになる感覚だよね」
「まじそれな・・・」
走りたいのに走れない。走ろうとしても脚がゆっくり動作する。そんな誰もが夢の中で体験した事はあるだろうもどかしさを巧く表現してくれたレンに、時代遅れなフレーズを使用してしまった。
「ところで、コウちゃんの想定じゃどの位の値段になるの?」
目的地まではもう少し時間がかかりそうなので、レンは逸る気持ちを抑えて話を振った。コウは走るのも諦め、地道に脚を動かしていた。
「ひとつ40キロが12だから、相場は1キロ1000クレジットと仮定して・・・総額48万クレジットかな」
「おぅ!そんなに?」
「内訳だけど、クエストの紹介代もあるしレンと俺で6:4でいいよ」
「ということは、28万!?そんなに!?」
レンは自分が始めて得る多額のクレジット(推定)に目を見開き驚愕した。シロフォンへ向かう最中に破損したレンタルバギーの修理費もコウが賄ってくれるらしいので、コウのお言葉に素直に甘えさせて貰った。28万もあれば当分の弾代やアイスティ代も心配無いだろう。
「コウちゃん、今日はありがとね」
「いいよ、全然」
きっとこのクエストをソロでクリアするのは不可能だっただろう。今回、誘ったら快く同行してくれて一緒にクリアしてくれたコウに、レンは感謝の言葉を告げた。
「そんじゃ、最後のメインイベントに行きますか!」
「おう!」
そうこうしている内に辿り着いた万屋に入り、2人は480キロ分の純金を万屋に売りつけるのだった。
お久しぶりです。随分長いことサボっていてすみませんでした。原作の新刊を読んでモチベーションが再燃したので自然鎮火しないうちに執筆致しました。このままモチベを維持しつつ、他作品の執筆も進めたいですね(願望)