SAO:Alternative GGO 黒影の銃撃主   作:SCAR And Vector

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プロローグEND

 荒野に佇む赤みがかった黒の長髪を後ろで束ね、前髪で右目を覆う長身の男は、いまだ収まらぬ興奮に肩で息をしていた。荒い呼吸を繰り返し、漏れ出す笑みを右手で押さえつける。彼がここで笑ってしまえば、やりすぎ気味なアミュスフィアの安全装置が働き、彼はこの荒廃した世界から強制的にログアウトされてしまうだろう。

 

「はは、はっ、はぁ、はぁ、ふぅ」

 

 どうにか興奮を抑え、彼GGOアバター名『コウ』は冷静を取り戻した。そして、深呼吸を繰り返して辺りのフィールドを見渡す。

 

 先程決着がついたコウたち『インヴィジブル』のメンバー5名と、彼らを懲らしめようとやってきた討伐隊50人の大規模戦闘の傷痕は、GGOのコンピュータによって修復が開始されていた。

 

 コウの仲間のゼン、ガイが放ったナパーム爆撃の残り火は鎮火され、リーダーゲンジの《MGL-140》での迫撃痕のすすはきれいさっぱり消えていった。

 

 そして、取り残されたのは戦闘の過激さを物語るランダムドロップで実体化された銃器たち。持ち主を無くした彼らを、コウは無言で拾い上げストレージに仕舞い込んだ。

 

 重量過多による移動ペナルティも気にせず、コウは突撃銃12丁、軽機関銃8丁、自動小銃4丁、散弾銃6丁、サブマシンガン10丁の計40丁を戦利品として手に入れた。コウはこれから弾薬を抜き出し、街のガントレーダーに売り出すのだ。

 

「ふっ、ははっ、ははははっ」

 

 ストレージに銃火器を仕舞い込み、コウは抑え込んでいた笑いを爆発させた。

 

「あはっ、ははははは!あーっはっはっはっはっは!!!」

 

「ありゃ、コウの奴またぶっ壊れちまったかな?」

 

「まだ治ってねぇのかアイツ」

 

 ゲンジのコウの頭を心配する言葉と、ガイの呆れたような声を無線越しに聞いた。だが、それはコウ自身が発する笑い声にかき消されて右耳に着けた無線から頭を通って左耳から抜けていった。

 

 5人しかいない荒野の一画にコウの笑い声が響き渡った。コウの異常性を初めて垣間見たナガンは、まるで悪魔のようだと感じるのだった。

 

 その後、コウは移動制限で走れないので仲間に迎えに来てもらい、帰りは討伐隊が持ち込んだ米軍の四輪輸送車両《ハンビィー》を使って街に戻った。

 

 すぐさま神出鬼没の商人を見つけ出し、戦利品の40丁を一括で売り払う。

 

「うおおおおお!??」

 

 40丁分の中古品を売り払って、表示された金額を見てコウは思わず叫んだ。

 

「なぁあああ!!??1メガクレジットだと!?」

 

 横から金額表示を覗いたゲンジが驚愕の声を漏らす。

 

「まじか」「すげぇ」「ホントですか!?」

 

 ゼン、ガイ、ナガンもそれぞれ一言発し、彼ら5人は一斉に顔を見合わせた。

 

「今日は…?」

 

 コウが一言尋ねる。リーダーゲンジの次なる言葉を待ち構えるも、コウの口元はにやついていた。

 

「う…」

 

「う?」

 

 ぽそり呟いたゲンジの言葉をナガンが聞き返す。そして、メンバーの心を代弁するかのようにゲンジは天に叫んだ。

 

「宴だあああああ!!!」

 

「いえええええええい!!」

 

 まるで全国大会で日本一に輝いた高校球児の様に、彼らインヴィジブルは大騒ぎだった。

 

 大の大人が喜びはしゃぐ姿を見ていた商人は、怪しい笑みを絶やすことはなかったが、どこか球児の成長を喜び頷く監督の様だった。

 

 

 

 グロッケンの最高級のレストランで、彼らは酒池肉林の大宴会を繰り広げていた。

 

「オネーサン!俺これ!」

 

「俺はこれを」

 

「これとこれをお願いします!」

 

「俺はこれを頼むぜ」

 

 一斉にオーダーを行うインヴィジブルの面々だったが、NPCの女性ウェイトレスは完璧に注文を承った。しかし、

 

「すみません、今の全部キャンセルで、ここの一番高いフルコースを」

 

 コウの全員分のオーダーで一蹴された。

 

「いやぁ、それにしてもお前があんなに暴れるとこ久しぶりに見たなぁ」

 

 運ばれてきた前菜のコンソメスープを匙で掬い口に運んでいたゲンジがさっきの戦闘のコウの暴れっぷりを話題に出した。

 

「ああ、そういえば、あそこまでやったの久しぶりですね」

 

「1回目は入団した最初の戦闘だっけか。あんときは確か―――」

 

 コウとゲンジが思い出話をしているとき、ナガンは話に入れず1人スープを飲んでいた。

 

「コウが喧嘩売ってきた敵スコードロンを壊滅させたんだろ」

 

 思い出せずに呻っていたゲンジにゼンが助け舟を出した。

 

「ああ、俺の制止も振り切って突っ込んでいったと思ったらボコボコにしてくんだもんなぁ。んで、周りが見えずに俺のこと一発殴ったよな」

 

 立派な顎鬚を撫でてガイが懐かしんだ。コウはその節はすいませんでした、と頭を下げる。

 

「お前、まだ暴走癖治ってなかったのか」

 

「あははは…」

 

 ガイに呆れたように首を振られると、コウは苦笑いする。コウは、恐らく最近のリアルのできごとが関連しているのだろうと感じていた。

 

 何度となく多嶋と拳を交わす内に自分の中の牙がまた研がれて行ったのか。真実を知るものはいないが、コウはそれを関係ないさと一蹴した。

 

「にしてもうめぇなこれ」

 

「ですね」

 

 運ばれてきたフルコースを豪快に頬張りながら食していくゲンジに、コウが相槌を打った。現実では到底食べられないようなフルコースに舌鼓を打ち、彼らはひと時の談笑を終え、いつもの酒場へ向かった。

 

「ああー、あーいう上品なとこよりこっちのほうが落ち着くなぁ」

 

 そういってゲンジがソファーにどかりと腰掛けた。コウ、ゼン、ガイ、ナガンも続いて腰を下ろし、ふうと一息。そして注文して出現したジョッキをもって、彼らはもう一度完敗した。

 

「そう言えば、俺らのことダイブ話題になってんなぁ」

 

 ここへ来る途中、誰かの会話を盗み聞きしていたらしいゲンジがぼやく。ガイはジョッキ半分を一気に飲み干すと、げっぷして思い悩む様に呟いた。

 

「んじゃぁ、これからはあんまり目立たねぇ方がいいか?」

 

「そうだな。言ってなかったけど、俺はこれからリアルが忙しくなるし、休止すんのには丁度いいな」

 

「え?お前も?」

 

 ゼンのカミングアウトに、ゲンジが反応を示した。どうやら二人とも、これからリアルの方が忙しくてログインが出来なくなるらしい。

 

「お?あ、アイツ、ALO戻んのかよ」

 

 突如現れた外部メッセージを開いたガイの口からこんな言葉が。

 

「俺、明日にはALO戻るわ」

 

「えええええ!?」

 

 どうやら、ガイのリアルの友人の出張が取りやめになり、ALOに通常通りログインするらしい。大規模クエストの途中だった為、早急に攻略を再開するためにガイはALOに戻るそうだ。

 

 残るはナガンだが、

 

「あ、自分も実家帰るんで1週間ぐらいログインできません」

 

 インヴィジブルのメンバー、ほぼ全滅。

 

「お、俺だけじゃねぇかぁ!!」

 

 めったに崩さない丁寧語を崩して、コウは叫んだ。

 

 

 

 なんという偶然か。押しかけてきた討伐隊五十人の軍勢を打ち破ったはいいものの、悪評が目立ったのをきっかけにコウを除くインヴィジブルのメンバーは翌日からログインすることはなかった。フレンド欄の彼らの名前を見ても、ログイン中を示すアイコンが出ているはずもなく暗い灰色で名前表記が並んでいるだけだった。流石にソロで荒野でプレイヤー狩りを行うのは無理があるので、コウはぶらぶらとグロッケンの商業区を歩いていた。

 

 昨日の戦利品を売り払って手に入れた100万クレジットは、昨晩の宴会で残り90万クレジットになっていた。調子に乗って奮発したのが悔やまれるが、いまさらそれを呪っても後の祭りだ。だがそれでも残り残金90万と前からあった10万クレジットで所持金には余裕がある。

 

「防具、買うかぁ」

 

 コウは万が一、昨日の討伐隊に顔がばれて不意打ちされないようにローブを被ってフードを目深に被り、サングラスを装着するという徹底ぶりで街に出ていた。

 

 傍から見たら不審者のそれにしか見えないのだが、コウは気にせず堂々と歩き回っている。

 

「お、ここよさそう」

 

 コウはふと目に入った戦闘服屋の中に入った。壁にはいくつものパターンの迷彩服が飾られており、オリーブドラブといったどこか昔のステルスアクションゲームで見たことあるような一般的な野戦服に始まり、ウッドランド、マルチカム、デザートといった各迷彩パターンから一つを選ぶのはいろいろ目移りしてしまって困難を極めた。

 

 コウは普段はデザート迷彩の戦闘服を着用している。インヴィジブルは荒野で戦闘することが多いので、入団時にリーダーのゲンジからプレゼントされたのだ。以来コウは非戦闘時は黒のジャケットにほとんど黒に近い紺のジーンズを着、戦闘時やフィールドに出た際はデザート迷彩の戦闘服を着ていた。

 

 だが、コウはデザート迷彩戦闘服を一貫して着続けているので、文字通りワンパターン化を否めなくなってきていた。現実では20手前という若い年齢で多少は身だしなみを気にする年頃なため、クレジットがたまれば銃のついでに新しい戦闘服も買おうと決めていた。

 

 10分ほど吟味して、コウは悩みに悩んだ末、ウッドランドパターンの森林迷彩一着、UCPと呼ばれる万能型のデジタルパターン迷彩を一着ずつ購入した。結局この二つをどちらかに絞り決められず、いっそのこと、手持ちに余裕もあるし二着購入したのだ。購入金額10万クレジット。

 

 新しい迷彩パターンの戦闘服を手に入れ、ホクホク顔のまま、コウは装備屋へと向かった。

 

 グロッケンの隠れた名店、知る人ぞ知る隠れ家的装備屋に入店する。さすがは隠れた名店。平日の昼間だというのにNPC客の一人もいない。店の中に存在するのはサングラスをかけたスキンヘッドのムキムキマッチョ黒人男性とコウの二人だけだった。

 

「よぉ、らっしゃい」

 

 重低音のバリトンボイスで店主が接客を行う。コウはお邪魔しますっとだけ言って商品を見て回った。並べられている商品の詳細を確認したりして、適当にマガジンポーチやホルスター、防護パッドや新しいグローブなどの小物から、新しいタクティカルベストも購入していく。

 

 一般人からみたらどこが変わっているのかわからない微妙な変更だが、コウは自分の動き回る戦闘スタイルを損なわない機動性や銃弾から自分を保護してくれる防御性なども視野に入れて装備を新調していった。

 

 新たに購入した2パターンの迷彩服が使用される戦況なども考えながらよく吟味して購入していたつもりだったが、少々買いすぎたようでこの店で消費したクレジットは18万クレジットを超えていた。さすがに迷彩3パターン分の装備品はやりすぎたか。

 

 結局、3種類の迷彩パターン間で互換性を得るために、ベルトやスリングといった小物は黒一色になってしまったが、まぁ仕方ないだろうと目をつぶる。

 

 さて、いよいよお待ちかねの銃器購入に移ろう。

 

 コウはグロッケン一番の大型銃器販売店に足を運んだ。新しいUCP迷彩戦闘服に着替え、サングラスと首元にスカーフを残してローブを外す。UCP迷彩服の裾を折り曲げ、新調した戦闘服の着心地を試す。おろしたてだが着心地も良く、コウは良い買い物をしたと満足していた。

 

 途中歩くのもめんどくさくなったのでレンタルの二輪バイクを借用し、さっさとショップに入る。

 

「うおぉ…」

 

 流石は最大規模のガンショップ。多種多様な銃火器が販売されており、コウは思わずうなった。

 

 GGOを始めたおかげでミリタリー関係の知識も得ていたコウにとってそこは楽園だった。画像資料や文献で聞いた銃器の名前があったらそれにいちいち興奮し、サンプル品を握っては構え、観賞した。

 

「おぉっと、脱線しかけた」

 

 ここに来たのは新しく銃を買う為だ。臨時収入で100万近くも手に入ったので、奮発して二丁ほど買ってもいいだろう。

 

 コウは近距離戦闘用の短機関銃と、長距離狙撃用のライフルを購入することに決めた。

 

 先ず目に入ったのは《MP5》。MP5は9ミリパラベラム弾を使用する1960年代に登場したH&K(へッケラー&コッホ)社の短機関銃だ。米軍でも短機関銃枠で正式採用されている銃であり、強化プラスチック製の固定式銃床を持つ《MP5A2》を基本形として多くのバリエーションが作られている。

 

 レーザーポインタ、フラッシュライト、暗視装置や光学照準器などの豊富なアクセサリーが装着できることも特徴の世界的名銃である。

 

 しかし、9ミリ弾を使用するために威力がいまいちな面もあり、高威力弾で大人数相手に戦闘するスタイルを得意とするコウには少し物足りない感が否めなかった。低威力を補える高発射レートがあるにせよ、コウはMP5の購入を止めた。

 

 次に注目したのは《UMP》。同じく9ミリ弾を使用するH&K社の最新型短機関銃である。同社のMP5よりも安価でシンプルな短機関銃として開発され、最大の特徴は何と言ってもその軽さにある。材質にポリマーを用いた軽量化で同クラスの短機関銃と比べてずば抜けた軽さを誇る本銃はまた、フォアエンドやレシーバー上にMP5には標準で装備されていないマウントレールを搭載し、各種アクセサリーを簡単に取り付けられる設計になっている。

 

 加えて、MP5では対応が難しかっ.40S&W弾や.45ACPなどの大口径弾にも対応できるようになっており、コウはこの条件を満たしているUMPを優先的に購入したいと思っていた。

 

 だが、それもかき消す如く、コウはふと見かけた一丁のサブマシンガンに心を惹かれた。

 

 その銃の名は《KRISS Vector》。スイスのガンマ・インダストリー傘下の銃器メーカー、TDI社主導により、官民共同で開発された短機関銃である。本銃最大の特徴は「KSVS」という反動吸収システムにあり、高い反動低減効果を実現している。MP5との比較ベンチテストでは9ミリ弾を使用するMP5に対して銃口の跳ね上がりが90%減少し、伝わるリコイルショックは60%少なかったという結果も残している。

 

 45口径弾にも対応しており、何よりそのSFチックな見た目にコウは一目ぼれだった。本来ならもっといろんな銃を見て回るつもりだったが、コウはほかの銃には目もくれず購入画面を開いた。金額を確認して購入ボタンを押す。するとルンバの身長を10倍ぐらい長くしたような接客ロボットが現れ、ホログラムから実体化した《KRISS Vector》を受け取る。

 

 四角い箱の各所を削り取ったようなSFチックなVectorを手に取り、コウはストックを肩に当てサイトを覗いた。コンパクトで取り回しもよく、アイアンサイトも見やすい。極めつけは何と言ってもそのマガジン挿入部で、三十連のロングタイプマガジンを使うと少しはみ出るマガジン部にロマンを感じていた。

 

 GGOにSF銃は数多くあれど、光学銃のような直線的なフォルムで実弾を発射する銃となるとだいぶ数は絞られるであろう。コウはアクセサリーにヴァーチカルフォアグリップと呼ばれる左手で持つ銃の縦方向のリコイルを抑える棒状のアクセサリーを装着し、三十連のロングタイプマガジンも購入した。

 

 サブマシンガンとしては大型だが、立ち回りを少し工夫すれば十分に戦えるだろう。コウは満足のいく買い物ができ、新しい玩具を買ってもらった少年の様に胸をときめかせていた。

 

 短機関銃部門の買い物も終わったので、コウは続いて狙撃銃コーナーに向かった。

 

 仲間のゼンやゲンジも使用しているので、狙撃銃の扱いについては彼らからよく聞かされている。コウは手当たり次第に商品を見て回った。

 

 ひとしきり商品を一周見て回り、コウは選択肢を三つに絞った。

 

 先ずは一つ目《FNバリスタ》。FN社が開発したボルトアクション式狙撃銃である。バレルとボルトフェイス、マガジンのみを交換することで使用する弾薬を変更する事ができるマルチキャリバーシステムを搭載しており、.308ウィンチェスター弾(7.62×51ミリ) と.300ウィンチェスターマグナム弾、.338ラプアマグナム弾を使い分けることが可能になっている。

 

 二つ目は《レミントンMSR》。アメリカ軍からの要請でレミントン社が開発したボルトアクションライフルだ。上と同口径の弾丸を使用する。複雑・多様化する現代戦において、一つのプラットホームで様々な状況に対応できる狙撃銃として設計されており、数分の作業で各種銃身と口径の変換が可能で、有効射程は1500mにおよぶという遠距離から超遠距離の狙撃も担える使い勝手のいい銃だ。

 

 三つめは《レミントンRSASS》。上と同社製の自動狙撃銃でアメリカのレミントン社とライフルメーカーのJPエンタープライズとの技術提携で誕生した、AR10タイプのカスタムセミオートマチックライフルだ。使用する弾丸は7.62x51ミリ。ラピッドファイアが可能な狙撃銃をコンセプトとしており、最大有効射程は1000m。

 

 バリスタとMSRは、どちらも数種の口径弾に対応しており使い勝手のいい狙撃銃だ。RSASSの連射狙撃も捨てがたいが、やはり一撃必殺を生業とする狙撃銃のプライドにかけてこれは却下となるだろう。となるとバリスタかMSRなのだが、どちらもデザイン性、重さ、利便性が似通っているので非常に決め難い。

 

 採用案件としては装弾数ぐらいしか残っていないのだが、コウは少し悩んだ末に《FNバリスタ》を購入した。

 

 理由は二つ。一つは愛用するFN社製の銃火器がセール中だったということ。もう一つは、名前がかっこいいからという何とも言えない理由だった。

 

 ガンショップでの消費クレジット55万クレジット。ついでにアクセサリー類を多少購入したのでプラス10万クレジット。残りクレジット、5万クレジット。

 

 新たに二丁の銃を新調し、コウは使い勝手を試すためと意外とかかった装備費用を取り戻すために暴徒狩りに訪れた。今回は都市部に分布する個体ではなく、宇宙船が墜落した残骸を根城にする個体を狙う。

 

 コウはまず《FNバリスタ》を実体化させ、スリングを肩にかけて無料レンタルのオフロードバイクに跨ってフィールドに出た。砂塵舞う荒野を疾走し、宇宙船の墜落現場へと向かう。

 

 荒野フィールドの一画、宇宙船墜落現場は、地球へやってきた宇宙船が不時着しその衝撃で残骸が飛び散り悲惨な情景となったという設定をもつ小フィールドである。

 

 不時着の衝撃で分解された宇宙船は大まかに機体部、エンジン部、尾翼部の三つに分けられており、身を隠す遮蔽物も多く見晴らしも悪いので近距離戦闘がよく発生する。その為ここで狩りを行うときは近距離戦闘で真価を発揮する短機関銃か散弾銃、最低でも拳銃はもっていくのがセオリーだ。コウも今までここで狩りをしたことがあったが、その時は《AKM》を使っていただろうか。狭い通路で銃口が壁に当たるは取り回しが悪いは、遮蔽物にカバーしているのに跳弾で銃弾を喰らうはで散々だった。この時の経験を踏まえて近接戦闘はCZ75のデュアルスタイルに落ち着いたが、今は新たな相棒達がいる。果たしてこの装備類でどこまで行けるだろうか。

 

 コウはオフロードバイクを暴徒たちがいない残骸の近くで乗り捨て、すぐさま遮蔽物に身を隠しバリスタの銃口に《消音器(サイレンサー)》を装着する。

 

 まずは索敵。スコードロンの共有ストレージから拝借した《アクティブソナー探知機》を発動し、半径50メートル内の敵を索敵する。

 

「よし、これくらいなら」

 

 半径50メートル円内に確認できる生体反応は10体。コウはアクティブソナーを仕舞い、次はバリスタのスコープを覗いて遠方の敵影を索敵する。アクティブソナーの効果範囲外に存在する敵影は見える範囲で6人。現在確認できる敵影は計16人。

 

「よっしゃ」

 

 まずは50メートルより遠くの敵だ。コウはバイポットを展開しスコープを覗く。呼吸を整えバレットサークルが頭部に重なったところで引き金を引く。銃口から飛び出た弾丸は螺旋状に射出され、暴徒の頭部に吸い込まれた。

 

 サイレンサーが弾丸の発射時に発生した高圧の燃焼ガスの噴出音を抑えてくれるおかげで周りの敵に気付かれることなく敵を屠れる。

 

 コウはスコープから一旦目を離し、ボルトを後退させ、また前進させ次弾を薬室に送り込む。そこからもう一度スコープを覗いて次の目標にスコープの十字レティクルを合わせる。そして1人、また1人とキルを稼ぎ、50メートル外の敵影を全滅させる。

 

「ぶっは!疲れた…」

 

 慣れない狙撃で思わず息を止めてしまっていたので、大きく深呼吸してからその場に座り込む。左腰に付けた水筒の中の水を飲み干し、右手でストレージを操作して役目を終えたバリスタを格納する。

 

「お疲れ様」

 

 スリングごと目には見えない透明の鞄に格納されたバリスタを労い、今日の主役のもう一丁を実体化させる。

 

 《KRISS Vector》のグリップを握り、折りたたまれたストックを展開。ついでに腰ぶら下げたプラズマグレネードの代わりに《閃光手榴弾》と入れ替え、戦闘の準備を整える。中腰のかがんだ状態でカバーリングしながら敵が集中する範囲に近づいていく。壁一枚を挟んだ距離まで近づくと、ふぅと一呼吸置いて、『狂乱状態(バーサクモード)』(仲間内でそう呼ばれている)に入る。今はだれも指摘する人がいないのでコウ自身は自分の両目が充血し赤くなっていることには気付いていないが、赤いキャンパスに翡翠色の瞳が輝きを放つ両目は他人がみれば鬼の目の様に見えるだろう。

 

 コウは狂気の中でもわずかな冷静さは失わず、閃光手榴弾のピンを抜いて敵集団の中心に放り投げた。

 

「フラッシュ!!?」

 

 暴徒連中の1人の悲鳴をかき消し、小さな爆発音が響く。突然の閃光で視界を奪われたところで、コウは遮蔽物越しにVectorを構えた。

 

 ぱぱぱぱぱぱぱん

 

 軽快な射撃音を響かせ、45口径弾が連射される。低反動の利点をフルに活かしたフルオート射撃。遮蔽物まで逃げ遅れた敵の背中を残酷に撃ち抜き、その体をポリゴン片へと変えていく。

 

「ははっ!すっげぇ撃ち易い!」

 

 コウはVecterで人を撃ってみて改めて感動した。反動やリコイルは殆ど無いと言っても良く、取り回しも良いため素早く敵に照準を合わせられる。アイアンサイトも視認性がよく、狙ったところに集中して弾が飛んでいく。

 

 コウは素晴らしい銃だとVecterとこの銃を開発した者たちに心の中で称賛を送る。多少値が張ったのが痛手だったが、銃の性能に比べればお釣りがくるというものだ。

 

 コウは遮蔽物に隠れた者たちを屠るべく遮蔽物から飛び出した。ローリングやジグザグダッシュを多用し距離を詰め、狙った敵を瞬殺していく。

 

 ほんの数分で、この場に居た暴徒たちは全滅した。

 

 

 

「うはーっ!うめぇ!」

 

 いつもの酒場のカウンターで、サイダー風カクテルを飲み、コウは唸った。狩り兼性能テストは成功に終わり、戦利品も売り払って5万クレジット程稼いだ。いつもの仲間は居ないが、やはり働いて飲む酒は身に染みる。まぁこの酒にはアルコールは含まれておらず、ただのジュースなのだが。

 

「さーて、落ちるかぁ」

 

 ぐいっと背伸びし、コウは酒場を後にした。バイクをレンタルしいつもの場所に訪れ、自販機で買ったコーラを飲みながらグロッケンの夜景を見つめる。今日の狩りで使った銃たちの性能や起用法を改めて見直していると、突然運営からのメッセージがメールボックスに届いた。何事かとメールを開き詳細を確認し、その内容に目を剥いた。

 

「スクワッド・ジャム…?」

 

 GGO最強ガンナーを決める大会『バレット・オブ・バレッツ』、略称《BoB》のチームバトルロイヤル版と称される今大会の開催を知らせる報告の様だ。分隊(スクワッド)ごちゃ混ぜ(ジャム)という安直なネーミングだが、リアルの事情でことごとくBoBの参加を泣く泣く諦めてきたコウにとっては是非とも参加したい大会だ。己の中に潜む野獣が牙を剥くのを感じ、心臓が大きく跳ねた。だが、沸き起こる殺害衝動はある事柄によって息を吹きかけられたロウソクの火のようにふっと消えた。

 

「一緒に参加する奴が…いない…」

 

 開催日時は二か月後の2月1日。インヴィジブルのメンバーはこう言った大会に微塵も興味がない連中なのできっと参加しないだろう。

 

 今日が11月29日なので約二か月ほど期間はある。諦めるのには早すぎる。まだだ、まだ慌てるような時間じゃない。きっと誰かしら声をかけていけば一人ぐらい乗ってくれる人はいるだろう。でも、よしんば居たとして連携が取れるだろうか?急増のチームで果たしてうまく戦えるだろうか。

 

 ああでも、先日のことがあるから無理じゃないか。

 

 そうだ。先の大戦闘でコウは荒野に潜む害悪スコードロンの最狂プレイヤーと噂されている。きっと噂に尾ひれがついて風評被害を受けているので、誰もそんなプレイヤーと組みたくはないだろう。

 

 ―――詰んだ?

 

「あ…もう無理か?…終わりか?」

 

 中身のコーラがこぼれるのも気にせず、がっくりと手すりに野垂れ込む。

 

 もうだめだ、おしまいだぁと諦めかけたその時、コウの視界に新たな受信通知を知らせるアイコンが点滅した。

 

 件名は「SJ」と一つ。恐らくスクワッド・ジャムの略称だろう。

 

 簡素な件名のメールを開き、本文を目で追う。

 

【ハロー、コウちゃん♪元気かーい???SJの開催メール、見てるよねぇ?突然だけどさぁ、

 

 

 

 スクワッド・ジャム、参加してみない???】

 

 

 文面から伝わる、コウと似て非なる狂気。少々時代遅れな文面の送り主の名前は宛先をみれば一目瞭然だが、コウはメールを見ただけでそいつの顔と名前がすぐに頭に浮かんできた。

 

 送り主『ピトフーイ』。一見可愛らしい名まえに似合わず強烈な神経毒をもつ鳥類の名を持つプレイヤーからのメールに、コウは…

 

【いいですよ。   暴れてやります。】

 

 狂気に満ちた笑顔でこう返信した。

 

 

 

 

 




 最後若干強引になってしまいましたが、コウのSJ参加が決まりました。
 
 予告通り今回でプロローグ編は終わり、次回からSJ編に突入します。

 スクワッド・ジャム開催まで残り二か月。ピトフーイからの参加を打診するメールに乗ったコウは一体どうなるのか!?はたして原作主人公はいつ出てくるのか!?さっさと出せよという声が聞こえてきそうですが、たぶんもうすぐ出てきます。

 次回からのSJ編、よろしくお願いします。
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