SAO:Alternative GGO 黒影の銃撃主   作:SCAR And Vector

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久しぶり

 コウがグロッケンに降り立ち、射撃場で練習を開始してから1時間。コウは射撃の手を一旦止め、小休止を挟もうとしていた。愛銃をストレージに仕舞い、射撃レーンを離れて下のフロアのカフェに移動する。心安らぐウッディな内装をえらく気に入り、初めて来店してから週に一度は必ず来ているGGOの常連の店だ。コウは店内に足を踏み入れるや否や、すぐにカフェの1番奥のひとり客用のテーブルに座った。通路を行く通行人が目に入ることもなく、一人きりのスペースを確保出来るこの席は休憩するのに丁度いい。誰にも邪魔されず、彼は1人の時間をゆっくり気ままに過ごした。

 

 10分程が経った頃。コウは左手の人差し指と中指を縦に振って、メニューを呼び出した。ちりりんと軽やかな鈴の音とともに黒地のメニューウィンドウが実体化する。そして10個程並ぶ項目の中からスキルのタブをタップ。2枚目のウィンドウが実体化し、コウはそれを操作した。

 

 他のVRタイトルと同じく、GGOにも戦闘を有利にするためのスキルは存在する。例に軽業(アクロバット)スキルであれば、敏捷値や筋力値などに応じてアクロバットなアクションが取れたり、小さい足場から足場へ次々と飛び移ることが出来る。《軽業》スキルを使う戦法として模範的なのは、ペイルライダーというプレイヤーが一番最初に思い当たる。彼はそのスキルを駆使し、銃弾を避けながら接近、至近距離からショットガンをブッ放す戦法をとり、彼と一戦交えた経験があり今も交流を持つゲンジからはまるで弾が当たらず気がつけば銃口を突きつけられていたと評されていた。

 

 使い熟せれば凄まじく強いスキルだが、いかんせん他のファンタジー物とは違い、普通は接近するまでに撃ち殺されるのが関の山である。ペイルライダーの様にその道に習熟した者ならいざ知れず、スキル熟練度をマスターするまで時間が掛かるため、コアなプレイヤーにしか使えない難儀なスキルでもある。コウも流石に使いこなせないと取得を諦めたプレイヤーの1人だ。

 

 そもそも『スキル』には大きく2種類に分けられ、『武器カテゴリースキル』と『サポートスキル』がある。前者は文字通りにカテゴリ毎に熟練度が存在し、通常銃を使うときはその使用する武器にあった武器カテゴリースキルが前提となる。熟練度が上がると反動が抑えられたりより高ランクの銃器を扱えたりなどといった恩恵が受けられる。殆どのプレイヤーは1つはそれを取得していて、飽きるまでそれを使い続ける。かく言うコウも、《突撃銃》《短機関銃》《狙撃銃》《拳銃》を所持しており、メインウェポン系のスキルを複数所持している異例のビルドである。

 

 そして、後者のサポートスキルとは、現実では到底出来そうにない行動を電脳世界で擬似的に再現するために存在する力のことである。逆を返せば現実で出来ることはヴァーチャルでも再現可能と言うことであり、運動神経が良ければ不自由もないのだ。だから、殆どのGGOプレイヤーは人間には不可能な超人的能力を再現できるスキルを習得する。

 

 例えば《鷹の目》。別名イーグルアイと言われるこのスキルは、発動すると一定時間超人的視力を得ることが出来る。遠くを見渡して索敵をしたり、弾道予測戦をより早く感知できたりと使用用途は様々だ。

 

 他にも近距離の敵を察知出来る《第六感》スキル、景色と同化することで敵から認識されにくくする《隠蔽》などがあり、プレイヤーによって十人十色のスキル構成が存在する。

 

 また、生産系スキルもあり、《弾丸製作》や《爆薬生成》、銃技師(ガンスミス)などがある。これらは設計図を入手し素材を揃えることで物品をクラフト出来たり、カスタマイズを付け加えたりが出来、中にはハンドメイドの銃を売っている店もある。自作の銃は基本的に全体のパラメータが、フィールドドロップのそれより高く設定されており、手間暇かけて上質な武器パーツを集めればよりハイスペックなモノを作ることが出来る。

 これらのスキルはキャラクターのレベルが上昇していくにつれて追加されるスキルスロットに選択することで取得出来るのだ。

 

 コウは自分のスキルスロットに並ぶ各項目の詳細を確認した。

 現時点でコウが習得しているスキルは、≪突撃銃≫≪短機関銃≫≪狙撃銃≫≪罠製作≫≪解錠≫≪投擲物作製≫の6つ。あらゆる状況に対応する為の、器用貧乏スタイルに最適化されたスキル構成だ。

 近距離なら短機関銃、中距離なら突撃銃、遠距離なら狙撃銃と三者三様に使い分け、罠を使って待ち伏せし、閉ざされた扉やアイテムクレートも開くことが出来、投げナイフ等の投擲物で特殊な戦いをすることもできる。

 

 コウは各項目のスキル熟練度を確認すると、カフェのカウンターに赴きNPCのマスターにオーダーを頼んだ。慣れた手つきで注文を終えると通行人の妨げにならない様、傍に移動する。まもなく注文したアイスカフェラテが出来上がり、それを受け取るとまた先程の角の一角を陣取りに行く。ガムシロップを3つも投入しストローでかき交ぜる。ガラガラと氷が擦れる音がして、コウはストローから一口啜った。途端、仄かなコーヒーの薫りと確かなガムシロップの甘さが口腔に広がる。それと同時に、仮想の味覚を味わう事で、現実でもカフェラテが飲みたくなる衝動を覚えた。

 

 コウが少ないフレンド欄を茫然と眺めながらカフェラテを啜っていると、ある1人のプレイヤーがログイン状態となった。そのプレイヤーの名はソウマ。コウの所属するスコードロン『インヴィジブル』の最期の1人だった。

 

 

 

「よう。久しぶりだな」

 

 コウの指定した待ち合わせ場所にやって来た1人の青年は、右手を軽く揚げ挨拶を交わした。

 お気に入りスポットの1つ、展望台公園のベンチに腰掛け缶ジュースを煽っていたコウは、青年がやって来たのに気付くと、残りを全部飲み干し挨拶を返す。

 

「やぁ、ソウマ。久しぶり。元気だった?」

 

 コウが尋ねると、花紺青色をした髪色の青年、ソウマは肩を竦めてみせた。

 

「なに?教えてくれないワケ?」

 

「教える迄もないってコト。受験勉強でいっぱいいっぱいだよ」

 

 コウがいじらしそうに訊くと、ソウマは飄々とした態度で答えを返しコウの隣に腰掛けた。

 

 ソウマは、コウがインヴィジブルに入るよりも後に始めた後輩プレイヤーである。当時、バリバリの初心者だったソウマを街で見かけたゲンジが誘ったのがキッカケでスコードロンに所属し、インヴィジブルの中で1番若かったコウにして見ればはじめての後輩だった。その為、コウは彼を可愛がり、実年齢が同世代という事もあって仲が良くなるのはそう難しくなかった。

 

 ソウマは受験生な為、最近はあまりゲームの時間が取れないそうだが、稀に時間に余裕がある時はこうやってダイブしているらしい。平日は夜にしかインしないコウとは時間帯が重ならず、久方振りの再会だった故、2人の談笑は長く続いた。

 

「そっか、じゃあ志望大学には受かりそうなんだ」

 

「ああ。俺はコウさんと違って頭の出来が悪いからギリギリのラインだけど」

 

「ははは、確かに入るのは難しいが、入ってからは楽になるよ」

 

 他愛ない世間話や、マナー違反にならないレベルでコウの大学生活の話をしてる内に、早々と時間は流れ、ソウマのログアウトの時間が訪れた。

 

「あー、俺もうそろそろ落ちなきゃ。明日もダイブするから、次は勉強で分かんない所教えてくれ」

 

「そうか。じゃあまた明日」

 

 別れは名残り惜しかったが、ソウマとはまた明日も話せるだろう。コウは現実世界に戻るソウマを見送った。

 

 1人公園に佇み、少し心細くなって、コウは指を振った。仮想世界とグロッケンの街並みに別れを告げ、コウはソウマの後を追う様に仮想世界を抜け出した。


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