獣憑きの少年も異世界にくるそうですよ? restart 作:モグモグラ
ドッポーン、と音を立て、4人と2匹は湖に突っ込んだ。
「ああ、酷いスカイダイビングだ」
『……死ぬかと思ったよ』
三毛猫とルゥを両手に持ちながら水面から上がった空は、安堵の息をつく。
「ほら、もう大丈夫だ」
『おおきに、小僧』
三毛猫を地面に下ろす。空は小さく肩をすくめ、水を吸って重くなったブレザーを脱いでワイシャツ姿になる。袖のボタンを外し、裾をズボンから出すことをしている彼に、茶色の髪のショートカットの少女が歩み寄った。
「ん?」
それに気づいた空は少女の方に顔を向ける。腕に三毛猫を抱き抱えているのを見ると、やはり飼い主だったのか、と空は考える。
「三毛猫を助けてくれてありがとう」
少女は空に頭を下げ、お礼を述べた。
「まあ、どういたしまして」
空は小さく微笑みながら答え、目の前の少女から視線を外して辺りを見回す。
空たちからすこし離れた場所で一緒に落ちてきた金髪に学ラン、ヘッドホンの少年と黒髪の少女の姿が見えた。
「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼びたされた方がまだ親切だ」
「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
空は2人の会話を耳にし、小さく苦笑する。
「石の中ね。そこに呼び出されなくて良かったよ」
流石に石の中は無理だ、と呟いた。石の中じゃなければどうこうできるという風にも聞こえる言い方だ。もっともそのつぶやきをはっきりと聞いたのは、すぐ隣にいるルゥくらいだ。
「此処……どこだろう?」
「さあ? 少なくとも、落ちる途中で見えた景色からして、普通の世界ではないだろうけど」
隣の少女が呟きに、空はそう答える。
彼の脳裏には落ちる最中にチラリと見えた、地平線の先の断崖絶壁が浮かんでいた。あの先はどうなっているのか、落ちたらどうなるのか。といった疑問が浮かび上がる。
空たちの会話が聞こえたのか、金髪の少年と黒髪の少女もこちらに近づいてきた。
「まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
少年はそう言い、他3人を見回す。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「そうだけど、まずは”おオマエ”って呼び方を訂正して。ーー私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女と、子犬を連れてる貴方は?」
少女ーー久遠飛鳥は少年の物言いにムッとした表情を浮かべた後、空たちに視線を向けた。
「……春日部耀。以下同文」
「風魔空だ。後、こいつは『犬じゃないよ!』……イヌじゃなく狼なんだ」
機嫌が悪そうなルゥに苦笑しながら、空は自己紹介を終えた。
「そう。よろしく春日部さん、風魔くん。それと勘違いしてごめんなさい」
飛鳥はルゥの方を一瞥し、謝罪をする。その後、残った少年に顔を向けた。
「最後に、野蛮で凶暴そうな貴方は?」
「高圧的な自己紹介ありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取扱説明書をつけたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
空は3人を見回し、興味深げに頷く。ここまでアクの強い人間は自分以外にいなかったため、彼にとって新鮮なのだ。
『そら以上に変人ばかりだね』
「おっと? ルゥ。俺が変人なのは認めるが、口に出さなくても良くないか?」
『認めちゃうんだ……』
ルゥの呟きに空は小声でつっこむ。ルゥはそんな彼に呆れた目を向けた。この1人と1匹にとってはじゃれ合い程度の掛け合いだ。
「『ん?』」
主従は、自分たちに向けられる視線に気付き、顔を動かす。
耀が驚きで目を丸くしながら空の方を見ていた。
「動物の言葉、分かるの?」
耀の言葉に空は少し首を傾げ、それから頷く。別に隠す程の大した力ではないと判断していた。
「ああ。一応な」
あっさり答えられたことに、耀は絶句し、口を何度か開閉させる。
それからポツリと呟いた。
「……すごい。私以外に言葉が分かる人がいるんだ」
『おお! そうやった。お嬢、この小僧、ワシの言葉分かっとるみたいや』
空はその言葉に興味が惹かれたと眉を上げる。
『へえー! そら以外に喋れる人っているんだね』
ルゥが素直な感嘆の声を上げる。空はそんなルゥを微笑ましく見た後、耀に顔を向ける。
「ふうん。俺以外に同じ能力がある人間っているものだな。ーーまあ、似たもの同士、よろしく」
空の言葉に、耀は嬉しそうに頷いた。
*
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
自己紹介にも一段落ついた時、十六夜が苛立たしげに声を上げた。
「そうね。なんの説明も無いままでは動きようがないもの」
飛鳥も同調するように言う。
「……この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
「まあまあ、3人とも落ち着こう」
空は殺気立つ3人を宥めるように言いながら、近くの茂みに目を向ける。
「ーーそこに隠れてる奴。さっさと出てきた方がいいと思うぞ?」
にこやかな口調(ただし目は笑っていない)で空が声を掛けると、茂みがガサりと揺れた。
「あら、風魔くんも気づいていたの?」
「まあな。あんなの見つけてくださいと言ってるものだしな。そっちも気づいてたろ?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?」
「風上に立たれたら嫌でも分かる」
空の言葉に頷いた十六夜たちの目も笑っていない。この理不尽な招集への腹いせの殺気が篭った目を空と同じ茂みに向けた。
すると、茂みから1人の女性が姿を現した。扇情的なミニスカートとガーターソックスに身を包んだ、頭にウサギの耳が生えた女性だ。
「や、やだなあ御4人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵ですございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは1つ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
空たち4人の視線に怯みながら、黒ウサギと名乗った女性はそう言った。
「断る」
「却下」
「お断りします」
「……ルゥを嗾けてもいいか?」
「あっは、取りつくシマもないですね♪ ーー狼は天敵なので本気でやめて頂いてよろしいですか!?」
即答する4人に、黒ウサギはバンザーイと降参のポーズをとった。
しかしその目は冷静に4人を値踏みしていた。
空はその視線に気づき、ニヤリと笑う。
(殺気増し増しで見られてるこの状況で冷静に分析してるみたいだな。おどけた態度は本質を隠す殻だろうか?)
空が黒ウサギにそんな評価を下していると、耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ちーー
「えい」
「フギャ!」
黒ウサギのウサ耳を鷲掴みにして引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙った受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の無せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ? このウサ耳って本物なのか?」
耀と黒ウサギのやり取りを見ていた十六夜が興味深そうに、黒ウサギの右のウサ耳を引っ張る。それに続いて、飛鳥も近づく。
「じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待ーー!」
飛鳥に左から引っ張られ、言葉にならない悲鳴を上げた黒ウサギは、その輪に加わらずに眺めていた空に縋るような視線を向けた。
彼は、彼だけはまともで、この状況を打開してくれるだろう。そういった期待が込められた視線を向けられ、空は……
「誰でもいいが、後で変わってくれないか?」
悪魔のような笑顔(黒ウサギにとっては)を浮かべて、十六夜たちにそう声を掛けた。
「「「分かった」」」
黒ウサギの顔が絶望に染まる中、問題児3人の快諾する声が、やけに大きく響いた。