SAO:Alternative GGO 黒影の銃撃主   作:SCAR And Vector

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毒鳥

 2025年11月30日。

 素早い身のこなしと確かな射撃で敵を屠る戦闘狂。赤みがかった黒、黒紅色の髪に翡翠色の瞳というアンマッチな風貌のアバター『コウ』・・・ではなく、そのアバターを操作する現実世界の男『小日向 昴雅』は週末の休日を自堕落に過ごしていた。

 

 喧嘩ばかりの不良少年だったくせに、今更真面目キャラを演じてきたため生じた気疲れを睡眠で解消する。

 

 寝癖で頭はボサボサだし、顔も洗っていないかの様な堕落ぶりに、きっと彼の母が昴雅の今の姿を見たら激怒するであろう。

 

「スクワッド・ジャムねぇ・・・」

 

 ベッドに仰向けに寝転がり、スマホで昴雅が愛好するGGOのホームページを覗く。見ていたのは当然2ヶ月後に行われるSJの記事だった。

 

 スクワッド・ジャム、簡単に言うなればGGOで最強ガンナーを決める大会『バレット・オブ・バレッツ』のチーム戦である。先のBoBを観た重度のガンマニア小説家がスポンサーとなり開催される日本サーバー限定の大会。

 

 昴雅もコウとして参加する事を決意しており、午後5時から仲間を紹介するという旨のメッセージを飛ばしてきた『ピトフーイ』という厄介者と会う約束がある。

 

「へぇー、優勝者には豪華プレゼントかぁ・・・べっ!?」

 

 親指でスクロールした際、スマホが右手から滑り落ちた。角ばった形状の堅い物体が昴雅の鼻先に直撃し、痛みでベッドの上を転がり悶絶する。

 

「いっつ〜・・・っのヤロ!!」

 

 目に涙を浮かべ、枕をスマホに叩きつける。側からみたら頭おかしい人種だが、そう思われてもいいほど痛かった。

 

「って、まだ2時かよ」

 

 じんじん熱い鼻をさすり、壁にかけられた時計を見ると14時を過ぎた辺り。ピトフーイとGGOで逢うのが午後5時なのでまだまだ時間がある。

 

 昴雅はベッドから跳び起き、風呂の準備をしに浴室に向かう。浴槽に風呂用洗剤を吹き掛けスポンジで擦る。丁寧に隅々まで擦り、水を流して泡を流す。

 

 これで良し、あとは風呂を沸かすだけ。

 

 昴雅は一人暮らしを始めたお陰で家事も慣れていた。自炊洗濯家事掃除も多少なり出来るようになったし、趣味は料理と言い張れる位毎日練習し、凝ったものも作れる様になっていた。

 

 今日の献立は何にしようかと冷蔵庫を開ける。キャベツ、肉、人参その他諸々・・・。

 

「・・・よし、買いに行こ!」

 

 どうやら今日はインスタントにする様だ。いつもちゃんと自炊してるし休日くらいダラダラしても良いよね!と自分に言い訳し外出用に多少は身だしなみを整える。寝癖をなおし、顔も洗い直してセータースウェットからジャケットジーパンに。ピアスもつけて手袋とネックウォーマーを着用する。

 

 家の戸締りを確認し、ドアの鍵も閉めて最終確認。さっさと駐車場まで階段を使って降りていく。

 

「うぅ・・・寒・・・」

 

 もうすぐ12月なので当たり前だが、今日はよく冷える気がした。寒波が押し寄せていると言う気象予報通りで、昴雅が乾燥で紅くなった鼻をすする。

 

 ヘルメットは被らず、愛車の《MT-25》に跨る。冷気で冷えたガソリンをエンジンを吹かすことで暖めて、走れるぐらいになったら徐行運転で駐車場をでる。

 

「あ・・・どうも」

 

「あ、こんにちは」

 

 昴雅が駐車場を出ると、毎朝顔を合わせる身長180センチは降らないであろうモデル体型の女子大生がマンションの玄関から出てきた。

 黄土色のトレンチコートに赤いチェックのマフラーという出で立ちで、寒風が黒髪のロングヘアを小さくなびかせていた。

 

「今からお出掛けですか?」

 

 眼前の彼女が問いかける。

 

「ええ、少し買い物に。そちらは?」

 

「少し図書館に」

 

 そう微笑む彼女の右手には、昴雅とは縁もゆかりもない、きっとこれから見向きもしないであろう分厚い文学図書が入った鞄が握られていた。

 

「本、お好きなんですか?」

 

「まぁ、はい」

 

「へぇ、俺は読書とか小学から全然してないです」

 

 当然、中学は喧嘩に明け暮れていた昴雅に本を読むという考えは無かった。

 

 ふと思い立って、左腕に巻かれた腕時計を見ると、時刻は午後3時の15分前。さっさと買い物を済ませようと、昴雅は彼女との会話を切り上げた。

 

「っと。そろそろ行かないと。道中お気をつけて」

 

「バイク、気をつけて下さいね!」

 

 ヘルメットを被り、バイザーを下げる。右手を軽く振って別れの挨拶を交わし、昴雅はバイクを発進させた。

 

 その後は近くのスーパーに行き、カップ麺を購入。そそくさと自宅に帰った。

 

「午後4時前・・・っしゃ!」

 

 帰宅するや否やスーパーのレジ袋をリビングに放置し、パーカーとスウェットに着替えて寝室で意気揚々とアミュスフィアをかぶる。

 

 パソコンを立ち上げ、インストールされたGGOを起動。アミュスフィアの電源も入れてベッドに横になる。

 

 暖房もつけた。ついでに買ったアイスも冷蔵庫に入れた。郵便物も無い。良し、オッケー。

 

 昴雅は脳内で項目にチェックを入れ、アミュスフィアが起動準備を終えると目を閉じた。そして仮想世界に飛び込む心の準備を整える。

 

「リンク・スタート」

 

 唱えられた魔法の言葉で、昴雅の意識は電脳世界へと飛び立った。

 

 

 

 昴雅の操るGGOのアバター『コウ』は黒紅色の長髪をなびかせグロッケンの地を踏んだ。いつものデザート迷彩の機動力特化の突撃装備ではなく、オレンジのTシャツに黒のパーカーを羽織り、下は濃紺のジーパンという格好だ。

 

 先の大戦闘で被った悪評による万が一の奇襲を防ぐ為に、ささっとサングラスをかける。長い前髪が右目を覆っているが気にしない。

 

「あと1時間かぁ。射撃場にでもいくか」

 

 コウはもうお馴染みとなったレンタルバイクに跨り射撃場まで爆速で走った。車間を縫う様に走行し、ウィリーやジャックナイフと言った技を決めながら射撃場に向かう。

 

「らっしゃい」

 

 場内に入ると、受付のサングラスをかけたマッチョマンが無愛想な接客をかました。まぁ、GGOのNPCはみんなこんな感じなので今更どうと言う事もないが。

 

「7.62ミリNATO弾、.45ACP、.308ウィンチェスター弾、9ミリパラベラム弾。ターゲットシューティングで30分」

 

「あいよ」

 

 コウは淡々と弾薬を注文し、コースを選択。契約書がわりにパネルに右手を押し当て射撃レーンに移動する。

 

 コウが射撃レーンに着くと、テーブルにはコウが先ほど注文した4種の弾薬が実態化された。使いきれない量に思えるが。弾薬1種につき1000クレジットを払って、残った弾薬は持ち帰っていいことになっているのでエコなシステムである。

 

 先ずはコウが最も愛する突撃銃《SCAR-H》で演習を開始する。目標までの距離を10メートルに設定し、最初はセミオート10発、次にフルオート10発、残りは出来るだけ頭部を狙ってバースト射撃。それを10、15、25、50メートルと段階を踏んで行う。

 

 これはコウがGGOを始めてから週一は欠かさず行なっている射撃の練習メニューだ。

 

 SCAR-Hでの練習は終えたので、次は《Vector》で練習を行う。Vectorは近距離戦闘でしか使用しないので、距離は15メートルまで。フルオート射撃での攻撃力を見ながらコントロールを確かめる。

 

 Vectorの低反動を撃つ度に感じ、だんだん手に馴染んで来た様な感覚を覚えた。

 

 その後は《FNバリスタ》や《CZ75》での射撃訓練を終え、時刻は集合時間の20分前になっていた。

 

 使いきれなかった弾薬はテイクアウトし、射撃場を出る。現実世界の時間軸とリンクしているGGOの空は夕焼けに染まっていた。今日はどうやら雲が薄い様で朱色の空が冴え渡って見えていた。

 

 普段は分厚い雲が上空を覆っているGGOにしては珍しい、などと感傷にふけっていると、コウの視界にメッセージ受信を知らせるアイコンが表示された。コウは右手を振ってメニューを呼び出し、メールボックスを確認する。

 

「げ・・・」

 

 件名なしのプレイヤーメッセージが1通。送り主は勿論『ピトフーイ』。

 

『ハーイ♪♪♪コウちゃん♪私いまログインしたから、さっさと集合場所の酒場まで来てね♪♪♪

 

 遅れたら罰金だから♡』

 

「ハイハイ今から行きますよーっと」

 

 少々時代遅れなテンション高めの文面を睨んで、コウはメッセージを削除した。移動のアシとしてお馴染みのバイクに跨り、颯爽と走り去る。

 

 集合時間10分前には酒場に入り、取り敢えずサイダー風の酔わないカクテルを注文する。カウンターでちびちび飲みながら、コウはピトフーイと初めて出会った時の事を回想していた。

 

 コウがピトフーイと出会ったのは2ヶ月以上前の2025年9月21日。グロッケンでコウが当時愛用していた《AKM》に取って代わる突撃銃を探している時だった。

 突如響いた透き通る様な美声でコウは彼女『ピトフーイ』に声をかけられた。

 

 ガンショップで眉間にしわを寄せて品定めしているところに、ピトフーイが割り込んで来たのだ。

 

 コウは彼女の容姿に息を呑んだ。

 

 サイボーグみたいに引き締まった身体。褐色の肌に両頬には煉瓦色の幾何学模様のフェイスタトゥー。そしてビキニに毛が生えた様な服装。シャープな目つきは視線だけで対象を切り落としてしまいそうで、コウは初心者ながらもピトフーイというプレイヤーがかなりの手腕を誇るという事を見抜いていた。

 

 そして、類は友を呼ぶと言うべきか、コウはは自分とは違う狂気をピトフーイの内側から感じ取った。戦闘や命を賭けた闘いそのものを楽しむコウとは違った狂気。圧倒的な力で敵を蹂躙し、殺す。命のやり取りを熱望するような狂気。

 

 コウはピトフーイのアドバイスを受けて現在の愛銃《SCAR-H》を購入した。そしてコウはお礼がわりにピトフーイに一対一の勝負を申し込んだ。結果は当然のごとく惨敗。コウは当時は希少価値の高かったSCAR-Hを使用し、ピトフーイはハンディだと素手での決闘だったがそれでもコウは手も足も出せずに惨敗を喫した。

 

 当時は射撃が上手いわけでもなく、中堅レベルを誇れる実力もなかったために敗北は当然だったが、それでもコウはこの先一生この人には勝てないと思い知らされた様だった。

 

 いくらレベルと実力差があるとはいえ、とうとう銃を捨てお得意の素手で反撃しようとしたがそれさえも破られた。

 

 多少実力がついた今でも、コウがピトフーイに勝てるかどうか分からないだろう。それほどまでに、コウはピトフーイに対する敵対心と言うものが打ち砕かれていた。

 

 その後短期間だがコンビを組み、色んなことをピトフーイから学んだ。トラップの作成やその対処法。銃の撃ち方や戦闘時の心構え、立ち回りなど、教えを請いたりワザを見て盗んだり、時には無謀にも勝負を挑んで着実にワザを身につけて行った。

 

 鬼神のような闘い方をそっくりそのまま受け継いだため、コウとピトフーイの戦い方はよく似ていた。

 

 その後コウはインヴィジブルという今も所属するスコードロンに籍を置いたためピトフーイの元を去った。だが今でも時折連絡は取り合っており、実のところピトフーイと会うことは別段珍しくもなかった。

 

「やぁやぁ、コウちゃん久しぶり」

 

 カウンターで酒を呑むコウに、1人の女が声を掛けた。

 

「久しぶりです、ピトさん」

 

「おお、なんだか強くなった?」

 

「そんな事ないですよ。まだまだ半人前です」

 

「ありゃ?ガラにもなく謙遜かい?」

 

「本当のことですんで」

 

 ピトフーイはコウの隣の席に腰掛け、アイスティーを注文した。カウンターのNPCから差し出されたアイスティーをストローで飲み、木製のバーカウンターのテーブルを人差し指でトントンと叩く。

 

「ふーん、荒野での大戦闘で暴れまくり、懸賞金がかかるほどやらかした人の台詞とは思えないなぁー」

 

 コウはピトフーイの全てを見透かした様な視線に心の中で小さく舌打ちした。

 

「知ってたんですね」

 

「そりゃあねぇ。可愛い弟子の活躍だもの。お師匠としては鼻が高いわぁ」

 

「それで?そろそろ本題に移りませんか」

 

 コウが話を切り出す。ピトフーイは思い出した様にシステムメールを開いてコウにも見えるように可視化させた。

 

「これ、コウちゃんも出るんでしょ」

 

「ええ、チーム組む人が居ないんでまずはそこからですが」

 

「やっぱりねぇ。大方荒野での一件の影響で足踏み状態ってとこでしょう?」

 

「おっしゃる通りで。1人スコードロンに行けそうな人が居ますけど、彼初心者なのでこう言う大会に誘うのはちょっと・・・出会ったばかりで連携もうまく取れないでしょうし」

 

 コウが自白すると、ピトフーイはふむと思考を巡らせた。

 

「じゃあさ、私と参加してみない?」

 

 ピトフーイからの提案にコウは一瞬思考回路を停止させた。

 

 ーえ?俺が?この人と?

 

 コウは再び回転を始めた頭を悩ませた。確かに、ピトフーイというプレイヤーは強い。確かに自軍にいれば大いなる戦力が確保できる出来るだろう。だが、コウとピトフーイの戦闘スタイルは酷似しており、どちらも後方からの支援ありきな闘い方だ。互いを援護しつつ突撃する戦法もあるが、そんな付け焼き刃な闘い方で熱い戦いが繰り広げられるとは到底思えない。

 

 やるからには優勝を目指したいし、何よりピトフーイがコウの事を援護してくれる確証もない。

 

 ピトフーイは勝つためには手段を選ばない危険な人間だ。危なくなれば即座にコウを見捨ててコウの死体を盾にし逃亡するだろうし、逆に盾として使用するために横から殺される危険性も孕んでいる。

 

 ピトフーイという女は、そう言う奴なのだ。

 

 故にコウは悩んでいたのだった。

 

「確かに、ピトさんと組むのはいいと思いますけど、俺たちって闘い方が似ているじゃないですか。そんなんで闘えますか?」

 

 ピトフーイと組むのを拒んでいる訳ではない。ただ、勝利を掴むのに自分たちだけで充分だろうか。コウはそれが気がかりだった。

 

「んー、確かに私たちはどっちもアサルト系だからねぇ。やっぱり後ろからの援護がないとキツイかぁ」

 

 ピトフーイは両手を頭の後ろに回し椅子の背もたれに身体を預けた。

 

「だれか居ないんですか?知り合い」

 

 コウが尋ねると、ピトフーイは脳裏で知り合いの顔を貼り巡らせた。

 

「ダメ。私嫌われてるから無理」

 

「そうですか。なら俺が援護一択に回るしかないですかね」

 

「あれ?そんな簡単に引いちゃうの?」

 

 ピトフーイは間の抜けた顔でコウをみやった。

 

「俺よりピトさんの方が前衛強いですしね。つい最近スナイパーライフル買ったんで支援できますよ」

 

 コウは前線で戦えないことに落胆したが、すぐに気持ちを切り替えて力こぶをつくってみせた。狙撃手としての心構えを無理矢理整えた表情だった。

 

「あら、ならお願いしちゃおうかね」

 

 ピトフーイはコウの提案にあっさり便乗した。

 

 SJの打ち合わせも終えたところで、腹ごしらえに料理を頼む。電子信号の仮想現実なので現実の身体の腹が膨れる訳ではないが、多少は満たされた感覚になれる。現実に戻ってカップ麺を食べるしかないコウにとっては少しでも満たされたかった。

 

「いただきます」

 

 行儀よく合掌し、運ばれてきた牛肉のステーキを右手のナイフで一口サイズに切り分け左手のフォークで口に運ぶ。

 

「うまい・・・」

 

 ステーキは分厚く、切り口からは肉汁が滝の様に溢れ出てくる。ミディアムに焼かれているが、中身までよく火が通っているのが伺えた。

 

 肉を口に運べば味付けの塩胡椒がスパイシーに良く効いている。噛めば噛むほど肉の脂肪が口の中に広がり、コウは思わず頬を緩めた。

 

 コウは光悦とした表情で、肉の旨味をたっぷり味わった。先日食べたGGO内の高級レストランでの食事も中々のものだったが、やはりこう言う酒場で摂る庶民的な食事も悪くない。

 

 心底幸せそうに、美味しそうにステーキを食べるコウを目の当たりにして、ピトフーイの腹の虫が騒ぎ立てる。ピトフーイは思わず生唾をゴクリと飲んで、すぐさまコウと同じものを注文した。

 

 運ばれてきたステーキを上品に食べるコウに倣ってナイフとフォークを使って口に運ぶ。

 

「う、うまっ!」

 

 現実では高級ステーキを良く口にするピトフーイだが、良くも悪くも庶民的な食事を普段は口にしないピトフーイにとってそれは新鮮に思えた。

 

 値段も安く、仮想現実だからかリアルで食べる高級ステーキと味も大差ない。

 

 思わず箸が進む速度が上がる。夢中で肉を頬張り、ピトフーイは存分に舌鼓を打った。

 

「酒場のステーキなんて初めて食べたけど美味しいわね!」

 

「ええ、ここの酒場で食べるこのステーキが俺の1番のお気に入りなんです。リーズナブルで味も悪くない、強いて悪い点をあげるとすればこれで現実の自分の腹が膨れないことですかね」

 

 コウはペラペラ饒舌に解説し、ピトフーイに自分が毎回するオススメの食べ方を披露した。

 

「これは?」

 

「この店にしか置いてない特製のにんにくソースです。にんにく好きなら絶対にオススメしたい一品ですよ」

 

 ピトフーイは戦闘以外では珍しくテンションの高いコウに推され、にんにくソースをたっぷりとステーキにかけた。

 

 直後広がるにんにくの芳ばしい香り。このステーキの食感も、味も、香りも仮想現実に過ぎないが、ピトフーイはこれぞヴァーチャルの醍醐味だと大変満足していた。

 

 コウもにんにくソースを自分の皿にかけ、それを口に運ぶ。

 

 醤油ペーストあっさりとした風味に重なるにんにくのインパクト。銃に例えるならば狙撃銃だろうか。高威力の狙撃弾であっさりと敵を屠ってしまう所がよく似ている。

 

 ステーキ本来の素材の味に、にんにくソースの支援射撃が加わる。

 

 それを始めて食べたピトフーイはまるで身体を蜂の巣にされたかのような衝撃が走った。

 

「うんまっ!!」

 

 一度口に入れればにんにくの香りが鼻孔をくすぐり、口いっぱいに旨味が広がっていく。醤油の酸味とにんにくの旨味にブラックペッパーがアクセントとして加わってくる。

 

 コウとピトフーイは400グラムはあったであろう分厚いステーキをぺろりと完食し、恍惚とした表情で食後に注文した烏龍茶を呑んでいた。

 

「美味しかったぁ・・・リアルでも食べれたらいいのに」

 

 脳に刻み込まれているステーキの味を反覆させ、ピトフーイは呟いた。

 

「俺はさっきのステーキ、自分でたまに作りますよ。ソースは再現に苦戦中ですけど」

 

「えぇ!?いいなぁ!私も食べたい!」

 

「いや、ピトさんお金持ちなんだし一流のシェフに作って貰えばいいでしょう?」

 

「違うの!確かに一流の作るステーキもいいけど、コウちゃんみたいな好青年が作るステーキが食べたいなって話!」

 

「何口走ってんですか」

 

 一人暮らしの大学生で彼女もいないコウが女性に手料理を振る舞うなど考えられないが、万が一そうなった未来を想像すると、コウは何故か急激に恥ずかしくなり顔を赤らめた。

 

「そうだ!コウちゃんリアルで会わない!?そしてお姉さんに手作りステーキご馳走してよ」

 

「な、なに言ってんですか!」

 

 現実味のない話にコウはさらに顔を赤らめ耳まで真っ赤にして反抗した。

 

「えぇーいいじゃない。じゃあさ、もしコウちゃんが私を倒したら、その時は奢ってね」

 

 何故ピトフーイを倒したら自分がステーキを馳走しなければいけないのか。どう言う思考回路をしていればそんな結論に至るのかが皆目見当もつかないが、コウは色味が戻ってきた顔に苦笑いを作ってみせた。

 

「まぁ、良いですよ。どうせ俺がピトさんを越えれる事なんて無いでしょうし」

 

「まぁた謙遜する!あと敬語は使うなっていつも言ってるでしょ!」

 

 物腰丁寧なコウの背中にピトフーイの加減の知らない平手打ちが飛んで行く。ヴァーチャルな痛みを感じ、コウは小さく悲鳴をあげた。

 

「いてて、わかったよピトさん」

 

「分かればよし」

 

 ピトフーイは目細めて、コウの苦い笑顔を見つめた。

 

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