SAO:Alternative GGO 黒影の銃撃主   作:SCAR And Vector

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遺跡の戦闘とトLOVEル

 翌日12月2日。コウは昨日知り合ったばかりのレンにメッセージで呼び出されダンジョンに向かっていた。

 

 メッセージが飛んできたのは、GGOにフルダイブした直後の事だ。コウは素直にレンの元に向かい、彼女と合流してはGGOに数ある首都の1つ『LGシロフォン』へと足を運んでいた。

 

 2人はグロッケンを出る直後に有料レンタルのオフロード四輪バギーを借り、コウの運転で移動している。レンはコウの後ろに乗車し、荒い運転でバギーから吹き飛ばされない様にコウの腰に回す手に力を込めていた。

 

「コ、コウちゃん!もう少しゆっくり!」

 

 レンは得意げな運転手に涙目に訴えかけた。頭部の安全を保証するヘルメットも、投げ出されないためのシートベルトも無いのだ。次第にコウの迷彩服を掴む腕に力が入るのも頷ける。

 

「何言ってんだ!顔上げろって!風が当たって気持ちいいから!」

 

 レンの必死の叫びも虚しく、コウは更にアクセルを振り絞りスピードを上げた。どうやら彼に後ろで涙目になってしがみ付くピンクの少女の要望を聞き入れる気はさらさら無い様だ。

 

「もう!コウちゃんの馬鹿ー!!」

 

 意地悪な運転手に対するレンの叫びは砂漠に巻き起こった風と砂埃に乗せられ飛んでいく。当の運転手は、大笑いしながら砂丘を乗り越えて爆走して行った。

 

 

 

 砂漠エリアを抜けると、2人を乗せたバギーは荒れ果てた遺跡エリアへと差し掛かった。砂に埋もれかかった古代の遺跡の礎に繁栄の影は無く、風にさらされボロボロに風化しきっている。遺跡エリアは遠方まで伸びており、ここを抜ければシロフォンはすぐそこだ。しかし遺跡エリアはいかんせん見通しが悪く、隠れられる場所も多い。コウやレンが活動の根城とする荒野とはまた違う、絶好の待ち伏せスポットなのだ。

 

 その危険度故に足早に通り抜けたい所だが、幾らコウでも入り組んだ遺跡をバイクを爆走して突っ切る事は不可能に近い。エンジン音で敵に気付かれ奇襲される可能性もあるし、入り組んだ土地を暴走して事故でも起こしてバギーが使用不可になってしまっては本末転倒だ。更にこのバギーは有料レンタルなので壊してしまったら弁償として追加料金が発生してしまう。銃を買ったり戦闘服を新調したりでクレジットが心許ないコウにとっては、それが殺されるより1番の痛手なのだ。

 

 コウは敵の奇襲を想定し、バギーを急停止、急加速で錯乱出来る絶妙な速度で走らせた。この速度なら振り落とされる心配は無いので、レンに索敵を頼み、事故を起こしたりしないよう運転に集中する。

 

 他のVRゲームタイトルなら主要都市間はテレポートなりワープゲートなりの瞬間的移動手段があるのだろうが、GGOはリアルを追求する為に仕様でファストトラベルは使用できない。唯一の例外として死亡時の死に戻りくらいか。

 

 いつ何処から銃弾が飛んで来るか分からない緊張感に包まれた今こそ、GGOのリアルな仕様を呪った事は無いだろう。

 

 遺跡の中心部に差し掛かると、コウはバギーの運転を急停止と発信を不規則に繰り返す走行法に変更した。こうする事で狙撃で一撃死される確率を出来るだけ下げる事ができるのだ。偏差撃ちが幾ら得意なプレイヤーでも、弾丸が着弾するその寸前で止まってしまえば1ミリのダメージも与えられない。もし仮に銃弾が飛んできて、幸いにも外れてくれたら後は全速で逃げるだけだ。その間はレンにスコーピオンの制圧射撃で凌いで貰えばいい。コウは我ながら実に素晴らしい作戦だと自賛した。

 

 あらゆる角度、場所に目を光らせつつバギーを走らせ、遺跡エリアを抜けようとした時、ようやくその瞬間は現れた。コウが走らせるバギーの前方2メートル付近で細い弾丸の飛翔した筋が見えたのだ。そして遅れて地面に着弾する音。見れば左側の地面に弾丸がめり込んでいた。あと数秒遅くブレーキを掛けていたらコウの頭を弾丸が貫いていただろう。

 

 コウは一目散に逃げる為にアクセルを絞った。だが、想定していた通りに事は上手く進まず、発進しようとした刹那、前のタイヤに大きな穴が空いた。狙撃手にタイヤを撃ち抜かれパンクしたのだ。こうなると操作性は著しく落ち、運転することは難しくなるだろう。

 

「クソっ!レンちゃん隠れるよ!」

 

「えっ?えっ?!」

 

 コウは悪態を吐き、バギーを乗り捨てた。状況の整理が着かず座席に座ったままのレンを抱きかかえて近くの遮蔽物になりうる物陰までAGI全開で走り出す。そして2人の跡を追う様に無数の弾丸が飛翔する。銃声の音や連射速度からして恐らく軽機関銃だろう。

 

「ふんっ!」「うひゃあ!」

 

 そのまま高さ1メートルくらいの塀を飛び越え、飛び込む形で肩から着地。レンが下敷きにならない様に己の身体を下にする紳士的な行いと、コウの迅速な判断のおかげでどちらも被弾した様子は無かった。

 

「大丈夫?!レンちゃん」

 

「だ、だだだ大丈夫!」

 

「クソっ!あいつら何処から・・・」

 

 コウは弾丸が飛んできた方角をちらりと見やった。GGOでは相手に位置が特定されていない状態での初弾は、狙撃扱いとなり弾丸が何処に飛んで来るかを知らせるバレットラインが発生しない。一度外しているのにライン無しで弾が飛んで来たという事は、少なくともスナイパーが2人、そしてコウ達が遮蔽物に逃げ込むまで弾幕を張った軽機関銃持ちが潜んでいるだろう。コウが遮蔽物から頭を出すと、ある一点から無数の赤いバレットラインが飛び出してきた。そしてやって来る無数の弾丸。コウは即座に頭を引っ込め、身を低くした。

 

 レンが被弾しない様に覆いかぶさる様に抱き抱えつつ、コウはこの状況を打破する、もしくは此処から逃れてもう目の前のシロフォンに逃げ込む為の作戦を練っていた。

 

「ね、ねぇ・・・」

 

 コウの腰のポーチには煙で敵を撹乱できるスモークグレネードが入っている。この際バギーは見捨てて煙幕を張りつつ、徒歩で遺跡を抜けるのが最適解だろうが、あいにく装備重量を抑えてスモークグレネードは2つしか所持していない。あと2種、対レン戦で活躍した閃光手榴弾と銃弾を爆風で防ぐ事ができるプラズマグレネードがあるが、これだと少し心許ないだろう。回り込まれて銃撃されて仕舞うリスクだってあるのだ。

 

「ねぇ!ねぇってば!」

 

 最低でも、自分を囮にしレンだけでも無事に逃がすべきか。レンを出来るだけ安全に逃がす為にも、せめてデスペナルティ覚悟で1人でも倒して置きたい。幸いにもコウたちが隠れる物陰に制圧射撃をかけるマシンガナーの位置は特定出来ている。恐らくマシンガナーが注意を引き付けてコウ達を釘付けにしている間に、他の敵が回り込んで横からキルを狙う寸法だろう。地の利を活かした、実に理に適った良い戦術だ。

 

「コウちゃん!」

 

「うおっ!」

 

 突然耳元で名前を叫ばれ、コウは意識を作戦から眼前に少女に向け直した。

 

「あの、もう大丈夫・・・だよ・・・」

 

「あ、ゴ、ゴメンっ!」

 

 すっかりレンを抱き締めていた事を忘れていたコウは、顔を真っ赤にしてレンを解放した。幾ら兄妹の様に見えても赤の他人、2人は羞恥で顔を真っ赤にし、気まずさで顔を背けた。

 

「ねぇ、この状況どうするの?」

 

 一旦の沈黙を破ったのはレンだった。実家の家訓を守らなければならないが、今は恥ずかしさでそれどころじゃない。初々しく視線を地に走らせていた。

 

「あ、ああ。作戦だな」

 

 コウも自分の大胆な行動に顔を真っ赤にしている。右手の甲で口もとを隠し、冷静を装ってはいるが耳が真っ赤で羞恥心を隠し切れていない。レンと目を合わせてしまうと恥ずかしさが再燃してしまうので極力目を合わせない様に気を付けつつ、コウはレンに作戦を伝え始めた。

 

「まず、俺が此処で敵の注意を引き付ける。都合の良い事にレンの迷彩はこの遺跡じゃ最大限効果が発揮出来しレンのスピードが加われば十分逃げ切れる筈だよ。俺のスモークを渡しとくから、安全な場所まで移動できたら目一杯東に投げてくれ。俺はそれを合図に移動するから、隠れてて敵をやり過ごして。俺も周囲の安全を確認したらグレネードを投げる。そしたらシロフォンまで走って逃げるんだ」

 

「わ、わかった!」

 

「レンならきっと大丈夫。合図したら走るんだ、俺が援護する」

 

 コウは不安げなレンを励まし、ストレージから《FNバリスタ》を実体化させ弾倉を装填した。ボルトをひいて7.62ミリのウィンチェスター弾を薬室に送り込み、スリングベルトを腕に巻いて照準のブレを抑えた狙撃ポジションをとる。遮蔽物からバリスタの銃身を出した時、南東あたりの物陰から数本の赤いバレットラインが伸びて来た。

 

「ゴー!」

 

 コウの号令で、レンは遮蔽物を飛び越しシロフォン目掛けて全速力で走り出した。その後ろをマシンガナーのラインが追いかけたが、自転車の最大速度程のスピードでは到底撃ち抜けないと判断したのか、ラインはまたもコウに向けられ弾丸が発射された。

 

「うおっ!?」

 

 空を切り飛翔した弾丸はコウの頬を掠めて、赤いヒットエフェクトを散らした。

 

「クソが!!」

 

 コウは自分に傷をつけた相手に悪態を吐き、敵マシンガナーに狙いをつけてトリガーを引いた。どうやら遮蔽物に着弾した様で敵の持続射撃の手が止まった。ここで追い討ちを掛けたいが、敵を視界に移していないと死角から回り込まれる危険がある。撃ち殺したいのを辛抱して、ここは相手の射撃を再開させ移動させない様にするべきだ。回り込んでいるだろう別動部隊が迫ってくる緊張感の中、我慢強く待っていると敵マシンガナーは弾倉の再装填を終えたのか持続射撃を再開させた。コウは壮絶な弾丸の雨あられの中、射撃の手が止んだ一瞬を見逃さなかった。バリスタの銃口から放たれた弾丸は螺旋状に空を貫き、マシンガナーの腹部に穴を開けた。恐らくこれだけでは即死には至らないだろうが、戦果は充分だ。

 

 コウは遮蔽物に身を隠し、バリスタを背中に回すと近づいて来る何者かの足音を確かに聞き取った。当然レンが戻ってきた可能性は微塵もあらず、きっと回り込んできた複数人の別動部隊の足音だ。どうやら壁一枚を挟んですぐそこに居るらしい。布の擦れる音に銃の機関部のパーツが接触する音。

 

「ちっ」

 

 コウは舌打ちし、腰のホルスターからCZ75を抜いた。近距離戦闘ならVectorの方が適しているのだが、今から取り出していては間に合わない。

 

 コウは右手にCZ75を持ち、左手を腰のポーチに突っ込んで閃光手榴弾を掴み取りピンを抜いた。視界に敵のブーツのつま先が映った時、コウは閃光弾を転がし目を瞑った。

 

 耳に入った小さな爆発音と、まぶた越しでも感じる白色の閃光。敵の目眩しには十分すぎる戦果を挙げてくれた。コウは腰の後ろに取り付けた鞘から刃渡り15センチ程のナイフを抜き駆け出した。いきなり飛び込んできた敵影に敵は驚愕、回り込んで来ていた敵数は3人。これよりコウの殺陣が開始された。

 

 何百ルーメンの光を直視して視界を奪われた先頭の男の喉元にナイフを突き立て、男の身体を盾にCZ75を構える。2人目の男に銃弾を放ちつつ前進。男は胴に5発撃ち込まれ、HPが急速に減少して行く。1人目の刺殺された男と2人目の銃殺された男はほぼ同時に消滅した。コウは身を守る盾が無くなると3人目、最後に敵に向かって突進した。最後の敵が銃を発砲する前に、カタをつけるつもりなのだ。

 

 コウは男に向かってナイフを投げ付けた。敵の注意を散乱させる為である。男はコウの思惑通りに動いてくれ、銃口は右往左往し弾丸はあらぬ方向へ飛んで行った。コウの予定通りに動いてくれた男には、ご褒美の膝蹴りがお見舞いされる。コウのニーパッドが着用された膝は男の鳩尾を捉え、男は堪らずたたらを踏んだ。コウは無防備な敵に向かって発砲。男のHPはたちまち減少し始め、5割を切った時、彼のゲージの減少が止まってしまった。

 

「クソっ!!マジかよ!!」

 

 CZ75の不調。整備は万全だったはずなのに起こった悲劇。スライドには排莢し切れなかった空薬莢が詰まっていた。俗に言う弾詰まり(ジャム)と呼ばれるものだ。

 

「はっ、運が尽きたな!」

 

 男は形勢逆転とばかりにコウに銃口を突きつけた。男の得物は《M4A1カービン》。米軍が正式採用している主力アサルトライフルだ。

 

「どうだかな!」

 

 コウはまたも騙し討ちをかました。使用不可になったCZ75を男の顔面に投げつけたのだ。不意打ちを食らった男は激怒し銃を乱射したが、コウはすでに敵の懐に潜り込み、困惑する男に拳を振るっていた。

 

「ぐっ!」

 

 左のジャブが顔面を捉え、

 

「がっ!」

 

 右のボディーブローが炸裂し、

 

「ぐはっ!」

 

 左の膝蹴りが脇腹を捉えた。

 

「どりゃあー!!」

 

 威勢の良い掛け声とともに、コウはドロップキックをかました。男はまともに食らって吹き飛ばされ、後頭部を遺跡の壁に強打しスタンが発生した。

 

 コウは彼が落としたM4を拾い、脳天に1発撃つと、男は粒子となって消滅した。コウはカスタムが施されたM4は売却用にストレージに格納する。バギーの弁償費の足しにする為だ。

 

 コウが落としたナイフとCZ75を拾い上げると、タイミングよく遠方でスモークグレネードの煙幕が発生した。どうやらレンが無事に遺跡を抜けれたらしい。コウは乱暴な扱いで破損してしまったCZ75とナイフをホルスターに戻すと、シロフォンへ向かって駆け出した。

 

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