SAO:Alternative GGO 黒影の銃撃主 作:SCAR And Vector
昂雅がコウとしてGGOにログインすると、先にログインしていたらしいリーダーのゲンジからメッセージが届いた。どうやら今日はナガンも連れて荒野で対人戦闘をするらしい。GGOの花形と言っても過言ではない対人戦闘に、ナガンも楽しみにしていると追記があった。
コウはさっそく公共利用可能な二輪バイクを拝借して集合場所のいつもの酒場に向かう。車と車の間を縫うようにアクセル全開で疾走し、目的地までひとっ走り。GGOにはALOなどのようにワープ系の施設や道具は存在しないので、長距離移動にはビークルを使うのが一般的だ。そのため各所に交通手段として利用可能なバギーや四輪自動車が置いてあり、プレイヤーは各々の運転技術をもって移動する。また、クレジットさえあれば個人車両として種類は少ないが軍用車両も購入できるため、これもGGOの魅力の一つと言える。
コウも広大なマップを誇るGGOを走破するためにオフロードの二輪バイクを欲しがってはいるのだが、いかんせん所持クレジットが足りないため購入は遠い先のことである。
数分バイクを走らせ、集合場所の酒場に到着すると、ゲンジ達を見つけてそこに駆け寄っていく。
「おおっ!?ガイさん!」
コウはお馴染みのメンバーの輪に居た顔見知りのプレイヤーをみて思わず叫んだ。
「よぉ!コウ!元気だったかー?」
ガイと呼ばれたプレイヤーは、中堅としての実力がついてきた頃の昔のコウを今のスコードロンに勧誘した古参プレイヤーである。その熊のように筋肉が隆起した体躯にふさわしくショットガンで先陣を切る純ポイントマンであり、コウが今のポジションに落ち着くまで組織のポイントマンを務めていた。最近までリアルの友人からの誘いでALOにコンバートしていたのだが、そのリア友が用事でしばらくALOにログイン出来なくなった為、少しの間だけだがGGOに戻ってきているらしい。
「えー、ガイさんALO戻っちゃうんですかぁ?」
コウが不満そうに述べると、ガイはそのごつごつした大きな右手でコウの背中をばんばんと叩き上げた。
「まぁそういうなよ!少なくとも2週間はGGOいるからよ!」
「あ、じゃあ今から久しぶりに対人しませんか?この新人のナガンさんの練習次いでに」
「おお、いいねぇ!」
ガイはコウの提案に賛同してくれた。一時期はその高い耐久性から不死身と畏怖されたガイが行動を共にしてくれるとなると、頼もしいことこの上ない。コウはポイントマンとして尊敬し、良き友人として慕うガイが一緒に戦ってくれることが嬉しく、思わず顔が綻んだ。
いつもの3人プラスアルファのゲンジ、コウ、ゼンそしてガイ、ナガンの一行はいつもの荒野に向かった。奇襲に適した岩場に陣取り、おのおのの武装を実体化させる。
ガイはコンバート以前にゲンジに預けていた装備一式を受け取ると、それらを身に纏った。そして愛用していたショットガン《MPS AA-12》を構える。
ガイの使用するAA-12には従来のアサルトライフルのような箱型弾倉ではなく大容量のドラムマガジンが装填されており、銃身下部のアンダーレールにはフォアグリップをつけたカスタム品だ。
AA-12は12ゲージの散弾を使用するフルオート機能を持つ散弾銃である。AA-12の特徴はコントロールの容易な適度な連射速度と低反動にあり、長大なリコイルスプリングを用いる「コンスタント・リコイル」という技術により、片手でも射撃が可能なほどの低反動を実現している。
さらにスタンダードなバックショット弾やスラグ弾、特殊弾薬「FRAG-12」といった多種の散弾が使用可能であり、ガイは各種弾薬をシェルポーチに装備している。
「久しぶりだなぁ、相棒」
懐かしのAA-12の銃身を撫でると、ガイは歴戦の戦士の如く様になっていた。
逆立てた短い白髪と褐色の肌に、頬の傷がいかにもかつてはエリート兵士だったかのような風格を漂わせる。
「おい、来たぞ。戦闘準備」
双眼鏡で偵察をしていたゲンジの号令で、コウたちインヴィジブルのメンバーは各々の武装を担いだ。コウはカーキ色に塗られた《SCAR-H》を、ゼンは相棒のDMR《ナイツ SR-25》を、ゲンジは《M40A1》を、ナガンは《MG4》を、そしてガイが《AA-12》を構える。
各自弾薬を薬室に装填し、小高い金属音が連鎖する。
ゲンジは後方でバックアップと現場の指揮を執り、ゼンとナガンは中距離からの援護射撃を、そしてコウとガイが前衛として攻撃する。実にバランスのとれた編成で、思わずコウは戦える、銃を撃てるという喜びを噛みしめた。
敵影が近づいてきたことで、彼らはすぐさま遮蔽物となりうる岩陰に身を潜めた。唯一後方で伏せているゲンジだけが身を晒している。ゲンジは可変倍率スコープの最低倍率で周囲の警戒と敵戦力の諜報を行っていた。
「はっはーん奴さん、やりやがったなぁ」
無線越しにゲンジの声が響いた。だがそれはいつもの陽気なものではなく、してやられたと苦悶の表情が声だけでも伝わるほど曇った声だった。ゲンジの偵察によると、今回の敵は先日襲ったものらと同じらしい。だが今回ばかりは桁が違った。発見当初は数名かと思われた彼らだったが、次々と車両とともに人員が増加。おそらく、コウら『インヴィジブル』に襲われた者たちによって構成された討伐隊か何かだろう。
ほとんどが実弾銃で武装し、現状最強装備で身を固めている。
「うげ、これはメンドイ・・・」
GGOはフィールドで巡り合えば銃撃戦が始まるゲームだが、今回ばかりはコウたちの奇襲という姑息な戦い方に被害者はしびれを切らしたようだ。
単眼鏡で見える者たちの表情が憤怒で構成されているのが最大の証拠だ。
討伐隊の面々の武装は多種多様であり、アサルトライフルに始まり軽機関銃まで様々だ。並みのプレイヤーならここまで大勢のプレイヤーから反感を買っていたならきっと暫くことが収まるまでログインしないだろう。それほど恐ろしい光景だが、彼らは違った。
「でもまぁ、殺せるからいっか」
カーキ塗装の突撃銃をもったコウは口元を歪ませ獰猛な笑みを浮かべそう呟いた。まるでこれから惨殺を行うシリアルキラーのような笑顔は、子供には見せられないだろう。きっと大泣きされて通報されるに違いない。
コウの頭の中には、これだけ大勢の人間を撃ち殺せるという非情な喜びと勝利時に得られるクレジットへの期待で埋め尽くされていた。
「フン、人をそろえれば勝てるとでも思っているのか?」
そう誰に言ったわけでもない呟きを漏らしたのはDMRの引き金を引くのを今か今かと待ち構えて岩陰に潜むゼンだった。彼の紅色の瞳が、危険に紅く光って魅せた。
「はっ!久しぶりの銃撃戦か!滾るぜぇ!」
ガイは、久方ぶりに愛銃を握ったせいか少し興奮気味にそう言った。まさかのストレージからもう一丁《AA-12》を取り出し、銃床を脇に挟む形で固定する。
これはガイが本気の戦闘を楽しむ際に行う戦闘スタイルである。低反動故に片手持ちが出来るAA-12だからこそ出来る芸当であり、ガイがAA-12を愛用してきた最大の理由でもある。
筋肉隆々の体にショットガン二丁持ちはさながら昔の洋画の主役だったサイボーグそのものであり、ただでさえ強面で図体のデカいガイの威圧感に更なる拍車がかかる。一時期毛皮の防寒コートを着ていたころに「銃を持った熊が現れた」と噂されMMOニュースに大々的に取り上げられる結果になったのも頷けるだろう。
「すごい、こんだけの数、撃ち殺せるんだぁ!」
感激にも似た感想を述べたのはコウから少し離れたところで腰位の高さにバイポットをたてて待機していたナガンだった。メンバーには話していないが据え置きのFPSゲームで世界ランク一位を不動の座としていたナガンも立派な廃人ゲーマーであり、この圧倒的に不利な状況でも余裕の表情をみせていた。
幾度となく世界大会で好成績を残していたナガンにとっては初めてのVRガンゲームだが、自分の腕に確固たる自信を持つナガンは土俵は違えど立派に戦って見せるだろう。
「はぁ、まったくお前らみてーな人種は…まぁ、俺も殺してやりたくて堪ンねぇんだがな!」
スコープを覗くゲンジは呆れた様子を一瞬見せたが、ぱっと表情が切り替わり四人と似たような笑みを浮かべた。スコープから覗くゲンジの瞳孔見開いた瞳をみれば、だれもが怖気づいてしまう怖気づいてしまうことだろう。
彼らの内に秘められた野獣が牙を剥く。肉食獣に彼らを一人一人例えるならば、コウは蛇、ガイは熊、ゼンは鷹でナガンが獅子、ゲンジは虎と言ったところか。
一度得意分野となれば人が変わる人間はいるが、間違いなく彼らも戦闘狂と呼ばれる人種であろう。一見人畜無害なのんびりチームと思わせて、いざ蓋を開けてみたら戦闘狂で頭のヤバい奴らしかいないのだから相当タチが悪い。
「お前ら、よく聞け」
ゲンジは仲間に立案したばかりの作戦を無線で伝えた。これから起こりうる大虐殺の詳細を聞き、コウは危険な殺人衝動に火が点いたのだった。
「おい!インヴィジブル全員!どうせそこにいるんだろ!今なら土下座と賠償金で許してやるから大人しく降伏しろ!」
コウたちが潜む岩場から距離をとって防弾シールドを間に置いた状態で、討伐隊の隊長と思われる大男が無血開城を叫んだ。もちろんコウたちは迎え撃つつもりでいるので、その案に乗る気はさらさらない。
「あいにくですが、俺たちのやりかたも立派なプレイスタイルですよ?見当違いにも程がありますね」
コウは岩陰に隠れるのをやめ、銃を構えて警戒する公衆の面前に躍り出た。そしてそこに居合わせる50人は下らない隊員全員に喧嘩を吹っ掛ける。もう売り言葉に買い言葉で、そのばは喧噪と野次で収束がつかなくなりつつあった。
「だからって!こんなやり方ズルいだろ!正々堂々と戦えよ!」
討伐隊のアサルトライフル使いが叫んだ。彼の言い分は駄々をこねる子供の言い訳のようで、コウは何より「正々堂々と戦え」の部分にカチンと来ていた。
何が正々堂々だ。5人少々のスコードロン相手に10倍近くの人海戦術で挑む輩に言えたものか。
コウは不敵な笑みは絶やさなかったが、蛇のように前方の50人全員を1人で丸のみしてしまいそうな殺気を放ち続けていた。
まだだ、まだ。耐えるんだ。
コウは今すぐ自分に向かって銃口を向けバレットラインを照射する眼前の50人を愛銃の《SCAR-H》で撃ち殺したい衝動を必死に抑え込んでいた。もう少しなのだ。こいつら討伐隊50人を一網打尽にするまで。もう少し。あとちょっと。嗚呼、殺したいな。殺したい。殺して殺して殺したい。嗚呼。殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい。
沸き起こる銃殺衝動を、コウは限界ギリギリで押し殺した。そして聞こえた、ゲンジからの準備完了の報告。
これが皮切りとなり、コウは笑みを解いて目を見開き吠えた。
「じゃあ、正々堂々、戦ってやろうじゃねぇの!!!」
直後、上空から無数の雨粒が降り注いだ。当然、それは渇いた荒野に訪れた恵みの雨ではなく、鉄の大粒の雨だった。
「んなっ!?」
この場に居た討伐隊の面々に後からこの時の心境を尋ねてみれば、みな口々にこう答えるだろう。
―――これのどこが正々堂々なのかと。
きれいな放物線を描いて飛んできたそれは、討伐隊の集団中央に吸い込まれるように落下していき、やがて荒野の渇いた大地に着弾した。そして着弾とほぼ同時に轟いた轟音。後方で控えるゲンジの最終兵器、6連発型軍用リボルビング・グレネードランチャー《MGL-140》の曲射による迫撃だった。《弾頭カスタム》スキルで作られたオリジナルの高威力手榴弾頭が着弾と同時に炸裂し、荒野に土煙を登らせる。
そして、不意打ちの攻撃に混乱した彼らに追撃が迫る。
手早く再装填を済ませたゲンジの追加攻撃と、さらにもう2つ飛翔する弾頭。
明らかに大きさの違うその弾頭を降らせたのは、後方に控えるゲンジ―――ではなくいつの間にか後方に下がっていたゼンとガイの2名だった。
足元には斜めに傾けられた金属製の円筒とそれを支える台座。そしてそれが2つ。
それらは世界大戦中に用いられた持ち運び出来る小型軽量型の迫撃砲だった。本来ならば風向や弾道を計算して打ち出すものだが、ここはGGO。そんなうざったい計算など勝手にコンピュータが演算してくれる。プレイヤーは何も考えず、計算結果をもとに生み出されたバレットラインに沿って撃てばいいだけだ。撃ちたいところに自分だけに見えるバレットサークルを合わせて、弾頭を火薬の入った方を下に円筒に入れ、点火するだけ。
躾すれば猿にもできる簡単なお仕事だ。しかし、そんな簡単なお仕事でも強力なのは一目瞭然だった。
ゼンとガイが打ち出したのは、空中で散開し広範囲にナパームを降らせる《弾頭カスタム》製の《焼夷榴弾》だった。上空から降り注ぐナパームに火花が引火し、炎の雨を降らせた。
立ち込める砂埃に上から迫る炎のカーテン。討伐隊の50人は、いまさらになってこいつらと戦わなければ良かったと後悔した。
敵の不意を突いた迫撃砲の奇襲をバックに、コウは荒野の大地を蹴り、ナガンは手ごろな岩にバイポットを立てて固定した軽機関銃《MG3》の引き金を引きながら銃口を左右に薙ぐように往復させた。扇状に飛んでいく弾丸は、混乱する敵たちの腹部を撃ち抜いた。
元廃人FPSプレイヤーのナガンにとって、射撃をコントロールすることなど容易い動作だった。コウの背中に弾丸がいかないように往復させる銃口がコウの後ろ姿と重なる時だけ引き金から人差し指を離し、銃口がコウから離れると再度射撃を開始する。
ナガンの援護射撃を背景に、コウは愛銃《SCAR-H》を胸に抱えて荒野を駆けた。ほどよく振られたAGIステータスによって世界記録を狙える速度で彼らと距離を詰めると、走りながらこちらに銃口を向ける敵の頭を正確な射撃で撃ち抜いていく。
躱すなら、撃ってしまえよ、ホトトギス
大乱戦を楽しむ片時に心の中で一句詠む。
コウがすれ違いざまに殺した敵数は5人。ナガンの掃射によって死亡した敵数は14人。ゲンジ、ゼン、ガイの砲撃によるのは9人。50引くかっこ5足す14足す9かっこ返しイコール22人。
残り半数以下。ここから荒野はコウの独壇場と化した。
愛銃に装填されたドラムマガジン内の弾薬を撃ち尽くすと、ナガンはベルト給弾型弾倉を再装填するものの、支援射撃の手を止めた。コウの乱戦ぶりを拝見する為である。事実、コウに作戦開始時に「一人でやるから手を出すな」と丁寧語を崩さない口調で釘を刺されていたからでもあるが。
そしてナガンは、改めてコウの強さを垣間見た。同時に鬼神のような戦いぶりに恐怖も覚え、なにより興奮を覚えた。
コウは敵軍に向かってSCAR-Hの30発弾倉を撃ち尽くすと、自重で落下する空弾倉に代わって新しい弾倉を装填した。全弾射撃で後退したデコッキングレバーを叩きつけて乱暴に前進させ、薬室部に弾薬を送り込む。流れるような一連のリロードには、1秒もかかっていないだろう。
そして射撃を再開する。なんとか反撃しようと乱射した男の撃った弾丸がコウの頬を掠めて赤いヒットエフェクトを散らしたが、コウはそんなものには気にも留めず危うく自分を即死させる弾丸を放った男に冷静に弾丸を撃ち込んでいく。
ばばばばばん!
キッチリ五発の弾丸が男の額から始まり、へそにかけて等間隔にヒットエフェクトを散らした。初弾で既に男は即死していたが、コウは淡々と引き金を引いていた。
ここでようやく敵軍の混乱が収まり、冷静さを取り戻した男たちの20本ばかしの銃口がコウに向いた。
だが、そんなものに臆するコウではない。自分に照らされる無数の赤いバレットラインを外すためにコウは全速力で右に駆け出した。
偶々コウの正面に陣取っていた男が好機とばかりにサブマシンガン《MP5》の9x19ミリ弾をばら撒くが、コウは自分を照射する紅線を追いかける様飛び出す弾丸が命中するよりも早くスライディングを行い弾丸を躱していた。
大股開いた男の股の間をぎりぎり通り抜けて、コウは男の脊椎に弾丸を一発、ほとんど零距離で撃ち込んだ。当然男は即死し、仇討ちとばかりに仲間の男たちが乱射するのをコウは見越していた。たった今殺した男の死体を盾に飛び交う銃弾を防ぎ、単なるオブジェクトとかした死体が消滅する直前に、彼が右腰に吊るしていた二つの《プラズマグレネード》のタイマーを起動させる。
「彼からの置き土産だってよ」
そう言って死体を突き飛ばす。その衝撃で死体としての耐久値は失われ四散したが、起動されたプラズマグレネードも一緒に消滅するはずもなく―――
どおぉん!!!
爆音を轟かせ大爆発を引き起こした。この大爆発で確認した死亡時の爆散エフェクトは四つ。
残り残敵数、16人。
コウは土煙と偽装効果の高いデザート迷彩で姿を消した砂埃の中で獰猛に嗤った。
土煙で姿の見えない男からのSCAR-Hの連射で、また一人死亡者が加算された。そしてまた一人。もう一人追加。
「残り13人」
コウはSCAR-Hの銃口から飛び出た残段数が残り五発なのを知らせる曳光弾を確認すると、きっちり5発でもう一人屠った。あいにくこのような大規模戦闘を想定して弾薬を用意していたわけではないので、SCAR-Hの弾薬が尽きたのだ。コウは人を殺傷できない愛銃を見捨てるようにストレージに格納し、左太もものホルスターと右腰のホルスターから《CZ75》を両手で引き抜く。
コウは2丁のCZ75をもって再び特攻を開始した。砂塵に紛れ、デザート迷彩のおかげで敵の目からはコウがいきなり空中に出現したように思えただろう。砂塵が集結し質量をもったかと思うと、いきなり弾丸が自分に襲い掛かってくる。
コウは無風によって滞留する砂塵を味方につけた戦法によって、砂霧が晴れるまでの間で新たに4人の犠牲者を出した。
「残り、9人」
残党をカウントする唇がぐいっと歪む。コウの翡翠色の眼は嬉々として輝やき怪しげな光を残していた。
「野郎、ふざけやがって!」
一方的な攻撃による焦りか、たった5人ばかりの小さなスコードロンに討伐隊50名が壊滅寸前まで陥られた不安か、男は悪態ついてLMG《M60》のフルオート射撃を開始した。だが、ただ弾をばら撒くだけで圧倒的な戦闘力をもつコウにはかすりもせず、当然1ドットのヒットポイントの減少も与えられなかった。
その上ところ構わず撃ちまくっていたので流れ弾をくらう者が続出し、コウはとどめの一発を胴体に撃つだけで虐殺することが出来た。
「くそがあああ!!!」
「おい、やめっ」
「あがっ!」
仲間からの制止も振り切り、彼はM60のトリガーを引き続けた。その上仲間を射殺してしまう愚行を犯してしまう。幸いにも生き残った者は、体制を立て直そうと踵をかえして後退するが、後退中に救急キットの注射器を撃つ暇もなくコウのCZ75にこめかみを撃ち抜かれて死亡した。
「ごー」
続けてコウがサブマシンガンを持つ男を屠った。CZ75デュアルの連射で身体をハチの巣にされ、断末魔を叫ぶ間もなく消滅する。
「よーん」
両手のCZ75は弾丸を一発ずつ放つと、スライドを後退させ射撃を停止した。15発マガジン内の弾丸をすべて打ち切ったのである。コウは舌打ちするとスライドストップを下げてスライドを前進させお馴染みの形態に戻す。
「うらぁ!!」
そして、銃身の方を握り、グリップのマガジン差し込み口を敵の顔に叩きつける。渾身の一打(正しくは二打)を喰らった男は堪らずたたらを踏み、鼻から鼻血のような赤いダメージエフェクトが飛び散った。だが、そこに間髪入れず飛んできたコウの膝蹴りを避けることはできず、男は宙を舞って後頭部から着地し、コウの止めのストンプで頭部を破裂させた。
「さぁん!」
コウの両目が興奮で充血し始める。
白目だった部分は薄桃色に染まり、翡翠色の瞳も相まって恐ろしさを増幅させていた。
そんな両目できっと見つめられ、残り二人の内の1人、馬鹿程M60を連射していた男は射撃の手を一瞬止めた。だが彼は威圧に負けじとフルオートで撃ち返す。
コウは大胆不敵にも突っ込んだ。
「なっ!?くそくそくそ!!」
―――敵はまっすぐこちらに突っ込んできているのに。なぜ当たらない!
男は口でも心のなかでも悪態をつきながら射撃を継続させた。男は心拍数が上昇したことで乱れ狂うバレットサークルに気が付いていないようだ。ただ眼前に突っ込んでくる男を殺してやりたい一心で、視野が極限に縮まっていた。
唯一、一発の弾丸がコウの左目に飛んできた。しかし、男は勝利を確信する余裕もなかった。
だがその一発の弾丸は、コウが左手にもったCZ75で弾いてしまった。盾代わりにされた不幸なCZ75は中ほどから派手に分解され、硬く小さな部品がコウの左側の顔面を襲った。
M60の7.62x517ミリ弾が左目を直撃するよりはましだが、少なくともコウに確かなダメージを与えた。これは皮肉にも彼ら討伐隊がコウに与えることができた最大ダメージだった。
コウは1割減った自分のHPを見て、闘志の炎の火力を強めた。完全にブチ切れたコウはM60の弾倉を打ち切っても尚溶接されたかのように引き金から人差し指を離さない男に最大限の跳躍で飛び掛かった。そして人間離れした跳躍の空中で後ろ腰にさした鞘から大振りのサバイバルナイフを順手に抜く。
飛び掛かりざま、コウは刃渡り20センチをくだらないだろう刀身を男の首元に突き立てた。そして、現実世界の愛車のバイクのアクセルを絞るようにナイフを回転させる。
ぐちゅりっ、という嫌な音を立てて、男の気道に風穴が空いた。噴水のように噴き出す血のようなライトエフェクトを浴びながら、コウは右手に持つナイフを右に一閃。完全に首が断ち切られ、首から切り離された男の頭部が荒野の渇いた大地を転がっていき、消滅した。
「にぃぃいいい!!!」
口が裂けんばかりに口元を歪め、コウは最後の1人にその形相を晒した。
「う、うわああああ!!!」
最後の1人は、恐怖に耐えられずその場から全力で脱兎のごとく逃げ出した。泣き叫び、悲鳴を上げ、鼻水涎を垂らしながら。
「らぁすぅとぉぉぉおおおお!!!」
コウは充血し真っ黒になった両の眼で彼を追いかけた。まさしく、逃げ惑う村人を襲う悪鬼そのものだった。
その後、逃げ出した彼が見た光景は、背中に感じた衝撃とふいに訪れた真っ暗闇。そしてグロッケンのビル群だった。
コウの暴れっぷりを見たナガンは、コウという男に途轍もない恐怖を覚えた。
一時は世界王者に輝いた自分だが、GGOではコウに絶対に勝てないと思わされた。圧倒的な力量の差を見せつけられた気がしたのだ。
すごい、という言葉が喉もとでつっかえ、恐怖で飲んだ固唾がその言葉を流し込んだ。
次回でプロローグ編は終わります。
次回は恐らく戦闘はないです。作者が満足したので。